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一応キャラとか組織に元ネタのモチーフはあるんですが、あえて伏せさせていただくということで一つ……

 それからしばらくのち。


 マザランと男性は、自由の女神像そばの古倉庫に逃げ込み潜んでいた。


 埃っぽい倉庫の中で、二人は互いに木箱に腰掛け向き合っている。


 「えっと……ニコラ・テスラさん……でしたっけ?」


 マザランが対面の男性、ニコラ・テスラに話しかける。

 テスラは手を組んだまま、伏目気味に床を見据えていた。


 「そろそろ説明してもらえませんか」


 「何から聞きたいのかね?」


 テスラはマザランと目を合わせず、独り言のようにつぶやいた。


 「何からと言われると……。じゃあ、こんな古臭い倉庫に逃げ込んだ理由は?」


 「悪党に追われていたからだ」


 「悪党というのは、あなたを麻袋に詰め込んで車を乗り回していた、さっきの連中のことでしょうか」


 「そうだ」


 テスラが発する言葉は、どれも短く簡潔なものばかりだった。


 「その連中というのは、何者なんですか?」


 「それは……」


 聞かないほうがいい、とテスラは小声で言った。


 ピクリ、とマザランが眉を動かす。


 「じゃあその連中が、あなたを麻袋に詰め込んだ理由は?」


 「ある物を、奴らが欲しがったからだ」


 「ある物? 何ですか、それは?」


 「それも聞かないほうがいい」


 マザランは苛立ったようにその場でタンタンと足踏みをした。


 「あの、失礼ながら、うら若き乙女をこんな薄汚い倉庫に連れ込んでおいて、そういう態度はないんじゃないですかね」


 ここでテスラは顔を上げ、初めてマザランの目を見た。


 「どうせ聞いても意味のないことだ」


 「そんなもん、聞いてみなくちゃわからないでしょう」


 ふぅ、とテスラの口から小さなため息が漏れた。


 「奴らはある国の秘密組織の連中だ。奴らの狙いは、私が発明した地球を破壊できる装置なのだ」


 「では私はこの辺で、失礼いたします」


 軽くお辞儀して、マザランは倉庫の出口に向かった。


 「だから聞いても意味がないと言っただろう」


 立ち去ろうとするマザランの背中に、テスラが声を投げた。

 しかしマザランは構わずつかつかと歩いていく。


 「あいにく私はおっさんの与太話に付き合っているほど暇ではありませんので」


 それでは、と言い倉庫から出ようとしたマザランだったが、そこでピタリと動きを止めた。そしてくるりと振り向いて、またテスラのそばまで戻ってきた。


 「行かないのか?」


 「ええ、気が変わりました」


 「どうしてだね?」


 「理由は二つ。一つは肝心なことを聞いていなかったからです」


 「肝心なこととは?」


 「今って西暦何年なのでしょうか?」


 テスラは意外そうに目を見開いた。


 「妙なことを聞くものだな。今は1906年だ」


 「なるほど……やはり私はタイムマシンから投げ出されたせいで、途中の時代に落ちてしまったということか……」


 ブツブツとつぶやくマザランに向かって、テスラは少し身を乗り出した。


 「それで、もう一つの理由は?」


 マザランは親指を立てて、倉庫の出口を示した。


 「外に得体の知れない奴らがたくさんいるからです」


 それを聞き、テスラはやれやれとばかりに首を振った。


 「もう嗅ぎ付けられたか。仕事熱心なことだ」


 「私は無関係なんで、そこんとこ説明してもらえませんかね」


 マザランがそう言った直後。


 倉庫の天窓を突き破って、黒服の男たちが飛び込んできた。


 「うわぇっ?」


 驚いたマザランがもんどりうって床に倒れる。


 床に着地した黒服の男たちは、口上もなしに懐からピストルを取り出し、容赦なく発砲してきた。


 「うわわわわっ!」


 マザランは這いつくばって逃げ出した。そして倉庫の扉を突き破って、外へと転がり出る。


 しかし、倉庫の周りはすでに、何十人もの黒服連中によって包囲されていた。


 「うわぁ」


 たじろぎながら、マザランは周囲を見渡した。端から端までずらりと並んだ黒服たちによって、完全に逃げ道は封鎖されているようだった。


 そのとき。

 倉庫を囲む男たちの奥から、一人の女性が進み出てきた。踊り子のようにエキゾチックな衣装を身に着け、紺色のマントを羽織った、美しい黒髪の女だった。


 「オーッホッホッホ! 随分と手こずらせてくれたわねぇ」


 女はいかにも高飛車な笑い声を上げながら、マザランに近づいてきた。


 「どちら様でしょうか」


 マザランが問うと、女は顔をついと上げて、甲高い声でフンと鼻を鳴らした。


 「どちら様とはこちらの台詞だわ。せっかく捕まえたニコラ・テスラを、あなたが逃がしてくれちゃったことは存じ上げてるのよ」


 「えぇぇ……」


 マザランが呻きながら顔をしかめる。


 と、倉庫の中からニコラ・テスラが、黒服の男たちに両腕を捕まれて外に出てきた。その頭には、ピストルが突き付けられている。


 「ハリマータ様、ニコラ・テスラを捕らえました」


 テスラを捕まえている男がそう伝えると、ハリマータと呼ばれた女はまた高笑いを響かせて、煽情的に腰をくねらせながら彼に歩み寄った。


 「今度は逃がさないわよ、ニコラ・テスラ。さあ観念して、共振発生装置のありかを教えなさい」


 「断る」


 即答したテスラを嘲笑うように、ハリマータは口元を吊り上げた。


 「あらそう、さすがはかの有名なニコラ・テスラ。噂通りの石頭だわ」


 次の瞬間、ハリマータの手が素早く伸びて、マザランの首根っこを掴んだ。


 「ぐえっ!」


 ハリマータが倉庫の壁にマザランを押しつけて、頭にピストルの銃口を突きつける。華奢な細腕に見合わぬ怪力だった。


 「なら……お仲間に尋ねるまでよ。さあ、答えなさい。共振発生装置はどこ?」


 「うぎぎ……! な、何のことだよそれは……!」


 「あなたまでしらばっくれる気? 共振現象を利用して、人工的に地震を発生させる破壊兵器のことよ」


 マザランの喉を締めつけている手に一層力がこもる。


 「ニコラ・テスラ、あなたが装置を完成させたという情報は掴んでいるのよ。我が組織の諜報力を舐めないでちょうだい」


 「そうか、だが私の返事は変わらん」


 「まったく強情だわねぇ。だけどあなたがだんまり決め込むってんなら、こちらのお仲間が脳ミソぶち撒けることになるわよ」


 ハリマータが銃口を、マザランのこめかみにグリグリと押しつけた。


 「別に仲間というわけではない。たまたま知り合っただけの、赤の他人だ」


 これを聞いたマザランの顔に冷や汗が浮かぶ。


 「おい、ふざけんな! 助けてやった恩も忘れて、私を見捨てる気か!」


 必死に叫ぶマザランを横目で見つつ、テスラは目一杯に大きな溜息を吐いた。


 「わかった……。彼女を離してやってくれ」


 「ふふん、そうそう若い女性は大切にしてあげなくちゃね。さあ言いなさい、共振発生装置はどこにあるの?」


 「……サンフランシスコだ」


 テスラがそう告げると、ハリマータは手を放してマザランを解放した。


 マザランは激しくむせ込みながら、その場に膝をついた。


 「サンフランシスコのどこ?」


 「街の郊外に、私の秘密の研究所がある」


 「あらそう、だったらそこまで案内してもらわなくちゃね」


 ハリマータが手を上げると、周りを囲んでいた黒服の男たちが、じりじりと近づいてきた。


 「この二人をひっ捕らえなさい。今度は逃げられないよう入念に拘束するのよ」


 これを聞き、マザランは焦り顔でハリマータを見上げた。


 「チョ・マテヨ! 私は無関係なんだってば! あんたらを邪魔立てしようなんて気はさらさらないから、もう解放してくれ!」


 「あらあら、ここまで話に首突っ込んどいて、無関係ってことはないでしょう。当然、あなたもサンフランシスコまでお付き合いいただくわ」


 そんなぁ、とマザランがかすれた声を漏らす。


 そんなマザランを尻目に、ハリマータは手の甲を顎に添えて高々と笑った。


 「オーッホッホッホ! 天才ニコラ・テスラが、その気になれば地球を破壊できるとまで豪語する共振発生装置。それを手に入れれば、我らが組織の力もますます盤石化されるというものよ。オーッホッホッホ!」


 上機嫌に高笑いしているハリマータを見据えながら、マザランはギリリと歯を嚙み締めた。


 そのときだった。


 ヒュオンという風切音が聞こえた次の瞬間、マザランたちの前に、上空から何かがズドンと降ってきた。


 一同が揃って目を向ける。


 その正体は。


 ピンク色の髪に、白い鎧を着込んだ麗しい女。


 すなわち、アンリだった。


 「え!」


 突然現れたアンリの姿に驚愕し、マザランは目をいっぱいに見開いた。


 「お、お前……何でここに…?」


 「あらあら枢機卿殿。探しましたよ」


 アンリは柔らかい笑みを浮かべて、髪を揺らしながら駆け寄ってくる。


 「枢機卿殿ぉー」


 「何だか知らんが丁度よかった! 今すぐこいつらをぶっ飛ばして、助けてく」


 「死ねオラアアアァァァッ!」


 直後、アンリの超高速の右ストレートパンチがマザランの顔面をぶち抜いた。


 「ごっばぁぁぁぁぁぁ!」


 マザランが凄い勢いで吹っ飛んだ。その体が地面に叩きつけられてもなお勢いは収まらず、肉体が擦り降ろされるようにコンクリートの上を滑っていく。


 その後を追って、アンリが俊足で突進していった。


 「よくも私たちを置き去りにしてくれたなァァァ!」


 そしてアンリは倒れたマザランに馬乗りになって、猛烈な勢いで拳の連打を叩き込んだ。


 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」


 「ごばばばばばばばばばばばばばばばばばぁっ!」


 マザランがボコボコに殴られている光景があまりに凄絶すぎて、ハリマータたちは茫然として身動きすらできなかった。


 やがてマザランが完全に意識を失うと、アンリはその頭部をむんずと掴んで立ち上がった。


 「この落とし前、きっちりつけてやるから覚悟しとけよォォォッ!」


 もはや生きているかもわからないほどズタボロなマザランの耳に向かって叫んだ後、アンリはテスラやハリマータたちのほうに向き直り、ぺこりと頭を下げた。


 「お取込みの最中に失礼いたしました、皆様方。では私たちはこれにて」


 そう言ってアンリは、マザランの体を担いで飛び上がり、その姿を消した。


 残されたハリマータたちは、目を点にしたまま、無言で立ち尽くしていた。


 「……………………………………何なん?」


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