強襲、トリフィド
捕虫器を裂かれたトリフィドが、頭部のつぼみをこちらに向け、第二撃の蔓草触手が襲いかかる。
ぼくは宙返りをして避けた。
蔓草触手の槍穂のような刺毛が地面に突き刺さる。
ぼくが着地すると、トリフィドが引き戻した蔓草が円を描いて、ぼくに襲いかかった。
剣で切ろうとしたが、それを察して引っ込ませていく。
「むっ……あのトリフィドは、人間でいえば、かなり反射神経がいいようだ」
ぼくは跳躍して、戻っていく蔓草の先を切った。
ちぎれた刺毛が地面に突き刺さり、青い汁が大地にしみていく。
トリフィドの蔓草の先には毒を分泌する器官があって、獲物に刺して、麻痺させて捕えるのだ。
「キュロロロロロ……」
第二撃も避けられたトリフィドがまたも奇怪な音を出した……もしかして、エサに反抗されて、怒っているのか?
大地がぐらぐらと揺れた。
地面が割れ、トリフィドの球根からのびる太い根っ子が三つ、地上に這い出た。
その太い三本の根っ子が鳥の足のように動き、地上に立った。
そして、こちらに向かって、地響きたててやってきた。
この怪植物の名前は、三つ又脚で、こうやって歩き回ることからハーランさんが名付けたのだ。
別名は歩行植物だ。
ぼくは両手でにぎった長剣を頭の右側に寄せ、左足を前に二歩分出し、八相に構えた。
体内に宿るマナを両手に流し、長剣に集めたのち、正面に振り下ろした。
「大気に放たれし姿なき斬撃よ……音より速く魔を切り裂かん……天ノ武技・斬空旋撃破!!」
長剣から音速の斬撃破がはなたれ、迫りくるトリフィドに斬撃破が命中。
歩行植物は真っ二つに割れ、体液を巻き散らして、両側に倒れた。
「オオオオオッ!? あのトリフィドを両断するとは……ハルト殿は、なんと凄まじい剣技の持ち主だ……」
「いや……まだまだ、修行の身でして……」
歩行植物の体液が近くに飛んできた。
透明な液体は少し粘ついている。
ぼくは液体を指先で触り、匂いを嗅いでみた。
「あれ……この体液はもしかして……」
そこへ、遠くから声がした。
「お~~い、ハル坊、無事かぁ!!」
「ハルト!!」
そこへ巨鹿に乗ったエリーゼとリリアがやってきた。
空竹割りになったトリフィドの残骸を見て、二人が驚く。
「おおぉぉ!! トリフィドを倒したのか!!」
「すごい……ハルト……」
「あっ!? リリア様!!!」
「ヨナ!!!」
大角鹿から飛び降りたリリアが駆け寄り、ヨナに抱きついた。
「生きていた……良かった!!」
「はい……この人が助けてくれました」
「ありがとう、ハルト……」
涙ぐむリリアがお礼をいった。
「やっぱり、リリアのパーティーのメンバーだったんだね……」
「はい……私以外は怪物にやられました……もしかして、ハルト殿がリリア様を助けてくれたのですか?」
「そう……ハルトが……助けてくれた……」
「ありがとう、人間族の武闘士ハルト……リリア様を助け出してくれて……心より、礼を申し上げる」
「いいんですよ、二人とも……困ったときはお互い様だ」
照れて頭をかくと、またあの声が聞えてきた。
――油断しては駄目よ……予言の子……
「また、あの声だ!!」
「どうした、ハル坊?」
「エリーゼ、いま、女の人の声がしなかったか?」
「またその話か……このエルフ族の姉ちゃんの声か?」
「いや……ちがう」
「じゃあ、空耳じゃねえのか?」
「いやいや……そうじゃなくてね……」
そのとき、ずしり、ずしりと大地を揺るがす足音が聞えた。
御神木の巨大根を乗り越え、他のトリフィドたちがやってきた。
そう……五年前、流星の隕石にふくまれた種から生まれたトリフィドは、種子を蒔いて、繁殖していたのだ。
その数は五体……まだまだ増えるだろう。
「キュロロロロロ……」
仲間を殺された恨みの雄叫びか、それともエサとなる人間を見つけた歓喜の声か……いや、ハーランさんは、トリフィドに人間や妖精のような感情は無いと言っていた。
あるのは生物的本能のみ……養分を吸い取って成長し、邪気で周囲の環境を自分たちに適したものにし、仲間を増やす繁殖だけが目的だと言っていた。
無感情な殺人植物の音響現象を、かってに推測しているだけかもしれない。
「気をつけろ、ハル坊……歩みが遅いといっても、トリフィド野郎は疲れ知らずのタフさがある……ぼやぼやしていると餌食にされてしまうぞ」
「ああ……トリフィドの刺毛のある蔓草触手は、恐ろしく素早い……でも、本体の動き自体は巨体だから遅い……それが付け目のようだ」
「なるほど……」
「それより、妖精の輪をつくって二人をかくまってくれないか」
「合点承知の助だ!!」
エリーゼの乗ったシルバーが草叢を走り、妖精の輪を作った。
エリーゼの防御結界にリリアとヨナ、旅行ザックに入ったウィリアムを避難させる。
これで心置きなく敵に専念できる。
トリフィドたちの頭部から一斉に刺毛触手が放たれた。
次々と来る槍穂の攻撃に、ぼくは長剣を閃かせて応じる。
三本のクリーパーを引き裂き、槍の穂のような刺毛が地面に突き刺さる。
手近の食肉歩行植物が地響きあげてやってきた。
ぼくを根っ子の足で踏みつぶす気だ。
「たあああっ!!」
ぼくは長剣を閃かせ、根本の足を一本薙いだ。
バランスが崩れ、トリフィドの巨体が横倒しになり、後続のトリフィドがそれにつまずいて転んだ。
それをまとめて天ノ武技で両断した。
「やったか……」
ぼくが汗を拭こうとしたとき、背後で茂みがかきわけられる音が聞えた。
隠れていたトリフィドが刺毛をぼくに向かって放ったのだ。
「くっ!!」
振り向きざま、無理な姿勢から刺毛の槍穂をはね返した。
金属音が聞え、差毛は折れて先端が地面に突き刺さった。
「ふぅぅ……」
ひと段落して額の汗をふく。
「危ねえぞ、ハルト!!」
エリーゼの声に横を振り向くと、回り込んだトリフィドがぼくを圧死させようと迫っていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
トリフィドはジョン・ウィンダムのSF小説が出典のモンスターで、FFなどのゲームに輸入されました。
他にもSF小説が出典のモンスターというと、スライム、ギズモ、マタンゴなんかがいますね。
本作が面白かったなぁ……または、先が気になるなぁ……と思ったら、
下にある☆☆☆☆☆を押して、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、そうでもなかったら星1つを押してください。
または、読んで思いついた感想など、気軽に書いてくれるとうれしいなあ。
ブックマークもいただけると次回の更新がすぐ分かるようになりますよ。
応援よろしくお願いいたします。