どんでん返しの婚約解消劇。
初投稿です。ざまぁ系を読んで自分も書いてみたいと思い創作してみました。
処女作なので、拙いところもありますがよろしくお願いします。
「マリアンヌ嬢っ!今日この場で貴女との婚約を解消するっ!」
突如、響いた声に会場に居た誰もがその声の主に注目した。
ここは、アーグ聖王国王都の宮殿で、今宵この場所では建国パーティーが催されていた。
国の重鎮たちと談笑していた彼女も、いきなり自身の名前を呼ばれ声の方へと振り向いた。そこに居たのは、この国の王子であり自分と婚約を結んでいるステファンだった。
「私はここで、貴女との婚約を解消し、そこに居るアネットと婚約するっ!」
王子はそう言い5~6mほど離れた所に居る少女顔を向けた。そしてそれに合わせて少女に視線が集まる。急に注目の的になった少女は少しでも目立たないようにかわずかに体を縮みこませた。彼女はステファンやマリアンヌと同じ学園に通う生徒であり、平民でありながら特待生の座を手に入れた秀才であり、ステファンが最近親身にしている少女であった。
「マリアンヌ譲、聞くところによると貴女は私が最近アネットと親しくしていると知り嫌がらせをしているそうではないかっ!」
「……何を仰っているので」
「しらばっくれるなっ!」
意味の分からない告発に、反論しようとしてそれを遮られた。
「私と彼女が会話をすればすかさず割り込み邪魔をするだけでは飽き足らず、彼女のもとにごみを送ったり、彼女のペンダントを奪ったり、階段から突き落として怪我をさせたりもしたそうではないかっ!」
会場がざわめき始め、「マリアンヌ様が?」「ありえない…。」などという声が聞こえてきた。身に覚えのない罪状の数々にマリアンヌは頭が痛くなってきた。
「…申し訳ありませんが、どれも記憶にございません。何か誤解があると思うのです…」
「まだとぼける気かっ!」
再び反論しようとしたがそれも途中で遮られてしまい、マリアンヌは少しカチンときた。
「私が直接調査して得た情報だ。貴女がアネットに、自分が王子である私と結婚した暁にはアネットを召使いにしてそばにおいてやると言っていたという証言も耳にしたぞ!」
マリアンヌは呆れてものが言えなかった。最近、王子が自分の周りを不審に嗅ぎまわっていることは知っていたが、この為だったとは…。
マリアンヌの呆れ顔を、追い詰められ困り果てた顔と勘違いしたのか、王子は周りの人間に語り掛ける。
「以上の理由をもちまして、私はマリアンヌ譲との婚約を破棄して、アネットと婚約したいと思います!さぁアンこちらへ」
アネットはゆっくりと歩きだし、二人の距離が2m程になったところで、
「ともにこの国の明るい未来を手に入れよう。」とロマンス小説に出てきそうなプロポーズの言葉を送った。
「殿下…。」
少女はその場で立ち止まり、そして頭を縦に振った…………………首ではなく腰を90度に曲げて。
「ごめんなさいっ」
現実は小説よりも奇なり、ロマンス小説なら読者の乙女であれば本を胸に抱き、キャーキャー言ってベッドで転がりまわるであろうシチュエーションでアネットの口から出たのは断りの言葉だった。
「なっ何故だ?アン!?」
「それは私、殿下のこと同じ学園に通う生徒としか思ってないというか…寧ろ苦手に思っていましたし、何よりっ、マリアンヌ様のことを悪人の様に話すのが頭にきたからですっ!」
そう言って、アネットはマリアンヌのもとへ駆け寄る。
「ふふっ、ありがとうアニー。」
マリアンヌはブンブンと音を立てる犬のしっぽの幻が見えてきそうなアネットに向かい感謝を述べた。
「当然です!マリアンヌ様はいつも私に優しくしてくれましたから!」
そう、先ほど王子が述べたマリアンヌの罪は全くの間違いだった。
アネットの家はあまり裕福ではなく、授業に使う教材を購入するのでいっぱいいっぱいがだった。それを見かねたマリアンヌは家にあった使っていないペンや辞書などを彼女に送った。それは彼女のお古だったため少し見た目に年季が入っていたがアネットはそれを受け取り大層喜んだ。
また、亡くなった祖母から譲りうけたペンダントの鎖が切れたときは、彼女に了承を得てペンダントを預かり、自分のお抱えの彫金師に直させてから彼女に返した。しかも金銭は受け取らず、これからの行動で示せば構わないと告げたのだった。
階段の件に関してなど、アネットの前方不注意でマリアンヌにぶつかり、3段くらいの高さから落ちて足を痛めただけである。この際にも、アネットに非があるにも関わらずマリアンヌは即座に謝罪して共に医務室まで付き添ったのだ。
そんな、マリアンヌの数々の善行の恩恵を受けてきたアネットが、彼女を悪く言う王子のプロポーズを受ける訳がなかった。
マリアンヌにとても懐いているアネットを見たステファンは未だ、状況が呑み込めていなかった。
「そんなっ、ありえない!なら、私とアネットが話しているときにしつこく邪魔してきたのはなんだったんだっ!」
マリアンヌはハァとため息をついて真実を告げた。
「しつこかったのは、私ではなく、貴方ですよ。アニーが貴方につきまとわれて困っていると相談され、貴方たちが二人になっているのを見かける度に間に割り込んだのですよ。」
ステファンは度重なる衝撃に心が折れそうだった。想い人への渾身のプロポーズを拒否され、婚約者の妨害は自分への嫉妬からではなく大切な友人を悪い虫から遠ざけるためのものだった。
「それに何ですか、私が王子と結婚した際にアニーを召使いにするという話は?」
確かに、マリアンヌがアネットに似たような話をしたことがあるが中身が全く異なった話で、その内容は『学園を卒業し、マリアンヌが祖国へ戻るとき、共に来て自分の秘書をして欲しい。』というものだった。
マリアンヌは巨大国家、バラン帝国の皇帝の娘で継承権1位の皇太子であった。バラン帝国は強大な軍事力を持っておりその戦力は周辺国家が束になったとしても数か月で帝国の勝利で決着がついてしまうほどだった。
そして帝国は、己の支配を広げるべく四方八方に侵略をしていた。抵抗する国は圧倒的力で叩き潰し、降伏した国は属国にしてその勢力を拡げていた。アーグ聖王国もその属国の1つだった。
マリアンヌとステファンの婚約は表向きは王族同士をくっつけて、国家の結びつきを強くすることになっているが、実のところステファンは聖王国が裏切らない為の人質であり、聖王国が裏切った際は真っ先に処刑される存在だった。
そんな緊張状態の二国だが、表向きは友好関係のため帝国で飛び級で勉学を修めたマリアンヌは、聖王国へ本来必要のない留学という態でステファンと同じ学園で学び、敵情視察をしていたのだった。
「ふぅ…、全く何をどうすればこの様な愚策を考えつくのでしょうか。」
マリアンヌはステファンの大方の目的の目星はついていた。恐らく、人質という立場が嫌でマリアンヌを悪人に仕立て上げ婚約破棄を正当化して、想い人と一緒になろうとしたのだろう。
だが、帝国はそんなに甘くない。一度噛みつけば、二度と噛みつかない様に早々に処分するのが帝国のやり方だ。
自分を縛る首輪で自分の首を絞め、最終的には本当に絞首台で吊るされる未来。そんなこと、少し考えれば思い至るはずだ。しかし、彼はそのことに気付かない程、愚かだったのだろう。
「とりあえず、この件はまた後日。本日はお暇させていただきます。」
マリアンヌはカーテシーをしてその場を立ち去り、アネットもマリアンヌの後ろで同じように挨拶し、マリアンヌのあとを追って退場した。
後に残ったのは、今頃になって自分の今後に絶望する王子と、自分たちに飛び火しない為に必死で話し合う、国の重鎮たちであった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後日、帝国と聖王国の話し合いがされた。
ステファンはあの後すぐに無抵抗で捕まり、現在幽閉されているらしい。
話し合いの結果、ステファンは廃嫡、王族籍から抜かれた後、国家の信用を著しく損なったとして処刑。国王も責任を取って王座を退き、10歳になるステファンの弟オリヴァーに後継に指名し、後見人として皇弟がつくことになった。
これにより、王国の政権を帝国が握ったことになるのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
数年後、マリアンヌは帝国の将来有望な若き将軍と結婚し子をなした。彼女が皇帝となると、その才を存分に活かして支配を拡げていき、帝国を育てた『帝国の母』と後世に呼ばれることとなる。
約束通り、卒業後マリアンヌについて行ってアネットも秘書としてしばらく働いた後、職場で出会った官吏と結ばれマリアンヌと同時期に子を産んだため、秘書を辞して乳母となり。マリアンヌに生涯尽くしたのだった。
最後まで、読んでいただきありがとうございました。