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人食いの森、その恐るべき敵

「バオォォォーーッ!!」


 大角鹿シルバーが力強い雄叫びをあげ、フウセンモドキの粘着投網糸が引きちぎれた。


 中空に放り出されたぼくら。


 次の瞬間、シルバーが大地に四肢を曲げて着地した。


 地響きが起こったが、シルバーは力強くいなないた。


 なんて頑丈な身体だ……さすが大角鹿の王者。


 浮遊食肉植物が頭上10メートルまでに降りてきた。


 またも粘着糸をこちらに向かって吐き出す。


「たあぁぁぁぁっ!!」


 ロングソードで糸を叩き切った。


 だけど、粘着糸ねんちゃくしがからんでしまい、切れ味がにぶる。


 そこへ、フウセンモドキが第三弾の粘着投網糸を放って来た。


 ぼくはマナを蓄積して、八相に構え、巨鹿の上からフウセンモドキに狙いをつける。


「大気に放たれし姿なき斬撃よ……音より速く魔を切り裂かん……天ノ武技・斬空旋撃破ソニック・スラッシュ!!」


 長剣をまとった粘着糸を切り裂き、斬撃波がフウセンモドキに放たれた。


 が、蜘蛛型植物は斬撃をひょいと避けた。


「バカな……あの巨体で、なんて身軽で素早いんだ……」


「ありゃあ、斬撃の波動が起こす気流に乗って避けたんだ……フウセンモドキの寸胴ずんどうの身体の中は空っぽで、その名のごとく風船のように身が軽いんでい」


 例えるなら、棒で叩こうとしても、その動きが起こした空気の動きであさっての方向に飛ぶように、斬撃波を避けるのだ。


「くっ……斬撃が当たらないなんて、厄介な相手だ……魔力を無駄使いしてしまった……」


 治療魔法の使えるミュリエルがいない今、たいへんな失態だ。


 風船蜘蛛はこりずにまたも投網糸を伸ばしてぼくらを捕えようとする。


「火の精霊よ……サラマンダーよ……お願い……」


 リリアが魔法の杖を振るうと、炎の渦が生じ、火蜥蜴ひとかげの姿となり、凝縮されて手のひら大の石ほどになった。


「高熱のつぶてとなって……敵対者を葬らん……火霊飛礫サラマンデル・ペブル!」


 リリアが魔法の杖の先から燃える火炎礫かえんれきをフウセンモドキに放った。


 これがエルフ族の使う精霊魔法か。


 投網糸は熱で溶けた。


 だが、その火炎礫の勢いの風にあおられて、風船蜘蛛は横にひょいとそれた。


「くっ……逃げられた……くやしい……」


「仕方がないよ……通常攻撃ではフウセンモドキを倒すことは出来ないようだ……知恵をしぼらないといけないようだ」


「むう……急に言われても……」


 蜘蛛型植物は天空をわたすロープを伝ってこちらにじわじわと近づいてきた。


 シルバーが回避すべく前に向かって走り出す。


「なんかいい知恵はないのか、ハル坊!」


「うん……一つ、アイディアを思いついた……」


「おおぅ! さすがハル坊、それをやってみろ!!」


「まず、シルバーを止めてくれ」


「わかった!!」


 歩みを止めた大角鹿の背中から降り立ち、長剣をだらりとぶら下げ、無形の構えを取った。


 そこを投網糸に身体を絡み取られ、空中に浮いて地上から30メートル以上に引き上げられていった。


 やがて、待ち構える風船蜘蛛の口の中に引きこまれようとする。


「なにやってんだ、ハル坊!!」


「フィヤッ!!」


「斬撃波を避けるなら、フウセンモドキ自体に固定させればいいのさ……天ノ武技・斬空旋撃破ソニック・スラッシュ!!」


 長剣から放たれた音より速い衝撃波がフウセンモドキの口に入って、中身を貫通して背中を抜けた。


 風船蜘蛛の身体がへこみ、縮みはじめた。


 やっぱり、中にヘリウムみたいな気体を入れた浮袋うきぶくろがあって、巨体を浮遊させていたようだ。


 だが、斬撃波が綱渡り用の糸にも当ってしまい、プツリと切れてしまった。


 ぼくはその片方のはしをつかむ。


 ぼくは振り子のように空中を飛んだ。


 身体に風圧が当たって痛いが我慢しないと。


 どうやら、ロープ糸の先は御神木の枝につながれていて、このまま目的地へ行きそうだ。


「ぼくは一足先に御神木へ行って来る!!」


「わかった、気をつけろよ、ハル坊!!」


「ハルト……」


 巨鹿シルバーに乗ったエリーゼたちが気がかりだが、彼女の防御結界魔法なら怪物たちから身を守れるだろう。


「フィヤ!」


 背中に背負った旅行ザックから、ウィリアムが顔をのぞかせ、「ぼくもいるよ」という風に鳴いた。


 フウセングモの綱渡り用の太糸に捕まり、空中30メートル以上の高みから下を覗くと大きな森が箱庭のように見える。


 猛スピードで御神木に近づいて行く。


「なんて大きい木だ……まるで、話に聞く世界樹みたいだ……」


 百メートルもある巨樹だけあって、直径十数メートル以上はありそうだ。


 ぼくが大樹の幹に着地するあたりに、葉っぱが繁る枝があり、緩衝剤になりそうだ。


 ――予言の子よ……早く助けにきて……苦しい……


 女性の声を感じた……耳で聞く音ではないような…いったいどこから聞こえるのだろう……


「またあのシルクの声だ……気のせいか……それとも木霊エーコー悪戯いたずらか……それともまさか」


 御神木のそばは怪植物の巨樹がなく、御神木の周りは円形の広場になっていた。


 その広場に大樹の根っ子が荒海の波のようにうねくっているのが見えた。


 根っ子といっても、大きいものは直径3メートル以上ありそうだ。


 その周囲を草丈1メートル以上の雑草が生えていた。


「おや……あれは……」


 大樹の根っ子の一つに、妙な物体が見えた。


 丸い物体の中心から柱のようなものが伸び、上に楕円形のような物がついている。


 その柱の上にある楕円形の上にある丸い物体が漏斗状ろうとじょうになり、何か飛び出してきた。


「うわっ!!」


 その何かはぼく目がけて飛んできた。


 間一髪、身をよじってそれを避けた。


 飛んできた物体はぼくの頭上にあたりの蜘蛛糸に刺さっていた。


 そのため、慣性で飛んできたロープはピタリと止まってしまった。 


「なんて正確な狙撃だ……」


 飛来して物体をよく見ると、濃緑色のロープみたいだ。 


 その先に槍穂やりほのようなものが付いている。 


 いや、ロープじゃない……これは蔓草つるくさだ。


 その飛び出してきた先を見る。


 そこには体長5メートルはある異形の影があった。 


 ゴクリと生つばを呑みこんだ。


「あれは……『人食いの森』のボス……トリフィドだっ!!」


 そのとき、ぼくの捕まったロープがメリメリと音を立てて引きちぎれた。


 しまった……こんな高い空中から落ちれば墜落死だ。


 が、ロープを切った蔓草がへびのようにうねり、ぼくに巻きついてきた。



「しまった……長剣ごと巻きつかれた!」


 動きを封じたぼくを捕えた蔓草は地上の本体へと戻っていった。


 トリフィド本体の姿が、はっきりと見えてきた。


 直径3メートルはあろうという大きな球根きゅうこんが地面の上にあり、御神木の根っ子にからみついていた。


 ピクシーの長老の話によると、トリフィドは御神木の根っ子に取りついて、その養分を吸い取っているとう。


 巨大樹の根に寄生するトリフィドは、栄養をため、邪気を大森林に放ち、汚染地帯が増殖していく。


 そして、地元の植物を人食い花やファンガスなどの植物系モンスターに変え、小さな森ヒトデを巨大な怪物に変えていく……


 このままトリフィドが邪気を放って、森を瘴気のうずまく怪物無法地帯に変えていけば、やがては、この地域一帯を汚染させていくだろう……当然、ぼくの住むグリ高原や村も町もだ……なんとか食い止めねば。


「トリフィドをよく観察しておこう……」


 球根の中心から濃緑色の太いくきがのび、枝や葉が上半身を絡みつくように生えていた。


 茎の先には花のつぼみのような濃緑色の物体があった。


 つぼみが漏斗状に開いて蔓草触手を出したんだ。 


 これをピクシー族たちは頭部と呼んでいる。 


 その頭部の下に壺状つぼじょうの器官がぶら下がっている。


 それは植物図鑑で見たことのある食虫植物ウツボカズラに似ている。


 ウツボカズラは葉っぱを壺型に変形させ、虫を捕まえる捕虫器ほちゅうきにして、落し穴式で虫を捕える。


 だが、トリフィドは虫を待つような悠長ゆうちょうなことはせず、頭部のつぼみが開いて、中から触手のような蔓草を伸ばし、その先にある槍穂……刺毛さしげでエサとなる動物や人間を積極的に捕えるのだ。


 そう、その刺毛で空を飛んできたぼくの捕まるロープを寸分たがわず射抜いたんだ。


 蔓草触手がぼくの身体を長さ3メートル以上はある捕虫器……いや、捕人器ほじんきの壺に落とした。


「うわぁっ!?」


 フタが閉じ、視界は真っ暗になる。


 ポチャンと水音がした。


 体中がねっとりした液体につかる。


 これはただの水じゃない……消化液が混じったものだ。


 ここにいては体が溶けて食べられてしまう。 


 蔓草のいましめがとけて両手は自由だ。


 ぼくは捕人器の壁に触ってみた。


 つるつるして登れない。


 これで捕らえた獲物を逃さないつもりだな。


 ぼくは長剣を引き抜いて、壁に突き刺す。


 物凄い弾力があって、はね返してくる。


 だけど、へその下に力を込め、思いきり突き刺した。


 穴が貫通し、そのまま縦に引き裂いた。


 捕人器の穴から消化液が外にもれ、その勢いに乗って、ぼくも外に出て、地面に降り立つ。 


「キュロロロロロ……」


 なんか変な音がしたけど、トリフィドの悲鳴だろうか。 


「あやうく、トリフィドのエサになる所だった……」


 すると、捕人器の中からなにか大きなものがズルリと落ちてきた。


 ぼくの先客となった犠牲者か?


 よく見ると、消化液にまみれ、衣服が半分以上溶けているが人間のようだ。


 ぼくは両手を出して受け止める。


 長い金髪で、妙齢の女性のようだ。 


 胸に耳を当ててみる……心臓の音がする!!! 


 この人は生きている!!


「しっかりして!!」


 揺り起こすと、女性は口から水を吐いて、気が付いたようだ。


「ぐふぅ……ここは……」 


「よかった……生きていた」


 ほっと安心して女性を見ると、服がかなり溶けて半裸状態だ。


 ぼくは思わず頬が上気してしまった。


 姉さんが風呂上りにバスタオルで部屋をぶらついていても、「だらしないよ」って言えるけど、他人の同じくらいの年頃の女性だと、恥ずかしくなってしまう……


 彼女を大地にそっと下ろし、巨大樹の根っ子に上半身をもたせかけた。


 上着を脱いで、彼女にかける。 


 いま気が付いたが、彼女は息を呑むほど美しい外見で、耳は鹿の耳のようにとがっていた……エルフ族だ。


「……ありがとう……坊やが助けてくれたのか?」


「ええ……ぼくも、トリフィドに捕まったのですが、なんとか脱出できました」


「そうか……私はヨナ……妖精騎士だ……」


「ぼくはハルト……旅の武闘士です」


「あっ!! 危ない!!!」


 妖精騎士のヨナさんが叫び、ぼくは背後を振り向いた。

 ここまで読んでくれてありがとうございます!


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