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ハンサム☆シャーク!  作者: 羊蔵
第三章 ミバ校炎上変
33/80

3-8 クリオネ倶楽部は高らかに


「お前ウソだろッ? クリオネ倶楽部って売春だろ。お前はやってないよな? なあ! なあってよォオオ」


 タコの生け簀があって生臭い。

 誰もいない教室のなかで『大胸筋』が『豹柄』に詰めよっている。


「うるさいなあ……なんで彼氏ヅラしだしたわけ?」

「だって、え? 彼氏ヅラ? ……だってヤったじゃん? 俺らヤったじゃん。クスリも分けてやったしよォ~」

「ヤったらなに?」

「えーッ! え? えーッ! なんで? えーッ!」

「うるさい。ていうか他のヤツともヤってるから」

「えーッ!」

「うるさいッ! 人が来るでしょ。分かった、ほらアレ、ほんとのこと言うね」


 『豹柄』は急におとなしい態度を作って言った。


「実は……身体の相性が合わないっていうか、私特殊なプレイじゃないとダメなんだよね……だから――」

「合わせるからッ合わせるから頼むってェエエ」

「私の言うとおりできる?」

「できるッ」


 3分後『大胸筋』は目隠しのうえに縄で拘束された姿で、ロッカーの中へ押しこまれていた。彼はこれを新しいプレイだと思っている。


「ああ……俺どうなってるんだ? 触ってくれよ……俺の筋肉が淋しがっているじゃあないか……」

「気持ち悪っ。シィー黙って。ほどこうとしても無駄。ここで私が戻ってくるまでじっとしてて。良い子でいられたら合格だから」

「くっこんな拘束ッ……あ~。荒縄なんかに俺の筋肉は屈したりしない……! あッあ~……もっと痛めつければいいさ! あッあッ俺は絶対に屈したりはッあ~」

「いや、うるさいッ」


 『豹柄』は生け簀からマダコを2匹つかみとると『大胸筋』の大胸筋へ吸い付かせた。


「なんだってェエエエッ!」


 目隠しのうえの、未知の感覚に『大胸筋』が声を上げる。『豹柄』はロッカーのドアを閉めて、その声を封殺した。もちろん戻ってくる気はなかった。


「フンッお前なんか、ちっさいスポーツジムの小せがれのくせに」


 これから重役を連れた『語尾の長い女』と合流するつもりだった。ここで重役の誰かを誘惑できれば、一気にのし上がることができる。都会の大学へも行ける。ちょうど『語尾の長い女』からメールが来た。客の嗜好とプレイの提案が添えられていた。


 出口でマツリたちとすれ違った。


△△△


 教室へ入ろうとしたところで、女子生徒とすれ違った。相手はサメマスクをしていたし、会ったといっても、一度目にした程度の相手だったのでトミカは『豹柄』に気づかなかった。ハンサムは彼女に面識がないし、マツリはもとより姿が見えていない。


「タコは? このなかにいるのか?」

「お前のためにみんな動いてんだぞ……あんたも邪魔して悪いね。えっと――」

「マダコシャークです」とマダコシャークの人は言った。

「――マダコシャーク……。なんでマダコで、しかも生きたヤツつけようと思ったのか問いただしたいけど、やめとくわ」


 マダコシャークは奪われたマダコを補充するため教室へ戻ってきたのだ。しかし、生け簀にタコはいなかった。


「あれえ?」

「いないの? タコ見たかったのにぃ」

「逃げ出してそこら辺にいるんじゃねえの? なんで生のタコが必要なのかは分かんねぇけど」


 一同は薄暗い室内でタコを探し始めた。


「灯りつけたらダメか?」

「夜祭りの予行演習だから本番を想定しないと」

「そういうもんか。なんで生タコ使うのかは納得してねえけど」

「宝探しみたいで楽しいな、トミカ。マダコさん」

「いや、ぜんぜん」

「手伝ってもらって悪いね」


 廊下に比べるとマシではあるものの、教室の中へも騒音は入ってくる。耳のいいマツリだけが、わずかなうめき声のような音を聞いた。


「誰かいる?」


 手探りで進むと、不意に、ヌルヌルの塊に触れた。


「ニンッ」


 という小さな声は、驚いたときのマツリの口癖である。だが、すぐにこれが探しているタコなのだろうと、思い当たったから慌てはしなかった。探ってみると、タコはロッカーのドアの隙間から足だけ出しているようである。


 もちろん、マツリは想像もしないことだが、マダコの本体はロッカーのなか『大胸筋』の大胸筋に吸い付いたままである。


「ちょっとごめんね」


 タコくんへ一声かけてから、マツリはその足をひっぱった。当然、頭が引っかかってドアが開いた。

 そのときの『大胸筋』の驚きはどれほどのものか。

 彼からすればいきなり、吸引器具をむしり取られた状態である。強烈な刺激が『大胸筋』の大胸筋を襲う。彼はこの新しいプレイに、不安と共に激しい興奮を覚えていた。そこへ突然の刺激である。おあずけをくっていた犬が、いわゆる『嬉ション』を漏らすときのように、『大胸筋』の興奮度が、ビッチ器官の閾値しきいちを超えるほどに高まった。

 ダク! ドッパァ!

 唐突だがこれは『大胸筋』の名前である。

 タコも墨を吐いた。


「ニンッ」


 墨を浴びたマツリが後ろへ下がった。


「どうした? ンッ! ロッカーの中に誰か……」


 すぐそばにハンサムがいたのは『大胸筋』にとっての不幸だった。サメの射程距離に入ってしまっている。

 瞬きの間にハンサムの身体が変形を始め、ロッカーのなかの、ちょうど『押し寿司』みたいな状態のダク・ドッパーを捕食してしまった。

 しかし、一瞬後のハンサムは、ダクが死んだことにも気づかない。空き箱になったロッカーを見ただけである。


「あれ? いない。俺まだ疲れてるのかな」


 ハンサムはロッカーを閉めた。ロッカーのなかには、ダクの忘れ形見のビキニと、ちょっとした『食べ残し』が落ちていたが、掃除用具などに紛れてハンサムからは確認できなかった。

 『大胸筋』本名、ダク・ドッパー、死亡。享年17歳。死因、マダコシャーク。


 声に気づいて、トミカ達が集まってきた。


「なんだ今の声」

「なんでもない。ちょっとビックリしただけ」

「ビックリして普通『ニン』って声出るか? うわキタネッ」

「え⁉」

「墨だな。タコの墨」


 マツリの足にタコの吐いた墨がかかっていた。


「うわあ。まあ、しょうがないか。タコが見つかってよかった」


 自分のことは瞬時に諦めて、マツリはタコを差し出した。


「うわっマツリ・バッファリン」


 マダコシャークは、ようやくマツリに気づいたようだった。市長一家と因縁のある相手から、タコを受け取るべきかどうか迷っている。しかし教室の中には彼ら以外いないのだ。マダコシャークの手をトミカが叩いた。


「ヘイ、それはねぇんじゃねえの? この街の事情は分かってきたつもりだけどよ。誰に見られているわけでもねえ、こんなとこでまでそんな態度とったら、そりゃあお前本人の品性の問題になっちまうと俺は思うぜ。ここでお前を見てるのはお前自身だけなんだからな」


 言われたマダコシャークは、しばらくトミカを見つめ、口元に夢から覚めたような表情を浮かべると、マツリの方へ向き直り、タコを受け取って詫びた。


「そうかもしれないな。きっとそうだ。悪かったよ。タコありがとう。もう1匹は、まああきらめるよ。考えてみたら『何でマダコ?』って気がしてきたし。靴下が汚れたんだな。ちょっと待ってて――おっと」


 マダコシャークは地面の段ボール箱に躓きそうになりながら、替えの靴下を取りに行ってくれた。彼が出て行ってもマツリはちょっとのあいだ事態を飲みこめないようだったが、戻ってきた彼から替えの靴下を受け取ると、本当にうれしそうな顔になって礼を言った。


「ありがとう」


 マダコは気まずそうに頭を掻いた。


「……いや……いいんだ、礼なんて。本当に。みんなサンダル履きで靴下なんかはかないから、仮装用のやつしか見つからなかったけど、こんなんでよかったかな?」

「うん。ぜんぜん。ほんとにありがとう」


 借りてきたのは、ニンジャシャークの履く、足袋と草履だった。


「ニンジャじゃん」


 とトミカは笑ったけれど、マツリは大切そうな手つきでそれを身につけた。トミカはさらにからかって、


「脱いだヤツはちゃんと仕舞っておいた方がいいぜ、世の中には女の靴下が好きって変態もいるらしいからな。くっせえのが。まったく理解できねーけどな」

「言い方……! 臭くありませんから」

「おいハンサムちょっと手伝ってくれよ、靴下持っててくれ。クセェえわこれ」

「もう、人が聞いたら誤解するでしょ」

「俺たちしか聞いてるヤツはいねえよ」


 トミカは再び笑った。ハンサムやマダコシャークも笑った。

 そんな会話に吸い寄せられるように、地面の段ボール箱がじりじり近づいてきていることに、気づいた者はいなかった。



△△△


 『靴下』である。

 『靴下』は教室の中へまでマツリたちを追ってきていた。薄暗く、足下が煙っているので段ボールで移動しても怪しまれずに済んだ。廊下側が騒がしいのも隠密行動をサポートしてくれていた。『大胸筋』はいったいどこへ行ったのだろうか、と一瞬思ったけれど『靴下』はそれどころではなかった。


――靴下が汚れたんだな、ちょっと待ってて――


 靴下。箱の中で目が血走った。

 『靴下』はそのあだ名の通り、靴下ソックスに対して貪欲だった。今すぐにでも飛びついて靴下ソックスを頬張りたい。


 だがいけない。彼にはマツリを拉致するという役割があるのだ。彼は靴下ソックスのことで仲間から軽視されがちだった。ここで飛び出して失敗するのは今後の立場に関わる。それにチンポマンにボコボコにされるかもしれない。

 靴下ソックスを手に入れるのは、ドラッグシャークを噛ませてからでもいい。

 シャークドラッグによって、あのソックスがのたうちまわるのを想像すると、彼は著しく興奮した。


――靴下持っててくれ。クセェえわこれ――


 クサい? 『靴下』はあだ名の通り、においに対しても貪欲だった。

 段ボールの小さな穴から目をこらすと、靴下ソックスがサメマスクの手に渡るところだった。


――俺が? いいけど……うわクッセ!――


 靴下ソックスが手から滑り落ちる。下はタコの墨で汚れた床である。そのときの『靴下』の心情たるや。まだ体温の残る靴下ソックスが落下していくのが、彼の目にはスローモーションで映った。


 ミートバーグでは靴下をはいた脚は稀である。

 かつて、『シコッティ』にマツリの靴下ソックスを盗ませようとしたことがあった。だが『シコッティ』が盗んできたのはフンドシだったので、彼は『シコッティ』を嫌というほど殴りつけてやった。それだけ『靴下』は靴下ソックスに餓えていたのだ。

 すべてはジャパンのアート作品がきっかけだった。

 エロマンガである。

 ミートバーグにはない着衣のエロスに震えた。早速友人たちにふれ回ったが、まったく理解されなかった。あげくあだ名が『靴下』になる始末。

 理解されない苦しみに『靴下』は毎夜、海で叫んだ。月へ向かって吠え続けた。なぜみんな靴下のエロスに気づかないんだ。靴下ソックスは下着なのだ。下着なんです。


「オウッ!」


 段ボールをはねのけ『靴下』は靴下ソックスめがけてダイブした。

よだれを垂らしながら躍り上がった姿はまさしく膃肭臍おっとせい

 ほのかに暖かいものが顔にふれた。瞬間、刺激臭が鼻から脳みそを貫き、さらに脳からあふれた電気信号が背骨を走り、股間でスパークした。

 ドッピオ! オホウ。

 突然だが『靴下』の本名である。

 ドッピオのジャンプした先にはハンサムの手があった。靴下ソックスを拾おうとしていたところだった。


「おっと?」


 ハンサムの手の表面に無数の切れ目が走った。まぶたに似たそれが開くと、それぞれ一つ一つが小さな口になる。まるで大根おろしかミンチ機である。

 ビッチ器官に導かれたミンチ機が、ドッピオの描く放物線の軌道上に待ち構えている。

 靴下ソックスへ向かう自分自身の力で、ドッピオはまるでラーメンのようにすすり上げられて、この世から消えた。そして誰も彼の最後を見ていなかった。

 あとには臭い《ソックス》と彼のビキニが残ったばかりである。


△△△


「おい、どした?」

「ゴメン落とした。臭すぎて」

「失礼な野郎だな」

「だってトミカまで靴下脱ぐ必要あるか? しかも俺に持たせるし、自分で拾ってよな」

「いやぁ~、考えたら昨日からはき続けてるからよぉ。さすがに気持ち悪くなってきたんだよ。やっぱ裸足の方が気持ちいいぜ」

「こんどは靴の方が臭くなるんじゃあないのか」

「それ持って帰るんなら、私の靴下と一緒に袋に――あ、やっぱりごめんなさい、無理」


 マツリは自分の二足の靴下ソックスを、持っていたクイント用のエチケット袋にしまった。


「お前らなぁー。まあいいや、古くなってたやつだし捨ててくか。なんだこれ汚え」


 トミカは落ちた靴下とビキニをまとめて部屋の隅へ蹴飛ばした。

 ドッピオが頬張ったのはトミカの靴下ソックスだったのだ。その事実を知らずに逝けたのは彼にとって幸せだったのかもしれない。


 『靴下』本名ドッピオ・オホウ、死亡。享年16歳。死因、ドラゴン廃ソックス。



 そのとき、廊下の方が騒がしくなった。うるさいのは元からなのだが、混沌としていた騒音に一体感が生まれている。1つの音楽だけが大きくなって他が静まったのだ。


「この曲は……SHARK神音頭だ」


 マツリが声を上げた。廊下の方でも歓声が上がっている。




 廊下へ出てみると、近くの教室に人が集まって行くところだった。


「あっちみたい」


 めずらしくマツリが先に立って歩きだした。


「転ぶからつかまっていけよ」


 クイントを抱いたトミカが追いかける。

 教室の中では『SHARK神音頭』の演奏練習をしていた。


「おい、飛び入りだってよ」

「すげーバチさばきらしいぜ」

「あれおっさんじゃねえ?」


 などと言い合う群衆たちの波に押されて、気づくとマツリたちは見物人たちの最前列に立っていた。混雑していて、ちょっと戻れそうにない。

 黒板の前の、ちょっと高くなった壇上で、ギターやエレクトーンなどの演奏者が音合わせをしているのだが、そこへ和太鼓と、2人の太鼓奏者が出てきた。群衆から歓声が上がる。

 太鼓奏者の1人は、ビキニをはいた中年男性である。これは市長が招いた重役の一人である。

 もう1人が『語尾の長い女』だった。

 『語尾の長い女』がマイクをとると、一瞬ハウリングが鳴って、皆が静かになった。いつもの甘ったるい声で『語尾の長い女』が話し始める。


「え~みなさん。練習のお邪魔してゴメンね~。今日はちょっと、新しい和太鼓のお披露目にちょっと付き合ってもらおうと思って、お時間頂きましたぁ。奏者は私と、このおじさまが務めまあす。そしてお披露目する和太鼓はこちら」


 などと言って和太鼓を披露するのだが、それが人間なのである。彼女ら前に四つん這いで進み出た『和太鼓』は、『豹柄』の女子生徒と、金髪のカツラ、ゴム製のバスト。さらに『牛柄』の女性用ビキニを着用した、中年男性である。彼は言うまでもなく重役の一人である。


「ハァ~イ。こちらおじさまの和太鼓『豹柄』と私の和太鼓『牛女』でぇす。今日はこの新品の和太鼓の音色を、皆さんに楽しんでもらおうと思いま~す」


 何を言っているか分からない、というトミカやハンサムのような人のために説明しよう。

 まず、SHARK神音頭はジャパンの盆踊りに少し似ている。

 ただ特徴的なのは、人間が和太鼓の代わりをするということである。奏者は四つん這いになった和太鼓の尻を、叩いてメロディを奏でるのである。これは伝統的な行事であり、ミートバーグではこの太鼓奏者と和太鼓は、尊敬の対象として扱われる。


「喰らいマーックス」


 『語尾の長い女』のコールで、ギターが鳴る。

 2人の和太鼓が尻を高く上げる。こんな時のためのビキニである。布地が少ないので音色を損ねない。尻の肉は張り切って状態もよく、足をピンと伸ばした姿は和太鼓としても美しい。


ぁ~市長ドン! 市長ドン!」


 威勢の良い掛け声とともにSHARK神音頭の演奏が始まった。


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