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吹き荒ぶ、疾強風(ゲール)

 魔道士シグマが魔法の杖を地面につき、呪文を唱えると、篝火がふたたび燃え上がり、彼の影が延びて大きくなり、その中心に光るルーン文字で刻まれた魔法陣が生じた。


 赤く不気味に光る魔法陣が回転しはじめた。


「アルザン、シレイク……曠野あれのを疾駆する狂える魔物にして、冥界の狩猟兵フェルトイエーガーどもよ……影の猟犬シャドウ・ハウンド召喚!!」


 影の魔法陣から闇より濃い黒犬が三頭も迫り出し、眼帯の盗賊に襲いかかった。


「ぐわあああああっ!!!」


 片目の盗賊はあっという間に魔犬獣に食い殺されてしまった。 


「あわわわわ……あいつ、魔界の猛獣を召喚しやがったぜ!!」


 エリーゼが震えながらぼくの後頭部に隠れた。 


 ミュリエルがいたら気絶してしまう凄惨で酸鼻な光景だ……かくいうぼくも気分が悪くなった。


「てめえら全員、首を斬ってさらしてやるぜ!!!」


「それとも、私の愛玩動物ペットえさになるかな?」


 影の猟犬たちはよだれをたらし、牙を鳴らして反逆盗賊たちを取り囲んだ。


「グルルルルゥ……」


 残忍非道の盗賊剣士と陰湿魔道士が実力の差を見せつけ、仲間の首斬り死体と食い散らかした残骸を見た残りの反逆盗賊たちは、がたがたと震えだした。


「我等に刃向って、新生ダナイト党を復活させるだと……面白い冗談だ……このまま魔獣のえさにしてもいいが……」


「ひいいいいいっ!!!」


「た、助けてくれ、シグマ様!!」


「もう反抗はしねえ……俺達はあの二人にそそのかされただけだ!!」


「なんでもいう事を聞くから命だけは助けてくれ!!!」


「ああ~~ん、今さら遅いぜ、貴様ら全員の首を刎ねてやるぜ!!」


 青ざめて命乞いをする賊徒たちを前に、グロスメッサーを突きつけた。


「まあ、待てグロック……こいつらはまだ使いようがある」


「あん? なんだシグマ」


「例の計画には最低限の人数が必要だ……これ以上減っては支障が出る」


「そうだったな……今回だけだぜ、お前ら」


「はいぃぃぃぃ!!!」


 盗賊たちがボスと参謀に拝み伏した。


 あっという間に反乱を鎮めるとは……やはり、只者じゃないな、こいつら……さすがに若くして巨大犯罪クランの支部を束ねるだけはある。


 それに計画だというが、まだ何か悪巧みをしているのか?


「これで心おきなくハルトを始末できるぜ」


「それより……緊急連絡サインが上がったのが見えなかったのかい?」


「そうだそうだ!! ……ぐずぐずしていると、そのうち王国の騎兵隊がここに駆けつけて、一網打尽だぜ、コンチクショーどもめ!!」


 だが、『黒い蠍』の頭目株たちは慌てるそぶりを見せない。


「ふふふふふ……あの発煙筒は近いうちに使うつもりでいた……計画を繰り上げて使わせてもらう」


「計画だって?」


「それを知る必要はない……お前達、ハルトを殺せ!!」


「ははあぁぁ!!!」


 冷酷非情の命令と魔獣犬のうなり声に急き立てられ、十数人の盗賊たちが死にもの狂いでこちらに向かってきた。


「あいては一人だ!!!」


「やっちまえ!!!」


「お前ら、大勢で卑怯な奴らだ……わっちがアシストするぜ……風の精霊よ……シルフィードよ……願いたてまつる……」


 エリーゼが両手を前に出して呪文を唱えると、小さなつむじ風が巻き起こり、長い髪で、トンボのような半透明のはねを背中に生やした女性の姿が見えた。


「おお……風の精霊シルフィードだ!!!」


「力強き疾風はやてとなりて……瘴気しょうきを吹き飛ばしたまえ……風霊突風シルフィード・ゲール!!」


 半透明の風霊シルフィードがふたたびつむじ風となり、回転速度をあげ、吹きすさ疾強風ゲールとなって群盗に襲いかかる。


「ぐわあっ、目に粉塵がっ!!」


「前に行けねえ!!」


「ありがとうエリーゼ!!」


「いいってことよ!」


 ぼくは追い風に乗って盗賊群に立ち向かった。


 ぼくは雷鳴神剣を右に薙いで先頭の盗賊の長剣をはね飛ばし、鳩尾に爪先を叩きこんだ。


 うめいて倒れる盗賊を踏み越え、二人目の盗賊が槍の穂先を突き出した。


 ぼくは半身になって刃を避け、ケラ首を神剣で切断し、バランスを崩した槍手の頭部にひじ打ちを食らわせた。


 うめいて伏せた男を尻目に、三人目が戦斧を振り回して胴体を狙ってきた。


 斧の厚刃を背後にさがってやりすごし、斧を返す前に飛び蹴りを三人目の首に叩きこんだ。


 その間に三人の盗賊がぼくを三方から取り囲み、山刀、手斧、両手剣をこちらに向け、一斉に襲いかかってきた。


 ぼくは愛剣を前にかざし、魔力を少し込めた。


雷閃光ライニッシュ!!」


 夕闇が真昼のように明るくなった。


 さっきも使った眩戯めくらましの小技だ。


「わぷっ!!」


「目がぁぁ!!」


 正規の剣術試合なら反則技だけど、これは実戦の殺し合い、多対一の戦いだ。


 視界を塞がれた右手の男の足を引っ掛けて転ばせ、隣の男ごと突き倒されて転倒した。


 が、両手剣の男は平気でぼくに下段からの斬撃を送ってきた。


邪煙霧イーブル・フューム!!」


 魔道士シグマが魔法の杖から黒い煙を生じさせ、煤煙ばいえんは空中を延び、雷鳴神剣を包み込み、生み出した光を呑み込んだ。 


「光が消された……あっ!?」


 さらに黒煙はぼくの身体にまとわりつき始めた。 


「うっ……なんだか急にだるく……」


 ぼくは右の膝をつき、身体が重くなり、倒れそうになるのを必死にあらがった。


「ふふふふふ……邪煙霧は光を吸収し、さらに魔力マナを吸い取り、そして、身体の生気をも吸収するのだ……」


 そうか……ホックバウアーさんとマクラグレンさんを倒したのは、この魔法だったのか。


「ふふふふふ……このまま邪煙霧につつまれて衰弱死するがいい!!」



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