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死を誘う影の猟兵、魔犬獣

「そうはさせないぞっ!!」


 ぼくは雷鳴神剣ソール・ブレイドに魔力を流し、長剣を右横側に水平にかたむけた。 


「山河を渡りゆく風よ……大気を揺るがす魔風竜となりて力を貸し与えん……」


 左足を軸にして全身で一回転した。


 剣から生じた魔力の斬撃が回転し、大気を流動させ、つむじ風となる。


かぜノ武技・烈風竜巻旋サイクロン・トルネード!!」


 刀身から生じた剣風は渦を巻いて、竜巻となり、グロックの生み出した黒炎の龍を巻きこみ、天空に巻き上げた。 


「くそっ……邪魔しやがって!!」


「さあ、今のうちに早く馬車を街道へ!!」


「わ、わかりました……皆さん、ご武運を!」


「きみなら負けないだろう、殿しんがりを頼むよっ!!」


「はい!!」


「かっこつけてんじゃねえ!!」


 白い霧をかきわけ、グロックがぼくに大上段から斬撃をおくってきた。


 ぼくは横にのいてかわし、次の斬撃の態勢に入るまえにぼくは愛剣を上段から送り、片刃剣を弾く。 


「相変わらずコシャクな剣を使いやがるぜ……」


 グロックはぼくをにらみつけ、手下たちに号令をかけた。


「お前ら、逃げる馬より、馬車の奴らを捕まえろ!!」


「へい、ボス!!」


「せっかくの獲物を逃してたまるか!!」


 残った賊徒たちがこちらに向けて、武器をふるってやってきた。 


 右から襲ってきた盗賊の山刀をはねあげ、左から襲ってきた盗賊の槍を弾き、ぼくはしゃがんで右足首を軸に左足をコマのように回転させて盗賊たちを転ばせた。


「万物に宿るマナよ……悪しき者たちに天罰を与えん……麻酔煙霧パラライズ・ヘイズ!」


 ミュリエルの魔法の杖の先から白煙が生じ、奔流ほんりゅうとなって盗賊たちを包み込む。


 パラライズ・ヘイズが肌に触れた三人の賊徒たちが全身をビクリと震わせ、麻痺まひ状態になる。 四肢をけいれんさせて、バタバタと倒れ伏した。


「おお、やるじゃねえか二人とも!!」


「ギュゥギュ!」


 ミュリエルの肩にのった魔貂のウィルアムが威嚇の声をあげ、首筋がタテガミのように逆立った。


「みんな気を付けて……ウィリーのこの反応は、なにか危険な魔物の気配がいるって事なの!!」


「魔物……シグマの召喚したシャドウ・ハウンドかっ!!」


「あの、おっそろしい人食い魔物か!!」


「えええっ……そんな危険な魔物が……」


 ミュリエルは見てないけど、ぼくは凄惨な光景を思い出して胃の腑がむかむかした。


 辺りを見回すが、残っている盗賊以外に犬の姿は見えない。


 シグマの篝火球で周囲は明るくなっているのに変だ。


「よそ見してんじゃねえ!!」


 盗賊が槍を突き出してきた。


 ぼくは雷鳴神剣を振るって槍のケラ首を斬りはね、盗賊の鳩尾を蹴り飛ばす。


「ぐえっ!!」


「ギュゥギュ!」


 ウィリアムがまた叫んだ。


 倒れた盗賊の背後から、突然、黒い猟犬が飛び出してきた。


「ガオオオン!!」


 魔界の妖犬がうなり、ぼくの喉笛を狙って跳躍した。


 ぼくは神剣を横薙ぎにふるってシャドウ・ハウンドにふるった。


 冥界の狩猟犬が真横になって両断され、黒い煙をあげて消滅し、赤い魔石となって転がった。 


「ふう……人の背後に隠れていたとは……ウィリアムのお陰で助かったよ!!」


「フィヤフィヤ!!」


 魔貂のタテガミがまだ逆立ったままだ……


「そうだ、シグマが召喚した魔犬獣は三頭……まだ二頭いるんだ!」


 そこへ三人の盗賊が襲ってきて、剣で戦う。


 一人目を倒し、二人目と戦っていたら、その盗賊の影からシャドウ・ハンドが飛び出してきた。


「冥府の魔犬も味方だと頼もしいぜ!!」


 盗賊が両手剣でぼくに右から斬りかかり、左から妖犬が噛みかかってきた。


 盗賊と魔物の同時攻撃はしんどいけど、連携はとれていない。


 盗賊の剣を右の横薙ぎで弾き飛ばし、慌てる盗賊に肉薄して、柄頭で急所を突いて叩きのめした。


 また首筋に何か邪悪な気配を感じて、ぞわぞわとして、思わず周囲を見回す。


 二匹目のシャドウ・ハウンドはどこだ!?


「グルルルル……」


 右側から殺気がして、ぼくは振り返りざまに襲いかかるシャドウ・ハウンドを斜めに切り裂いた。


 こちらも黒い煙となって消滅する……やった、これで二頭目だ。


「やったぜ、残り一匹だ!!」


「だけど盗賊はまだまだいる……シャドウ・ハウンドが盗賊の背中に隠れて襲いかかってくるにはしんどい……」


「よっし、ザコどもはわっちに任せろい……水の精霊よ……ウィンディーネよ……願いたてまるつる……」


 エリーゼが両手を前にさしだすと、空中に水流が生じて、透き通った身体に水瓶をもつ女性の姿が見えた。


「悪しき者たちに戒めを与える楔となれ……水霊竜巻ウィンディーネ・トルネード!!」


 水瓶をもつ精霊がふたたび水流となり、水の渦巻きとなって、盗賊たちを巻きこんでふっとばした。


「おお……さすが精霊魔法を使うピクシー族だ……これで敵の背後から攻撃されることは防げるよ!」


「ギュウギュッ!!」


 ミュリエルの肩にいるウィリアムが、彼女の背中を前足でさした。


 突然、邪気が湧きあがり、ミュリエルの背後から黒い魔物が飛び出してきた。


「あ、危ない!!」


「きゃん!!」


 ぼくはエリーゼをつかんで横に飛びのいた。


 今までいた所に、夕闇より暗い、暗黒の闇が流れていった。 


「シャドウ・ハウンドか!! いったい、どこから現れたんだ!」


「わっちは見たぞ!! あいつが出てきた所を!!」


「えっ……どこからだい、エリーゼ?」


「影だっ!! ミュー坊の影の背中の辺りに、小さな青い光がふたつ見えたなっ……て、思ったら、影からシャドウ・ハウンドが出てきたんだぜ!!」


「まさか……影から出てくるなんて……」


「思い出したの!! シャドウ・ハウンドは建物の暗がりや人影に身を忍ばせて、影から影を跳躍リープして襲う魔物なの!!」


「影を移動する能力……なんて厄介な!!」


「ギュゥギュ!」


 魔貂のウィリアムが威嚇の声を上げ、ぼくの背後に前足を向けた。


 振り向くと、ぼくの影の真ん中あたりに小さな青火がふたつ生じるのが見えた。


 影から牙を剥き出した魔犬獣が飛び出してきた。


「ぼくの影から……なんて恐ろしい魔物だ!?」


 ぼくは横に飛びのいて避ける。


 シャドウ・ハウンドは倒れている盗賊の背後に回り、その影にスイッと溶け込んでいった。


 影の中の空間に入ったのか……恐るべき能力だ。


「盗賊の影にハル坊とミュー坊の影……どこからシャドウ・ハウンドが出てくるかわからない……このままじゃ消耗戦だぜ!!」


「エリーゼの言う通り、やがてぼくらの疲弊した神経の隙をついた妖犬がぼくらを仕留めるかもしれない……何か対策を考えないと……」


「それなら、私に任せて!!」


「えっ!? 何か策が!?」


 ミュリエルが魔法の杖を宙に浮く篝火球に向けた。


「大気に漂いし水粒よ……我を助け、つどいて放たれん……水滴球(アクア・ドロップ」!」


 杖の先から水色の球がいくつも生じ、七つの水の榴弾となって篝火球に向けて飛んでいった。


 ジュウゥゥと火が消える音がして、魔法の篝火は消え去った。


「しまった……おのれ、小娘!!」


「そうか……光源を断たれ、これでシャドウ・ハウンドの影を跳躍する能力を封じたわけか!! さすがミュリエルは魔法使いだけあって、知恵がまわる!!!」


「えへへへ……」


「ギュゥギュ!!」


 ウィリアムの動物の本能が魔物の気配を先に感じたようだ。 


 右横合いから三頭目が駆けてきた。


「ガルルルルルッ!!」


 地獄の妖犬がうなり、ぼくを噛み殺そうと駆けてきた。 


 でも、破れかぶれとばかりに、一直線に駆けてくるだけ……妖犬に向けて横薙ぎに剣をおくった。


 ガシィィィィ!!!


 金属音がして勢いが止まる。


 なんと、影の猟犬は神剣に噛みついたのだ。 


「鉄より硬い神剣に噛みつくとはなんて硬い牙だ……こいつは他のシャドウ・ハウンドとは格が違うようだ……」


「ハルトくん!!!」


「だけど、これは只の剣はないよ!!」


 ぼくが身体からマナをおくって刀身に込めた。 魔力が帯びて神剣が光り輝く。


「ギャウゥゥン!!」


 影の魔獣犬は黒い煙となって消え去り、赤黒い魔石となった。


「やったぜ、ハル坊!!」


「フィヤフィヤ!!」


「ふう……なんとか倒した……みんなの助けのお陰だよ!!」


「へっ、いいってことよ!」


 ぼくらが盛り上がるなか、遠くから高みの見物をしていたシグマとグロックは驚いているようだ。


「なにぃぃぃ……大技を出したわけでもないのに、剣が光っただけで私のシャドウ・ハウンドが消滅しただとぉ!!」


「きっとあの剣の力に違いねえ……ハルトめ……やっぱりあの剣が欲しいぜ!!」


 シグマが驚嘆し、グロックが不敵な笑みを浮かべた。


 そのとき、馬のいななき声が聞こえ、大地を駆けるひづめの音がした。


「ハルト殿ぉ!!」


 青い軍服に、左肘の上に黄色いスカーフを巻いた騎兵が盗賊に、馬上から剣を切りつけた。


 他にも騎兵隊が十数名、盗賊たちに襲いかかった。


「エイガー少尉!! 来てくれたんですね……でも、なぜこんなに早く?」


「本隊は歩兵も含むので、まだこちらに一時間はかかるでしょうが、我ら早駆けを得意とする軽騎兵が先に駆けつけ参りました!!」


「助かります、エイガー少尉!!」


「これも緊急連絡サインをあげてくれたおかげです!! これで『黒い蠍』を壊滅させてくれますぞ!!」


 頼もしいエイガー少尉たちの救援に肩の荷がすこしおりた。 


「くそっ……こんなに早く来るとは……シグマっ!!」


「あい分かった……アルザン、シレイク……」


 魔道士シグマの影が延びてさっきより巨大になり、赤く光る魔法陣が生じた。


「魔界の大力者にして、眠れる巨獣よ……ヨロイカバ召喚!!」


「なんだってぇ!!!」


 巨大な魔法陣から馬車三台分はあるオレンジ色の巨獣が出現した。


 巨怪は頭と口が大きく、小さな目と耳が、鼻と一緒に顔の側面にならび、肥満した身体が、でんと地上にあらわれた。


 さっき、廃鉱の坑道に入れていたが、魔法陣で緊急召喚したか。


「ヨロイカバよ、騎兵隊を踏みつぶせ!!」


 グウォオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!


 魔道士シグマが命令すると、魔物は目を赤くさせ、物凄い咆哮をあげた。


 巨怪は騎兵隊に襲いかかり、戦場は大混乱となった。


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