残酷、逆襲の黒い蠍
血走った目の奴隷商人が短剣を持って振り回す。
またウィリアムに助けられたな、まだ武器を持っていたのか。
「死ねぇぇ、ハルトぉ!! この短剣には豚頭鬼もイチコロの猛毒が塗ってあるよ!!」
ぼくはめちゃくちゃに短剣を振り回す奴隷商人の横にすり抜けざま、彼の足をすくって転ばせた。
「ぎゃひぃぃぃぃぃ!!」
顔面から大地にぶつかったティキューナはヒクヒクと痙攣している。
「やれやれ……こいつらは王国騎兵隊に引き渡すとして、まだ厄介なのが残っている……」
「おう、グロックとシグマ、『黒い蠍』の残党だな!!」
「愚者行進曲の魔法は30分ほどで正気に戻るの……その前にあっちのコグスウェルさん達の馬車と合流するの」
ミュリエルが指差した東側の岩場の間に、厩舎と水飲み場の池が見えた。
「よし、皆は先に行ってくれ……ぼくはホックバウアーさんとマクラグレンさんを呼んでくるよ!」
ぼくがホックバウアーさん達の方を見ると、倒れ伏すスキャットとノリンコが見えた。
二人が倒したんだな、でも悪女の姿が見えない、それに二人の護衛戦士もだ。
「あの二人はどうしたんだ?」
タイニーさんが訝しげに眉をひそめるのはもっともだ。
「ぼくが探してきます……タイニーさんとミュリエルは馬車の方へ……」
「ああ、わかった……二人を頼む」
「気を付けてなの……」
「フィヤ!」
二人と一匹が岩場の厩舎へ行った。
夕闇がせまり、ミュリエルは魔法の杖の先を照明魔法で光らせ、ランタンがわりに厩舎へ向かった。
「偵察なら翅のあるわっちにまかせろって!」
「ああ、頼むよエリーゼ」
とりあえず倒れた盗賊の方へ行ってみた。
「おや、なんだいあれは?」
グロックと炎のデスマッチを繰り広げた方角が夕闇より濃い漆黒の闇が覆っていた。
「黒い霧のようなものが覆っているみたいだ」
「あの黒煙みたいなのから、なにか邪悪なマナを感じるぜ」
じっと見ていると、黒い霧は薄れていき、黒い影法師がふたつ見えた。
あの姿は見覚えがある二人だ!!
「ホックバウアーさん!! マクラグレンさん!!」
ぼくが声をかけても、二人とも身じろぎせず立ったままだ。
不安になって駆けて近づくと、二人とも貯蔵のように動かない。
「どうしたんでい、二人とも!?」
二人の護衛戦士をよく見ると黒い煙のようなものが全身を覆っていたが、近づくと黒煙は薄れて消え去った。
そして、護衛戦士はなにも言わずにドウと倒れ伏した。
「うわぁぁぁ!! いったいどうしたんでい!!」
二人は殺されたのか!?
そんな……ホックバウアーさんは武具商を開いてタイニーさんと身を固めたいと、マクラグレンさんは可愛い女性と出会いを求めていたのに……
黒い霧が晴れていって、護衛戦士たちがいた背後に、黒い凶念を放つ影法師が二つ現れた。
「グロックとシグマ!!」
驚いて背後に飛び退って、間合を充分にとった。
さては奴らの魔法の仕業か!? 許せない……許せないぞぉ……
黒い霧が晴れると、『黒い蠍』の首脳の背後に盗賊の残党たちが結集してきた。
「さっきは舐めた真似をしてくれたな……今度こそ容赦しねえぞ!!!」
「『黒い蠍』に楯突く者は容赦せぬ……命はないものと思うのだな」
グロックとシグマが脅し文句をいう。
「首を斬るだけじゃ物足りねえ……五体を斬り裂いて、杭に刺し街道にさらしてやるぜ!!」
「それがいい……『黒い蠍』に刃向う者の末路を見せつけるのだ」
「お前達、やれ!!」
グロックが合図するが、盗賊たちは動かない。
「おい!! 俺の言う事がきけねえのか!!」
怒り狂うグロックの前に頬傷のある男と黒眼帯の男が不敵な面構えをみせた。
「きけないねえ……」
「ああ……あんな小僧にやられるなんて、串刺しグロックも実は大したことないじゃねえか」
鼻をならして嘲笑する盗賊たち。
おっ、仲間割れか?
ぼくが囚われの身から打開する策が、本当に謀反をよんだようだ。
「なんだとぉ!? てめえら……俺の言うことをきけねえ気か!!」
「そうだ!! いつもえばり腐りやがって……おめえが強いから従ってきたが、メッキがはがれちまったら別た!」
「お前らを倒して、『黒い蠍』を俺達のものにしてやるぜ!!」
「そして、俺らで新ダナイト党を復活させてだな……」
ザシュッ!!
不気味な切断音が聞こえ、言いかけた頬傷の盗賊の首がゴトリと地面に落下した。
首の血筋から赤い血潮が奔流し、ドウと倒れる。
「グロックの断頭剣だ!!!」
返り血を浴びたグロックの姿は地獄の悪鬼のようだった。
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