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アンリの章 (前編)

※今回と次回のお話は番外編です。


サイコでピンクなアンリが主役なので生暖かく見守ってあげてください。

 ご機嫌麗しゅう、皆々様方。


 私、アンリと申します。


 カステルモール王家に仕える軍人で、憚りながら王朝より大元帥の称号を賜っております。


 今でこそ大元帥という過分なる地位に就いておりますが、かつて未熟であった時分には、若き正義感に突き動かされるままに、大恩ある王家に対して弓を引いたこともありました。


 戦争から民を守るため。


 重税から民を助くため。


 私は反乱を起こしました。


 我ら素人集団の寄せ集めである反乱軍に対して、相手は国家の軍勢です。敵はあまりにも強大すぎました。


 敵軍は微塵の躊躇もなく、我々に集中砲火を浴びせてきました。銃撃、砲撃、最新鋭兵器による容赦のない攻撃に晒され、私は不覚にも擦り傷三か所という痛烈なダメージを負ってしまいました。


 しかし私は背後にいる仲間たちを守るため勇気を奮い起こし、大剣を片手に、眼前に迫る敵軍に向かって決死の突撃を敢行したのです。


 相手は何十万という大軍勢です。とても一筋縄ではいきませんでした。


 けれど、時間にして約2分30秒という大激戦の末に、私は敵軍を全滅させました。あまりにも激しい戦いであったために気付きませんでしたが、どうやら核兵器も使用されていたみたいです。道理で体に軽い火傷ができていたわけです。


 そうして辛くも勝利を掴んだ我らは、そのまま宮殿へと突入しました。国家の象徴である王の首を討ち取るためです。


 そのときもはや我々を遮るものはなく、私は先陣切って、玉座の間に踏み込みました。


 そこに。


 そこに、いらしたのです。


 あのお二人が。


 美しい紫とオレンジの髪。


 鬼の琴線さえとろめかすプリティフェイス。


 あまりにも可愛すぎるその御姿。


 あれこそが我が国を統べる双子の王。


 ユスタ王。


 ベルサ王。


 ユスユス。


 ベルベル。


 お二人を見たとき、私の心はもみくちゃにされました。


 可愛い。可愛すぎる。


 ああ。


 めっちゃシコい。


 そのとき、私は理解したのです。誰が本当の敵なのか。誰が本当の悪なのかを。


 あれほどまでに可愛い王を討ち取ろうなどと、いったい誰が考えたのか。


 そんな不埒者、到底許せるわけがありません。


 私は小さく前ならえしてから、回れ右をいたしました。


 そこには、私に続いて宮殿に踏み込んできた反乱軍の面々がいました。皆、不思議そうな面持ちでこちらを見ています。


 彼らが。


 奴らが。


 あの野郎どもが。


 我が王を手に掛けようとしたのだと。


 ゆ。


 ゆゆゆ。


 許せねえええええええええええええええええ!


 クソちっぽけなド平民の分際でえええええええええええ!


 めちゃシコなユスタ王とベルサ王に反旗を翻そうだなんてええええええええ!


 二度と愚かしい謀反など起こさぬようにいいいいいいいい!


 無間地獄へ叩き込んでくれるわあああああああああああ!


 私は激しい怒りに駆られるままに反乱軍に襲い掛かり、完膚なきまでに壊滅させてやりました。


 以来、私はお二人に絶対の忠誠を誓い、この国を理想郷へと昇華させるべく、君臣の道に従い側にお仕えしている次第なのです。





 「ねぇねぇ、アンリ」


 そう声を掛けられて、私は振り向きました。艶やかなオレンジ色の髪に、キラリと光る太陽の髪飾り。ベルサ王が私の後ろに立っていました。


 「あらあらベルサ王。ご機嫌麗しゅう」


 私が挨拶すると、ベルサ王は天使のような無垢の笑みを浮かべて、こちらに何かを差し出しました。


 「あら、これは……?」


 「あのね、さっきね、宮殿のお庭を散歩してたら拾ったの」


 ベルサ王が手にしていたのは、串に刺さったダンゴムシの死骸でした。


 「可愛いでしょ? お姉ちゃんにも見せてあげたんだけど、捨ててこいって言われたから、アンリにあげようと思って」


 まあ!


 まあまあ、何と優しいお心遣い。


 思わぬプレゼントに、私は天にも昇る気持ちで白目を剥いて喜びました。


 「ありがとうございましゅううう! ベルサ王からの贈り物はあああ! 生涯かけて我が宝あああ! 私の両目をくり抜いてえええ! 代わりにこのダンゴムシを詰め込んでおきましゅううう!」


 私はさっそく大剣を抜き放ち、自分の両目をくり抜こうとしました。


 しかし。


 「あ、待ってアンリ。そういえばさっきね、お姉ちゃんが言ってたの。もしアンリを見かけたら、自分とこへ来るように呼んできてほしいって」


 あらまぁ。


 そういうことなら仕方ありません。


 両目を失っては、ユスタ王のもとへ辿り着くにも難儀することでしょう。主君からのお呼び立てとあらば、すぐにも御前に馳せ参じなければなりません。


 「では今から参りましょう。申し訳ありませんが、この贈り物、私が帰るまで預かっておいていただけませんか?」


 「うーん、よく見たらキモいから、捨てておくね」


 そして私は踵を返し、ユスタ王のもとへ向かいました。





 「あら、アンリ、来たのね」


 ユスタ王は玉座の間にいらっしゃいました。ベルサ王に負けず劣らず可愛らしい顔をこちらに向けられて、私はもう少しで(ピーッ)してしまいそうでした。


 「はい、ユスタ王。アンリに何か御用でしょうか?」


 「ええ、実はさっきマザランから聞いたのだけど、最近どうもこの国に、難民の流入問題が発生しているらしいのよ」


 「難民ですか?」


 ユスタ王は頷きました。


 「事の起こりは数か月前、この国の南東にある国境付近で、宗教間の対立紛争が勃発したらしいわ」


 ユスタ王が仰るには、ある宗教組織が派閥分裂を起こし、その対立が激化した結果、ついには武力兵器による紛争にまで発展してしまったそうなのです。


 その戦火に巻き込まれた周辺住民が住処を追われ、難民としてこの国に流入してきているとのことでした。


 「難民たちは理不尽な戦火によって住居を失った犠牲者よ。我が国は難民条約に加盟しているし、できる限りの保護を与えたいところなのだけれど、難民たちのことを快く思わない国民がいるのも現実よ。王朝政府としては何らかの対応策を講じるべきなのだけれど、なかなかに難しいの」


 そこで、問題の根幹である宗教対立を仲裁して事を収めてきてほしい、とユスタ王は仰いました。 


 「こんなこと頼めるのは、アンリしかいなくて。大丈夫かしら?」


 大丈夫かだなんてそんなこと、是非にも及びません。


 「ああ、ユスタ王の慈愛は大海の果てまで及ぶがごとき広漠たる賜物。このアンリ、心底より感激いたしました」


 本来は国にとって重荷である難民たちに対してまで慈悲をかけるユスタ王の優しき御心を、どうして無碍にできましょうか。


 王の憂慮を取り払うため、全身全霊を尽くすのが我が務め。


 そして見事に務めを果たした暁には。


 きっとユスタ王は喜んでくださるはず。


 喜んでご褒美をくださるはず。


 ご褒美はユスタ王のくりっとラブリーキュートなそのお目々。


 ユスタ王の眼球と私の眼球を交換してええええええ!


 未来永劫、同じ景色を見つめ続けるにょおおおおおお!


 もちろんベルサ王も一緒にだよおおおおおお!


 「アンリ? アンリ、大丈夫なの?」


 心配そうにこちらの顔を覗き込むユスタ王に、私はドンと胸を張ってお答えしました。


 「勿論です! この一件、アンリめにお任せください!」


 こうして私は、単身、紛争地域へと赴いたのでした。

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