作品3-7
店主はその日、 かすみ を完成させた。
散々試行錯誤を重ねて頭を抱えていたのであるが、店に戻って店内の掃除をしていると、店主はふとレシピを思いついた。頭の中で浮かぶ言葉が線でつながった感覚。そのひらめきは音がするような衝撃であった。
店主は掃除を終わらせ、その勢いでキッチンに立った。店主はあたかも最初からレシピを知っていたかのような手際で料理を進めていった。そして午前中には完成させてしまった。
誘拐犯が言った期日まで、まだ時間はあるが、店主は腹を決めて誘拐犯に電話した。
「どうした。」
「できたぞ、かすみ。きょうは店を貸し切りにしてやる。いつでも来い。」
「ほう、もうできたのか。せいぜい最高のディナーにしてくれよ。」
電話がきれると、店主は店の戸締りをして、足りない食材の買い出しに走った。
食材をどっさりと買って帰ってきた店主は、誘拐犯が来るであろうその時間に備え、料理に取り掛かった。
ざっと10品の仕込みが終わった。その頃にはすでに日は沈み、夜空には月が出ていた。かかるもやがさらにあたりを明るくしているような夜であった。
店主は店の裏口から携帯電話を持って店内に戻ると、それと合わせたように店の扉が開いた。見慣れない顔、その後ろに店主の妻の顔がある。店主はついに誘拐犯と対面した。
つづく。