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呪われた剣、雷鳴神剣

 森の守護神ドライアードは美しい顔をきびしくひきしめ、


「……ですのであなたは、誠実で道理に敵った生き方をしなければなりません……今の内ならば、それが可能でしょう……しかし、成長していくうちに、あなたもやがては雷鳴神剣を悪用するようになるかもしれません」


「そんな事はないと思います!」


 ぼくは心からそう思ったので、口に出た。


「……千年前の勇者も、あなたのように純粋な少年でした……」


「えっ!?」


「人間とは成長につれて変わるものなのです……神剣は強大な力を持つがゆえに、人間の心を不幸にも歪ませてしまうものなのです……神剣ではなくても、人間は強大な権力や財産などを得ると、心が変化して歪んでいくものなのです……悲しいことですが」


「ドライアード様……」


「ほかにも、王国の新しい宰相が最初は善政を行ったが、権力に溺れ、しだいに悪政に堕ちた例……人の良い商人が一代で成り上がり、家族を悲しませ、強欲な富商となった例……優しい詩をかく青年詩人が、莫大な遺産をゆずられたのち、捨て享楽と廃退の生活の末、若死にした例……」


 ぼくは沈黙せざるを得なかった。 


 果たして、ぼくは千年前の少年勇者や、権力や富に翻弄された人間たちと、同じ運命をたどらないと、絶対に言い切れるのだろうか。


「この先……あなたが成長して、大人になり……神剣に相応ふさわしくない者になりそうだと判断すれば……この森へ返還するように……それが難しい場合はピクシー族に渡しなさい」


「……はい……これから先……神の作りし剣が、ぼくに相応しくなくなったときには、ドライアード様に返還します」


 そして、また世界に危機が訪れるとき、ぼくか、リリアのような剣の持ち手に相応しい素質をもった者が選ばれ、この森へやってくるのだろう。


「素直で良い子ですね……あなたならば、神剣に固執せずに、呪われた神剣の悲劇を回避することができるかもしれません……良いですね……神剣を持つ者は天界の彼方から、神々があなたの動向を見ているのです……アスガルドの神々に逆らえば、虚無きょむと化します」


 虚無……天雷に打たれて焼け死ぬということか……


「はい……わかりました……ヴィルヘルムとリーズの子、ハルト・スタージョンは、アースガルズの神々に……雷神ソール様と、森の守護神ドライアード様の期待にそえるべく、つねに自戒して神剣を使用します」

「よい覚悟です……それが聞きたかった……」


 森の守護神はにこりと柔和な笑みを見せ、ぼくに神剣を手渡した。


 ずしりと重く感じるのは、肩に背負われた運命のせいだろうか。


 古びた鞘から抜くと、刀身はロングソードより小ぶりで、両刃の剣で、錆びひとつない。


 その鋼鉄の美しさは、オリハルコンの持つ独自の輝きのせいか。


「これが神剣なんですね……」


「その名は『雷鳴神剣ソール・ブレイド』です……正しい使い方を教えましょう」


 ぼくは雷王神剣の使い方を聞いて、脳裏に刻みこんだ。


「ハルト・スタージョンよ……あなたを『雷鳴神剣』二代目の所有者として認めます」


「はい!」


「そして……神剣の所有者として、最初の使命を伝えます……この森を邪気で汚染させ、動植物を邪悪に染め、生態系を破壊し、世界を滅亡に落とそうとするトリフィドを打ち倒さなければなりません」


「トリフィドはそんなに脅威なのですか?」


「そうです……星の彼方から来たりしトリフィドは我々とはまったく違う生命体です……魔族とも違い、共存の可能性はまったくありません……トリフィドを根絶こんぜつしなければ、人界も、天界も、魔界だって生命の住める環境ではなくなってしまうのです」


「そんなに恐ろしい相手なのですか……わかりました、奴らを必ず打ち倒します、ドライアード様!!!」


 元気よく答えると、森の守護神は微笑みながら光り輝き、洞の本宮から姿が消えていった。


 女神の姿はドライアード様の仮の姿で、この御神木全体がドライアード様なのだと思う。


「……神の御慈悲あれ」


 抜き身の神剣の柄を握ると冷たい感触がするが、ぼくの体内のマナを活性化させるみたいで、身体中がカッカしてくるようだ。


 ぼくは本宮の洞を出て、外に出た……キング・トリフィドを撃滅するために。


 外に出ると、遠くに巨大な宇宙植物のつぼみが見えた。


 なんだか遠近感がおかしくなる。


「ハルトくん!!」


「えっ!? ミュリエルの声が!!」


「フィヤッ!!」


 旅行ザックからウィリアムが飛び出して、ご主人様の姿をさがす。


 外を探すと、太いロープの上に濃緑色をした楕円形の巨大円盤……フウセンモドキが見えた。


 その上に大きな泡がひとつ見えた。


 魔泡に包まれたミュリエルとギリリスだ。


「フィヤッ!!」


 しかし、フウセンモドキの上にいても、浮遊肉食植物は襲ってこないどころか、乗り物代わりにしているのが不思議だ。


 もしかして、ギリリスが召喚したトロールを操ったように、暗黒魔術で風船蜘蛛を操っているのか?


「そっちから出向いてくれるとはな……」


「待つのに……れたのでな……」 


「お陰で話が早いよ」


 ギリリスが欲望むきだしの目でぼくの持つ神剣を見つめた。


「それが……ピクシー族の奉納した宝物か……こっちによこせ!」


「これはドライアード様からあずかった大事な剣なんだけど……」


「よこさぬというのか!?」


「ミュリエルを救うためなら……神も許してくれるだろう」


「ふん……いいから……早く寄越すのだ」


「その前にミュリエルを捕えた魔泡監獄バブル・ジェイルを解いてくれ……それから同時交換だ」


「よかろう……同時に交換だ」


 ギリリスが魔泡と解除し、ミュリエルが風船蜘蛛に命じて、洞の前に寄せた。


 ぼくと魔道士の距離は十数メートル。


「……三、二、一」


 ぼくが神剣をギリリスに投げると同時に、ギリリスがミュリエルを押しやった。


 ミュリエルが小走りにこちらに駆けてくる。


「ハルトくん!」


 風船蜘蛛から洞の間にある段差を飛んだミュリエルがだが、よろけてしまい、手を伸ばして抱きとめた。


「大丈夫かい、ミュリエル!」


「うん! ……ありがとう……きっと助けてくれるって、信じていた」


「ミュリエル……」


 魔法使い見習いは涙ぐんでいた。 ウィリアムが御主人様に駆け寄って、肩に乗り、頬をすりすりした。


「ウィリーもありがとう……」


 一方、魔道士ギリリスは鞘から刀身を引き抜いて、ミスリル製の本物だと確かめ、よだれを垂らして狂喜していた。


「ゴブルルル……これが……ピクシーの宝物か……かつて大昔……人魔戦争にて……我が魔族軍を苦しめたという……これを魔王様に奉納すれば……魔王の幹部に……魔族国の領主になれる!」


「満足か、ギリリス?」


「ああ……大満足だ……」


 ホブゴブリンが髑髏杖をこちらに向けた。


 杖先が黒く輝き、魔力攻撃が充填されはじめている。


「なんの真似だ?」


「ゲルルル……宝物を持って来たのは御苦労……だが、同胞を倒した恨みがある……八つ裂きにしてやる!!」


「……こっちは武器もないのにか?」


「うるさい……人間風情が……新しい髑髏杖の……材料にしてくれる……ぎゃあぁぁぁ!?」


 ホブゴブリンの右手が黒い煙をあげ、消失しつつあった。


 神剣が落ちて、風船蜘蛛の表皮にすべる。


「ギィエエエエエエッ!!! 俺の右手がぁぁぁ!!!」


「……言ってなかったが、神剣は雷神ソール様が魔族を打ち滅ぼすために作った武器だ……魔族が触れただけでそうなる」


「くそぉぉぉぉ……ギャアアアアッ!!!」


 二の腕まで消失したギリリスがフウセンモドキの上からすべり、下に落下していった。 


「きゃっ……」


 目を覆うミュリエルを抱きとめた。


「心配ない……ギリリスとの因縁も、これで終わったんだ……戻れ、雷鳴神剣!!」


 ぼくの声に反応した雷鳴神剣が、小刻みに揺れ、宙を飛んでぼくの右手に戻ってきた。


「剣自身が勝手に……空を飛んで来たわ!?」


「ソール・ブレイドは、持ち主のそばを離れない……どんなに離れていても、持ち主の元に戻って来るんだよ」


「そうなんだ……ピクシーの宝物って、すごい……えっ!? ハルトくんがこの剣の持ち主って、どういうこと!?」


「それはね……」


 ぼくはミュリエルに、かいつまんでドライアード様から託された神剣のこと、ここまでやってきた経緯を説明した。


 その間にもぼくは眼前の風船蜘蛛を油断なく見た。 


 ギリリスが墜落死して魔石になった途端、こいつは術者の縛めから解かれ、ぼくらを捕食しようとするはずだ。


 だが、目の前でフウセンモドキは収縮していき、消えてしまった。


「なんだ!? なにが起こったんだ? フウセンモドキが消えてしまった……」


「わからないわ……ともかく……ここを降りましょう」


「ああ……その前に回復呪文をたのむよ……魔力値が残り少ないんだ」


「わかったわ……万物に宿りしマナよ……いやしの光となって安らぎを与えん……回復治療ヒーリング・キュア!!」


 ミュリエルは魔法の杖をふって、ぼくに神聖ルーン語で呪文を唱えた。


 杖先から淡い光がはなたれ、ぼくの全身に温かいマナが流れてくる。


「おお……力がみなぎってくる……魔力量も増えた……ありがとう、ミュリエル!!」


「どういたしまして」


 ミュリエルがウィンクした……可愛いほほえみだ。


「この洞を降りなきゃいけないんだけど……」


 魔法使い見習いが下を覗きこむと、根っ子や草原、妖精の輪にいるエリーゼたちがミニチュアのように見えた。


「えええ……絶対に無理なのぉぉ……」


「ぼくがおんぶするから」


「でもでもぉ……」


「大丈夫だよ……目をつむっているうちに下に降りているから」


 なんとかミュリエルをなだめすかし、おんぶして巨大樹を降りる準備をした。


 そこへ、背後にいやな気配がした。


 ミュリエルの全身が白い糸におおわれ、すごい勢いで空中に引き込まれていった。


「きゃああああっ!!!」


「ミュリエル!!」


 彼女が引っ張られた先を見ると、消えたはずのフウセングモがロープの上にいた。


 別の個体か? 空中まで13メートルくらい先にいる。


「フィヤ!!」


 ウィリアムが御神木の枝に張られたロープの先から綱渡りをしてミュリエルを救いに走った。


「待ってくれ、ウィリアム……」


 ぼくはごくりと生つばを呑んで、両手でバランスを取りながらウィリアムを追いかけた。


 下を見てはいけない……下を見てはいけない。

 

 その間に浮遊食肉植物はなんのつもりか、ミュリエルを蜘蛛糸で両手と胴体を縛り、ロープから吊り下げた。


「ミュリエルを返せ!!」


 蜘蛛型植物の底部の口が奇怪にうごめく。


「こいつはエサだ……」


「なっ!? フウセンモドキがしゃべった!?」


 浮遊食肉植物の口が開き、高熱の火炎放射がこちらに放たれた。


 ここまで読んでくれてありがとうございます!


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