作品3-3
しかし、昼の休憩を終えても、店主の妻は結局帰って来なかった。午後の営業を一人でこなした店主が一息をつくことができたのは、すでに23時を過ぎた頃だった。
店主は店のカウンターで当日の売上を計算していた。妻がいればものの5分で終わる作業であるが、妻がいない今、慣れない手つきで電卓を打って早30分が過ぎている。
コーヒーを飲んでため息をつくと、店主の携帯電話がなった。画面のディスプレイには、妻の名前が表示されている。
「おい!お前今どこに…。」
「呑気なもんだな、自分の妻が誘拐されているというのに。」
電話の主は昼間の誘拐犯だった。いたずらだと思っていたが、妻の携帯電話を経由していることを考えると、どうやら本当のことらしく聞こえてきた店主であった。
「お前、うちのもんに何しやがった。」
さっきは言い負けた誘拐犯であったが、自分が誘拐犯であると認めてもらえたことをいいことに、強気に出ているらしい。
「どうだ、フロアに人がいないと色々不便だったろ。」
などと言って憎たらしく笑っている声がする。
店主は、
「金は用意する。どう渡せばいい。」
と誘拐犯を刺激しないように気を付けた。しかし夜までしばらく時間が空いて、事を企てたらしい誘拐犯は自信に満ちたように話し出した。それは、店主にとっては非常に都合の悪い話であった。
つづく。