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悲壮、囚われのミュリエル

 鼻がワシのようにとがって、ヒゲまで生えている異形の影であった。


 ぼくの中で、別々の事柄がつぎつぎと思い起こされ、つながっていく。


 二の腕の傷……小柄な身体……たどたどしい言葉……まさか、あの少女は!?


「ミュリエル、その子から離れて!!」


「ほへ?」


 ミュリエルがきょとんとした表情でぼくを見る。


「いったいどうした、ハル坊?」


 ぼくは木漏れ日で大地に映る影を指さした。


「その子の影を見て!!」


「なんでい、影なんて……ぎょええっ!?」


「きゃ~~ん!!」


 エルフ族の子の背後にある影を見ておののいたミュリエルとエリーゼが飛び退いた。


 すると、リリアが別人のように怖い表情になった。


「おのれ……いいところで……ばれたか……」


 リリアの可愛らしい顔が、口が耳まで裂け、牙がならび、目が血走って赤くなる。


 エルフ少女の全身から黒いオーラが湧きだし、灰色の髪のホブゴブリンに変身した。


 魔道士ギリリスが、エルフ少女リリアに化けていたのだ。 


 予言の子だなんて、もっともらしい事をいって……ウィリアムが気づかなければ、危くギリリスにだまされていた。 


 パーティーを仲たがいさせられたり、可憐な少女の姿でいいように利用されたり、獅子身中の虫となって、寝首をかかれたかもしれない。


 スタージョン流兵法にも、「流言を敵国に流して混乱させる」という兵法がある……まんまとしてやられた。 


 だけど、なぜウィリアムはリリアの正体に気が付いたのか。 


 それはおそらく、ギリリスの腕に噛んだ時に匂いを嗅いでいて、奴の匂いを覚えていたのだろう。 


 貂の嗅覚は人間より優れていて、ぼくらには気づかないホブゴブリンの匂い嗅ぎ取ったのかもしれない。


 あるいは、魔法で偽装しても、動物の野性的な勘でギリリスの魔性の本体に気が付いたのかも。


「フィヤ!」


 ウィリアムが右前脚を指した先を見ると、ギリリスの背後の影の中心が盛り上がり、小さな子供がきだして、コロリと転がった。


 エルフ族の子供……リリアだ……どういう事だ?


 彼女はギリリスの作った架空の人物ではなかったのか?


 影から生まれたリリアは朦朧もうろうとした状態で、頭をおさえている。


「なっ……影からリリアが出て来た……もしかして、暗黒魔法の仕業かっ!?」


「そうだ……これぞ暗黒魔法……妖影変形魔法シャッテン・メタモルフォーゼだ」


「聞いたことのない魔法だ……ギリリスの自分固有の特性魔法ユニーク・スキルか!?」


「その通り……人間を……影に取り込み……その姿をコピーする……記憶を読み取る……こともできる」


「やけに本当っぽいウソでだましたと思ったら……本物のリリアの記憶を利用したのか!?」


 ぼくは長剣を引っさげて、魔道士に斬りかかろうと、隙をうかがった。


「ゲルルル……原初の魔海まかいから生まれし……自在なる水泡みなわよ……暗黒魔法・魔泡監獄バブル・ジェイル!」


 ギリリスの髑髏杖スカル・ワンドの口が開き、中から薄い膜のようなものが湧きだし、半透明のあわとなって、ミュリエルとエリーゼを包みこもうとする。 


「きゃあ~~ん!!」


「わあっ!!」


 エリーゼは間一髪、飛んで逃れたが、ミュリエルは泡に包まれてしまった。


 ウィリアムが泡に飛び付いて、牙をたてるが通じず、魔泡からずり落ちた。


 バブル・ジェイルに捕まった彼女は風船のように宙に浮いた。 


「ミュリエル!!」


 ぼくが駆けだし、術者のギリリスにロングソードを叩きこんだ。


 魔法の術者を倒せば、たいがいの魔法は破ることができるはず。


 ガキィィ~~ン!!


「なにぃぃぃ!?」


 長剣が弾かれた。


 ホブゴブリンの魔道士もまた、髑髏杖から生み出した泡に包まれている。


「暗黒魔法・魔泡防御壁バブル・シールド……いかなる武器も……いかなる攻撃魔法も……はね返す!」


「くそっ!!」


「こいつ……人質……泡を攻撃すれば……泡が身体に……密着して……窒息死……術者を殺しても……バブル・ジェイルは消えない」


「なんだとっ!!」


 それが本当なら打つ手はない……ここは慎重にしないと、ミュリエルの命が危ない。


「後一時間で……窒息死……その前に……御神木のうろから……神の宝物を持ってこい」


 ギリリスの入った魔泡もふわふわと宙に浮かんでいく。


 危険な怪物の巣食う森から身を守るため、空中で待とうという魂胆のようだ。


「神の宝物だってぇ……くっ……それが狙いか……」


 たとえ奴のいう通りに森神の宝物を持ってきても、ミュリエルを無事に解放する可能性は低い……だけど、今はいう通りにしないと彼女が危ない。


「待っていてくれ、ミュリエル……必ず助けるから……」


「ハルトくん……うん……信じているの」


ぼくはあと一時間で御神木まで行って、宝物を取ってこなければいけなくなった。


 むろん、御神木まではトリフィドをはじめ怪物たちがひしめいている。


 意を決し、前に進む。


 すると、肩にピョンと細長い生き物が飛び乗った。


「ウィリアム……無事だったのかい?」


「フィヤ!!」


 魔貂はぼくの肩に飛び乗った。


 御主人さまを救うべく、助けてくれるようだ。


「頼りにしているよ、ウィリアム……また何かあったら、教えてくれよな」


「フィヤフィヤ!!」


「おっと、わっちも忘れるなよ!」


 小妖精が目の前に飛んできた。


「エリーゼ……道案内たのむよ」


「おうともさ!!」


「……待って……私も……連れていって……」


「リリア……大丈夫かい?」


「……ギリリスの影の中で……すべて、聞いていた……私のせいでもある……手助けしたい……」


「わかった……頼むよ、リリア」


 ぼくらは石畳の参道をすすみ、御神木へ向かう。 時間短縮のため、走った。


 空を飛べるエリーゼはともかく、エルフのリリアはぼくに負けないくらい速い。


 エルフ族は子供の頃から身体能力が高いようだ。


「あれは!?」


 10分ほど走った先に、トウセンボウをする影があった。


「ブォォ……」


 肩高1・8メートル、体長2・8メートルもある大型の鹿で、頭に巨樹のような枝角えだづのを一対はやし、茶色い毛皮に覆われている。


 首筋から肩にかけての筋肉が異常に発達し、体中に傷痕がある。


「ありゃあ……大角鹿おおつのじかじゃねえか!!」


「人食いの森で怪物と戦って、生き残っている野性の鹿か……時間がないのに、厄介な奴に会ったな」


 ぼくは長剣を正眼に構えて、大角鹿とにらみ合う。 


 大角鹿のおすは、灰色ヒグマと戦っても勝った例がある強者だ。


 物凄い気迫と圧をこちらに向けている。


「フィヤ~~!!」


 ウィリアムの首の毛が逆立っていた。


 巨鹿の迫力に、動物的本能が恐れをなし、肩からぴょんと飛んで、脇の茂みに避難した。 


「……こいつは手ごわそうだぞ」


 大角鹿の攻撃方法は、二つ……強靭な足をつかった蹴りと、大角を使った突進だ。


 狩りならば、弓矢で射って、柄の長い槍で仕留める……長剣はが悪い。 


 とにかく近づいては危険な生き物だ。


「ハル坊、武技で殺しちゃいけねえぞ……」


「えっ!?」


「大角鹿はな、森の守護者にして、再生のシンボルといわれてんだ……天罰が下るぞ」


「ハルト……仕方がない……あの鹿……倒す!」


 リリアが腰から小さな魔法の杖マジック・ワンズを出して構える。


「リリ坊!! お前、森で暮らすエルフ族のくせに、森の守護者に手をあげようってか!」


「今は仕方がない……邪魔するピクシー……悪い種族!!」


「べらぼーめっ!! 本体のリリアも性格が悪いやっちゃなぁ!!」


「なんだと……ピクシー!!」


 てっきり、ギリリスが化けたリリアが策略で仲たがいさせようと思っていたけど……実は本当にピクシー族とエルフ族って、仲が悪いのかもしれない……


「まあまあ……二人とも、ここは押さえて……今はミュリエルを助けるのが優先だよ!」


「……うぅぅ……そうだったな」


「ハルトが……いうなら……」


 不承不承ふしょうぶしょう、ケンカをやめる妖精族たち。 


「でも……遠回りする時間が惜しいな……」


「いんや、わっちにいい考えがある……あいつの注意を惹いてくれ、ハル坊」


「わかった……注意か……」


 傷だらけの巨鹿はぼくの力を値踏みしているようだ。


 一瞬でも気を抜いた隙に、突進するべく足踏みしている。


 その間、エリーゼが灌木の茂みに入り、横から巨鹿の背後に回り込んだ。


 エリーゼはいったい、何をする気か…… その時、空気が変わった。


「バオォォーー!!!」


 ひづめを大地に打ち鳴らし、体重500キロ以上はある大角鹿が突進してきた。 


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