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恐るべき刃、必殺断頭剣

 6つの火炎球ファイヤー・ボールが着弾したら全身を焼かれて全滅してしまう。 


「そうはさせないの……」


 ミュリエルが魔法の杖の根元を大地に突き刺した。


「大地に眠るマナよ……頼もしき土となって、我が元に寄り集まりたまえ……大地防壁グランド・ブルワーク!」


 杖から全面にある地面が、幅5メートルに渡って盛り上がり、背より高く盛り上がった。


 圧縮された土は泥岩でいがんの硬い防御壁となり、火炎球をはね返す。


「おおっ……さすがミュリエル!!」


「くそっ……いきなり土の壁が……」


 盗賊たちは防御壁を左右から回り込んで、護衛戦士団に襲いかかる。


 接近戦なら魔法攻撃は出来ない、剣や山刀の攻撃にぼくの剣や、戦斧とグレイブの白刃が閃いて、賊徒ぞくとの凶刃を迎え撃つ。


 近接戦となり、タイニーさんは弓と矢筒を放り投げ、腰の鞘から細身の長剣を引き抜き、半身になると片手で押し寄せる盗賊に突き刺した。


「あたしの慈悲ミゼリコルドを食らいなっ!!」


 薄刃の長剣が凶賊の胸板を貫いた。


 この長剣はミゼリコルドといって、鎧の隙間から人体を突き刺すために作られた武器だ。


 その間にミュリエルが魔法の杖を地面につけ、


「大気にただよいし水粒よ……てつく風となって、我が元に来たれ……氷結弓矢フリーズ・アロー!」


 杖の先から冷たい風が吹きだし、地面一帯を凍らせた。


 略奪者たちがすべってぶざまに転倒していく。


 本来は氷の矢となって相手を貫く魔法だが、攻撃魔法が苦手なミュリエルは、本来の十分の一の威力の魔法を、小技こわざとして使って足止めしたのだ。


「ふう……あっ!! 馬車の上に盗賊がいるの!!」


「あたしに任せな!!」


 タイニーさんが革ベルトに装着した十字架状の短剣、スティレットを取り出して、右手をふって投じた。


 スティレットはまっすぐに飛んで盗賊の腹に突き刺さる。


「ぎゃああああっ!!」


 盗賊が悲鳴をあげて馬車上から転がり落ちた。


 魔法を使う精鋭の盗賊も、近接戦では使えず、ぼくらが有利になってきた。


 ぼくが相手をしていた盗賊を倒して、ほっと一息ついた。 


 その時、うなじの辺りがチリチリとする、強烈な殺気を感じた。


 ぼくは横に飛んで殺気の源を避けた。


 ぼくのいた空間に黒い瘴気しょうきのような高熱の波動が通り過ぎていった。


「ほう……勘がいい小僧だ」


 黒い高熱が発射された源にグロックが立ち、ニヤリと不気味な笑みを見せていた。


「手をださないんじゃなかったのか?」


「ちぇっ……揚げ足とるない。だらしのねえ手下のせいで、尻拭いをするはめになったぜ」


 グロックの持つ剣の刀身が闇夜のごとく光り輝き、無造作に横に振った。


凱魔流邪妖剣がいまりゅうじゃようけん……暗黒炎弾ダーク・ブリット!!」


 剣から黒く燃える炎弾が撃ち出された……さっきぼくを襲った魔力弾だな。 


 ぼくは雷鳴神剣を振って魔力弾をはじき飛ばした。


 霧散する黒い炎。


 その間にグロックが迫っていた。


 奴は横薙ぎに剣をぼくに斬りつけ、神剣を斜めにして受けた。 


 火花が散り、金属音が遅れて聞こえる。


 そのまま鍔競り合いとなり、力の押し合いとなった。 


 奴の持つ剣は諸刃の剣ではなく、メッサーとういう片刃が特徴の、いわば大型ナイフだ。


 しかも、長さ1.5メートルはあるグロスメッサーという種類だったはず。


 しかもただのグロスメッサーじゃない、マナや魔力を武器に込めて倍増して撃ちだせる魔法剣だ。


「俺の剣に拮抗きっこうするとは……中々の業物のようだな」


「神様が作った剣だからね」


「きひっ! 神様ときたか」


 信じてないな……まあ、ぼくも信じられないけど本当のことさ。


「おもしれえガキだな……久しぶりに手応えがありそうだ!」


「オジサンも盗賊にしては、正統派の流儀だね」


「オジサンだあ!? ……俺はまだ28歳だ!!」


 機嫌を損ねたグロックは、ぼくが軸足にしていた左足を蹴りあげた。


 思わずよろけてしまい、ぼくは慌てて背後に飛んだ。


 ぼくのいた空間を冷たい殺意をこめた斬線が空振りする。


 しかも斬線はぼくの首筋をちょうど真横にだ。


 抗争で倒した盗賊の首を斬ったというのは本当のようだ。


 思わず慄然としたぼくの視界が宙を回った。 いったい何が……遅れて腹に重い一撃が来た。


 いつの間にかグロックがぼくに迫り、長い右足でぼくの腹部を蹴ったのだ。


 ぼくはもんどり打って地面に転がってしまった。

 

「くそぉ……足癖の悪い奴だ」


「けっ……俺の首斬り技『必殺・断頭剣だんとうけん』を避けるたあ、可愛くねえ小僧だな」


「可愛くなくてケッコウだよ!! それに小僧じゃないよ、ハルトだ」


 ぼくは神剣を青眼に構え、グロックはグロスメッサーを鳩尾のあたりに水平に構えた。


「ハルトか……墓碑銘にきざんでやるぜ!」


 互いににらみあってどんな技倆わざを繰り出すか値踏みしている。


「ちょいと、待ちな!!」


 馬車の方から大きな声があがり、ぼくとグロックはそちらを見た。 


 一番馬車の扉が開き、貿易商人の太首にバタフライ・ナイフが突きつけられていた。 


「……依頼主のコグスウェルがどうなってもいいのかい?」


 ナイフを突きつけているのは意外な人物だった。


「ベレッタさん……なぜ!?」


「ちっ……ベレッタの奴……いいところで、余計なことを」


 グロックがツバを吐き捨てた。


 えっ……なんでグロックが酒場の歌手の名前を知っているんだ!?


「うふふふふ……お人よしの甘い坊やだねえ……ほほほほほほ」


 ベレッタが妖艶な笑みを浮かべ嘲笑した。 まさか、あの人は……


「……いつの間に……どういう事ですかな、ベレッタ殿ぉ!?」 


 コグスウェルさんが脂汗あぶらあせを流しつつ、現実を受けいれられないようだ。


「冗談はよしてくだされ……はやく緊急連絡サインで騎兵隊に応援を呼ばないと……」


「うふふふ……ちなみに発煙筒はここよ」


 ベレッタが大胆に開いたドレスの胸の谷間に手をつっこんで、豊かな胸の間から筒を取り出した。


 うわぁ……まさか、発煙筒があんな所に。


「うふっ……コグスウェルさん、商いは上手でも、おバカさんねえ……」


 悪女が筒を回してもてあそぶ。


「えっ!?」


「あたしに馬車隊の荷物や護衛のことをべらべらとしゃべってくれてありがとう……それに、知り合いの酒場で、歌手デヴューの世話もありがとうねえ」


 ベレッタはウィンクして、ちゅっと、コグスウェルさんの額にキスした。


「なのになぜですか、ベレッタ殿ぉ!?」


「……その人は……ベレッタさんは、『黒い蠍』の手先なの……」


 ミュリエルがベレッタを指さしていった。



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