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勇猛、巨鹿シルバー

 土埃つちぼこりをあげ、大枝角をこちらに向けて突進してくる森の守護者。


 青ざめたリリアが魔法の杖を巨鹿にむけた。


「危ない……火の精霊よ……サラマンダーよ……高熱のつぶてとなって……」


「待って、リリア……大角鹿に攻撃しちゃダメだよ……エリーゼに何か考えがあると言っていた」


「でも……ハルト……ピクシーは逃げたのかも……」


「いや……あいつは、口が悪いけど、物怖じするようなタマじゃないさ」


「そうか……」


 小柄な身体がこきざみに震えているのがわかった。


「大丈夫、ぼくにまかせて……」


 ぼくはわざと余裕のある口ぶりでリリアを横の灌木に押しやった。


 かくいうぼくも膝が震えそうだけど、かろうじてこらえたと思う。


 以前のぼくなら尻込みしていた相手だ。 


 でも、この森に来てからは実戦につぐ実戦で勝ち抜き、なんたって、トロールという強敵を倒したのだから、戦い慣れしてきたようだ。


 もっとも、エルマリア姉さんによると、戦いに慣れてきた半年から一年目ぐらいが一番危ないと言ってたっけ……


 そうこう言う間に、巨鹿がこちらに突進してきた。


 あの枝角は灰色ヒグマの心臓をも突き刺す恐るべき凶器だ……へたをすれば、ぼくも胴を串刺しにされてイチコロだ。 


「バオオォォォーーー!!!」


 ぼくはギリギリまで引き寄せ、直前で跳躍。


 頭上の木の枝をつかんで避けた。


 下を見ると巨体の背中が見えた……なんて大きいんだ……ウォリントンさんとこの農耕馬よりでかいぞ。


 背中に白くなった毛が鞍型くらがたに広がっている。


 その首筋にエリーゼがまたがり、長い毛をいじって何か細工しているようだ。


 通り過ぎた大角鹿はスピードをゆるめ、大きく半円に回り込んで、ふたたびこちらに走ってきた。


 前より速く駆けてくる……ぼくだって命は惜しい。 


 エリーゼの策が間に合わなければ、突進を素早くよけ、巨鹿の首の頸動脈を切って倒すつもりだ。


 ぼくは剣先を巨鹿の右目にピタリと向け……正眼の構えで、ギリギリまで待つ。


 土埃が石畳上に舞い上がってこちらにくる。


 が、大角鹿は徐々にスピードをゆるめ、ぼくの前で止まった。


 ブォォォ……


「急にどうしたんだ?」


「わっちの活躍のお陰だよ!」


 巨鹿の太い首から小妖精がひょっこりと顔を見せた。


「エリーゼ!」


「わっちがピクシーの秘術で大角鹿を操っているんでい」


「えっ……そんな術を使えるんだ……」


「おうよ、わっちは馬のたてがみや、首筋の毛、尻尾の毛なんかを特殊にみ込むことで動物を操れるんだ」


 大角鹿の首の毛を見ると、奇妙な編み込みが見えた。


 ピクシー独自の魔法秘術なのだろう。


「ピクシー族……あの魔法で……人家の馬を盗み……外で妖精の輪ガリトラップを作る……イタズラ迷惑妖精……」


 そういえば、ぼくがミュリエルと始めたあった時、迷子にさせた魔法もガリトラップだったな。


「お~~い! ウィリアム……おいで、おいで」


 しばらくして、茂みから魔貂が顔を出した。 


 長い尻尾を股の間にはさんでいる……大角鹿の恐ろしさを、誰よりも知っているのがウィリアムだろう。


「……もう大丈夫だよ……大角鹿は大人しくなったんだ」


 ぼくが巨鹿の首筋をなでると、気持ち良さげに鼻を鳴らした。


「フィヤ!」


 それを見て安堵あんどしたウィリアムがこちらに駆けて来て、ぼくの肩に乗った。 


 彼の首筋を見ると、巨鹿の首筋にもあるような編み込みがあった。


 エリーゼがミュリエルたちの姿を消して守った結界魔法の時も、ウィリアムをこれで操ったんだな……


「だはははは……わっちを狩りに来たときと違って、ウリ坊も神妙な顔してるじゃねえか!!」


「……エリーゼ……見た目とちがって、おっさんみたいな笑い方だね……」


「うっせえ!!」


 エリーゼが飛んできて、ぼくのおでこを軽く蹴った。


「イタズラ妖精も……たまには役に立つ」


「いちいち、うっせえな、リリ坊! イタズラをしないピクシーなんて、モグリでい!!」


「……ちっとも……自慢にならない」


「まあ、いいから……早く大角鹿に乗れ、ハル坊!」


「えっ……」


「これで森の守護者はわっちたちの味方だ……これで時間を短縮できるぞ!」


「おおっ、さすがエリーゼ!」


 ぼくはウィリアムを旅行ザックに入れ、巨鹿にまたがり、リリアを背中にしがみつかせ、首の毛をしっかり持った。


 巨鹿シルバーには鞍も手綱もないが、首筋の毛が長く、スタージョン流鹿術りゅうろくじゅつを使えば乗りこなせそうだ。 


 エリーゼが飛んできて、大角鹿の後頭部にのっかり、長い毛を手綱のようににぎっていた。 


「シルバー、前進だっ!!」


 エリーゼの合図で巨鹿が御神木に向かって走り出した。 


「おおっ、早い!」


 鹿術は彼女のほうが上手かな?


 巨鹿が石畳を蹴り、木の根や倒木を飛び越え、御神木にむかって駆けた。


「どんなもんだい! シルバーは頼りになるだろ!!」


「シルバー?」


「背中に鞍みたいな白銀毛が生えているだろ……銀色の背中シルバー・バックだからシルバーだ」


「なるほど、森の守護者にぴったりの名前だ」


 巨鹿シルバーが力強く道を駆けると、前に待ち構えていた小型のモンスターたちが、慌てて茂みに隠れの所が見えた……さすがの貫禄だ。


 左側の森林の枝葉からおびのようなつたが伸びてきて、ぼくらに巻きつこうとした。


「きゃあああっ!!」


吸血蔦ブラッドサッカー・アイビーだっ!!」


 リリアがぼくの背中に強く抱きつく。


 吸血蔦に巻きつかれると、身動きができず、蔦から生えたトゲに全身の血を抜かれ、十数分でミイラになってしまうという。


 ぼくは長剣を閃かせて切り裂いた。


 だが、頭上をおおう枝葉からも吸血蔦が三本も伸びてきた。


 ぼくが長剣を上にかざすと、巨鹿がスピードをゆるめ、首をめぐらせて、枝角に吸血蔦を絡ませた。 


「バオオォォォーーー!!!」

 

 シルバー吸血蔦を絡ませたまま走り出し、ブラッドサッカー・アイビーを引きちぎってしまった。


 吸血蔦の残骸など見向きもしない。


「……なんてワイルドな倒し方だ……敵に回せば恐ろしいが、味方になればこれほど頼もしいやつはいない」


「シルバーは……大角鹿の中でも……勇猛な戦士……と思う」


「まったくでい……シルバーは巨鹿の王者だな」


 ぼくとリリアがこくこくとうなづいた。


「ハイヨー、シルバー!!」


 地響きたてて、巨鹿が怪物通りをまかり通る。


 ……ミュリエル待っていてくれよ、必ず助けるから。


 ここまで読んでくれてありがとうございます!


 頼もしい味方を得たハルトが目的地へ向かいます。


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