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鋼ノ武技、鎧甲重破断

 トロールが巨木の棍棒を、力まかせにぼくに向かって振り下ろした。


 大地が土砂を巻き上げて陥没する。


 あれに当たれば、一瞬でひき肉になってしまうだろう。


 むろんぼくは巨木棍棒を跳躍して避けた。


  大地にめり込んだ棍棒を駆けのぼり、巨怪の右腕からのぼり、トロールの首に目がけて走る。


 豪腕トロールが驚いた表情をした。


 が、鈍重な首を動かしてぼくに食いつこうと口を開いた。


 うわっ……臭い……人食い巨人の口はなんて生臭いんだ。


 巨大な口がぼくにみついた。


 が、それより速く移動して、トロールは自分の二の腕を思いきり噛んでしまった。


「グヒィィ!?」


 痛みで顔をしかめる人食い巨人。


 その間に、右肩に飛び乗り、垢(赤)だらけの太い丸首に、長剣を横薙ぎに打ち付けた。


ガキィィィン!!


「いたぁぁ……腕がしびれたぁぁ……」


 見れば、トロールの猪首いくびがゴツゴツとした岩肌いわはだになっていた。


 こいつ、首だけを石化して防ぐなんて……さっき、斬空旋撃破を弾き返した技だな。


 トロールは頭が悪いというが、なかなかどうして、こいつは戦いに手馴れている。


 トロールの巨大な顔がニヤリとして、巨木から左手を放して、手の平で右肩にいるぼくを打ち付けた。


 ぼくは慌てて飛び上って逃れる。


 が、打ち付けた衝撃で生じた風圧で身体が飛ばされてしまった。


 ぼくは宙を吹っ飛び、近くの巨木の枝の茂みに打ち付けられた。 


 茂みの葉が緩衝剤かんしょうざいとなった。


「あたたた……背中が痛い……あとでミュリエルに治療してもらおう……」 


 だが、甘いことは言っていられない。


 巨人が右手を茂みに突っ込み、ぼくをつかもうとする。


 ぼくは近くの木の枝に飛び移って避けた。


 飛び移った大樹の幹に、トロールが棍棒を打ち付ける。


 木の実を落す要領だな。


 だけど、その前にぼくは上の枝からたれるつたをつかみ、宙を飛んで、振り子のような軌道を描いて別の木の枝に飛び乗った。


「グガァァァ!!」


 ぼくの動きが早すぎたようで、トロールはぼくを見失ったようだ。


 トロールは手当たりしだいに大樹の幹を棍棒で打って、ぼくを地面に落とそうとした。


 巨人の怪力による振動で、木の実や枝葉がいっぱい落ちる。


 その間、ぼくは考えをめぐらせる。


 そうだ……姉さんが言っていたな……突出した長所は、それがゆえに短所にも成りえる、と。


 考えろ……考えるんだ。


 トロールは頭が弱いのが付け目。


 実はひとつアイディアがある。 


 グラ村のアンガスさんに教えて貰ったきこりの技だ。


 大樹に火の武技で半分ほど空洞を開けておく。


 これは木を倒すときに入れる切れ目の役割だ。


 トロールが怪力で思いきり、巨木棍棒で大樹を叩いた。 


 その勢いで大樹がメキメキと音をきしませ、トロールに向かって倒れてきた。


「たおれるぞ~~!」


「グアアッ!!」


 大樹が人食い巨人を下敷きにした。


 トロールの怪力を逆手につかって倒したのだ。


「やった……やったぞ!! あのトロールをぼく一人で倒したんだ……」


 ほっと、息をついた。

 これでぼくもトロール・スレイヤーの称号を手に入れた。


 それもつかの間。


 突如、大樹が押し上げられ、巨人が起き上がった。


 ぼくは茂みの物陰に姿を隠した。


「グガアアアアアアッ!!!」


 なんて奴だ……大樹の下敷きにされたのに、圧死しないなんて……なんて頑丈な奴だ。


 あの手が通じないなら、万策尽きた。


 天ノ武技も、炎ノ武器も通じない……おそらく地ノ武技も通じないだろう。


 思わずぼくの足元が震えてしまう。 


 生きたいのなら、「背中を向けて逃げてしまえ」と本能が告げる。


  だけど、ぼくは逃げ出したい衝動を、むりやり……というか、意地を張ってその場に踏みとどまった。


 ここで逃げれば武闘士としての誇りが砕けてしまい、二度と立ち直れない気がする。


 覚悟を決めろ……ぼくは武闘士だ。


 ぼくがここで戦って死ぬのは、武闘士の生涯としては仕方がない……だけど、やっぱり駄目だ。


 ミュリエルたちまで殺されてしまう……なんとか……ぼくがなんとかしなくては。


 エルマリア姉さんなら、こういう窮地きゅうちに落ちた場合どうしろと、言っていたか……


 そうそう、「氷のように冷静に考えをめぐらせ……相手の情報を集めろ……それを分析しろ」と言っていたな。


 そうだ、思い出した……トロールは岩妖精というだけあって、昼間は大きな岩の姿で動かず、夜になると動き出して獲物えものを狩るという伝承でんしょうがあったっけ。


「ん? ……今は昼過ぎだから、トロールは大岩の状態で動けないはずだけど……」


 頭を上に向けると黒雲が覆っていて薄暗い。


 ギリリスが『人食いの森』の入り口でトロールを召喚したときも、枝が茂っていて薄暗かった。


 つまり、トロールは昼間でも薄暗い場所なら石化せずに活動できるわけだ。


 だけど、さっきミュリエルがこの黒雲は不自然だといった。


 もしかすると……あの黒雲は魔道士ギリリスがトロールを石化させないために呪法で生み出したものではないのか? 


 ミュリエルが白霧煙幕魔法ミスト・スクリーンで、濃霧を生み出したように……


 そういえば黒雲はやけに空の低い場所にただよっている。


 このために天候まで変えるとは……あのホブゴブリンの魔道士は、敵ながら凄い使い手だ。


 黒雲を吹き飛ばせば、トロールは岩になるはず。


 でも、さすがにぼくの武術でも、ミュリエルの魔法でも黒雲を動かすことはできない。


 絶望的な状況だ……


 いや、考えろ……なにかこの状況を変える方策があるはずだ…… 


 パニックになりそうだ。


 落ち着け……落ち着くんだ。


 万策尽きてしまったよ……エルマリア姉さん、こんな時はどうすれば…… 




 ぼくはグリ高原での修行の日々を思い起こす。


 エルマリア姉さんに厳しい修行をつけてもらっていたあの日……


 天ノ武技の修練の休憩中、師匠はこんな事をいった。


「ハルト、毒のあるへびになれ」


「えっ? いや……毒のある蛇なんて、悪者みたいでいやだなぁ……」


「バカモノ……そういうことを言っているのではないわ……こんなことわざがある……『毒のある蛇は急がない』、だ」


「毒蛇はゆっくり動くってことかい?」


「そうだ……なぜ、ゆっくり動くと思う」


「え~~っと……」


 腕をくんでしばし考えてみる。


「さあ……」


「毒蛇は己が強いという自信があるから、悠然としている。だが、毒の無い蛇は弱いと言う自覚があるから、こそこそと逃げ回るものだ」


「なるほど……自分より強い捕食者に食べられちゃうからね」


「自然界では強い捕食者も、毒蛇にはおじけづいて、かかっていかないものさ……たしかな実力をつければ、おたおたと慌てずに堂々としていられるのだ」


 このあと、実例としてエルマリア姉さんの毒魔竜ヒドラ退治の武勇譚があるのだが、これ以上姉さんの株を上げたくないのでやめておく。




『毒』……つまり、『強さ』をぼくは、幼い頃にはなかった。


 だけど、厳しい修練のすえ、今のぼくにはある。


 だったら、こそこそせずに堂々とするべきだ。 


 ふと……この状況を打開できる技を思い出した。


 重装甲騎兵や、生きている鎧リビング・メイル相手に開発された武技がある。

 

 一念極めれば、鉄より硬い岩だって砕ける武技だ。


 ……でも、あの技は修行中で未完成だ。


 しかも、失敗すれば、長剣が壊れて失われる。


 この魔境で武器を失うのはつらい。 


 この策を使うのは無謀かもしれない。


 でも……今のぼくになら……実戦をかさねつづけた今のぼくになら、使えそうな気がする。


 ぼくは毒蛇となって、この試練に打ち勝ちたい。


「スタージョン流の武闘士魂ぶとうしだましいを見せてやる!」


 ぼくは背筋を伸ばし、悠然とした心持ちで、無形の構えをとる……精神を集中して、体内のマナを集める。


 それでも足りず、スタージョン流の呼吸法で、周辺の大気を吸い込み、自然界のマナを体内に吸い込む。


 茂みが揺れ、トロールがぼくの姿を見つけ出した。


 歯を剥いて狂喜する人食い巨人。


 右手を伸ばそうとした。


 が、その前に、ぼくは長剣を大上段に構え、トロールに向かって跳躍した。


 トロールが野性的勘で危険を察し、巨木棍棒を両手で水平にもち、楯にして斬撃にそなえた。


 念のためか、頭部を鉄兜ヘルメット状に石化させはじめた。

 

幾千いくせん練磨れんまきたえられし黒鉄くろがねよ……邪悪なる蹂躙者じゅうりんしゃに裁きの鉄槌てっついを……はがねノ武技・鎧甲重破断アルム・ブレイク!!」


 銀色にかがやいた長剣は、巨木棍棒を真っ二つにした。


 さらに斬撃は岩肌となったトロールの頭頂に接触。 


 重い手応えを感じつつ、人食い巨人の頭部から首、胸部、腹部、股間まで切り裂いていった。


 巨怪の身体が左右にずれ、地響きをあげて大地に倒れた。


 おくれて遺骸から黒い煙がわきあがり、幅1メートルぐらいもある赤い魔石だけが残った。


さすがにトロールともなると、魔石イーヴル・ジュエルも大きい。


 大地が揺れて、ミュリエルやギリリスたちがこちらを振り向いた。


 ギリリスが信じられない目で魔石となったトロールを見る。


「グゲゲゲ……バカな……トロールが……あんな小僧に……」


「やったわ、ハルトくん!! トロール・スレイヤーなの!!!」


「フィヤフィヤ!」


「たはぁぁ……あいつ、トロールまで倒しやがった……やっぱり頼るべきは予言の子とくらあっ!」


「ふぅぅ……なんとか倒したよ……姉さんのいう、毒のある蛇に成れたかな……」


 ぼくはゆっくりとミュリエルたちのそばへ行く。 


 体内のマナがまたも空っぽになってしまった。


 その近くに麻痺状態のゴブリンたちが倒れている。


 こいつらにトドメを刺しておかないと旅人や近隣住民に被害が出てしまう。


「ケケケケケケケ……」


 そのとき、背後から気味の悪い笑い声が聞えた。


 この広場に入る前に聞いた声だ。


 振り返ってみると、リンゴの木に成る果実に人間の顔が浮かんでいて、笑っている。


「あれが笑い声の正体か……あれは……人の顔か!?」


「げっ、人面樹じゃねえか!?」


「きゃ~~ん……不気味なのぉ!?」


 人面樹の果実がつぎつぎと落ち、ドスン、ドスンと轟音が聞えた。


 十数個はあろう人面リンゴがゴロゴロと回転してこちらに向かってくる。


 そのうちの一つが宙に飛んで、牙を剥いた。


 そして手近にいたゴブリンたちをくわえこみ、バリバリと音をたてて食べ始めた。


「ギャビィ!!」


「グルゲヒッ!!」


 邪妖精たちは人面リンゴの口の中で黒煙を上げ、魔石と化した。


「ぎゃあぁぁ……あのお化けリンゴ、ゴブリンを食いやがった!!」


「あれは……キラー・アップルよ!!」


 ここまで読んでくれてありがとうございます!


 中盤のクライマックスを書き終えて、ひと仕事やり終えた気がします。


 まだ後半戦があるけどね。


 おもしろいなぁ……と思ったら、


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 これを読んで思った感想など、気軽に書いてくれると嬉しいです。


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