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その名は、ジャン・ド・ヴァレット

 空中にウンコ型のタイムマシンが現れ、それが地面に墜落する。


 しばらくのちに、何人かの人影がタイムマシンから転がり出た。


 ユスタ、ベルサ、マザラン、アンリの四人だ。


 「うぅ……いたた」


 ユスタが頭を抑えながら立ち上がる。


 「ここは……?」


 そこは草木がまばらに茂る、岬のようだった。

 眼前には青海が広がっている。


 「わー、海だ海だぁ!」


 大海原を見渡しながらはしゃぐベルサの横で、ユスタは小さくため息をついた。


 「ここはどこなのかしら」


 マザランがついと片眼鏡を吊り上げる。


 「海が見える……ということは、少なくとも群馬県ではないようですね」


 「その分析必要か?」


 ややあって、墜落したタイムマシンの中から、キトラが出てきた。


 「やれやれ、またどこか別の時代に不時着したようね」


 「別の時代ですって?」


 ユスタが訝しげにキトラを睨む。


 「じゃあここは、私たちがいた時代じゃないっていうの?」


 「ええ、どの時代のどの場所なのか詳しくはわからないけれど」


 ベルサがちらりとアンリを見る。


 「アンリ、ちょっと調べてみて」


 「はい、かしこまりました」


 アンリが少しかがんで天を仰ぐ。


 直後、アンリは一気に上空高く飛び上がった。そのまま雲まで届こうかという高度までぐんぐん上昇したのちに、やがて地上まで落ちてきて、優雅に着地した。


 「お待たせいたしました。上空から観察してみたのですが、どうやらここはどこかの島みたいですね」


 「島ですって?」


 「はい、大体の目算ですが、恐らく面積にして250㎢くらいの島かと。建造物が見えたので無人島というわけではなさそうです」


 そんなことはどうでもいい、とマザランが冷たく言った。


 「タイムスリップだか何だか知りませんが、あいにくこんな島で悠長に過ごすほど暇ではありませんので。政務も溜まっていますし、ユスタ王とベルサ王の暗殺計画も練らねばならないので、早いとこ宮殿に帰りたいのですが」


 それは無理よ、とキトラが言った。


 「え?」


 四人がキトラを見る。


 「さっきも言ったけど、タイムマシンの年代設定機能が故障しているの。あなたたちを送り返してあげたいのは山々だけど、このままじゃ元の時代を狙ってタイムスリップすることはできないわ」


 これを聞き、マザランの顔に冷や汗が浮かんだ。


 「おいマジかよ。じゃあどうするんだ?」


 「タイムマシンを修理するしかないわね。そのためにはいくつか修理用の工具が必要よ」


 「工具とは?」


 「釘とトンカチ、あとノコギリが必要だわ」


 「このタイムマシン、日曜大工で作ったん?」


 「というわけで、元の時代に帰りたいなら、工具を調達してきてちょうだい」


 四人が顔を見合わせる。


 「……どうしますか、ユスタ王」


 「しょうがないわね。今がいつ頃の時代なのかわからないけど、さすがにトンカチやノコギリくらいならあるでしょう」


 「じゃあさっそく、ホームセンター探しに行こうよ」


 「まあ、それではアンリもお供いたしますね」


 こうして。


 元の時代に帰るため、四人はやむなく島内探索へ繰り出したのだった。




 ユスタたちは林の中を進んでいった。


 「さっき確認した建造物は、多分こっちの方角です」


 先頭を歩くアンリが三人を先導する。


 「こんな見ず知らずの島で迷子になったら面倒だわ。皆、離れちゃダメよ。特にベルサ、変なとこに寄り道しないようにね」


 「見て見てお姉ちゃん、どんぐり拾った!」


 「寄り道すんなっつってんだろ」


 「ちぇー、わかったよ、お姉ちゃん」


 ユスタとベルサがそんなやり取りを交わした、その五秒後。


 「あの、ユスタ王」


 「何、マザラン?」


 「ベルサ王がいなくなりました」


 バッとユスタが振り返る。見れば、今までいたはずのベルサの姿が忽然と消えていた。


 「あのバカスケ。フラグ回収するの早すぎでしょうが」


 ぎりりと拳を握りしめ、ユスタが苛立ちをあらわにする。


 「アンリ、すぐにあの子を探してちょうだい」


 「はい、かしこまりました」


 言うなり、アンリは四つん這いになって、スンスンと地面の匂いを嗅ぎ始めた。


 「ああ、こっちです、間違いありません。アンリめは半径一㎞以内なら、ユスタ王とベルサ王の匂いを的確に嗅ぎ分けることができますので」


 「そう、さすがはアンリね。マジクソキモいことこの上ないけど」


 そのままアンリは地面に這いつくばって、ゴキブリか何かを彷彿とさせる動きでカサカサと前進していく。その後をユスタとマザランも追っていった。


 「きゃああああああ!」


 突如、前方から悲鳴が聞こえた。間違いなくベルサの声だ。


 三人は駆け出して、視界を遮って生い茂る草をかき分けた。


 そこに。

 全身黒ずくめの男たちがいた。


 頭から黒頭巾を被っているため人相はわからないが、衣類の上からでもかなり鍛えられた筋肉質な体であることが伺える。

 そしてその内の一人が、腕の中に暴れるベルサを捕らえていた。


 「ベルサ!」


 「きゃー、お姉ちゃん、助けてー!」


  男の一人が、ユスタたちの前に立ちはだかる。


 「お前たちは何者だ」


 「それはこっちの台詞よ、すぐにベルサを離しなさい」


 「うわーん、きっとこの人たち変態さんだよ! このあと私、レイプされちゃうんだ、エロ同人みたいに!」


 「ええい何者か知らんが、我らの姿を見られたからには生かしておけぬ」


 男たちが腰元から短剣を抜き、じりじりとユスタたちに迫ってくる。


 「死ねぇぇぇ!」


 「アンリ!」


 男たちが飛び掛かってきた瞬間、ユスタが叫んだ。


 直後、抜刀音とともに走る残光一閃。


 刹那の間もなく抜き放った大剣を、アンリが再び鞘に納めたとき、男たちの体は、骸となって地に倒れ伏していた。


 「は……?」


 残ったのはベルサを捕らえていた一人だけだ。


 「何だ……何をした……?」


 残った男は動揺を隠せず、ベルサを抱えたまま後ずさりする。


 同時に、アンリが一歩前に出た。


 「あらあら、そんなに怖がらなくてもいいんですよ」


 ギラリ、とアンリが鬼の笑みを浮かべた。


 「痛みを感じる間もなく逝かせてやるからよ」


 「ヒィッ」


 男は咄嗟に、短剣をベルサの喉元に突き付けた。


 「うっ、動くな! 動いたらこの娘を殺すぞ!」


 何ッ、とマザランが叫んだ。


 「おっと何故か唐突にツイストダンスを踊りたくなりました」


 その場でマザランが華麗なツイストを披露し始める。


 「聞こえないのか! 一歩でも動いたら、娘の喉を掻っ切るぞ!」


 「すみませんベルサ王。何故か突然ヒゲダンスを踊りたくなりました」


 おいコラ、とユスタがマザランを睨む。


 「チクショウ、舐めやがって……!」


 男がベルサの首根っこを掴んで掲げ上げ、短剣を振りかぶった。

 すかさずアンリが大剣に手を掛ける。


 しかし。

 アンリが剣を抜くよりも先に、突然男の背後から、一本の槍がその体を貫いた。


 「がぁっ……」


 苦悶の断末魔とともに、男はどさりと倒れた。


 「ふぎゃっ」


 同時にベルサも小さく叫んで地面に投げ出された。倒れたまま振り向くと、そこに甲冑を着た老人が立っていた。


 「ベルサ!」


 ユスタが駆け寄ってベルサを抱き起こす。そして二人揃って、前方の老人に視線を向けた。


 老人は無言で、二人を見下ろしていた。


 「あなたは……何者なの?」


 憂い声で問うユスタに、老人は答えた。


 「吾輩は聖ヨハネ騎士団総長、ジャン・ド・ヴァレットである」


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