強敵、串刺しグロック
「お断りだ!!」
ぼくが腹に力を込めて断った。
「ああン? この兵力差が見えねえのか? 言っとくが、お前らが倒したのは俺達が制圧して手下にしたゴズロ一家や、報復の天使団、ダナイト党など、この辺の盗賊どもの残党だ……だが、こいつらは本部から俺が連れてきた精鋭だ、格が違うぜぇ」
三十人以上いた盗賊の多くをは倒した……が、さらに強そうな第二陣の盗賊たちが現れ、総勢二十七、八名以上はいる。
しかも、魔道士シグマはヨロイカバを使役し、グロックもかなり強そうだ。
「さあ……大人しく荷物と現金を渡せば、身ぐるみはいで、命だけは助けてやってもいいぜ……俺様は寛大なんだ……どうする?」
「けっ……そうはいくかよ!! 武器を手放したとたんに、俺達を皆殺しにするつもりだろうが!!」
マクラグレンが戦斧をきらめかせてグロックをにらみつけた。
「ふっ……威勢のいい若造もいたか……そこは俺を信用して欲しいなあ」
「俺もマクラグレンの意見に賛成だ。盗賊は信用できん」
グロックは苦笑して、
「だが、この戦力差はいかんともしがたいぜぇ?」
「ぐうっ……」
マクラグレンさんが悔しそうに歯がみする。
「そっちの魔法剣士の小僧はどうだ?」
「ぼくもマクラグレンさんとホックバウアーさんの言う通り、お前を信用できない!」
「はっ……嫌われたもんだ!」
肩をすくめたが、人を小莫迦にしているのはあきらかだ。
「ぼくは冒険者になるためにベルヌの町へいく」
「ほおぉ……冒険者志願か」
「コグスウェルさんは馬車に乗せてくれた恩があるし、それに、ぼくらはまだ冒険者に正式に登録されていないが、護衛として雇われた。だから、行く手を阻むお前達を排除するのは仕事だ」
「仕事ときたか……小僧め、大層なことを抜かしやがる」
「コグスウェルさんは真っ当に働いて、地方の町と町をつなぐ重要なパイプ役の仕事をしている……荷物にある商品は、塩田業者が作った塩や、木綿農家が作った木綿など……みな、真面目に一生懸命働いてつくったものだ。それを働きもしないで、暴力で奪おうとすることは許せない」
盗賊たちはこれを聞いて「ぎゃはははは……」と、一斉に馬鹿にしたように笑う。
「この小僧……おれたち盗賊に説教してやがるぜ……」
「御高説はもっともだ……だが、世の中の現実ってものが見えていねえようだなあ……」
グロックは大きくうなずき、
「そうだ……手下どものいう通りよ……とくにこの辺境では、強い奴がルールを決める……弱い奴は強い奴に物を捧げて、泣きをみるのが世の常よ!!」
「……たしかに、王国の眼が届かない辺境では、盗賊や魔物が罪のない人々を苦しめている……だけど、そうはさせたくない……真面目に生きる住民の護りの盾となるために生まれたのが、スタージョン流武術だ」
「武闘士だと!?」
「生意気な小僧め……」
ぼくの言葉にグロックが興味を惹かれたように、
「ほう、小僧……武闘士か?」
「ああ……実家が田舎で武闘術の道場をしていてね……ぼくは父や姉のような強い武闘士になるため修行をしている」
略奪組織の頭はぼくや護衛の戦士たちを見回し、
「たいそうな口をきく小僧だが、俺やシグマが出るほどの奴らでもあるまい……かったるいから、手下ども……お前らでやっておけ」
「はっ……わかりました」
「手柄を立てた奴は昇級してやるぞ……『黒い蠍』は実力主義だからなぁ……」
これを聞いて、手下の盗賊たちが「おおおおおおっ!!」と歓声を上げた。
「ひひひひひ……手柄をあげるチャンスだ!!」
「相手の護衛は俺たちでなぶり殺しだぁぁ!!」
『黒い蠍』の盗賊たちが剣や槍などを出してぼくらを半円形に包囲した。
盗賊群のうち、6名ほどの右手が光り、炎の玉が膨れあがった。
「なにぃぃ!?」
「あいつら……盗賊のくせに攻撃魔法を使うのか!?」
『黒い蠍』の精鋭というのは伊達じゃないようだ。
6つの火炎玉が紅蓮の炎をあげ、ぼくらに向けて襲いかかった。