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犯罪クラン、黒い蠍(さそり)

「えっ……ちょっと、待ってください……『黒い蠍』といえば、沿岸地方を荒らし回っている海賊の名前と聞きましたが、ここは平原のど真ん中ですぞ!?」


 眉根をよせたコグスウェルさんがエイガー少尉に疑問をのべた。


「たしかに『黒い蠍』は沿岸地域を根城にした海賊が有名です……が、ここ数年で他の海賊や密輸組織、陸地の盗賊や犯罪集団をつぎつぎと傘下に取り入れ、巨大な犯罪クランに成長してしまったのです」


「そんな……そんな、恐ろしいことが起こっていたとは、不覚にも知りませんでした……」


「そうでしょう……世界の裏側の闇社会での出来事ですから……『黒い蠍』の首領は『スコーピオン』という名前しかわからず、顔も年齢も、正体がわかりません。『黒い蠍』の末端組織はおろか、中枢組織ですらも首領の正体は知らず、わずかな側近のみが知るらしいといいます。首領は腕の立つ幹部を王国領や周辺諸国各地に送り込み、地元の犯罪組織を乗っ取るのに躍起になっていました……そして、春になって地盤が固まったようで、雪解けと同時に、一斉に活動を始めたのです!!」


「ひえええええ……それじゃあ、今にでも私のような旅商人を狙って現れるかもしれんのですかな!?」


 コグスウェルさんは首をすくめて、周囲を見わたした。


「我等はゼグナン市からここまでの街道を見廻っていますが、大丈夫のようです」


 エイガー少尉の言葉に貿易商人は「ほっ……」と胸をなでおろした。


「しかし、充分に用心をしてください……水牛平原には、最近までゴズロ一家の生き残りで、ゴズロの末っ子とゴズロ弟の娘が残党を立て直して率いていたのです……が、『黒い蠍』から来た幹部が傘下にならないかという話が来て、それを断りました……そのために、『黒い蠍』幹部に殺されてしまったのであります」


「悪党とはいえ、それは酷い……」


「しかも、ただ殺すだけではなく、ゴズロ残党の新首領と側近六人の首を斬り落とし、街道にさした杭に乗せて、さらしたという残虐な報告があるのです……」


 その言葉にミュリエルが両手で口を押えて、「ひっ……」と、声なき悲鳴をあげた。毒舌が売りのエリーゼも、押し黙ってミュリエルの背中につかまった。


「そして『黒い蠍』はゴズロ・ファミリーの残党や周辺の盗賊団を傘下に治め、百人以上の組織になったとも言われております……いわば『黒い蠍』水牛平原支部ですな」


 ぼくは意を決し、


「エイガー少尉……その『黒い蠍』の幹部の名前はわかりますか?」


「ハルト殿……まだ余り情報は少ないのですが……首を晒した幹部は、グロックといいます……くだんのエピソードから、通称『串刺しグロック』と呼ばれ、首を一撃で斬った恐るべき剣の使い手だとしか、今のところわかりません」


「串刺しグロック……ただの盗賊ではなく、剣士崩れなのかもしれませんね」


「ええ……盗賊の斥候せっこうらしき者を見つけたら、騎兵隊の砦か駐留地の役人に伝えてくださるようお願いするであります……これをお渡しします」


 そういって、エイガー中尉は30センチほどの筒をぼくに渡した。


「これは?」


「宮廷錬金術師が作った『緊急連絡サイン』です。筒を宙にむけ、このヒモを引っ張ると、赤い狼煙のろしがあがり、遠くからでも我ら騎兵隊に位置がわかります」


「なるほど……便利なものですね……わかりました……充分に、注意しましょう」


 ぼくらはエイガー隊に敬礼して見送る。


 エイガーさんは騎士爵ナイトしゃくがある准貴族なのだろうに、平民のぼくらに偉ぶるところもない、気持ちの良い好漢だった。


「ハルトくん……」


「ハルト殿ぉぉ……」


 ミュリエルとコグスウェルさんがすがるような目でぼくを見つめる。


「大丈夫……ぼくがみなを守るよ」


 ぼくは鞘を持ちあげて見せ、みなを安心させるように、精一杯落ち着いた声でいった。


「おおおっ!! さすがハルト殿ぉ!!!」


「そうだ、そうだ……さっきもオークをあっという間に三体も倒したし、ゴブリンやトロール、風船蜘蛛、トリフィドを倒してきたハルトに、盗賊ごときなんか、相手にならないぜ……なあ、ミュリエル!!」


 エリーゼが宙を飛んで、ミュリエルの頭にある白い帽子にポンと乗った。


「そうね……強いモンスターを倒してきたハルトくんが、盗賊なんかにおくれを取ることなんてなわよね……」


 魔法使い見習いの顔に、蒼白な顔に血の気が戻ってきた。


 ともかく、エイガー隊の騎影を見送って、ぼくらの乗る馬車隊は赤い根街道を西へ、ベルヌの街を目指した。


 少し先に『赤い根街道』の中継地点である駅舎が見えた。


 そこで馬車を止め、馭者さん達は馬に水と干し草を与えて休憩させた。


 ぼくらは駅舎にある食堂でコグスウェルさんに遅めの昼食を御馳走になった。


 牛肉とアスパラガスの炒め物に、トマトなどの野菜サラダ、豆のスープだ。


 店内の他のテーブルでは番頭さんや護衛の戦士、他の旅人なども食事をしていた。


 食堂は夜になると酒場になるようで、中央にカウンターと酒瓶の並んだ棚があり、右側にピアノが置いてあり、専属歌手が歌うための小さなステージが見えた。


 食事が終わると、コグスウェルさんは銀貨の入った皮袋をぼくらに渡してきた。


「これは……」


「さきほど助けていただいたお礼です」


「ですが、こんなには……」


「いや、ベルヌの街まであと三日の旅です……ハルト殿たちは冒険者を目指すのでしょう?」


「はい」


「ならば、冒険者となれば護衛の仕事もあるはずです……また魔物に襲われたときや、『黒い蠍』が現れたときに護衛を依頼してもらいたいのですよ」


「いやあ……馬車に乗せてもらっているのですから、報酬までもとは……」


「遠慮なさいますな……護衛というものは馬車に同道するのも仕事のうちでございます。ならば、他の護衛に雇った者たちと同じ報酬と待遇を与えねば、コグスウェル商会の信用問題となります」


 強く押し出され、隣の魔法使い見習いもうなずき、


「……ハルトくん、受け取りましょう……コグスウェルさんは商人として正しいことを言っているわ。私たちはまだ冒険者ギルドに入っていないけど、お世話になったし、仕事を受ける資格と責任があると思うの」


「ミュリエル……」


 彼女のきれいな碧眼がぼくを見つめる。


 彼女の肩にのったウィリアムとエリーゼも同様だ。


 彼女は実家の借金のために薬草採りのために遠くまで旅をしてきたんだ……少しでも路銀を稼いでおくことは良い事だと思い返す。


「わかりました、コグスウェルさん……正式に護衛の依頼を引き受けます!」


「おお、ありがたい!! これでミノタウロスに戦斧というものです!!! いや、ありがたい」


 コグスウェルさんが満面の笑みを浮かべた。


 その時、店の奥で男女の怒鳴りあう声が聞えた。 


 見れば、店の主人と若い女性が喧嘩しているようだ。


「お前なんか、災いの元だ……出て行けっ!!」


「モチロンよ! こんなしけた店なんか、あたしに不似合だからね!!」


 という声が聞こえ、女は奥に引っ込むと大きなトランクを持って出て行こうとした。


 すると、コグスウェルさんに気がつき、


「あらぁぁ~~…こちらの商人さん、素敵ねえ……」


 赤いドレスをまとった、栗毛の長い髪の女性がコグスウェルさんに抱きついてきた。


 この人……頬が赤くて、お酒の匂いがする……昼間から酔っているな。


「うわわわっ……なんですかな、あなたは?」


「あたし? ……あたしは未来の大歌手よぉ……ベレッタっていうの、よろしくねえ」


「いや、離れてくださらんか……」


 二十代半ばと思える美しい女性がにまぁぁ~~と笑みを浮かべた。


「ねえ、あなたお金持ちなんでしょう? あたしのパトロンになってくださらなぁい?」


 ベレッタという歌手は鼻のかかった甘い声で貿易商人に色目をおくった。


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