予言の子、もう一人
「そんなひどいことをしたの? ピクシー族が?」
ミュリエルが信じられない面持ちでエリーゼを見る。
まさか……信じたくはないけど、ピクシー族のことは、絵本や昔話でしか知らない。
人間族にも闇の部分があるように、小妖精族にも知られざる闇の事情があるのかもしれない。
「と、いっても、前にも言ったろ……昔、ピクシー狩りをした人間がいたって……ピクシー狩りをした大人を反省させるために、そいつの子供をさらって、悲しませたのさ。自分の子がいなくなって悲しいように、ピクシー族だって悲しいんだってな……」
「……なるほどぉ」
リリアの話を聞いてピクシー族を疑ったが、人間族の悪い奴が原因だったのか……
悪人の仕業とはいえ、同じ人間族としてばつが悪い。
「……そうだったのね……」
「その話に尾ひれはひれがついて、ピクシーの取り替え子の話になったと思うぜ」
「……リリア、エリーゼは口が悪いけど、真剣な場面でウソはいわない奴だ……そういう事情があったんだよ」
エリーゼが照れ臭そうにぼくに視線をおくった。
頭にかむった草冠を見上げる。
『人食いの森』に旅立つときに小妖精族が御守りにつくってくれた草冠だ。
長老の「聖なる森林を救わんとする者たちに祝福あれ」という温かい儀式を思い出した。
明確な根拠はない。
けど、ぼくはあのピクシー族たちを信じたい。
だけど、エルフ族の少女は不信の表情で小妖精に疑念のまなざしを向けた。
「……でも……証拠はない……そのピクシーが言っているだけ……」
「なんだとぉ!? わっちが嘘をいってるってか!!」
「エルフ族の大人の話では……ピクシーは赤ん坊をさらい……生贄にして食べる」
「こんガキャアッ!! なんてこといいやがる!! ピクシーがそんなことするかぁ、ベラボーめ!! 子供だからって、容赦しねえぞぉ!!」
腕まくりしてエルフに殴りかかろうとするエリーゼを、ぼくは必死に抑えた。
「まあまあ……二人とも……ここは押さえて……」
ミュリエルはリリアの口を押えて、たしなめる。
「ケンカはダメなのぉ……」
「うきぃぃぃ!!」
民族間のいさかいは根深いと聞いたことがある。
ここは時間をかけてなだめるしかないか……
エリーゼは怒りを抑えたが、ふくれっ面で、ぼくらから少し離れて背中を向けて飛んでいる。
「ところで……どうしてエルフの子供がこんなところへ一人きりで……他のエルフ族はいないの?」
ミュリエルが疑問に思ったことをリリアにたずねる。
「リリア……四人のパーティーと……人食いの森に来た……怪物……倒すために……」
「えっ……まだ幼いのに……」
「いや、でも……エルフ族は長命だと聞く……彼女もエリーゼみたいにぼくらより年上なのかも……」
「そうかもなの……」
「リリア……27歳」
「えええええ……やっぱり、見かけより、年上だったんだね」
「人間族でいうと……9、10歳くらい」
「人間換算だと年下なの……ややこしいの……」
「エルフのパーティー……森の途中で……怪物と戦った……肉食モウセンゴケと……毒矢サボテンに……みんなやられた……」
「そうだったんだ……」
う~~ん……他人ごとではない。
この大森林地帯で気を抜けば、恐ろしい怪物の餌となる、『人食いの森』なのだ。
「でも、リリア……予言の子……森の神……助ける」
「そうかぁ、健気なのねぇ……って、ほへ?」
ミュリエルがエルフの子を二度見した。
「リリアちゃんて、予言の子なの?」
「うん」
「え……ええええええええっ!?」
ぼくらは驚いて、リリアを見た。
予言の子って、ぼくだけじゃ無かったんだ……
リリアの話によると、エルフ族の伝承にも予言の書があり、世界に危機がせまったとき、天が割れ、雷が轟き、地上に現れ出でる救世主がいるという。
「すると、この子にも天顔の相っていうのがあるのかい?」
離れているエリーゼに近づいて聞くと、肩をすくめて手の平をあげた。
「さあ……長老とちがって、わっちには人相見はできねえなあ……けど、頭のいいエルフ族が送り出したんだから、この子には何か特殊な才能でもあるのかもな」
「リリアちゃんは魔法か武術か……なにか得意なものがあるの?」
「……私は戦士ではない……戦闘は不向き……」
「たしかになぁ……巨大森ヒトデに、手も無く逃げ出すようじゃぁ……雷の救世主ってのも、信憑性がねえなあ……」
「もう……エリエリったら、リリアちゃんに意地悪なこといわないの」
リリアが小妖精にらみつけて、
「だまれっ!! ピクシー!」
「おおっ……こわっ!」
エリーゼは小バカにしたように言い返した。
「へん……ピクシー族の予言にもあるぞ、森の神の危機に現れる予言の子を……それがこの天才武闘士ハルトさまだ!!」
エリーゼが両手でぼくを指ししめした。
いや、天才武闘士とかじゃないから……修行中の見だから……
リリアが驚いてぼくを見た。
「……そうなの?」
「おうっ!!……ピクシー族の長老が天顔の相があると見極めた、お墨付きの救世主でい!! お前も巨大森ヒトデを一撃で倒したところを見ただろ!!」
エルフ族の子はこくんとうなづいた。
「でも……リリアの予言の子……戦い弱いけど……特殊魔法使う……パーティーの仲間……体力や魔力……二倍にする」
ミュリエルが驚いてリリアを見つめた。
「パーティーメンバーを強化するサポート魔法ね……かなり珍しいレアスキル魔法なの!!」
「なるほど……レアスキル魔法が使える珍しい子だから、救世主の素質があるとエルフ族たちが選んだんだろうね」
「連れて行きましょう……また怪物に襲われたら大変なの」
「こんなところに一人で放っておくわけにもいかないしね……」
「……私……役に立つ……強化魔法で……ハルト助ける……トリフィド倒す!」
小妖精が飛んできてジト目をおくる。
「ホントかねぇ……森ヒトデで逃げ出した癖にさぁ」
「むぅ……リリア……弱い……でも、強化魔法できる……森の神助ける!」
「その意気なの!」
そのとき、ミュリエルの身体をよじ登って、魔貂のウィリアムが肩に乗った。
「フィヤフィヤフィヤ!!」
ウィリアムがしきりに首をふっていた。
よく見ると、首の白毛がライオンのたてがみみたいに逆立っていた。
「どうしたの、ウィリー?」
「う~~ん……もしかして、ウィリアムは、リリアを同行させるのを反対しているのかな?」
「だめよぉ、こんな危ない場所に置いていけないわ……いじわるな事いっちゃだめよ、ウィリー」
「フィヤ~~……」
使い魔はぴょんと、ぼくの左肩に飛び乗り、なにか叫ぶ。
でも、動物語は分からないなあ……
「ウィリアム……いい子だから、聞き分け……いたたたた……」
魔貂がぼくの耳をひっぱって横に向けた。
なにげなく見ると、巨大樹の間の木漏れ日が大地にさし、地面にミュリエルとリリアの影が映っている。
妙な感じがしたが、普通の影だ。
視線を前に向けると、二人の女性がなにか話して笑っていた。
ほほ笑ましい光景だ。
ん?
やっぱりなんかおかしい……さっきの影に何か違和感があったぞ……
ぼくはもう一度、大地に落ちる二人の影を見た。
ミュリエルの影は普通だ……けど、リリアの影を見ると……
「ええええええぇっ!?」
ぼくは心臓が飛び出そうなほど驚いた。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
エルフ族を小説に出すのは初めてだったような気がします(うろ覚えで、過去作に出したかもしんない)
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