アタック、キラー・アップル
「ぼくらは、とんでもない食人植物が成る広場で休憩していたようだね……ミュリエル、魔力回復をお願いできるかい? ……マナが空っ穴なんだ」
「了解なの!!」
ミュリエルは魔法の杖をふって、ぼくに神聖ルーン語で呪文を唱えた。
「万物に宿りしマナよ……癒しの光となって安らぎを与えん……回復治療!!」
杖先からはなたれた淡い癒しのマナが、ぼくの全身を温く駆け巡る。
「おお……効いてきたぁぁぁ……ありがとう、ミュリエル!!」
「どういたしましてなの……ふふふ……もう、ハルトくんったら、私がいないとダメなんだからぁ……」
「あはっ……頼りにしてます、ミュリエル殿」
「おいおい……新婚夫婦みてえな事やってんじゃねえぞ、ふたりとも……キラー・アップルをなんとかしろって」
「なっ……からかわないでよ、エリエリ!!」
ミュリエルが真っ赤になってピクシーをにらむ。ぼくも頬が上気していたかもしれない……
ゴブリンたちを平らげたキラー・アップルたちがぼくらを見つめた。
殺人リンゴ集団が横一列に転がってくる。急に閃きがあった。
「きゃあぁぁ……こっちへ来るの!?」
ぼくは前に立ち、両足を肩幅より広げ、身を沈める。
長剣を右手だけで持ち、背後に回して構えた。
「ちょうどいい……ぼくにまかせて」
「どうするの?」
体内に宿るマナを長剣に流して集め、正面に振り回した。
「大気に放たれし姿なき斬撃よ……音より速く魔を切り裂かん……天ノ武技・斬空旋撃破!!」
長剣から音速の斬撃破がはなたれ、横一閃に半円を描いた。
キラー・アップル集団の身体の真横に切れ目が生じ、次々とずれていき、真っ二つになって倒れる。
殺人果実は白い泡をたてて溶解しはじめた。
「おおおおお……お化けリンゴどもが一網打尽だ!! やったぜ、ハルト!!! 大したもんだよ、予言の子!!!」
「すごい、すごいの……ハルトくん……」
「フィヤフィヤフィヤ!!!」
エリーゼたちが大はしゃぎだ。
「いや……まだだ!」
殺人果実集団が横一列に切断されたとき、一個だけ逃れた奴がいる。
生き残りのキラー・アップルは空中を飛び上り、ぼくに牙を剥いて噛みつかんとした。
「ケケケケケ……アポーー!!」
「キャアアアアッ!?」
ミュリエルが両手で目をふさいだ。
ぼくはだらりと下げた長剣を、下段の構えから上に斬り上げる。
「スタージョン流武技……逆真向空竹割り!!」
人食いリンゴは下方から両断され、左右二つに分かれて転がっていき、白い泡をあげて溶けだした。
魔法剣法を使わずとも、武技だけでモンスターを倒せるようになったようだ。
「もう大丈夫だよ、ミュリエル」
ミュリエルがおそるおそる目を開けて安堵の息を吐いた。
「もう……心配したの……」
「大丈夫だよ……やさしいなぁ、ミュリエルは」
ぼくが笑みを見せると、彼女もにこりとする。
「そうだ、魔石を集めておこう……でも、トロールの魔石は大きすぎて、運べないなぁ……」
「平気なの……お師匠さまに『なんでも収納箱』を借りてきたの」
「なにそれ?」
ミュリエルは旅行鞄から小さな箱を出した。
片手に乗るサイズで、ゴブリンの魔石が五、六個で満杯になる大きさだ。
ミュリエルは小箱のふたを開けて呪文を唱えた。
「リリクリー、ルルクリー……万能なりし、なんでも収納箱よ……魔石を預けん!」
すると、小箱から空気の流動が生じ、ゴブリンの赤い魔石を次々と吸い込んでいった。
大きなトロールの魔石もパンの生地みたいに伸びて、小箱に入ってしまった。
ぼくとエリーゼの目が点になる。
「ありゃまぁ……あのでっけえ魔石まで吸い込みやがった……」
「それは……魔法道具だね」
「そうなの。小箱の中は異空間に通じていて、いくらでも収納できるのよ……お師匠さまの自慢の魔法道具なの」
「はあぁ……すごいなぁ……初めて見たよ」
ぼくの頭に小妖精が飛び乗って、興奮してペシペシと叩いた。
「どうしたんだ……エリーゼ?」
「あれ、あれ……あれを見ろ!!」
エリーゼが指さす先……ぼくたちがやってきた石畳の道を、破れたローブをひるがえして魔道士ギリリスが逃げていくのが見えた。
「あいつめ……」
ぼくは斬空旋撃破を放つべく八相に構えた。
が、それを察したかのように、ホブゴブリンが呪文を唱える。
「邪悪なる魔界の暗雲よ……我を隠し通さん……闇黒濃霧!!」
ギリリスの髑髏杖から黒煙が湧きだし、周囲はインクをぶちまけたように真っ黒になった。
まるでタコかイカみたいな奴だ。
だめだ……斬空旋撃破の射程外まで逃げて行った。
「逃したか……」
「ギリ公め、生きてやがった……あいつきっと、自分だけ解呪魔法をかけて逃げたにちげえねえ……」
「もうこれに懲りて、追いかけてこないと思うの……」
「しょうがない……先を急ぐとすっかぁ!」
エリーゼが噴水場の向こうにある石畳の参道へ向かって飛んでいき、ぼくらも後を追った。
御神木の巨大な姿が近くに見えてきた。
その周囲に妙なものが見えるような……
「なんだあれは!?」
高さ百メートルを越そうという御神木の上部周囲に、ロープのようなものが十数条ほど斜めにピンと張っているのが見えた。
「あの御神木の周りにあるロープみたいなのはなんだろう?」
「ああ……ありゃ、フウセンモドキの糸だな」
「フウセンモドキ?」
「ああ……別名、風船蜘蛛といってだな……」
「きゃああああっ!!」
「なんだ!?」
「小さな女の子の叫ぶ声よ!!」
「なんで、『人食いの森』に女の子が!?」
ともかく、ぼくらが駆けつけると、十歳くらいの女の子が灌木の茂みから飛び出してきた。
灌木がメキメキと折れ、巨大な指のようなものが三本見えた。
「巨人の手か!?」
いや、巨人の指ではない。
三角形の物体の下部には吸盤があり、ぬめぬめとした濃緑色の表皮は苔に覆われ、大きな棘がびっしりと生えている。
前進してきた怪物の全体像が見えたが、星型をしている。
「まさか……あれは、森ヒトデだ!!」
ここまで読んでくれてありがとうございます!
キラー・アップルの元ネタは伝説のC級映画「アタック・オブ・ザ・キラートマト」です。
(見た事ないけど、売れる前のジョージ・クルーニーが出てたらしい)
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