大勝利、キング・トリフィドの最期
ぼくが迫りくる怪物軍団を斬り倒しているあいだに、エリーゼが妖精の輪をつくりあげ、拠点は完成した。
「よっしゃあ! 妖精の輪が完成したぜ!! 危ないときは妖精の輪に入んな……ごくろうさん、ウリ坊!!」
「フィヤァ~~」
魔貂のウィリアムが円の真ん中でばてて腹ばいになった。
完成した円陣を取り囲んで、女性陣が背中を向けて結界を守護する。
妖精の輪に避難した彼女たちは怪物たちから姿が見えなくなる。
ただし、ピクシーの草冠を被り、祝福を受けたぼくとミュリエル、エリーゼには隠れた姿が見えるのだ。
「ハルトくんがキング・トリフィドを倒してくれるはずなの……それまでここを絶対に守るの……みんな!!!」
「うん……リリア……がんばる……」
「それがしにまかせてくだされ、ミュリエル殿!!」
ミュリエル、リリア、ヨナが心得たとばかりに呪文を唱える。
「万物に宿るマナよ……悪しき者たちに天罰を与えん……麻酔煙霧!」
ミュリエルの魔法の杖の先から白煙が生じ、奔流となって野菜人間やキノコ人間、巨大昆虫たちを包み込む。
パラライズ・ヘイズに触れた怪物たちが全身をけいれんさせ、麻痺状態となって倒れ伏した。
「火の精霊よ……サラマンダーよ……お願い……」
リリアが魔法の杖を振るうと、炎の渦が生じ、火蜥蜴に姿となり、凝縮されて手のひら大の石ほどになった。
「高熱の礫となって……敵対者を葬らん……火霊飛礫!」
リリアが魔法の杖の先から燃える火炎礫を連続で切株オバケ達に放ち、燃えあがる切株オバケ軍団。
「土の精霊よ……ノームよ……願いたてまつる……邪悪を穿つ槍穂となれ……土霊突槍!!」
ヨナが精霊魔法で、大地の精霊に働きかけ、土が圧縮されて凝灰岩となった土槍が巨大森ヒトデやジャイアント・スネークたちを串刺しにした。
キング・トリフィドの茎を目がけて走ると、地割れがおき、地中から体長13メートル以上もある大百足が現れた。
赤褐色の体色に、体節ごとに五十対の足が生えている。
鎌首をあげた大百足の頭部の大顎と顎肢がひらき、腐食ガスを吐き出した。
あれに十分もさらされると呼吸困難になり、肌が焼けただれ、肉体がボロボロに腐り果ててしまう。
「雷鳴神剣よ……槍となってくれ……ソール・ランス!!」
金色に輝いた長剣が伸びて槍形態になった。 遠くの妖精の輪から見ていたエリーゼが驚き、
「神剣の形が変わったぞ!?」
「ああ……雷神ソール様のつくった武器は、所持者の意志をうけて、槍や斧、大槌、短剣などに形を変えることができるんだ!!」
「さすがは幻の金属オリハルコンの武器なの!!」
所持者の意志のまま形を変える武器・雷鳴神剣は、総合武闘術ともいうべきスタージョン武術と、実に相性がいい。
もしかしてスタージョン武術は、この変形する神剣の力を遺憾なく発揮すべくつくられたかと思うくらいだ。
ぼくは長槍の柄を真ん中でも持ち、両手で回転させて腐食ガスを吹き飛ばして大百足に迫った。
長槍の石突を地につけ、高幅跳びの要領で宙を飛び、怪多足類の頭部を水平に薙いだ。
赤褐色の頭部が地につく前にぼくは死骸の背中を蹴って前に進んだ。
ぼくの前方に体長4メートルはある三頭野猪が突進してきた。 大地が揺れ、ぼくはたたらを踏んだ。
立ち止まって、体内の魔力を神槍に込めた。
そして、雷鳴神槍ソール・ランスを投げ槍の要領でトリプルヘッド・ワイルドボアの真ん中の口めがけて投じた。
一直線に飛んだ雷鳴神槍が三頭野猪を串刺しにし、魔獣は地響き立てて倒れ伏した。
「ソール・ランスよ……戻って来てくれ!!」
ぼくの呼びかけに雷鳴神剣が血震いさせて魔獣から抜けとれ、ぼくの手許にもどってきた。
ぼくは敵の親玉めがけて、ひたすらに走る。
前方上空からブーンと飛翔音をあげ、体長二メートル以上もある巨大狩人蜂が五匹襲ってきた。
狩人蜂は動物や昆虫などを麻酔針で捕らえ、巣に持ちかえって獲物に産卵し、幼虫は獲物をエサに育つという、えげつないモンスターだ。
「雷鳴神剣よ……弓矢になってくれ……ソール・ボウ&アロー!!」
ソール・ランスが光り輝き、弓と五本の矢に変形した。
ぼくは矢を弓につがえ、迫りくる巨大ハンター・ワスプにスタージョン流弓術で連射した。
狩人蜂の身体の急所に刺さり、五体の怪物蜂はすべて落下した。
「矢よ……戻ってくれ!」
ぼくの呼びかけで五本の矢は放物線を描いて戻って来て、弓と合体して雷鳴神剣の姿に戻った。
怪物たちのボス・キング・トリフィドは目の前だ。
ボスの巨大茎を守護すべく、トリフィド四体が立ちはだかった。
このトリフィドは近衛兵の四天王といったところか。
頭部のつぼみから蔓草触手を一斉に放つ。
ぼくに向かって槍穂のごとき刺毛がうねくり、四方から迫る。
「雷鳴神剣よ……飛び道具になってくれ……ソール・ブーメラン!!」
長槍が金色に輝き、くノ字型のブーメランに変形した。
ブーメランを右方に投じると、大きく回転して四体のトリフィドの頭部を横薙ぎにした。
戻って来たブーメランをつかみ、ふたたびつかむ。
これで厄介なトリフィドの刺毛攻撃は封じた。
頭部を失った三体の歩行植物が押し寄せてくる。
体当たりで押しつぶすつもりだ。
「雷鳴神剣よ……戦斧になってくれ……ソール・バトルアックス!!」
前から迫るトリフィドに、戦斧の柄を両手でにぎり、遠心力をつけて横薙ぎに斧刃を胴体球根に叩きつけた。
植物油の体液を撒き散らして崩れ倒れる歩行植物。
地面にちらばった油で足をすべらせた二体のトリフィドが轟音をあげて倒れた。
怪植物の球根へ戦斧を叩きこんでトドメを刺した。
その最中、前方の地面が盛りあがり、ひときわ巨大な根っ子……主根が飛び出してぼくに大蛇のように巻きついてきた。
キング・トリフィドの吸血根が戦斧ごとぼくを締め上げる。
「うぐぐぐ……しまったぁ……」
根端の吸血針がぼくの首にせまる。
戦士シルバーをも衰弱させた凶器だ。
巨大茎の上を見上げると、つぼみが開き始めた。
白い綿毛の球体が見える。
「しまった……もうトリフィドの種ができたのか……」
おあつらえ向きに、風まで吹いてきた。
「まずい……右端の綿毛が空中に蒔かれだした!!」
綿毛の種が飛散すれば、この地域全体にトリフィドの芽が息吹き、怪植物群の生息地帯が広がってしまう。
奴らは邪素をふくんだ瘴気をまき散らし、この世界を『人食いの森』のような怪物うごめく世界に変えてしまう。
人間族や妖精族はトリフィドたちのエサとなり、やがてはこの世界も生物が住めなくなってしまうだろう……その前になんとかしなくては!!
後方を振り返ると、魔法結界に避難したミュリエルが、得意の回復呪文で怪我をしたリリアとヨナを治療していた。
まるで野戦病院の衛生兵か治療師のように頼もしい。
良かった……これなら後顧の憂いなく戦える。
「雷鳴神剣よ……ふたたび槍となってくれ……ソール・ランス!!」
金色に輝いた戦斧が伸びて槍形態になった。
槍の柄をにぎった手首を回転させ、吸血根を切り裂いた。
動きを止めた根端部分の根がだらりと崩れた。
縛めを解いたぼくは、体液を流してうねくる巨大根に飛び乗り、一気に根元へと駆けた。
キング・トリフィドの巨大茎は目の前だ。
巨大茎に咲く花のつぼみが開き、ふたたび毒花粉を撒き散らし始めた。
この毒花粉を十分も吸えば、意識を混濁させて死に至るだろう。
ぼくは長槍の穂先を正眼に構えて、毒花群にむかって剣尖を向け、体内に貯めたマナを刀身に集める。
「浄化の焔よ……紅蓮の一撃となって燃やし尽くせ……炎ノ武技・火炎飛翔弾!!」
ソール・ランスから放たれた斬撃波は、熱く空気を焦がし、炎の砲弾となって巨大茎の表面に咲きほこる毒花たちをまとめて炎で包む。
毒の成分が可燃性だったようで、花は燃えた。
だが、巨大茎本体は燃え上がらない。
焚火をするとき、水分を多量にふくんだ生木は燃えない。
乾いた薪を燃料にしないと焚火が燃えないように、キング・トリフィドの巨大茎や球根も耐火機能があった。
「バオオオオオォォォーーッ!!!」
血を吸われ満身創痍で眠っていたはずの大角鹿の戦士だ。
「シルバー!!」
眠りの魔法で休んでいたはずなのに……無理をおして、森の危機に駆けつけてくれたのだ。
もしかしたら、ミュリエルの薬草を食べてくれたのかもしれない。
森の戦士がキング・トリフィドの球根に突進して、表皮に穴を開けた。
キング・トリフィドの表皮は燃えにくいが、球根のエネルギーの元、養分となる油は可燃性だ。
「今がチャンスだ!!」
「がんばって、ハルトくん!」
「ゆけえ!! ハル坊!!!」
妖精の輪からの声援が力になる。
ぼくは長槍を頭上に捧げ持ち、体内のマナをソール・ランスに込めた。
「百雷の神よ……万物を焼き尽くす者よ……怒りの雷霆となって邪悪なる物を掃討せん……雷ノ武技・雷光撃砕衝!!」
長槍は燦然と光り輝き、雷鳴神槍ソール・ランスから稲妻が走り飛び、上空に飛んだ。
雷撃が放物線をえがいて地上のキング・トリフィドに堕ちた。
おくれて天地を揺るがす轟音と震動がおきた。
キング・トリフィドの綿毛種子が燃え上がり、さらに球根から湧き出す植物油が引火し、怪植物を炎上させた。
空に飛散しはじめた綿毛種も引火して燃え出す。
「ギュロロロロロロロッ!!!」
宇宙怪植物が断末魔の悲鳴をあげた。
「やった……キング・トリフィドの最期だ」
それを見たトリフィドの眷属たる怪物たちの残党は、身体を縮ませて、この場から一斉に逃げ出した。
そこへ、ミュリエルたちが駆け寄ってきた。 魔力をすべて使いきったので、ガクリと力が抜け、ひざをついた。
雷鳴神槍ソール・ランスの輝きが失せ、元の剣の形態に戻った。
「オオオオッ!! やったぜ、ハル坊!!!」
「あのキング・トリフィドを倒すとは……やはり、ハルト殿は予言の勇者だったのですな!!」
「ハルト……すてき……」
「世界を救ってくれたの……ハルトくんが」
「いや……ぼくだけじゃ倒せなかった……」
ぼくは少し離れて立つ大角鹿を見上げ、
「駆けつけてくれたシルバーと……ミュリエル、エリーゼ、リリア、ヨナさん……みんなのがんばりが世界を救ったんだよ!!!」
「バオオオォォォ~~ン!!」
シルバーが森に勝利の雄叫びをあげた。
いつしか、太陽が西にかたむいていた。
熱い血のように赤い……こんなに夕陽がきれいに感じるのは初めてかもしれない。
ようやく『人食いの森』の長い午後は終りを告げたようだ。
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