作品3-5
店主は電話の後、すぐにかすみが何なのかを調べた。すると、空気中に発生する現象であることがわかった。しかしそれを食いたいとはどういくことなのか、店主にはさっぱりわからなかった。
さらに調べていくと、仙人が食うもの、という説明を見つけた。わかったようで、しかしさらにわからなくなった。
実体がないものであるということ。そしてただのものの例えであるということ。それだけの情報で一体何を作れというのか。店主は金を要求された方がよっぽど楽だったと感じていた。
しかし、誘拐犯にあれだけ挑発されたこと、それ以前にシェフとしてのプライドに傷をつけたくないことのために、何としても作ってやりたいと思った。作れないものなんてない、その想いは店名の「ア・ジョージ」にもある。
ア・ジョージ→あじよーし→あじおーし→あ塩→あソルト→アソート。
詰め合わせの意味を借りて、どんな料理だって作って差し出すという想いを秘めているのである。意気込みと不安。期待と苦悩。感情がない交ぜになったまま店主は今カウンターに腰をもたれている。
やるしかない。時計の音が聞こえたところで我に返った。その途端に ふわり とコーヒーの香りが鼻についた。店主は火のついたようにキッチンをあさりはじめた。時刻は24時を迎える頃というのに、ア・ジョージは静かな商店街に煌々と輝き、店内に食器や調理具の打ち鳴る音がいつまでも響いていた。
つづく。