怪力無比、豪腕トロール
小妖精が口を大にして、邪妖精のボスにむかって叫んだ。
「アンニャロ……こんなところまで追ってきやがって……しつこいぞ、ギリリス!!」
「やかましいぞ……エリーゼ!!」
ホブゴブリンとピクシーの舌戦の最中、ぼくらはホブゴブリンを観察する。
魔法使い見習いが両手で口をおさえた。
「あっ……あの杖の先……」
「!?」
ホブゴブリンの杖の先は人間の頭蓋骨を三つ組み合わせた細工物だった。
きっと旅人や冒険者を殺して作ったものだろう……吐き気をもよおすほど邪悪で汚怪な魔法道具だ。
「なんて、おぞましい……悪趣味なやつらだ……」
「……ひどいの」
トロールの横に生き残りのゴブリンが七匹ほど追いついてきた。
泥だらけなのは、地ノ武技・地動烈震崩で地割れに落ちた連中だな。
「ゴブルルル……同胞の仕返し……も、あるが……お前ら……森の神の宝物……取りにいくな!!」
「なっ……なぜそれを知ってやがんでい!?」
「やはり……宝物……いただく!!」
「てやんでえ……取られてたまるか!!」
「トロール……奴らを叩きつぶせ!!」
魔道士ギリリスがトロールの肩から飛び降りた。
「グオオオオオオッ!!」
灰色の巨人が身長ほどもある棍棒をもちあげ、こちらに叩きつけてきた。
エリーゼが宙を飛んで逃げ、ウィリアムが近くの茂みに潜りこんだ。
ぼくはミュリエルを横抱きにして右に飛んだ。
ぼくらのいた地面に土砂が巻き上がり、穴凹ができる。
「エリーゼ……魔法でミュリエルを頼む!!」
「おう、まかされた!!」
横抱きにしたミュリエルをおろすと、頬を上気させてぽ~~っとしていたが、はっとして、口をへの字にして怒り出した。
「もう……私だって魔法で自分の身ぐらい守れるの!」
「ごめん、ごめん……」
ミュリエルが杖を頭上にあげた。
「大気に宿るマナよ……同胞を包み隠したまえ……白霧煙幕!」
杖先から生じた白い霧が渦を巻いて広がり、あっという間にあたりが濃霧でおおわれる。
「ギャビビ……あいつら……姿……消えた……」
ホブゴブリンたちも戸惑っている。
これで時間が稼げる。
ピクシーが茂みから顔をのぞかせる魔貂の耳元に近づき、
「おい、ウリ坊……ご主人さまを守るために力を貸してくれ!」
「フィヤ!!」
ピクシーは動物と意思の疎通ができるみたいで、ウィリアムはエリーゼを背に乗せた。
そして、ウィリアムが走り出し、ぼくとミュリエルの周囲をぐるぐると回り出した。
妖精の輪の結界魔法だな。
妖精の輪を作り終り、ウィリアムが目を回して伸びている。
「ごくろうさん、ウリ坊……大地の精霊よ、大気の精霊よ……我等を守りたまえ……妖精の護法陣!!」
魔貂の作った草の輪っかの跡から半透明の紗幕が生じ、円筒状のドームに包まれた。
これでミュリエルたちは輪の外にいる邪妖精たちから見えない。
うまい時間稼ぎだ。
これでしばらくミュリエルたちは大丈夫だ……トロール戦に専念できる。
ぼくは走って魔法の霧から抜け出し、人食い巨人に向かう。
「グガァァ!!」
巨人が中腰になり、棍棒を横薙ぎにしてぼくを撲殺しようと、フルスイングした。
うなりを上げる重い物体の攻撃を、ぼくは跳躍して避ける。
ぼくは着地と同時に、長剣を八相に構え、体内に宿るマナを長剣に集めて、トロールに向かって振り下ろした。
「大気に放たれし姿なき斬撃よ……音より速く魔を切り裂かん……天ノ武技・斬空旋撃破!!」
天ノ武技の衝撃波が岩妖精にむかって放たれた。
トロールは棍棒を前にななめに構えて斬撃波を防ぐ。
が、斬空旋撃破は棍棒を真っ二つに切り裂いた。
そのまま斬撃波は巨人を両断するはず。
ガギィィィ~~ン!
歯がきしむような金属音がして、斬撃波がはね返された。
その余波が近くの木を斜めに切り裂いて倒れていく。
遅れて切られた棍棒が地に落ち、ズシンと音が響く。
トロールは歯を剥いて嗤っていた。
「なっ……斬空旋撃破を……どうやって弾き返したんだ!?」
トロールは鎧も鎖帷子もまとっていないし、槍も斧も楯だって持っていないのに……
「グオオオオオゥ!!」
ぼくが戸惑っている間に、トロールは近くの大木の根元を両手でつかんだ。
8メートルはあろうという大樹がぐらぐらと揺れ、枝にとまって様子を見ていた鳥たちが逃げ出す。
巨人は腕に力瘤を浮かせ、大木を怪力で引き抜いた。
なんて奴だ……
トロールは大樹を振り回してぼくに向かって振り下ろす。
間一髪、飛び退いた跡の大地が土砂をまきあげて粉塵をまきちらす。
前よりリーチが長い武器が厄介だ。
次々と繰り出す大木の殴打やスイングでぼくは逃げ回る一方だ。
逃げるといっても、ミュリエルたちがいる方へは逃げられない。
彼女たちが無事なのが唯一の救いだ。
だけど、ぼくは甘かった……これはあとでミュリエルとエリーゼに聞いた話だが、魔道士ギリリスは突然姿が消えたエリーゼとミュリエルを、手下のゴブリンをつかって探していた。
人質目的と、御神木の宝物について聞きだすためだ。
霧がうすらぎはじめ、ギリリスが部下に、
「ギリリリ……エリーゼと……人間の娘……しらみつぶしに……探せ!!」
「グゲロッ!!」
七匹のゴブリンは人海戦術で石畳の広場を探し始めた。
噴水場、休憩のベンチ、切株オバケの出て来た穴ボコ、周囲の怪植物の森林や茂みなどもだ。
少し離れた地点にいるホブゴブリンが考えをめぐらせているようだ。
ゴブリンたちが茂みを武器で切りつけ、彼女たちを探す。
エリーゼが青い顔になり、
「まずいな……この森に棲むゴブリンなら、敵対しているわっちらピクシーの妖精の輪に気が付くかもしれねえ……」
「だったら……私にいい考えがあるわ」
「おお……たのむぜ」
ミュリエルが妖精の輪を出た。
とつぜん、探していた人間の娘が出てきて、ゴブリンは驚いたが、すぐに狂喜乱舞した。
「グゲリャ!!」
「いたか……捕まえろ!!」
ウィリアムが地面をS字に駆け巡り、ゴブリンたちを転ばせる。
「ギャボッ!!」
「フピルッ!」
「ええい……この生意気なテンめ……」
ギリリスが人骨の杖でウィリアムを殴ろうと、杖を振り下ろした。
が、ウィリアムは素早く避け、飛びあがってホブゴブリンの左の二の腕に咬みついた。
「ギャアアアッ!!」
右手で傷口を押さえる魔道士ギリリスからウィリアムが離れたとき、魔法使い見習いが杖を宙にあげた。
「万物に宿るマナよ……悪しき者たちに天罰を与えん……麻痺煙霧!」
ミュリエルの魔法の杖の先から白煙が生じ、奔流となって邪妖精たちを包み込む。
パラライズ・ヘイズが肌に触れた邪妖精たちが全身をビクリと震わせ、麻痺状態になる。
「ギュボッ!!」
「グゲビッ!!」
四肢をけいれんさせて、小鬼たちが倒れ伏した。
「グゲゲゲ……麻痺魔法か……してやられた……」
エリーゼが飛んできてミュリエルのほっぺたに抱きつく。
「やったぜ、ミュー坊!! 魔法使いの看板は伊達じゃねえな!!!」
「ふぅぅ……これで足止めにはなるの」
一方、ぼくはトロールのどてっ腹に剣尖を向けていた。
体内に貯めたマナを刀身に集める。
「浄化の焔よ……紅蓮の一撃となって燃やし尽くせ……炎ノ武技・火炎飛翔弾!!」
長剣から放たれた斬撃波は、熱く空気を焦がし、炎の砲弾となって怪力巨人のドテッパラ目がけて放たれた。
火炎弾がトロールの身体に命中し、黒煙をあげた。
「ガアアアッ!!!」
さすがに巨人の腹を貫通しただろう。
停止した巨人の大きな影から、たなびく黒煙が薄らいでいく。
「なにぃ……バカなっ!?」
トロールの腹には煤がついただけで、まったく無事だった。
「グアアアアアッ!!」
岩妖精の怒りの咆哮が『人食いの森』に響き渡った。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
トロールはヨーロッパの地域によって、性格や姿が変わります。
ムーミンは良い妖精ですが、人を食べる巨人や子供をさらう怪物だという地域もあります。
今作では悪い怪物として描きます。
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