倒せ、怪植物軍団
「バオォォォーーッ!!」
トリフィドの巨大球根をシルバーが枝角を押しつけ食い止めた。
「シルバー!! ありがとう!!!」
枝角が球根に突き刺さり、透明な液体が穴からあふれ出す。
すると、トリフィドの動きが鈍っていく。
「やはり……あの体液は食用油……トリフィドの栄養源で、力の源なんだ!!」
「なにぃぃ……トリフィドにそんな弱点があったってか!?」
動きの弱った食人植物を、シルバーが強靭な首を動かしてなぎ倒した。
あの悪魔の食人植物をなぎ倒すなんて……シルバーはやっぱり、森の守護者で、鹿の王者だ!!
ぼくは長剣の先を倒れたトリフィドに向けた。 奇怪な三本脚で立ち上がりかけている。
体内のマナを集め、刀身に集めて凝縮する。
「浄化の焔よ……紅蓮の一撃となって燃やし尽くせ……炎ノ武技・火炎飛翔弾!!」
長剣から放たれた斬撃波は、熱く空気を焦がし、炎の砲弾となって食人植物を包み込む。
あっという間に全身が燃え広がった。
「おおっ……トリフィドがやけに盛んに燃えあがったじゃねえかっ!!」
「トリフィドの体液は食用油に似ていた……奴は集めた養分を球根に油にして貯めていたんだ」
「なるへそ……それで燃えやすかったのか……奴にそんな弱点があったとはなぁ……」
そこに茂みをかき分け、五体のトリフィドが現れた。
巨大樹の根が壁となって、S字となった道にそって、歩行植物が地響きあげて迫ってくる。
「増援がきたか……ちょうど一列に並んでいる……ここは大技を使うべきだな」
ぼくが剣先を地面につくほど下ろし、体内に集めたマナを長剣に集める。
「ハルト……私の強化魔法を!!!」
リリアが魔法の杖を持ってぼくに寄ってきた。
「おお……頼むよ、リリア!!」
エルフ少女が両手をあげ、古代ルーン語の祈祷をあげ、彼女の上下左右に四つの光り輝く魔法陣が生じ、ぐるぐると回転しはじめた。
「風の精霊よ……地の精霊よ……火の精霊よ……水の精霊よ……四大精霊たちよ……お願い……邪悪に打ち勝たんとする勇者に……力の祝福を……四大精霊増幅強化魔法!!」
輝く魔法陣の中心から光の帯が伸び、ぼくの身体に巻きついた。
身体がかっかと熱くなり、士気が盛んに昂揚する。
これがリリアの持つユニークスキルか。
体内のマナが燃えたつように上昇するのがわかる。
熱く渦巻くマナを長剣に込め、振り上げた。
斬撃波が地面すれすれから湧き上がり、大地を割ってまっすぐ進む。
「大地を抉る勇猛なる衝撃よ……怒りの鉄槌となって魔を沈めん……地ノ武技・地動烈震崩!!」
二十数メートルに渡って地割れが生じ、倍化した斬撃波が、まっすぐに並んだ四体のトリフィドを真っ二つに両断した。
その残骸が大地に生じた裂け目に落ちていく。
「キュロロロロ……」
仲間の最後を歯牙にもかけず、残り一体のトリフィドが裂け目を迂回してこちらに襲ってきた。
頭部をこちらに曲げ、つぼみから刺毛を迫り出した。
「バオオォォーーッ!!」
ぼくの前に大角鹿が割り込み、刺毛を枝角で跳ね返した。
いったん戻そうとする蔓草を、首を回して枝角に絡め取った。
「シルバー!!」
巨鹿が太い首をめぐらせ、横に駆けた。 すると、トリフィドの巨体が横倒しになり、地響きが生じた。
蔓草を引きちぎったシルバーは、その大角をトリフィドの球根に突き刺した。
角を引き抜くと、養分油がつぎつぎと漏れ出し、最初に炎ノ武技で燃やしたトリフィドの燃えカスに引火し、燃え上がった。
「キュロロロロ……」
殺人歩行植物が奇怪な音を上げて燃えていった。
あのトリフィドを単体で倒すなんて……シルバーは恐ろしく凄い奴だ。
「やったぜ!! 凄い、凄い、凄いぞぉぉ!! あのおっそろしい、トリフィドをまとめて倒しやがった!!!」
エリーゼが回転しながら宙を飛び、喜びで有頂天になっていた。
「リリアの強化魔法のお陰だよ!」
「ううん……ハルトの強さが……あってこそ」
「リリア様も、ハルト殿も、シルバー殿も歴史に残る勇者ですぞ!!」
みなが喜で沸き立つ。
だが、それもつかの間……大地が揺れ始めた。 これは地震ではない……向こうの茂みをかき分け、トリフィドの増援が十数体やってきた。
「うぎゃあっ!! 大軍勢で押し寄せてきやがった!!!」
「……いったい……トリフィドはどれだけいるの?」
「とにかく、迎え撃つしかないっ!!」
ぼくらが決死の覚悟をしたとき、森の奥から「ギュロロロロロ……」と、巨大な咆哮が空気を振動させ、空気が震えた。
「なんだ、今のはいったい……」
すると、残りのトリフィドも、増援のトリフィドも、咆哮の聞えた方角へ、一斉に移動していった。
「おおっ……トリフィドがハルトに恐れをなして逃げていくぞ!」
ぼくは首をふって、南の方角へ指をさした。
「いや、方向が違う……あっちの方角へ集まっていくようだ」
「まるで……トリフィドが……何かに……呼ばれているよう……」
「いってえ、向こうになにがあるんだろな?」
「気になるなぁ……ちょっと、様子をさぐってこよう……」
ぼくらは歩行植物を追いかけた。
森の中にトリフィドたちは集まっていた……幅が十七メートル以上もありそうな茶色い巨岩の前に。
巨岩の真ん中あたりから巨大な柱のようなものが生えているが、その上は木々の枝葉が繁っていて見えない。
「なんだい、ありゃあ……」
「まさか……あの巨大な岩と柱は、実は球根じゃないだろうか……」
「バカいえ、ハル坊……あんなでかい球根なんかあって、たまるか!!」
恐ろしい想像がみなの頭に浮かぶ。
巨大球根のそばの地面から根っ子のようなものが出てきて、集まったトリフィドの胴体……球根部に突き刺さった。
そして、中にある体液を吸い上げていった。
みるみる内にトリフィドの球根が凹み、トリフィドが倒れていく。
「あの化物根っ子がトリフィドの養分を吸い取って殺しやがった……」
『人食いの森』のボス級モンスターであるトリフィドを枯死させる化物球根……その正体は……まさか。
「バオオォォォーーッ!!」
シルバーが突進して、化物球根に枝角を突き刺そうとした。
が、地の底から化物根が飛び出し、大角鹿の身体に縛りつき、根の先から血を啜りはじめた。 さしもの巨鹿の王者も苦しげな苦鳴を放つ。
「シルバー!!」
「レイピアを無くしたが、精霊魔法は使える……土霊よ……ノームよ……願いたてまつる……邪悪を穿つ槍穂となれ……土霊突槍!!」
妖精騎士ヨナが精霊魔法で、大地の精霊に働きかけ、圧縮された凝灰岩となった槍穂が吸血根を串刺しにした。
その間にぼくが駆けて、長剣で吸血根を切り裂き、巻きついた根をほどく。
「無茶すんなよ、シルバー……」
エリーゼが巨鹿の頭に乗り、やつれた大角鹿をこちらに戻す。
「ぼくは回復治療呪文がつかえない……誰か使えないか?」
「リリアが……でも……初歩の治療呪文しか……」
「頼むよ、リリア」
エルフ族の少女が横に倒れた巨鹿の腹部に両手をかざす。
「うん……治療呪文!」
吸血刺し傷はふさがったが、失われた血は戻せない。
あのシルバーをこんな目にあわせるとは……
突然、震動が起きた。
震源地は巨大球根で、その中心から生える茎の先が急激に伸びたのだ。
上を覆う木々の枝をバキバキとへし折り、木の葉が大量に舞、周囲の木々が倒れていく。
もしかして、トリフィド群の養分を吸い取って、急成長したのか!?
「ここにいては危ない……逃げよう!」
倒木地獄から逃れ、ぼくらは来た道を戻って撤退する。
振り返って見ると、森林の間から巨大なつぼみが顔を出していた。
その大きさは、草丈30メートル以上ありそうだ。
もはや樹木より大きい怪植物だ。
「なに……あれ!?」
リリアが不安な顔でヨナに抱きついた。
「物凄い邪気があちらから放たれてきましたぞ、リリア様!」
「ありゃぁ……でっかい捕人器の葉がないから分からなかったが……もしかして、トリフィドのつぼみじゃねえのか?」
「バカな……だとしたら、大きすぎるよ……通常のトリフィドのつぼみの五、六倍以上はありそうだ!!」
「長老の話でも、あんなに大きいトリフィドの事はなかったぜ」
「エルフ族の調べでも、あんなトリフィドの情報はありませぬ……」
「……すると新種のトリフィドなのかな?」
「さてなぁ……トリフィドの事はよくわかっていない……ほんの五年ほど遠巻きに観測しただけだからなあ……」
「う~~ん……じゃあ、仮にあれをキング・トリフィドと呼ぼうか」
「トリフィドの王様か……ハル坊にしては気の利いたことをいいやがるぜ」
「キング・トリフィドに捕人器の葉がないのは、仲間のトリフィドから養分を吸収するためだろう……余計なものは省略するのが生物というものだから……」
茫然と見ていると、巨大なつぼみに亀裂が走り、ゆっくりと開いていった。
その中に巨大な槍の穂先のような刺毛が見えた。
「なんて大きな刺毛だ……あんなのがこちらに飛ばされたら、大地ごと抉れてしまうぞ!?」
最悪の場合に備えて、体内にマナを集め始めた。
が、巨大刺毛はこちらに向かず、天空に向かって弓矢のように発射された。
長い蔓草が三十メートル以上のび、途中で切れたが、刺毛の穂先はさらに天空へ飛び、なにかに突き刺さって止まった。
「あれは……ピクシーの防御結界を、邪気をまとった刺毛が貫いたんだ!!」
「なんだってぇ!!」
何もない大空がひび割れ、次々と広がり、刺毛も地面に落ちたが、穴は大きく開いたままだ。
「あれ……見て……」
茫然とするぼくらは、リリアの声で目が覚めたように、小さな指先にあるものを見つめた。
それは巨大刺毛を発射したあとのつぼみだ。
ちぎれた蔓草はしなびて、つぼみの中から巨大な赤い花弁が広がっていた。
「なんて毒々しい色の花びらだ……寒気がすらあ……」
「でも……なんだか、キレイ……」
不謹慎かもしれないが、リリアの言葉にぼくらは心の中で同意せざるを得ない。
この世の地獄の底で咲く花とはああいうものかもしれない。
思わず見とれている間に、花は黒く枯れはじめ、また閉じて蕾となっていった。
エリーゼが顔を青ざめ、
「まずいぞ……あの蕾が開いたとき、花はタンポポの綿毛みたいな種になっているはずだ……」
「なっ……すると、キング・トリフィドは、ピクシーの防御結界を破り、破った穴から種を外の世界に飛ばして繁殖するのが目的か!?」
ハーランさんが言っていた……トリフィドには人間や妖精のような感情は無いと……無感情に生物的本能……繁殖だけが目的だと言っていた。
もしかすると、防御結界を破るために、トリフィドは自己進化をして、新種の巨大トリフィドを造り出したのかもしれない。
トリフィドが世界中に広まる……それは平和なグラ村にも食人植物の脅威がくるということだ。
ぼくの家族や、村の人々が危ない……それだけじゃない、ピクシー族の里も、エルフ族の集落も、人間族の町も市も、王国中もトリフィドの脅威にさらされという事だ。
「今のうちに倒すしかない……」
ぼくは腰の長剣を引き抜いた……刀身の根元あたりに黒い筋が見えた。
何かと思ってよく見ると、ヒビが入っていた。
ヒビは広がり、嫌な音がして、ぽきりと折れてしまった。
「あっ……しまった!!」
今日一日で、連戦につぐ連戦……手入する間もなく、金属疲労で折れてしまったのだ。
「剣が……あいつぐ激戦で、金属疲労を起こしたか!?」
「あちゃぁぁ……よりによって、このタイミングでかよ!?」
この状況で、愛用の長剣が折れてしまうとは……
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