邪悪なる怪物、オーク
「このままじゃ危ない……助けに行ってくる!!」
ぼくは剣の鞘を握って、走り出した。
「あっ……待ってなの……ハルトくん!!」
ミュリエルも追いかけるが、その差はぐんぐんと離れた。
ぼくは赤い根街道を、砂塵をまきあげ、風となって駆け抜けた。
毎日、山道を駆け巡っていたぼくにとって、平地は走りやすい。
だが、春風にのって、鉄のような匂いが漂ってきた……これは血の匂いだ……まずい。
あっと言う間に三台の馬車隊に近づいた。
後ろの馬車は貨物用荷車で、前の馬車は人がはいる乗合馬車でのようだ。
馬はモンスターにおびえて動けないようだ。
その先に男性が五人ほど倒れていた……おそらく馬車の馭者や護衛だろう。
負傷者が三名……残念ながら、護衛の戦士と思わる人のうち二名が殺されていた。
肩や腹部から血を流している……早く手当しないと危ない。
そして、その前方に身の丈2メートルもある人型の魔物が三匹いた。
オークだ……緑色の皮膚で、足が短く手が長い、湾曲した脚をもち、イノシシのような頭部で、豚に似た鼻、口には下顎から牙が生えた二足歩行の亜人モンスター……緑肌鬼や豚鬼ともいう。
オークは魔王が生み出した中級の魔物で、力は人間より強い。
厄介なことに、気が短くて、略奪や人殺しを生業とした好戦的種族であった。
オークは乗合馬車の扉の取っ手をつかみ、扉を怪力でひっぺがした。
「ブオォォォォ……」
オークが馬車から人間をひきずり出して、レンガの道に転ばした。
「ひええええ……助けてくれぇ!!」
太った中年の男性が悲鳴を上げる。
「わあぁぁ……やめてくれ!!」
緑肌鬼が残酷で邪悪な笑みを浮かべ、かたい樫の棍棒を頭上にふりあげ、震えて座り込む商人の頭部をかちわろうとした。
あと数十メートル……このままでは間に合わない。
ガシィィン!!
風がまき上がり、商人を狙った豚鬼の棍棒の上部が折れて、地面に転がった。
「ブォォッ!?」
目を白黒させるオーク。
ぼくが駆けながら、鞘から剣を抜き、剣風を飛ばして断ち切ったのだ。
「なっ……きみは!?」
商人が眼を見開いて、ぼくを見上げた。
「それより早く馬車に戻ってください」
「おっ……おお……わかったぁぁ」
商人がへっぴり腰で四つん這いになりながらも馬車に進み、中から他の人が出てきて彼を助け起こして乗り込んだ。
獲物を撲殺する楽しみを奪われた亜人モンスターは、怒り狂って雄叫びをあげる。
「ブオオォォォォ!!!」
斬られた棍棒を捨て、緑肌鬼は長い鉤爪をのばしてぼくに襲いかかってきた。
だが、オークの眼前からぼくは消えた。
周囲を見回す豚鬼。
どこを見ている……ぼくはお前の頭上に跳んだのだ。
ぼくは刀剣を怪物の頭部に向けて、体重をかけて振り下ろした。
「グギャァオオォォ!?」
緑肌の魔物の頭頂、首筋、鎖骨、胸部、腹部を斬り裂き、腰椎を割って両断した。
モンスターの身体が真っ二つになり、左右にわかれて大地に倒れた。
その断面から黒い煙があがって、一個の赤い魔石となった。
これが魔王の生み出したモンスターの元となった核だ。
「ブォルルゥ……」
仲間を倒され、残り二体の豚鬼は信じられない面持ちでぼくを見る。
そして、顔面を朱に染めてぼくをにらみつけた。
右のオークが槍の穂先をきらめかせ、ぼくに突いてきた。
鋭く重い一撃……ぼくのどてっ腹を貫通させる威力だ。
だが、そうはいくものか。
ぼくは大地を蹴り、ふたたび跳躍した。
緑肌鬼の伸びきった腕と槍の穂先の上にぼくは立っていた。
そのまま槍の柄を走り抜け、身体をコマのように回転さえ、横薙ぎの一撃をふるった。
イノシシに似た頭部が横に吹っ飛び、切断面から黒煙を吹き出し、胴体がドウと倒れ、魔石と化した。
大地に降り立ったぼくの胴体めがけて豪風が鳴った。
最後の一体、ひときわ大きなオークが、大戦斧を横薙ぎにして、ぼくの胴体を真っ二つにしようとしたのだ。
だが、殺気が強すぎる……ぼくは大戦斧の軌道を予想して、上に飛んで逃れた。」
「ブオォォォォ!!」
巨鬼が大戦斧を持ち上げ、ぼくを追いかけ、大上段から降り下ろした。
上に跳躍して逃れたあとを、戦斧が大地にめりこんだ。
オークが斧刃を引き抜こうとしたが、思ったより深くめり込んで、持ち上がらない。
「ブォルルル!?」
慌てて引き抜こうとする豚鬼の左肩から右腰の当たりに斜めに一筋の黒い筋が生じた。
ぼくが刀剣を素早く薙いで斬り裂いたのだ。
オークの上半身が斜めにずれ、横倒しになりながら黒い霧を出して、魔石と化す。
「ふぅぅ……一汗かいたよ」
「大丈夫ぅ……ハルトくん!?」
そこへミュリエルとエリーゼがやってきた。
「ハル坊、無茶苦茶はやいじゃねえか……まるで風みてえだ!!」
「フィヤ!!」
「それより、ミュリエル……怪我をした人がいる……回復治療をお願いするよ!!」
「わかったの!!」
魔法使い見習いは馬車の前方に倒れていた、重傷の護衛に駆け寄った。
ミュリエルは魔法の杖をふって、瀕死の男性に神聖ルーン語で呪文を唱えた。
「万物に宿りしマナよ……癒しの光となって安らぎを与えん……回復治療!!」
杖先から淡い光がはなたれ、癒しのマナを護衛にふるった。
腹部の傷口の出血が止まり、顔色が少しよくなる。
ミュリエルはもう一人の護衛と馭者の治療にいった。
「さすが、ミュリエル……ぼくには真似できない魔法の力だよ……お陰でふたりの命を取りとめた」
「……ハルトくんこそ、大活躍だったの」
「いやあぁ……」
「おお……回復呪文ですな……ありがとう……魔法使いのお嬢さん……そして、モンスターを倒してくれてありがとう、剣士の少年……」
背後から声がかかった。
ふりむくと、オークに馬車から引っ張り出された中年の商人だ。
「私は貿易商人のコグスウェルという……おかげで助かりましたわい」
太った商人はぼくの両手をにぎって感謝の言葉をのべた。
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