てやんでい、炎の舌のエリーゼ
「わあぁぁ!! 小妖精なの!!!」
ミュリエルが両手で口をおさえ、興奮して小妖精を見つめた。
「これがピクシー……本当にいたんだ」
ぼくも昔話や絵本でしか見た事がなかった。
実在するとは両親に聞いていたが、実際に見たことのある人は極端に少ない種族だ。
「私……子供のころ、妖精さんに逢いたくて、窓枠のでっぱりにミルクを入れた小瓶をおいていたのよ……でも、妖精は現れないし、ミルクを腐らせてママに怒られるし……でも、本物の妖精さんを見られて感動したわぁ……」
ミュリエルがうるうると瞳を潤ませて感動している。
彼女ほどではないが、かくいうぼくも感動している。
「おい、お前ら! ごちゃごちゃ言ってないで、この猛獣から助けろぉ!!」
ピクシーがわめき散らし、ミュリエルは慌ててウィリアムに解放するように頼んだ。
「まったく……ひでえ目にあった。お前ら、猛獣はちゃんと鎖につないでおけよな!」
「ごめんなさい……でも、ウィリアムは猛獣じゃなくて、魔貂という使い魔よ」
「てやんでいっ! わっちのサイズからすりゃ、お前達だって、猛獣の類いだ!」
ピクシーが口を大にして叫び、ミュリエルがぼくの背中に隠れる。
「うぅぅ……この妖精さん、怖いよぉぉ……」
「大丈夫だよ、ミュリエル……ぼくがついてる」
「うん……頼りにしてるの……そうだ……もしかして、私達が森で迷ったのは妖精さんの仕業だったんじゃない?」
ピクシーが口の端をあげ、
「おっ……察しがいいな、小娘」
「昔話で婆やに聞いたことがあるの……『ピクシーの惑わし』だわ」
婆やって……ミュリエルはいいとこの娘さんなのかな?
「なんだい、それは?」
「さっき小鹿が草原で走ってつくった輪があったでしょ?」
「うん……なんだか不自然な輪だったなあ……」
「あれはピクシーが馬や鹿を操って、ぐるぐると輪を描いて走らせて作る妖精の輪で、『ガリトラップ』というのよ」
「ガリトラップ?」
「妖精の輪に入った人間は、輪の中に囚われてしまうの」
「なるほど……それで、ぼくとミュリエルは妖精の輪の中から出られなかったのか……」
「妖精の輪の中で、私達は森の中を彷徨う幻覚を見せられる……けど、実際は、私達は同じ場所を足踏みしていただけなの」
「なるほど……」
「ふう……今頃思い出すなんて、私ってまだまだ魔法使いとしてダメねえ……」
「いや、そんな事はないよ……きみの使い魔が術者を捕まえたんだし」
魔法使い見習いは嬉しげに、
「えへ……そう? ウィリーのお手柄ね。ウィリーは輪の中に入る前に、森の中に狩りに出かけていて、幻覚魔法にかからず、ピクシーを捕まえたんだわ」
「なぁ~るほど……」
「ピクシーさん、もうイタズラしちゃダメよ……」
「てやんでいっ!! この森は妖精族の縄張りだ!! 人間が勝手に入ってくんなぁ!!!」
「きゃあぁぁ……やっぱり、この妖精さん怖いよぉ……」
ミュリエルがぼくの背中に隠れた。
「ギュゥギュ!」
ウィリアムがご主人様の危機に威嚇の吠え声をあげた。
「ぎゃあぁ!! 白い悪魔だ!!! そのイタチをこっちに向けんなぁ!!!」
「まあまあ……妖精さん、この子はイタチじゃなくて、テンだよ」
「イタチだろうとテンだろうと、どっちだっていい!! 猛獣は鎖につなげ!!!」
「ミュリエル、ウィリアムを大人しくさせて……この妖精さんと話をしよう」
「うん……ウィリー、こっちへ……」
「フィヤ!」
魔貂は御主人の肩の上に飛びのった。
「ぼくはハルト……ハルト・スタージョンといって旅を始めた武闘士なんだ」
「私は魔法使い見習いのミュリエル……ミュリエル・ボーモントよ。この子は魔貂のウィリアムっていうの」
「フィヤ!」
ウィリアムが右手をシュタッと上にあげた。
ピクシーはまだふくれっ面だが、四枚翅をはためかして、ぼくらの顔あたりに飛んできた。
「ふん……わっちはエリーゼだ……エリーゼ・エリスン……またの名を『炎の舌のエリーゼ』ってんだ」
「炎の舌……毒舌ってことだね……」
「う~~ん……たしかに言い得て妙なの……」
ぼくらが感心していると、炎の舌のエリーゼはジト目で、
「単刀直入に聞くぞ……お前達はピクシー狩りに来たのか?」
「えっ!? 違うよ……それよりピクシー狩りって……そんな悪い人間がいたんだ……」
「ああ……だから、わっち達ピクシー族は人間族との交流を断ったんだ」
そんな歴史があったんだ……
「もっとも、同朋たちを、誘拐した悪党どもは、わっちたちが見つけだして、魔法で思いきり懲らしめてやって、同朋を助けたけどな」
「そうだったの……人間族が迷惑をかけて、ごめんなさい……」
「……別にお前があやまらなくていいよ」
「私たちはタチナオリっていう薬草を取りに来ただけなの……決して、小妖精族に危害をあたえないわ」
「タチナオリねえ……妖精の泉近くに生えていたな……」
「本当!!」
ミュリエルが興奮して両手をぐっとにぎる。
「だけど、妖精の泉は結界魔法で人間を寄せつけないようにしてある」
「結界魔法……さっきのガリトラップみたいなものだね」
「エリーゼさん……なんとかタチナオリを取らせてくれないかしら」
ピクシーは腕組みをして、目をつむり、黙っていた。
が、片目をあけ、
「その件は長老に相談してやってもいいぞ」
「本当!?」
「ただし……覚悟しとけよ」
「え? ……なにかしら」
「……厄介なことを頼まれるかもしれねえぞ」
ぼくとミュリエルは互いに目を合わせた。
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