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謎の声、死人(しびと)の手が招く

 やがて、15分ほど進むと、肌がピリリと痛くなるほどの瘴気しょうきを感じた。


 周囲の空気も少しかすみがかっている。


 巨鹿シルバーの歩みが遅くなった……瘴気に体調をくずしたか?


「すごい瘴気だ……」


「気をつけろ、ハル坊……トリフィドの出す邪気が強くなったってことは、奴が近くにいるってことでい」


「わかった……」


 御神木へたどり着く前に、ひと波乱ありそうな予感。 


 そのとき、唐突に声が聞えた。


 ――はやく来て……予言の子よ……


 それは、やさしい……シルクのような優しい声だ。


 でも……いったい、どこから聞こえたか判然としない。


「ん? いま、女の人の声が聞えたような……」


 ぼくは背中の旅行ザックから顔を出すウィリアムを見た。


「フィヤ?」


 大角鹿の頭に乗って長毛の手綱をとるエリーゼが振り向いた。


「どうした、ハル坊?」


「いや……いま女の人の声が聞えた気がしたんだ……」


「なにいってやがる……女の人なら目の前にいんだろうがよ!」


「いや……もっと、こう……シルクのように優しい声音こわねで……」


「あ~~ん!! どうせ、わっちはガサツな声だよ! ふん!!!」


 エリーゼが頬をふくらませて前を向いた。


 すると、背後から脇をつんつんする小さな指があり、振り向くとリリアが見上げていた。


「女の人……優しい声……私の事か?」


「いや……もっとこう……大人びて落ち着いた女性の声だった……」


「……どうせ……リリアは子供……ハルト意地悪……ぷいっ!」


 あれ……なんでエリーゼとリリアの機嫌を損ねちゃったのかな?


「フィヤ……」


 ウィリアムがぼくの肩に右手をポンとおいた。


 うぅぅ……男同士、相憐あいあわれむってやつだな……ありがとうウィリアム。


 きっと、あの声は幻聴か、木霊エーコーのいたずらだったに違いない……




「きゃっ!!」


 リリアがぼくの背中にしがみついた。


「どうしたんだい、リリア!?」


「あそこに死人しびとの手のようなものが……」


 左側の茂みに白い手のようなモノが映った。 


「また、寄生キノコ……ファンガスの操るゾンビか!?」


 よく見ると、人の手の平型をした、白茶けた葉っぱの植物だった。


「なんだ、ただの葉っぱか……」


「ありゃあ……『シビトデ草』だ……『手招てまねき草』ともいうぞ」


 微風が吹いて、シビトデ草がゆらゆらと不気味に揺れた。


「本当だ……風に揺れると、死人があの世で呼んでいるみたいに見えるね……」


「……あんなので怖がるなんて、リリ坊はまだまだお子ちゃまだね!」


「うるさい……ピクシー!!」


「だけど、縁起が悪いなぁ……あの草を見ると……悪い事が起きるとも、冥界に誘うともいうぞ……リタ、フレール、フール……リタ、フレール、フール」


 エリーゼが厄除けの呪文を唱えた。




 やがて、前方の左側に開けた地帯が見えた。


 大きな窪地くぼちだ……直径300メートルはあるだろうか。 


「あれはいったい……」


「五年前にここに流星が落ちた……トリフィドの種が入った隕石がな……その跡地だ!」


「これが……」


 巨大な窪地のすり鉢状の底には黒い水が溜まっていた。


 汚染された水だろう。 強烈な瘴気を発している。


「ここにトリフィドの芽が生えたという事は、近くにもいるかもしれないね……」


「そうだ……近くの木に気をつけろよ……身を潜ませているかもしれねえ!」


 石畳の参道の周囲に生える怪植物は、この窪地を中心に黒ずみ、瘴気をかもし出していた。


 油断なくあたりをうかがいながら、大角鹿の歩を進める。


 トリフィドどころか、肉食植物も、怪物も出やしない。


 どこかへ移動していないのか……なら、先へ急ごうか。




 途中で、頭上に影がかかった。 


 空が曇ったのか……いや、生き物の気配がする。


 頭上を仰ぎ見ると、太いロープのようなものが見えた。


 ロープは御神木の60メートル上あたりの枝から続いている。


 そのロープを伝って、森林の枝葉から直径4メートル以上はあろうという巨大な楕円形の物体が現れた。


 緑色の風船に八本のねじくれた蜘蛛の足みたいなのが生えている。 


「なんだ……この得体のしれない化け物は!!」


「しまった! フウセンモドキだ!!」


「これが、エリーゼが途中まで話していたフウセンモドキか……風船蜘蛛ふうせんぐもともいっていたね……ハナグモみたいに植物に擬態した蜘蛛なのか!?」


 花そっくりに擬態ぎたいするハナグモや、ハナカマキリ、木の葉に擬態するコノハチョウ、枝に擬態するナナフシなんかがいるけど、あのフウセンモドキも擬態した蜘蛛なのだろうか。


「いや、あれは蜘蛛じゃなくて、蜘蛛に擬態した植物だ!」 


「えっ……ややこしいなあ……」


「体から出した糸に乗り、足に見える根っ子で綱渡りをして移動しやがる……糸の周囲が奴の狩り場のテリトリーだ……ロープに引っかかった鳥や、樹上の猿やケモノが触った振動を察知してやってくる……もたもたしていると、捕まえられて食べられちまうぞっ!!」


「ぼくらはエサってわけか……」


「御神木を……巣にするなんて……罰当たりモンスター!」


「まったくだ……」


 頭上を見上げると、フウセングモがこちらに向かって降りてくるのが見えた。


 どうやら、蜘蛛のように尻から糸を出して天空ロープからぶら下がってきているようだ。


 植物なのに、形はともかく、蜘蛛そっくりだな……


 浮遊食肉植物の楕円形の中央部が丸く開いた。


 中から白い糸が幾条いくじょうも伸びてきて、漏斗状ろうとじょう投網糸とあみいとになり、大角鹿に乗ったぼくらに巻きついた。


「ブォォォ……」


 ぼくらも大角鹿も、投網糸をほどこうとあがくが、逆に白糸は身体に食い込むほど絡んできた。


 ぼくらは罠の投網にかかった魚のように宙に釣り上げられていった。


 巨樹の枝にぶつかり、葉っぱが散乱する。


 もう5メートル以上も天空に釣り上げられていく。


 その先には風船蜘蛛の奇っ怪にうごめく口が見えた。

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