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正義の印、黄色いスカーフ

「おう、そうか……馬車を止めてくれ」


「へい……」


 馬車隊が止まり、八人の騎馬小隊の長と思われる人物が先頭の馬車によってきた。


 コグスウェルさんの落ち着いた態度からして、敵対する騎士ではないようだ。


「どこの騎士だろう……」


「あの制服と鎧は……この辺りの地方の領主であるアルヴァラド王国の騎士団のユニフォームなの」


 街で育ったミュリエルが教えてくれた。


「この国の騎兵隊かぁ……」


 聞いて知っているが、ぼくの住む高原では見たことがなかった。


 王国騎士団も、辺境までは目が届かず、辺境に住む者は自衛が基本だ。


 もっとも、そのお陰でぼくの実家のような武術道場という商売も成り立つわけだが。


「ごくろうさまでございます、騎士さま」


 コグスウェルさんは窓から顔をだし、二十七、八歳ほどの騎士にていねいに挨拶をした。


「私は水牛平原の赤い根街道を警備する王国駐屯騎兵隊の小隊長を務めております、エイガー少尉ともうします」


「おお……ウェイン砦に駐留している……ごくろうさまです……私は貿易商のコグスウェルと申します」


「失礼ですが、通行証か身分証明書はありますか?」


「ああ……はいはい……」


 そういって、コグスウェルさんは身分証明書を見せた。


 関所でもないのになぜ、職務質問を?


 隣のミュリエルがまたクイクイとぼくの袖を引っ張った。


「なんだい?」


「騎士さんの左腕を見てみてなの」


 彫りの深い面構つらがまえをしたエイガーさんの左肘の上に、黄色い布がまかれていた。


 他の騎兵隊の人達も同じだ。


「王国騎士団のユニフォームは基本的に青色だけど、差し色で区別する規則があるの……歩兵は緑色で、近衛騎士は赤色、医療兵は白色よ……」


「なるほど……すると、騎兵隊の色分けは黄色というわけか……」


 騎兵隊をよく見ると、制服の袖や襟元が黄色で、甲冑の意匠に黄色いアラベスク模様が入り、かぶとに黄色く染めた羽飾りがついているのが見えた。


「そうなの……だから、王国騎兵隊は別名『黄色いスカーフ』とも呼ばれているのよ」


「へえぇぇ……なんだか、シャレたネーミングだねえ……」


「おう、ハイカラな感じがするぜ!」


「フィヤ!!」


 その間にコグスウェルさんと騎兵小隊のやり取りは終わったようだ。


「ご協力ありがとうございます……春になって、魔物が冬眠から目覚め、街道のあちこちに出没したという報告があります……ご注意を」


「ええ、ありがとうございます」


「ところで……反対側の扉が壊れておりますが、なにかあったのでしょうか?」


「おお……扉は馭者が直してくれたのです……実はさきほど、オーク三体に襲われましてなぁ……」


 これを聞いてエイガー少尉をはじめ、『黄色いスカーフ』の騎兵隊が色めきたった。


「なんと……オークといえば中級モンスターではありませんか!! ……よく逃げおおせましたなぁ……」


「いや、突然あらわれて、馬車の行く手をふさいだもので、我が方で雇った護衛が交戦しましたのですわい……二名がやられ、三名が怪我をするという激戦でございました」


「それは痛ましい……」


「かくいう私もオークの一匹に馬車から引きずり出され、棍棒で殴り殺されそうになったのでございます!」


「なんと!!」


「あわや私の生涯も一貫のおしまい……と、思ったときに旅の武闘士さんに助けてもらったのですよ。その武闘士さんはたった一人であっという間にオーク三体を倒したのでございます!!」


「たった一人の武闘士がオークを倒した……しかも、あっという間に……それはかの豪勇ゴライアスのような剛力をほこる武闘士でしょうねえ……ぜひ、お眼にかかりたいものです!!」


「わはははは……こちらにいますぞ!!」


 そういって、コグスウェルさんはぼくを引っ張って、エイガーさんに紹介した。


 うっ……やだなぁ……そんな紹介をされると、騎士さん達は過度な期待をしていると思うよ……きっと、豪勇ゴライアスみたいな筋肉ムキムキの大人の武闘士というイメージを持ってしまうよ。


「こちらが、その武闘士のハルト殿ですぞ!!」


「あ……ども……ハルトです……」


 ぼくは頬を上気させて、右手を頭のうしろにつけておじぎをした。


「おい、声が小さいぞぉ、ハル坊!! もっと胸をはれい」


「ハルトくん、もっと、堂々と言ったほうがいいの!」


「いや……そんな、急に言われても……」


 ずっと小さな村で気心のしれた村人たちと住んでいたから、始めて会う、しかもこんな大勢の前だとあがってしまうよ……


「えっ……こちらのお子さんが?」


 エイガー少尉さんをはじめ、他の騎兵隊の皆さんも一斉に驚き、疑わしげな視線をぼくに送ってきた。


 ほら、やっぱりぃ……ぼくに過度な期待をしないで欲しいよ。 


「ああ……もしかして、この子はハルト殿のお子さんですかな?」


「違いますぞ、彼が正真正銘のハルト殿ですぞ!! 年若い少年に見えますが、飛鳥のように素早い剣技と、魔神のごとき強さを誇る旅の武闘士殿ですぞ!!」


 うわぁぁ……コグスウェルさん、こんな大勢の騎士さん達の前で、そんな大げさに言わなくても……ますます恥ずかしくなるよ……


「そうですか……失礼いたしました、ハルト殿……私はてっきり、年上の歴戦練磨な武闘士だと思い込んでしまい……」


 やっぱりね!! 


「実はコグスウェル殿、魔物の他にも危険な存在がいるのであります……」


「ははぁ……水牛平原を縄張りにする凶悪な強盗集団『ゴズロ・ファミリー』ですな……手下が五十人近くもいたという……しかし、昨年の秋、ウェイン砦の司令官殿が掃討作戦を率いて壊滅したと聞きましたが……」


「ええ、首領のゴズロに彼の弟、ゴズロの長男・次男などの主だった幹部連中は戦闘で死亡か、捕まって処刑されました……ですが……さらに強力な略奪組織が現れたのであります」


「えええっ!? それはいったいどんな奴らなのですか!?」


 慌てるコグスウェルさんにうながされ、エイガー少尉は重い口を開いた。


「その組織名は……『黒いさそり』!!!」


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