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ハルト、ベルヌの町へゆく

 ぼくの名前はハルト・スタージョン。


 黒髪茶瞳の14歳の少年だ。そして武術修行の旅をはじめた駆け出しの武闘士でもある。 

 ぼくは白い牙山脈の麓にあるグリ高原に住んでいて、実家は武術道場を営んでいる。 


 スタージョン家では14歳になると、己を磨くために旅に出る家訓なのだ。 

 ひとりぼっちの旅立ちだったけど、今は途中で出会った仲間がいる。 


 森でゴブリンに襲われていたところを救った魔法使いのミュリエル。


 そして、ミュリエルの使い魔である魔法動物の魔貂まてんのウィリアム。


 それから、妖精の里で出会ったピクシー妖精のエリーゼ・エリスンだ。


 ぼくらは水牛平原で出会った貿易商人のコグスウェルさんの護衛の仕事を引き受けて馬車に乗せてもらっていた。


 とりあえずの目的地は、港町のベルヌだ。




 馬車の窓の外をのぞくと、海岸沿いに長方形の畑地のようなものが幾つも見えた。


「あれは何だろう?」


「ああ……あれは塩田えんでんですよ。あそこに大量の海水を流し、天日で蒸発させ、塩だけを取り出すための施設です」


 貿易商人のコグスウェルさんが教えてくれた。彼はぼくの住む高原や山の民に塩や塩漬けの海産物などを取り引きしている。


「へえ……ああやって作るのかぁ……ぼくの故郷の近くにある岩塩を取る塩鉱採掘場を見たことがありますけど、海のある地方ではああやって作っているんですねえ」


「ほっほっほっ……高原の民には珍しいですか。塩の生産はベルヌの執政官であるベルヌ伯爵が毎年取り高を決める専売制なのですよ」


 ベルヌはアルヴァラド王国にある二番目に大きな都市で、主に港からの輸出入で、王国の経済の多くを支えていた。


「ああ、あまり塩を作り過ぎると値が下がってしまうし、少ないと値があがるんですよね。年によって需要が変わるものなんですか?」


「アルヴァラド王国内での需要は一定ですが、隣国のビルロス王国やカイバン帝国などに輸出する量が毎年変わるのが悩みの種ですねえ……アラヴァルドの製塩法は優れていて、他国からも評判ですから」


「海水のお塩ってそんなに味が変わるものなんですか?」


「うふっ……それはね、ベルヌ塩田で作られるお塩は、独特のミネラルや風味が会って、他国からも美味しいと人気の輸出品なのよ」


 ミュリエルが教えてくれた。


「人間にとって、必需品の塩でも、嗜好品的な需要があるんだ……まあ、ぼくの住む村でも海の干し魚や干し貝、ダシを取る海草などは重宝しているからね」


 岩だらけの丘陵地帯を越え、赤い根街道は二倍の広さになり、行き交う幌馬車や通行人も増えてきた。 


 右側に砂浜の海岸が見え、広大な海が見える。 


 山に囲まれた高原暮らしのぼくには初めて見る光景だ。


 海というものは、高原にある湖よりも広く大きい。 

 珍しい光景過ぎて、ちょっと不安になる。


「あれ? 火山地帯でもないのに、硫黄いおうのような匂いがしてきたなあ?」


「本当だな……見えないけど、火山でもあんのか?」


 ぼくとエリーゼがミュリエルを見ると、


「これは海独自の匂いなの……塩の匂い、磯の香りともいうわ。沿岸に打ち上げられた海藻や海洋虫の成分や、魚の腐敗臭などが元で、海岸によって磯の香りが微妙にちがうの」


「そうそう……船乗りや漁師は磯の匂いを嗅いで、その港や海岸の名前をあてる事もできますのじゃ」


 コグスウェルさんが付け加える。 


 やがて、海岸は砂浜から人工的に加工された岩場のような場所となり大きな船が見えてきた。


「あれが港なの……岩を削って船を寄せやすくした岸を、岸壁がんぺきというのよ」


「へえ……ぼくの田舎の川にも船着場はあるけど、あれほど大規模なものは初めてみたよ……」


 海岸には方形に造られた岸壁があり、三階建ての住居よりも巨大な船が何十隻も接岸していた。

 貨物船や旅客船などさまざまで、桟橋さんばしをつかって、大勢の人夫たちが船から木箱や樽などの荷物を埠頭ふとうにある船倉に運んだり、運び出したりしている。


「うわぁぁ……人がいっぱいいる……ぼくの住んでいた田舎の村では総勢150人ぐらいしかいなかったけど、人夫や船乗りだけでもその十倍以上はいるぞ……」


 あまりの人の多さに驚いた。

 ウェイン砦の騎兵隊も大勢いたけど、それ以上だ。


 ピクシー妖精のエリーゼも驚いたみたいで、日頃のおしゃべりもとまって人の群れをながめていた。

 この町に住んでいたミュリエルに、この港町について聞いた。


「アルヴァラド王国領のうち、海に面している地帯の多くはフィヨルドやリアス海岸などで、他は絶壁の崖や遠浅の砂浜地帯で、大きな港には向かないの。その中で、唯一この辺りの海岸だけが水深が深い岸壁がんぺきがあり、大型船が五十艘も以上も入れるの。そのため、この辺りでは最も海上交易が盛んで、裕福な都市なのよ」


 フィヨルドとは、氷河が削ったU字型の谷に海水が入りこんだ入江や湾のことで、水深が深いが、幅が狭いので、大型船は一艘くらいしか入れないので、大きな港町には向かない。


「なるほど、貿易をすれば国が富むとコグスウェルさんも言っていたね」


「なあ、ミュー坊、あの高い塔はなんだ?」


 エリーゼが指差す方向に妙な建物があった。


「あれは灯台なの、近くにある建物は信号所。港に接近する船に対して、位置や進行方向を知らせる施設よ。あっちの建物は検疫施設で、輸出入に関連する検査や税関業務を行う役人がいるの。貨物の通関をスムーズにさせるには必要不可欠な施設なの」


「う~~ん……要するに、大きな船がぶつからないで仕事ができるように、交通整理を行っている所……かな」


「くすっ……その通りなの」


 やがて馬車隊は港から内陸部にある港町の中心部へ向かった。 


 やがて赤い根街道の道幅は四倍の広さとなり、荷車や人馬が増え、沿道には彼等相手のテント掛けの店が増えてきた。 


その先には五階建ての櫓よりも大きな城門が見える。その左右には同じ高さの城壁がずっと続いていた。


「うひゃあぁ!!」


 前方を見ていたエリーゼが驚きの声を上げた。



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