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ハルト、絶対の危機!

 邪煙霧に包まれた大地に倒れたぼくの横に小さな影が落ちてきた。


 エリーゼだ……彼女も邪煙霧に捕まったか……必死に力をふりしぼって両手を差し出してキャッチする。


「なんなんだ……この煙は……力が出ないぜぇ……」


「マナを吸収する魔法だ……くっ……このままでは……」


「ぎひひひ……このまま死ぬのも、武闘士の名折れだろう……俺が一息に首をねてやるぜ!」


 煤煙に包まれてよく見えないが、この声はグロックだ。 


 奴がこちらに近づいて来る足音が聞えた。


 くそっ……このままではおしまいだ!! そのとき、黒煙の他に、周囲に白い霧が立ち込めるのが見えた。


「うわっ!! なんだこれは!?」


 真っ白な霧がたちまち周囲を包み込み、車輪のようなものがきしむ音が聞こえ、目の前に白い影が見えた。 


「ハルトくん!!」


「その声は……」


 邪煙の向こうにうっすらと、白服にハチミツ色の金髪、翡翠石エメラルドの大きな瞳をした少女が、心配そうにぼくを見ていた。


 そうか、この霧はただの霧じゃない……彼女の魔法・白霧煙幕ミスト・スクリーンで周囲を隠したのか!


「万物に宿りしマナよ……いやしの光となって安らぎを与えん……回復治療ヒーリング・キュア!!」


 ミュリエルが魔法の杖をふって、神聖ルーン語で呪文を唱えた。


 杖先から淡い光がはなたれ、ぼくの全身に温かなマナが流れてきた。


 ぼくとエリーゼの身体を包んでいた邪煙霧が消えていった。


「おお……力がみなぎってくる……マナの量も増えた……ありがとう、ミュリエル!!」


「ミュー坊のお陰で助かったぜい」


 ぼくは立ち上がってミュリエルに礼をいった。


 近くにコグスウェルさんの馬車が見え、タイニーさんと商会の人達が護衛戦士ふたりを車内に回収するのが見えた。 


 ぼくらの目の前に、霧をかきわけ、馬が一頭駆けてきて、水牛平原へ向けて逃げて行くのが見えた。


 霧を通して、他にも二十数頭の馬がバラバラに逃げ出す気配がわかった。


「逃げるついでに、厩舎きゅうしゃの馬を全部とき放したのさ……今まで盗んだ馬のようで烙印がバラバラだったよ」


 タイニーさんが馬車の扉から顔を出していった。


「盗んだ馬が逃げるぞ!!」


「大変だ!! 捕まえろ!!」


 白い霧の中で混乱した盗賊たちが逃げる馬を追いかけて大わらわだ。


 きっと誰かが『黒い蠍』に盗まれた馬たちを逃し、馬たちは本来の主人のところへ戻ろうとしているのかもしれない。


「この隙に、はやく逃げるの、ハルトくん!!」


 ミュリエルがぼくの手をつかみ、馬車の扉から顔を出すコグスウェルさんが見えた。


「ハルト殿たちのお陰で、商会の者も、護衛の者も無事ですぞ……早く逃げましょう!!」


「待ってください……たしかにぼくらはコグスウェルさんの依頼で商隊の人達と馬車を守るのが仕事です……けど、『黒い蠍』を放っておくわけにはいかないよ」


「しかし……多勢に無勢ですぞ!!」


「大丈夫です!」 


魔烈風デモノ・アイオロス!!」


 そのとき、生暖かい風が吹き、周囲の白い霧……魔法の白霧煙霧が大気に飛散していった。


 霧の中を右往左往して点在していた盗賊たちの姿が見えた……そして、黒い道士服のシグマもだ。


「私の邪煙霧を破るとは……大した治療師ヒーラーだな、小娘!」


「ヒーラーじゃなかくて、魔法使いウィザードなの!!」


「どっちだって良い……篝火球イグニス・ボール!!」


 シグマが魔法の杖をふるうと、空中に火の玉が七つ生じ、自分たちの周囲に浮かんで燃え上がり、夕闇ですっかり暗くなった周囲を明るくした。


 攻撃魔法の火炎球ファイヤー・ボールかと思ったら、あれは基本魔法の照明魔法だ……夕闇で暗いから明るくして戦いやすくしたのかな?


「おいっ!!! あれを見ろっ!!」


 エリーゼが指差す方角……水牛平原の向こうに小さな灯りが百ぐらい見えた。


 かすかに大勢の馬が駆ける音も聞こえる。 


「あれはきっと、エイガー中尉の王国騎兵隊だ!!」


 武闘士眼で眼をこらすと、6kmぐらい遠方に、こちらに向かってくる騎馬の軍勢が見えた。


 五十頭を超える騎影と百を超える歩兵隊が見える。 


「あれは……ウェイン砦の王国騎兵隊の本隊だ!!」


「おお……頼もしい……これで『黒い蠍』もお終いですな!!」


 馬車のタイニーさんやコグスウェルさんに気色が浮かんだ。 


「わっちが上げた緊急連絡サインを見て、王国騎兵隊が来たんだぜ!!」


「エリーゼとウィリアムのお陰だ!! さあ、コグスウェル達は先に逃げてください。ぼくはここで『黒い蠍』の足止めをします……それに、ここでグロックたちを捕まえておかないと、他の商隊や近隣住民に被害がかかります」


「ええっ!! しかしですなぁ……」


「ハルトくん……わかったわ、私も協力するの」


「わっちも殿しんがりに残るぜ!!」


「フィヤフィヤ!!」


「みんな……危険な役目だよ」


「わかっているの!!」


 みなもすっかり頼もしい顔付きになったなぁ……と感慨ぶかい。 


「待てっ!! せっかく手に入れた獲物だ……このままおめおめと商隊は逃がさねえぜ!!」


 グロックが剣先を馬車に向け、魔力を込めはじめた。


 まずい、黒炎の魔法で馬車を攻撃する気だ!


凱魔流邪妖剣がいまりゅうじゃようけん……黒炎龍灼熱焦こくえんりゅうしゃくねつしょう!!!」


 凄まじいエネルギーを持つ黒い炎の衝撃波が馬車に向かって放たれた。



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