天ノ武技、斬空旋撃破
これにはゴブリン軍と、それを率いるホブゴブリンも驚いたようだ。
「ゴブゥゥ……魔法剣の使い手……厄介……だが……数で押しつぶす!!」
魔道士ギリリスが号令で、十数匹の小鬼たちが目を狂ったように赤く光らせ、長剣、短剣、手斧などをかざして襲い来る。
よく見ればゴブリンの首飾りには人間族の小物やミイラ化した人の手、干し首がある……旅人などから奪ったおぞましい戦利品だ。
怒りが込み上げてくる。
ぼくは剣先を地面につくほど下ろし、マナを込めて振り上げた。
斬撃波が地面すれすれから湧き上がり、大地を割ってまっすぐ進む。
「大地を抉る勇猛なる衝撃よ……怒りの鉄槌となり魔を沈めん……地ノ武技・地動烈震崩!!」
十数メートルに渡って大地に地割れが生じ、ゴブリン軍団が滑落した土砂とともに地の底に落ちて行く。
「グヒャアァァ!?」
「ジュボルゲッ!?」
「あいつすげえなぁ……さすが予言の子だ!! こんどは地面を真っ二つにしやがった!?」
「地割れを起こすなんて、中級以上の魔法使いにしか出来ない技なの!!」
「フィヤフィヤ!!」
半数以上の小鬼軍団が地底に落ちて土砂に埋もれた。
だが、身の軽い邪妖精の数匹が岩や根を蹴って地上に跳躍してきた。
敵ながら、中々やる奴だ……精鋭かもしれない。
「みんな……茂みに隠れていて!!」
「わかったわ!」
森の茂みに隠れたミュリエルたち。
その間、ぼくは両足をひろげ、長剣をもった手をだらりと下げて、半眼となり、立ち尽くす。
葉っぱの中からエリーゼが物見をして、
「あちゃあ……あいつ、敵の前でなにを、ぼ~~っとつっ立っているんだ!」
「待って……ああ見えて、ハルトくんに隙が見えないの……あれは武闘士の構えかもしれないわ……」
「なんだってぇ!?」
ミュリエルはけっこう鋭いところがあるなぁ……
そう、これこそスタージョン流の基本の構えさ。
身体から力を抜き、独自の呼吸法と精神術で、周辺の大気から消費されたマナを補給して体内に蓄積する。
「万物すべては無に帰すもの……スタージョン流……無形の構え……」
無形の構えはいっけん、無防備なようだが、それは違う。
敵がどう攻めてくるかは、その時しだいだ。
だから、相手の攻撃を自由自在に応じて、千変万化に技倆を繰り出さないといけない。
相手の攻めに水のように応じる。
精鋭ゴブリンの一番手が短剣をふりかぶって跳躍してきた。
ひりひりとしたどす黒い殺気が前方から急接近してくる。
八相に構え、あつめたマナを長剣に込めて振り下ろす。
「天ノ武技・斬空旋撃破!!」
「ゲヒャアァァャァ!!」
邪妖精がたてに一刀両断され、黒煙を吹き出した。
右から来たゴブリンが手斧で胴体を横薙ぎにしてきた。
ぼくは宙に跳躍して斧刃をさけ、落下しながら小鬼を袈裟斬りにした。そのまま前方へ駆けだす。
「おいミュー坊……お前も魔法でハル坊を援護してやれ!」
「ええ……でもでも……私、攻撃魔法は苦手なの……」
「いいからやってみろい……ギリリスみたいに火の玉を出しやがれっ!!」
小妖精にせがまれ、魔法使い見習いは魔法の杖を前にかざした。
「わかったわ……やってみる……」
「おう、ひとつ景気いいのをぶっ放したれ!!」
「万物に宿るマナよ……浄化の焔となって焼き尽くさん……火炎球!」
杖の先に熱気が生じ、小さな赤い火が生じた。
しかし、ジュゥゥと音をたてて消えてしまった。
エリーゼが右手で目をおおい、
「あちゃぁ……ダメだこりゃ……」
「……ぴえん」
「いいから、みんなは隠れていて!」
「うん……」
ぼくはさっき地動烈震崩で崩落して穴の開いた裂け目に残った岩や根を足場にして、前方へ飛ぶ。
ゴブリンが真似をして飛ぶが、失敗して裂け目に落ちる者が続出した。
ぼくの目的は邪妖精軍団の司令官ギリリスだ。
奴を倒せばゴブリンたちも撤退するはず。
背後から殺気がした。
振り向くと、ぼくと同じ足場を跳躍してきたゴブリンがいる!
長剣を持ち、右耳がなく、傷だらけの小鬼で、半端ではない殺気をまとって、ぼくを追いすがる。
間違いない……こいつがゴブリンで一番の使い手と見た。
前方ではぼくの進撃に気が付いたホブゴブリンが慌てて、人骨の杖をもって呪文を唱え出した。
「ゲルル……地獄の猛火よ……我がもとで……怒れる激情となって……暴れ狂え……暗黒灼熱球!!」
人骨の杖の先から燃え盛る火の玉が生じ、灼熱の砲弾となり、ぼくに向かって放たれた。
さっき、ぼくらを不意打ちした暗黒魔術だな。
暗黒魔術とは、魔王の先兵でも中級以上の魔物が操る魔術で、魔界の邪神の力を借りて行使するという。
灼熱の火炎弾がぼくに向かって迫る。ぼくは右側に飛んで軌道をそれた。
「ギャビィッ!!」
ぼくを追ってきた不幸なゴブリンに命中して、焼き尽された。
大地の足場に着地したとき、背後にヒヤリとする気配。
下方の地面から跳躍したゴブリンが長剣をぼくの足を薙ぎ払った。
間一髪、それを飛んでかわす。
着地すると、片耳ゴブリンが長剣を矢継ぎ早に繰り出してくる。
「ギギャギャギャ……」
嫌な嗤いかたをする片耳のゴブリン……やっぱりこいつは、あれぐらいじゃ死なないか。
一合、二合、三合……剣撃の応酬がつづく。
これじゃあ、マナを練る時間もない。
とつぜん、横から肌を焼きそうな暑さを感じた。
慌てて後方に飛び退くと、ぼくのいた場所に火球が激突して、大きな黒い焦げ跡が生じた。
魔導士ギリリスの援護射撃だな……仲間のゴブリンを危険にさらそうともいいのか、それとも片耳ゴブリンを信頼しているのか。
「くっ……前方のゴブリン、後方のホブゴブリンか……」
ゴブリンもホブゴブリンも残忍な血狂い狼のような笑みを浮かべていた。
くっ……せめて、まばたきするほどでもいい、隙でもあれば……
「大気に宿るマナよ……同胞を包み隠したまえ……白霧煙幕!」
茂みから上半身を出したミュリエルが杖を頭上にあげ、杖先から生じた白い霧が渦を巻いて拡大し、怒濤のごとくこちらに向かって押し寄せた。
たちまち周囲が濃霧に包まれる。
「ゴシャッ!?」
片耳ゴブリンが驚いた隙にぼくは濃霧にまぎれた。
マナを蓄積し、片耳小鬼に横薙ぎの一閃をおくった。
敵は長剣で応じたが、とっさのことで態勢が悪い。
ぼくは返す長剣で下方から頭頂に向けて斬撃をおくった。
「ジャビロラッ!!」
強敵ゴブリンは両断され、黒煙をあげた。
残った魔石がひときわ大きいのは強さの証しか。
ぼくはそのまま魔道士ギリリスに向かって駆ける。
奴の取り巻きはすべて出払っている。
「グゲゲゲ……来るな……暗黒灼熱球!!」
人骨の杖をふるって火炎弾をはなつホブゴブリン。跳躍して火線をさけ、ギリリスに向かって走る。
「ギャワァァ!!」
逃げ出したギリリスに向かって、八相に構え、蓄積したマナを刃先に込めた。
「天ノ武技・斬空旋撃破!!」
魔道士ギリリスに斬撃波が命中し、たてに両断され、左右に分かれて死骸が地面に倒れた。
「やったね、ハルトくん!!」
「フィヤ!」
「やるじゃねえか、ハル坊!!」
ミュリエルたちが駆け寄ってきた。
「いやぁ……ミュリエルの後方支援で助かったよ……すごい霧の魔法だったね……」
「えへ……ハルトくんに、ほめられちゃったの……私、攻撃魔法は苦手だけど、それ以外の魔法なら、まあまあなのよ」
ミュリエルが両手でほっぺを押さえ、真っ赤になって照れる。そんな仕草も可愛い。
「おい、待て……ギリリスの野郎の死骸が魔石にならねえぞ!?」
「えっ!?」
ぎょっとしてギリリスの遺骸を見た。
確かに黒煙になっていない。
魔王の被造物である魔物は、倒せば素材となった魔石になるはずだ。
しかも、遺骸はだんだん姿が薄れてゆき、霞のように消えてしまった。
「しまった……幻影魔法だ!!」
倒したと思ったギリリスは偽物で、本体はどこかに隠れているはずだ。
瘴気を発する森の中のどこかから、陰鬱な声がする。
「ゴブルルル……俺を……甘く見るな……偽者……浮かれる間……これを用意した……」
近くの茂みが薄れて、ギリリスの姿が見えた。
隠蔽魔法で身を潜めていたのだ。
地面に魔法陣が描かれ、不気味に光り、中心部からなにか巨大なものがせり上がってきた。
「ありゃあ、召喚魔法じぇねえか……ギリリスの野郎、いつの間にあんな術を……」
「ゴブルルル……魔界で……修行した……エリーゼ……人間族の小僧……これで最後だ……」
魔法陣からせり上がったものは、耳と鼻が大きく、毛むくじゃらで、肥満した身体で、短足だが、腕が大木のように大きく立派だ。
灰色の肌をした4メートルはある巨人だった。
「あれは……トロールよ!?」
トロールは巨人族の末裔ともいわれる怪物だ。
人間を捕え、引き裂いて食べるといわれる凶悪なモンスターだ。
頭が悪いというが、そのぶん怪力無比で、暴れ出したら誰にも止められない。
「グオオオオオオッ!!!」
その雄叫びは天を圧し、森にいた動物たちは本能的に危険をさっして逃げ出した。
「トロールよ……奴らを……引き裂き……食べてしまえ!!!」
「グオォォウ!!」
凶暴なる巨人は巨大な棍棒を片手で持ち上げ、地面にぶつけた。
大地が揺れ、思わずぐらつく。
「ハル坊、さっきのなんとかの技でやっつけちまえ!!」
エリーゼとミュリエルが期待に満ちた目でぼくを見る。
「あっ……それが……ごめん……あの技はもう使えない……」
「なんでだよ?」
「どういう事なの?」
「調子にのって、マナを使いすぎて……マナ切れで魔法武術が使えないんだ……」
「えええええええええええっ!?」
悲痛な叫びが森にコダマした。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
何度も練り返したアクションシーンです。
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