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ハンサム☆シャーク!  作者: 羊蔵
最終章 星・鮫・嵐
78/80

5-17 サメちゃんのほんとのはなし


△△△


 ぶっといサメビームが、ぱくぱくシャークランド全体を白く染めている。

 勝利を確信したシャクティが叫ぶ。


「勝った……! サメは勝つッ!」


 ハンサムの身体が光に押し流されていく。

 みんな、すまない。

 体力もハンサム顔も限界だった。

 ハンサムは思った。

 負ければどうなるのだろう。

 この身体を回収し、シャクティは実験を続けるのだろか。『彼』の人格を取り戻すまでずっと。

 自分が『彼』ではなかったから、こうなった。

 自分は何者でもなかった。

 戸籍も。

 過去も。

 名前すらもない。

 でもサメでもない。

 このまま消えて記録一つも残らない。


 ついに力が尽きた。

 ビームに晒されているにもかかわらず、視界が暗くなっていく。

 死ぬのか。


 闇の中に落ちていく。

 闇のそこに、ビームとは違った光が見える。

 シャイニングである。

 光が語りかけてくる。


「ハンサム。ハンサムよ」

「シャイニングさん……? 俺はじゃあ、死んだのか?」

「そんなことはいい」

「そんなこと?」

「ハンサムよ。そのザマはなんだ。え~と。以下略」

「略?!」

「ごめんね。これ一回やった流れだから」

「流れ?! 俺何もやってもらってないですけど?! それに眩しい! 眩しい!」

「それももうやった」

「えぇ~?」

「キミはまだ生き始めたばかりだ。第三の力だの、人生がどうだのと、私がとやかく口出しする段階ではないしね」

「始まったばかりっていうか、死にかけてるところでして」

「あきらめるんじゃない。キミはまだ自分のすべてを使い切ってないだろう」

「使い切ってない? それを使えば勝てるんですか?」


 シャイニングから微笑む気配が伝わって来た。

 彼の姿は消え始めていた。


「そのやりとりも、さっきやった」

「もう~」


――皆のところへ帰ってやってくれ――


 シャイニングが消え、現実が戻ってきた。引きちぎられそうな苦痛が全身を襲う。

 ビームの輝きの中でハンサムは呟いた。


「みんなのところに……」


 ハンサムの脳裏に仲間達の顔が浮かんだ。

 さらに声が聞こえてくる。

 間違いではない、確かに聞こえる。

 クイントの鳴き声。

 続いてS.H.B.Bの二人の声。


『ハンサム』

『ハンサム』


 マツリの声。


『ハンサムくん』


 トミカの声。


『チンポ……!』


 確かに聞こえた。

 浜辺で目覚めたときには独りだった。

 誰かに名前を呼んでほしかったけど、誰もいなかった。

 それが、トミカとマツリに助けられ、仲間ができた。

 シャイニングとスターライトに教えを受けた。

 アリシアや街の人間とも関わることができた。

 そうして死にそうな今、彼らが呼んでくれている。

 それは名前ではないけれど、サメでも『彼』でもない、ここにいる自分のことを呼んでくれているのだ。


「ハンサム! しっかりしろ、あきらめるな」


 背後ではスターライトが叫んでいる。


「そうだ、俺は……俺は――!」


 今にも消し飛ばされそうな、大の字の状態から彼は復帰しようと力をこめた。

 両手、両足、腹、背骨。すべてに力をこめて最大出力のビームを押し返していく。


「シャクティ……キミに教えたい。呼んでくれる声がするんだ。生まれてこなければ誰も呼んでなんてくれなかった。みんなが呼んでくれて、俺はそれに応えたいと感じる。これがきっと生きているってことなんだ――シャクティ、俺はサメでも人間でも『彼』でもないんだ!」


 彼の体がサメ人間に変化していった。

 体表が頑丈な鮫皮におおわれる。

 爪が牙のように鋭く尖る。

 腕のヒレがビームを斬り裂く。

 背中にあいたエラが排熱する。

 サメ人間のパワーがじょじょにビームを押し返し始める。


「ふざけんな! ふざけんな! 言うほどハンサムじゃねぇーよ!」


 シャクティの怒声が響く。

 ビームの出力が臨界点を越えた。


「くうッ!」


 ヒレが焼けてボロボロになっていく。

 サメの肉体は強靱きょうじんでも、そのためのエネルギーが枯渇しているのだ。

 その時、脳裏にシャイニングの声が響いた。


――まだ使い切っていないものがあるだろう? あれだよあれ。ほらあ――


「あれ……あれかぁ~」


 思い当たることは、あるにはあった。

 マツリ玉である。マツリ玉スパーキンがまだ未使用なままビンに入っている。

 同時にスターライトが叫んだ。仏教徒の霊感でシャイニングの声を聞いたのかもしれなかった。


「そうか、ハンサム! マツリ玉だ!」

「え~」

「アレがあれば押し返せる。いいか喰わせるぞ!」


 ハンサムは決心した。


「……ああ! スターライト。遠慮なくやってくれ! 早く! 一個だけ遠慮なく喰わせてくれ! 一個だけだ!」


 ハンサムの背中に、サメの口が開いた。

 生命の危機に反応してサメの本能が肉体を変化させるのだ。


「一個だけだぞ! スターライト! 分かっていると思うけど一個だけ!」

「OKだ! ってくれよサメの体! マツリ玉! スパーキン! 三倍さんべえだーッ!!」


 サメの口に、スターライトはマツリ玉スパーキンを突っこんだ。彼女は一度に三つもマツリ玉を食べさせた。三つもである。


「――あああああああああああッ!!」


 宙に浮くほど凝縮された栄養素がサメ人間の体を駆け巡る。

 栄養素はたちまちエネルギーに変換され、肉体に活力を与える。

 与えすぎである。その様子はまさにスパーキン。

 サメの力。ジャニの力。その他いろいろなものがほとばしった。


「あああああああああああッ!!」


 彼は両手で極太ビームを抱えこんだ。

 そしてみなぎる力のすべてで押し返した。


「何ッ?! ウソウソ! アイツにごんぶとビームを跳ね返せるわけない、失敗作にそんな力あるわけない!」

「失敗作じゃない。俺は俺だ。ハンサムシャークだ‼」


 ビームのかたまりがシャクティと、オトモの左右シャークたちを呑みこんだ。

 背後の建物が崩れて吹き散らされていく。


「――ハンサム! ハンサムゥウウウウウウ!!」


 ビームが最後の輝きを放った。その光は島を包み、街までも届き御、バクハツ-オチ山脈の上からは巨大な光球と見えた。

 街のすべての人がシャークランドの方角を仰いだ。


「あああああああああああッ!!」


 というのはシャクティではなくハンサムの悲鳴である。

 その悲鳴は海のサメを騒がせ、夜空を渡り、街にまで届いた。

 街の人々はちょっと首をかしげた。


「あああああああああああ……」


 ハンサムが人の姿に戻ったとき、光は完全にやんでいた。

 彼はその場に膝をついた。

 周囲は静かになって波音と潮風のうねりだけが響いていた。

 もうシャクティの声は聞こえない。

 目の前のシャークランドは上半分が消失していた。

 スターライトが彼を助け起こした。


「終わった……のか」

「ああ。さすがにこれは、な。私たちのパワーが勝ったというところだ」

「スターライト? マツリ玉一個だけって言ったよね?」

「後ろの方も静かだ。学会員が追ってこないところを見るとマツリくん達が勝ったんだろう。なんとなく、そんな感じがしていた。すべては私の計画通りだ」

「スターライト。告訴状ってどこ行ったらもらえるのかな? この件が片付いたらアンタを告訴したい」

「その時はついでに酒買ってきてくれ」

「禁酒したら」

「……そうするか」


 二人は瓦礫へ向かって歩いて行った。

 えぐれた地面の上に、二匹のサメとシャクティが倒れていた。

 サメパジャマは装甲が完全に破壊されて骨組みだけになっていた。

 その下の白衣も焼け、シャクティはビキニ姿で横たわっている。

 髪で隠れて顔は見えなかった。


「シャクティ……」

「サメスーツのおかげで消し飛ぶところまではいかなかったようだな」

「生きているのか」

「分からない。だが言っておきたいことがあるなら、今のうちがいいだろう。気にするな。死んでも自業自得だ。コイツ自身と、コイツを止められなかった私のせいさ」


 スターライトはブラックシャークの方へ歩いて行って、生存確認をしている。反重力装置も肉体も大きく損壊していて、戦闘不能の状態だった。

 島が大きく揺れた。

 地盤の限界が近いのだ。地面のすぐ下に海水とサメたちの気配を感じる。

 この疲労した状態で落ちればサメの餌食だ。


「もう保たないな。早くシャクティを連れて帰ろう」


 ハンサムはシャクティの側に屈んだ。

 シャクティは動かない。左手の拳に何かを握りこんでいるように見えた。が、火傷の生々しい指をこじ開けてなかを確かめてみようという気にはなれなかった。


「すまない。シャクティ……こんな結末のために来たんじゃなかった。俺のことを知ってほしかった。キミの力になりたかった」


 シャクティにふれようとして、ハンサムはためらった。

 美しかったブロンドの髪が焼けただれている。


「シャクティ……シャク――」

「ならママのために死んでね~」


 焼けた髪の隙間から、血走った目が彼を見ていた。

 唇が動いて歪んだ笑みになる。


「シャ――」


 ハンサムの叫びは断ち切られた。起き上がったシャクティが彼のノドに食らいついたのだ。


「何ッ!」


 ほぼ同時にスターライトからも声が上がった。

 彼女の足の下でブラックシャークの目が赤く光った。サメパジャマの、脳波操作機能はまだ生きていたのだ。

 飛び退いたが遅かった。

 シャクティの送った命令は自爆だった。

 ブラックシャークの肉体が弾けた。

 肉と、骨と、爆煙が襲いかかる。


「くッ――」


 スターライトの体が吹っ飛んだ。


「……スター……」


 ハンサムは彼女の名を叫ぼうとするが声がだせない。

 シャクティの顎の力は、首が折れるかと思うほどだった。

 噛みついたまま、シャクティが首を振った。

 まるで人形のようにハンサムは数メートルも投げ出され、地面を転がった。

 これも信じられない力だった。


「シャクティ……」


 離れたところから、スターライトのうめき声が聞こえた。

 ギリギリで飛び退いて、命は助かったようだった。しかし爆風によって、足と腕に傷を負っていた。立ち上がろうとして彼女は転がった。


「シャクティお前……」


 シャクティは血まみれの顔を歪めた。


「動けないようね~スターライト? よ~しヨシヨシッ! これでもうサメの邪魔をする者はいない~。私にはもう誰もいないィイイイイ!」


 シャクティの笑い声は、もはや悲鳴のようだった。

 その口からは鋭いサメそっくりの牙が覗いていた。


「シャクティ……お前……サメの細胞を自分に……!」


 彼女は自分をサメ人間に改造していたのだ。生き延びたのはサメの生命力のおかげである。


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