次なる町へ、出発!
逃亡した盗賊や奴隷商人一派はほとんどが王国騎兵隊により捕縛された。
騎兵隊本隊と合流したエイガー少尉は、本隊の指揮官で、ウェイン砦の司令官であるブリトルズ司令官が会いたいという。
駐屯地の建物を前にある中庭へ、ぼくらと商隊の主だった者が一列にならんで待つ。
背後には騎兵隊の騎士たちが整列し、緊張してしまう。
「やれやれ……ゴズロ一家を倒したと思ったら、『黒い蠍』なんぞの支部が平原の盗賊どもを集めて取り仕切り、今年は大変な年になるぞと覚悟を決めていた矢先に、大金星じゃわい!!」
やがて、エイガー少尉と副官とおぼしき人物に愚痴をいいながら出てきたのは、でっぷりと太った五十代の壮漢で、右目に眼帯をしている。
「おお……きみか、『黒い蠍』水牛平原支部を倒した者というのは?」
「いえ……ぼくだけじゃないです、こちらの仲間……ミュリエル、エリーゼ、ウィリアム……それに商隊の護衛戦士たちの協力のおかげです!」
「いや……俺達が磔になったとき、俺はあきらめちまったが、ハルトは最後の最後まであきらめなかったぜ……俺ははじめ、お前に対抗意識があったが、二度も命を救われて感心しちまったぜ」
「そうだ……ハルトくんの機転と勇気のお陰で勝つことができたと思う」
護衛戦士ふたりがにやりとしてぼくを見つめる。
「マクラグレンさん……ホックバウアーさん……」
「そうか……若いのに殊勝なやつだわい……君が代表して表彰状を受け取りなさい!」
「はあ……」
「おおっ、ハルト殿が受け取るのにふさわしいですぞ!!」
「ハルト君のおかげなの!!!」
「やったな、ハル坊!!」
「フィヤフィヤ!」
コグスウェルさんやミュリエルたちまで……なんだか照れくさいけど、受け取ることになった。
「ともかく、大功労者だわい……これで水牛平原の盗賊どもは根こそぎ捕まることができた!!」
騎兵ラッパが吹かれ、ブリトルズ司令は書状を前にだし、
「え~~……表彰状……ハルト・スタージョンくん……汝らのこの度の活躍は、アルヴァラド王国の治安と平和の……」
司令官は書状を顔のちかくに寄せ、目をしょぼしょぼさせ、言いよどんでいた。
「え~~と……ともかく、あんたはエライ!!」
「ずんこけ~~~~!!」
ぼくらや騎兵隊がいっせいにずっこけた。
「ちょっと、司令官!! 真面目にやってください!!」
副司令官がブリトルズ司令を叱りつけた。
「そうは言っても老眼がひどくなってなぁ……これで勘弁してくれい」
「うわわっ!!」
ブリトルズ司令官がぼくを抱き寄せ、上に持ちあげ肩車をした。
「若き英雄に敢闘賞を与えるぞ!!」
エイガー少尉をはじめ騎兵隊の軍人たちが歓声をあげた。
「ちょっ……下ろしてくださいよ、ブリトルズ司令官!!」
「遠慮しないでください、ハルト殿!!」
「エイガーさん、これは……」
「我ら騎兵隊は勇気ある者、強き戦士を年齢や身分など関係なく称賛いたします……辺境に生きる者とはそういうものでしょう?」
「エイガーさん……」
「そうじゃい、エイガーのいう通りじゃわい」
嬉しいけど、こんなに大勢の前で……なんだかはずかしい…… やっと下ろされて、ほっとした。
「ところでハルトくん、きみ、『黄色いスカーフ』に入隊せんかい?」
「えっ!? ぼくがですか?」
「そうじゃい、きみのような優秀な人材が入れば百人力だわい!!」
「え……でも、ぼくは……ぼくらはベルヌの街へ行って、冒険者になろうと思っているんです」
ミュリエルとエリーゼたちを見て、互いにうなずいた。
「なにぃ? 冒険者だとぉ?」
「はい……いろいろありまして、そこで腕を磨こうと思います」
「しかしなぁ……ベルヌの街の冒険者ギルドのギルドマスターのサーリング卿は煮ても焼いても食えん奴じゃぞ?」
「悪い人なんですか?」
「いや……食わせ者ではあるが、悪い奴ではないわい……残念じゃが、サーリングにゆずるかい……ついでじゃから、奴に書状を書くから渡しておいてくれんか?」
「はい。お預かりします!」
その後、駐屯地の大ホールで討伐の戦勝祝いの宴が開かれ、宿舎に泊まらせてもらい、翌朝ぼくらは南へ向けて出発した。
翌日、赤い根街道の中継点にある食堂で昼食のランチをとった。
コグスウェルさんは番頭さんに説教されていた。
「会頭、そもそもの原因は、ベレッタなる色気にだまされ、怪しげな女を馬車に乗せて、護衛の内情などを『黒い蠍』に知らせてしまったことですぞ!」
「うう……すまん……酒場を追いだれた可哀想な歌手だと言っていたからつい……」
「この出来事は奥様に報告せねばなりますまい!!」
「えええ~~!? 女房にだけは言わんでくれい……」
ベレッタか……ぼくが今まで来た道を振り返ると、恐怖の谷があった地域に噴煙がたなびいているのが見えた。
『黒い蠍』水牛支部の残党は、逃げ出した手下たちや奴隷商人たちはほとんど捕まった。
それ以外は恐怖の谷の噴火に巻き込まれたのだろうという騎兵隊の見解だった……
食堂から出て、出発の前にトイレをすますと、厩舎のほうからタイニーさんがぷりぷりと怒ってやってくるのが見えた。
「おお、ハルトくんか……あたしも第一馬車の方へ乗せてもらうぞ」
「あ、はい……」
いったいどうしたんだ?
やって来た厩舎を見ると、ホックバウアーさんとマクラグレンさんがこっちにやって来るのが見えた。
すると、ホックバウアーさんのほっぺたが赤いヒトデが張り付いたように赤くなっていた。
「わっ!! どうしたんですか、ホックバウアーさん!!」
「いや……それがそのう……なんだかんだで……」
ホックバウアーさんが言いにくそうにモジモジする。
「あっ……いいづらい事でしたら別に……」
「それがよぉ、ハルト……さっき、ホックの兄貴はタイニーの姐御に告白したんだけど、盛大に振られちまったんだ」
「ちょっ……マクラグレンさん……空気を読んでくださいよぉ!!」
「えっ? 空気?」
それにしても、こんな所で告白?
厩舎の周りを見渡すと、馬草や藁がつまれ、ハエが馬にたかって、尻尾で追い払われているのが見えた。
「いいんだ、ハルトくん……ラグレンの言う通りなんだ……タイニーはまだまだ許してくれなかった……これもすべて俺の旧悪がまねいたことなんだ」
「ホックバウアーさん……」
吟遊詩人の語る恋物語なら、ここでふたたび成就するはずだけど……現実はきびしいものだなあ……
「俺はなぁ、もうしばらく男を磨いてから、もう一度タイニーに告白し、それでだめなら、男らしくキッパリとあきらめるつもりだ」
「男だぜ、ホックの兄貴ぃぃ……」
「泣くな、ラグレン……泣いてくれるな……俺も泣けてくらぁ……」
護衛戦士二人が男泣きに泣いていた。 なんだかぼくもしんみりしてきたよ……
「ホックバウアーさん……今度タイニーさんに告白するときは、もっと場所考えたほうがいいですよ……」
「えっ? 場所?」
「そうですよ……もっと綺麗な景色の見える場所とか、ちょっと高めの食堂でふたりきりで食事をしたり……もっとロマンチックな場所と時間を考えた方がいいですよ」
「ああ……なるほどぉぉ……ここじゃ駄目かあ……」
「ロマンチックねえ……そいつは考えになかったなぁ……ハルトくん、いいことを聞いたよ」
ああ……きっとふたりとも、護衛などの仕事に明け暮れて、そういうのは無関心だったんだろうなあ……
そして三日後。
コグスウェルさんの馬車商隊は山道を越え、峠を越した。
すると、山の途切れ目が大きく開き、青い空が見えた。
「おおっ!! 見ろよ、みんな!!」
窓ガラスに張り付いたエリーゼが興奮して振り返る。
車窓の外を見ると、岩だらけの丘陵地帯の奥に広大な水が見えた。
故郷のグリ高原にある湖よりも広く果てしない水の景色だ。
「あれが……海かぁ……」
「海ってのは、地平線が見えるほど広いなあ……」
ぼくもエリーゼも辺境の山暮らしで、海を見るのは初めてで、興奮を抑えきれない。
「そうなの……向こうの海岸にベルヌの港町があるのよ」
「ベルヌの街が……そこに冒険者ギルドがあるんだね」
「うん……それと、ハルトくん、シグマの言っていたテンセイシャの事だけど……」
「ああ……何か心当たりが?」
「私のお師匠さまに聞いてみようとおもうの……物知りだから、もしかしたら知っているかもしれないの」
「そうか……頼むよミュリエル!」
「うん!」
ミュリエルがコクリとうなずいた。
新しい冒険が始まる予感に、期待と高揚感で、胸がはりさけそうだ。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
第二部は十章くらいの予定でしたが、乗ってきて、三倍くらいに伸びました。
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第三部は港町にある冒険者ギルドが舞台になります。
キャラクターをいっぱい作らないといけないので、再開に時間がかかりそうです。
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