進め、最後の決戦の地へ
ぼくらはキング・トリフィドがいる森の広場へ目指してすすんだ。
シルバーは防御結界で休ませることにした。
「行って来るよ、シルバー……お前は十分に戦った……今は休んでいてくれ」
大角鹿とは言葉が通じないはず……だが、ぼくらがキング・トリフィドに決戦へ向かうのを察知して、シルバーは立ち上がろうとした。
「無茶だよ……シルバーは休んでいてくれ」
ぼくが彼の脇腹を押さえるが、力強く反抗する。
「まった……わっちにまかせなって!……」
エリーゼがシルバーの顔に飛んでいき、背中を向けて四枚翅をひらめかした。
翅の鱗粉が大角鹿の鼻面にふりかかり、シルバーは目を閉じて、横座りになって眠り出した。
「シルバーが眠った!!」
「わっちの翅の鱗粉を媒介に魔法をかけたんだ…… 妖精の眠り粉というんだぜ」
「へえええ……すごいなぁ」
「夜遅くまで起きている悪い子は、妖精さんが鱗粉で眠らせるというお話は本当だったのね!!」
妖精好きのミュリエルが感動していた。
ぼくらは森の向こうにあるキング・トリフィドの生息地へ用心しながら向かった。
やがて、ぼくらが目的地に近づくと、巨大球根を守る毒花粉の黄色い霧が渦まいていた。
その間にみんなで対策の知恵をしぼっておいた。
「まずはリリア……みんなに強化魔法を頼むよ」
「うん! リリア……みなの役に立つ!!」
リリアが魔法の杖をふるい、古代ルーン語の祈祷をあげた。
エルフ少女の上下左右に四つの光り輝く魔法陣が生じ、ぐるぐると回転しはじめた。
「風の精霊よ……地の精霊よ……火の精霊よ……水の精霊よ……四大精霊たちよ……お願い……邪悪に打ち勝たんとする勇者たちに……力の祝福を……四大精霊増幅強化魔法!!」
輝く魔法陣の中心から光の帯が伸び、ぼくやみんなの身体に巻きついた。
身体が熱く火照り、士気が昂揚し、体内のマナが燃えたち、意気盛んとなる。
これで普段の二倍の力となった。
武闘士魂を見せてやる!!
「強化魔法の……継続時間は……30分ほど……それまでにキング・トリフィドを……」
「ああ、絶対倒そう……準備はばっちりだ……次は精霊魔法を頼むよ!」
「オーライ、オーライ……わっちらにドンとまかせておけって!!」
「ピクシーえらそう……」
「まあまあ、リリア様……ここは一致団結し、みんなで協力しましょうぞ」
「うん……わかった、ヨナ」
「ともかくいくぜ……風の精霊よ……シルフィードよ……願いたてまつる……」
エリーゼとヨナが両手を前に出し、リリアが魔法の杖を振るうと、小さなつむじ風が巻き起こり、長い髪で、トンボのような半透明の翅を背中に生やした女性の姿が見えた。
「力強き疾風となりて……瘴気を吹き飛ばしたまえ……風霊突風!!」
半透明の風霊シルフィードがふたたび気体の風となり、疾強風となって毒花粉を吹き飛ばした。
「やったの!!」
黄色い毒花粉は薄れて、元の状態になっていたが、キング・トリフィドの巨大球根の下の地面から大蛇のごとき根っ子……主根や側根が周囲に三十以上は伸びて、うねうねと漂っている。
あの吸血根につかまれば、血を吸われて殺されてしまう。
だけど種が飛散するまで時間がない……真っ向から行かせてもらう。
「ドライアード様から授かった雷鳴神剣の威力をみせてやる!」
巨大球根から伸びる茎にめがけて走った。
うねり飛ぶ吸血根がぼくを絡め取ろうと迫る。
右から来た根っ子を斜め切りにし、左から来た吸血根を水平に輪切りにした。
「なんて切れ味だ……刃こぼれひとつつかないぞ……さすが神様がつくった剣だ!!」
すると正面の大地が割れ、ひときわ大きな吸血根が出て来た、
ぼくは体内に宿るマナを両手に流し、雷鳴神剣に集めた。
神剣の刀身が黄金色のオーラを放つ。
これでぼくは人間以上の力が発揮できる……半神の力といってもいい。
「大気に放たれし姿なき斬撃よ……音より速く魔を切り裂かん……天ノ武技・斬空旋撃破!!」
雷鳴神剣から金色に輝く斬撃破がはなたれ、巨大吸血根を縦に切り裂いていく。
その威力は凄まじく、キング・トリフィドの茎まで届いて傷をつけた。
「おおおっ!! なんて凄まじい威力だ、ハル坊!!」
「すごいの……ハルトくん……以前より数倍の斬撃波なの!!」
「さすがは雷鳴神剣ソール・ブレイドですな!!」
「……あれが……伝説の神剣……ハルト……すてき……」
ぼくは思わず神剣を見ると、その刀身が鏡となって、ほれぼれと神剣をながめるぼくの顔を映した。
「ギュロロロロロ……」
キング・トリフィドがひときわ大きな怪音を発した。
それに呼応したように、森のあちこちから不気味な影が現れた。
右方の茂みから人間大の大きな動くキノコが現れた……それが十数体。
「手足があるキノコ人間……あれがファンガスの本体か!!」
左方の茂みから切株オバケが、背後からキラー・アップル、野菜人間、そしてトリフィドが十六体、空中のロープを伝って風船蜘蛛四体と、移動できる植物系モンスターが勢ぞろいだ。
背後の茂みが揺れ、巨大森ヒトデ、大百足、巨大ダンゴムシ、ヨロイ地虫、肉食ミミズ、人食いネズミ、双頭野猪、ジャイアント・スネークなど、トリフィドの吐き出す邪素の影響で巨大化凶暴化した怪生物モンスターが姿を現す……まだまだいそうだ。
「ぎゃあああっ!? 『人食いの森』の怪物たちじゃねえか!!!」
「きゃ~~ん……大軍勢なの……」
息を呑むミュリエルたち。
「さては……ぼくらが綿毛の種を飛ばすと見て、ひそかに手下のモンスターを集めていたな……エリーゼ……防御結界をつくっておいてくれ……その間、ぼくは邪魔をする先兵たちを倒す!」
「あいよ……頼むぞ、ウリ坊!」
「フィヤァ!!」
エリーゼが魔貂の背中にのり、草むらを踏みしめ、大きな円陣をつくりはじめた。
いざという時に撤退して休憩する橋頭堡作りだ。
「ヂュ~~ラァァァッ!!」
体長二メートルはある人食いネズミが十数匹、こちらに走ってきた。
前歯でぼくを引き裂き、むさぼり食おうと迫りくる。
「ミュリエルに回復してもらって、マナ力は満タンだ……まとめていくぞ!!」
ぼくは雷鳴神剣ソール・ブレイドに魔力を流し、長剣を右横側に水平にかたむけた。
「七つの谷を越え、十の山を越える突風よ……我が地に来たりて力を貸し与えん……」
左足を軸にして全身で一回転した。
剣から生じた魔力の斬撃が回転し、大気を流動させ、つむじ風となる。
「風ノ武技・真空破砕嵐!!」
斬撃波は渦を巻いて螺旋をえがき、嵐となって進む。
真空嵐に巻きこまれた人食いネズミたちの全身が、真空の刃でズタズタに切り裂かれる。
「おおっ!! すごいぞ、ハル坊……まだそんな武技が使えたのか!!」
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