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ベルサのマルタ島籠城戦日記

【五月二十一日】


 こんにちは!

 ベルサちゃんです!


 ある日、宮殿にでっかいウンコが降ってきて、ウンコの中に入ったらタイムスリップしちゃいました。

 自分でも何言ってるのかよくわかりません。


 とにかく過去のマルタ島ってとこにタイムスリップしたら、そこへオスマン軍って人たちが襲来してきたからさあ大変!


 ジャン・ド・ヴァレットっていうお爺ちゃんに出会って、砦に匿ってもらったんだけど、これからどうなっちゃうのかな?

 ユスタお姉ちゃんが、しばらくはこの砦に籠城するしかないって言ってます。

 それで、せっかくだからこの砦の中での生活を日記につけていこうと思います。

 三日坊主にならないように、がんばるぞー!




 【六月八日】


 お久しぶりです、ベルサちゃんです。

 半月ぶりに日記をつけます。


 あれからオスマン軍が上陸してきて、毎日のようにこの砦に攻め込んできています。

 お姉ちゃんが言うには、オスマン軍の目標は、【聖ミケーレ砦】、【聖アンジェロ砦】、そしてこの【聖エルモ】砦を落とすことらしいです。


 オスマン軍は、高地に設置した砲台から砲撃してきているみたいで、ドカンドカンと景気のいい音が聞こえています。

 片やこっちの砲台は、木材を破壊できるくらいの物しかありません。

 悔しいから、砲台にありったけの火薬とマザランを詰め込んで発射してやったら、マザランがすごい勢いでお空の彼方まで飛んでいきました。


 エスパー伊藤みたいで面白かったです。




 【六月十一日】 


 数日ぶりのベルサちゃんです。


 オスマン軍はいっそう攻め手を強めてきています。

 一時は砦の内部にまで攻め込まれちゃいました。

 だけどオスマン兵が砦の内部に侵入したその時、突如爆発が起きて、オスマン兵を吹き飛ばしました。


 これがヴァレットさんが用意していた秘策らしくて、導火線を調整した爆弾で爆発を起こしたり、火薬を撒き散らして炎を燃え上がらせたり、砲撃でできた瓦礫まで火薬で吹き飛ばして兵器にしちゃってました。

 まるで魔法みたい!

 ちなみに、ボロボロの姿で砦に戻ってこようとしてたマザランも、この爆発に巻き込まれて吹っ飛んでました。


 エスパー伊藤みたいで面白かったです。

 



 【六月十二日】


 あれからオスマン軍との激戦が続いています。


 ヴァレットさんが用意した火縄銃を使ってオスマン兵を追い払っていますが、敵軍も銃撃隊を投入して応戦してきます。


 相手が放った銃弾が、私のほっぺをかすめて、少し血が出て痛かったです。


 でもそれを見たアンリが、般若みたいな顔して砦の下まで降りていくと、ぱったりと銃撃が止みました。


 不思議に思って外を覗くと、砦の周りが真っ赤な池になってて、その池にオスマン兵の鎧や兜がプカプカ浮いていました。


 さっきまでいた敵兵士の姿は一人も見えません。


 お腹がすいたから、ご飯食べに戻っちゃったのかな?


 ちなみに私のほっぺの傷は、ヴァレットさんが薬を塗って治してくれました。

 お姉ちゃんが言うには、聖ヨハネ騎士団は別名【ホスピタル騎士団】とも呼ばれ、普段は医療現場で働くお医者さんでもあるらしいです。

 ハイスペックでかっこいい!


 あとね、戻ってきたアンリが、ぐったりしたマザランを抱えていました。

 砦の土手に、頭から突き刺さってたらしいです。

 ヴァレットさんにマザランも治してあげてってお願いしたんだけど、悲しげな表情で、黙って胸の前で十字を切っていました。


 残念、マザランの人生はここで終わってしまった!




 【六月二十二日】


 お久しぶりのベルサちゃん日記です。


 いよいよこの砦が危ないです。


 ヴァレットさんたちの必死の抵抗で、かなりの数のオスマン兵たちを撃退していますが、あまりにも敵の量が多すぎるみたいです。


 一か月に渡って敵の猛攻に耐えてきたけど、ここらが限界らしいってヴァレットさんも言ってます。


 あと、何かマザラン生きてました。


 他の戦死者さんたちと一緒に埋葬してあげたんだけど、数時間後に息を吹き返したっぽいです。


 よかったよかった。




 【六月二十三日】


 ついに聖エルモ砦が陥落しました。


 私たちもヴァレットさんたちと一緒に砦を脱出しました。

 ちなみに脱出のときに、オスマン兵に囲まれたんだけど、アンリが全員ぶちのめしてくれました。もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな?


 ともあれ、そうしてこの聖ミケーレ砦に逃れることができたんだけど、オスマン軍は早くもこの砦を包囲してきました。


 聞くところによると、聖アンジェロ砦も同じように包囲されてるみたいです。


 このままじゃマズイ。きっと戦況はかなり厳しくなっていくでしょう。


 これからは毎日日記をつけて、戦いの詳細を記録していこうと思います。




 【八月十日】


 そういえば日記つけてたことを思い出したので再開してみます。


 今日はヴァレットさんと少しお話をしました。


 ヴァレットさんが言うには、オスマン軍に自分たちの領土が攻められるのはこれで二度目なんだそうです。


 四十三年前。


 ヴァレットさんたちは、ロドス島という島で暮らしていたそうです。


 でもそこへオスマン軍が攻めてきて、ヴァレットさんたちは島を追い出されてしまいました。


 行く当てもなく放浪の旅を続けた末に、神聖ローマ皇帝のカール五世って人からこのマルタ島を与えてもらい、ようやく腰を落ち着けることができたそうです。


 それから何十年もかけて、何もなかったマルタ島を人が暮らせる土地に開墾してきたというのに、またオスマン軍が攻め込んできました。


 もう二度と、祖国を失うつらさや苦しさを味わいたくないと、ヴァレットさんは言います。


 その話を聞いて、何だか悲しくなりました。


 私も前に、お隣の国の人が私の悪口を言ってたから、その国を滅ぼしたことがあるんだけど、ちょっぴり申し訳ないことをしたかもと思いました。


 ごめんね、お隣の国の人たち。元気出してね。




 【八月十九日】


 いよいよオスマン軍が本気出してきました。これまでにないくらい大規模な総攻撃です。


 騎士団の人たちも槍を手にし、総出で迎え撃ちました。でも圧倒的なほど兵力量に差があります。


 だけど、オスマン兵が騎士団の槍に触れた瞬間。


 突如、オスマン兵は全身を炎に包まれました。


 これぞ世に伝わるファイヤーランスだと、ユスタお姉ちゃんが教えてくれました。


 元は中国の炎を使った兵器、【火竜神器】に端を発する兵器で、燃えている槍の先端から高温のタールを吹き出す火炎放射器だそうです。


 オスマン兵は機動力を上げるために布の服を着ていたため、周りを巻き込んで引火し、辺り一面が火の海になりました。


 さらにヴァレットさんが考案した、ファイヤーフープも脅威的でした。


 細い鉄の輪にタールや麻などを巻き付け、それに火をつけて何百本と斜面から転がすのです。


 敵は密集しているためかわすことができず、ほんの少しでも触れればたちまち全身に引火し燃え上がるのです。


 まさに魔法使いみたいなヴァレットさんの戦い方に、オスマン軍は為す術もありません。


 これは逆転大勝利くるか!




 【八月二十一日】


 オスマン軍がとんでもない切り札を出してきました。


 巨大な攻城櫓です。


 この櫓を使って、防壁を乗り越え、直接砦の中に乗り込んでくるつもりらしいです。


 でもヴァレットさんは、このオスマン軍の思惑すらも読んでいました。


 砦の外壁を取り外すと、そこに騎士団の大砲を設置したのです。


 大砲から砲弾が一斉に発射され、オスマン軍の攻城櫓を破壊していきます。


 しかし何ということでしょう!

 もう砲弾がありません!

 マザランを捕まえて、むりやり大砲にねじ込みます!

 マザランが必死に抵抗してきます!

 力ずくでねじ込みます!

 発射します!

 やった! 見事、櫓に命中しました!


 マザランの体には、あらかじめ長い鎖を巻き付けておいたので、鎖を引っ張ってマザランを回収します!

 また大砲にねじ込みます!

 発射します!


 マザラン回収します!

 マザランねじ込みます!

 マザラン発射します!


 やったぜ、櫓は木っ端微塵!

 ついでにマザランの頭も木っ端微塵!


 戦意を失ったオスマン兵たちが逃げていきます。


 かくして多大な犠牲を払いながらも、ついにオスマン軍を撃退することに成功しました。

 これでようやく、このマルタ島にも平和が戻りそうです。


 あと、何かマザラン生きてました。



 

 【八月二十三日】


 砦の周辺から、オスマン軍がいなくなりました。


 騎士団の皆も安堵した様子で、砦の中には祝勝ムードが広まっています。


 だけど、何故かヴァレットさんは険しい顔をしています。何か嫌な予感がするそうです。


 そのとき、物見役の人が血相を変えて飛び込んできました。


 何とオスマン軍が、市街地を攻撃しているそうです。


 無防備な市街地を襲い砦を孤立させようという、卑劣極まる最終手段です。


 これを聞くや、ヴァレットさんの顔が激しい憤怒の色に染まりました。


 そして弾かれるように駆け出し、馬に乗って砦から飛び出していきました。


 大変! きっとオスマン兵に襲われている市民を助けるつもりなんだ。私たちも追いかけて、ヴァレットさんを助けなきゃ!


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