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現世(うつしよ)は夢、生と死の世界

 ぼくは幼い頃からやまいにかかり、病院のベッドでほとんどの生活を暮らしていた。

 楽しみは両親が買ってくれたゲームやマンガ、ラノベ小説だった。

 特にぼくのお気に入りは異世界のファンタジー世界を舞台に、何も持っていなかった主人公が、修行して強くなり、不思議な世界を冒険するという物語だ。


 苦しい……どうやら、今度はダメだと思う……なんとなく感じるんだ。身体が動かない……意識が遠のいていく……なにもない暗闇の世界に落ちていくのがわかる……

 もしも、宗教でいう転生てんせい……生まれ変わりというものがあるのなら、今度は健康な身体からだになりたい……

 そして、ゲームやラノベのような剣と魔法の世界……夢あふれる理想郷で、冒険者になって思いきり身体を動かして、あちこち行ってみたい。

冒険したり、友達をつくったり、恋をしたり……とにかく、青春ってやつを思いきり楽しんでやりたいんだ。

 どこかで声がした。


“その願い……かなえてしんぜよう……”


 病室にいたはずなのに、周囲を見回すと、何もない。まるで虚無の空間だった。


「あなたは誰ですか? 看護師さんですか? お医者さんですか?」


“いや……違う……大知性だいちせいという存在じゃ”


「大知性?」


 目の前に灰色のフード付きのマントを羽織った人物がいた。長くふさふさした灰色のアゴヒゲをのばし、しわがれ声から老人のように思えるが、フードで陰になって顔はよく分からない。右手に節くれだった杖を持っていた。


“そうだな……きみたちの世界でいう言葉ならば……神様というものかもしれない”


「神様……では、ぼくの最後の願いを叶えてくれるのですか!?」


“そうじゃ……新しい世界で、新しい肉体で、別の人生を楽しむのだ……ただし、今の記憶は深層の奥底へ封じられる”


「え?」


“つまり、今の記憶はほとんどなくなるということだ……転生とはそういうものなのじゃ”


「そうですか……でも、死ぬ前に転生後の希望を聞いてくださって、ありがとうございます……」


“うむ……きみはそれだけの特典を得て生まれ変わるだけの資格がある。ここに七元素精霊石ズィーベン・ガイスト・シュタインがある。好きな物を選びなさい”


 フードの老人のふところから、光る物が飛び出し、僕の周囲をゆっくりと、ぐるぐる回りだした。手の平ですっぽり収まるくらいの輝く石のようだ。


「七元素精霊石とは何なのでしょうか?」


“精霊の力を秘めており、転生したきみに魔法の力を与えることができる石じゃ。赤い石が炎属性の火精石。青い石が水属性の水精石。紫の石が風属性の風精石。茶色の石が土属性の土精石。白い石が光属性の光精石。黒い石が闇属性の闇精石。これを身体に秘めると魔法全般を使うことができるが、特に属性の精霊石の魔法が強く使えるのじゃ。好きな物を選ぶといい”


「へえぇ……すごいんですね。あれ?」


 ぼくは輝く石をひい、ふう、みい……と、数えてみたが、七元素精霊石というわりには、輝く石は六つしかない。疑問に思っていると、神様と名のる老人のふところから、もう一つ輝く石が飛び出してきて、ぼくの近くに飛んできた。まるでアピールするみたちに、ひときわ強く黄金色こがねいろに輝いた。


「あの……この石は?」


 老人は困ったように、


“うむ……その金色こんじきに輝く石は雷属性の雷精石じゃ。しかし、あまりお勧めはできぬのう……”


「なぜでしょうか?」


“そやつは何というか……元気が良すぎてのう。転生した者は元気が良すぎて、トラブルを引き起こしてしまうことも、ままあるんじゃよ……”


 黄金色に輝く石はいくぶんしょんぼりしたように輝きを減じた。ぼくの心はこの精霊石にぐっと惹きつけられた。


「神様、この雷精石に決めました」


“お勧めはできぬと言うたが……”


「いえ。ぼくは現世では身体が弱くて、外で思い切り遊んだり、友人もろくに作れませんでした。だから、この元気者の精霊石がぼくにはちょうどいいくらいだと思います」


 雷精石がひときわ元気に輝いたように見えた。


“ふぅ~む……そうか。後悔はしないのじゃな”


「はい!!」


“ならば雷精石をおぬしに与えよう。雷精石よ、少年の力となれ!!”


 老人が杖を振りかざすと、杖先から光りがあふれ、ぼくを包み込んだ。そして、ぼくの胸に黄金色に輝く雷精石がぴたりとくっつき、そして、す――っと体内に消えていった。不思議と痛みはないし、身体の内から温かくなった。


“少年よ……黄昏たそがれの悪夢から、世界を救うのじゃ……”


 ぼくはその言葉を聞きながら、意識が薄れていくのを感じた……


 どこかで、赤ん坊の元気に泣く声が聞える。



 ここまで読んでくれてありがとうございます!


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