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ハンサム☆シャーク!  作者: 羊蔵
第三章 ミバ校炎上変
31/80

3-6 クリオネ倶楽部は営業中


 トミカ達がミバ校に到着したとき、市長たちはすでに校内にいた。

 校長室で『座り心地のいい椅子』に腰掛けて、シャンパーニュを飲んでいた。

 金色のビキニをはいたジミー・パーン。その横で不安そうにしている絆創膏だらけの男が、息子のマックス・パーンである。

 さらに高級スーツを身にまとった複数の男が『座り心地のいい椅子』と『手触りのいいテーブル』を使ってくつろいでいる。ミートバーグに進出してきた企業の重役たちである。

 ぜんいん市長と癒着している。彼らの力添えで、市長は地位を維持していた。

 当然市長の彼らに対するもてなしは手厚い。

 カーペットには、セクシーなビキニ美女たちが四つん這いになって控えている。彼女らの背にはテーブルの天板、または重役たち自身が乗っかっていた。つまり彼女らが『座り心地のいい椅子』『手触りのいいテーブル』なのだった。

 金持ちが人間椅子に座り、人間テーブルを使うのは常識である。


「いやいやいや、ジミーくん」

「ええ……」

「まったくまったく、楽しみですなジミーくん」

「まあ……」

「あいかわらずジミーくんは、寡黙ですなあ、それにしても楽しみだ」

「楽しみ楽しみ。ねえ君そうだろ? 校長の……まあ誰でもいいが」

「ハッハイィイイ!」


 ミートバーグの校長だけが、立ったままで脂汗を流していた。この中の誰の機嫌を損なっても彼の首は飛ぶのだ。

 ホストであるべき市長は、愛想も見せず黙って酒を舐めている。

 だが重役たちは気にしていない様子だった。これからの『お楽しみ』で頭がいっぱいなのだ。

 先ほどから、室内に牛のような声が響いているが、誰も気にしていない。


「失礼します。予定の時間ですが」


 ノックの後ドアが開いた。

 警護の隊長チームが入ってくる。隊長、マイクル、新人の3人で、ぜんいんビキニに銃を忍ばせ、素肌にガムテープで無線機とコードを貼り付けていた。カレーさんチームは校内の見回りである。


「おい、増援は呼んだんだろうな?」


 マックスが腰を上げて訊いた。

 応えたのはマイクルである。


「坊ちゃん、直接着くのは我々だけです。別に殺害予告を受けているわけではありませんので」

「バカ! ヤベェやつがこの学校にいるんだよッ! チンポしか喋れねえチンポ原人に襲われたんだぞ!」

「ハハハ……坊ちゃん、ハハハ」

「おい、俺はマジで言ってるんだよ! 俺はレイプされかけたんだぞッ! ヤツは今も俺のチンポを狙ってるんだ!」

「ハハハ……だいぶん……あれだなあ……こまるなーコレ」

「雑魚が一人前に困ってんじゃねーよッ! 俺が困ってることが最優先事項だろうが」

「おやおやおや……」


 役員たちが馬鹿にしたように苦笑いする。

 ジミー・パーンはその気配を感じ取ったのか、息子へ言った。


「マックス、お前のためを思って護衛を割いてやっているんだ。私の護衛をだ。その私の前で不機嫌な顔をするんじゃない」

「――でも、でも俺のチンポがさあ……」

「マックス、最優先事項はお前のチンポか? 私の仕事が重要さにおいてお前のチンポに劣るというのか?」

「それは――」

「もっとも重要なのは誰のチンポだ? マックス?」

「……オヤジのだよ」

「そうだ。私が一番だ。異論は無いな? マックス?」

「悪かったよ、オヤジ……ほんとに」

「失礼」


 威厳は崩さないまま、ジミーは役員たちへ詫びた。

 それから指を鳴らした。卑猥なビキニを着た女子生徒たちが入室してくる。高級レストランのメニュー表みたいな何かをトレイに乗せて持っている。

 役員たちの頬が緩む。


「これこれ」

「これを待ってたんですよ」

「待ってた、待ってた」


 室内に響いていた牛のような声がやんだ。

 少し間があって学長のデスクの下から男が一人顔を出した。男は最後にもう一声、牛の鳴き声をあげると、うっとりと身体を震わせ、それから四つん這いで出てきた。

 その背にビキニの女生徒が跨がっている。

 彼は金持ちだが、変態なので椅子の方をやっているのだ。お金持ちに変態が多いことは皆さんご存じの通りである。


「いやあ、最高だったよ、ありがとう」


 牛の男は這っていって重役たちと合流した。腰掛けた女が牛男の尻を叩く。生々しい肉の音が響いた。男はまた牛の声を出して、


「ありがとうございます、そうでした。これは約束のお薬だ。ね?」


 牛男は胸のポケットから封をした試験管を数本取り出して、渡す。試験管の中には液体が満ちていて、なんとその中には小さなサメが生け捕りにされているのだった。


 様子をうかがっていたマイクルの顔色が変わった。


「隊長……」

「うむ」

「どうします?」

「うむ」


 隊長はつかつか歩いて行くと女から試験管を奪い取った。


「シャークドラッグだな」


 シャークドラッグである。

 サメ映画をご覧になれば明らかだが、サメには常に新種が生まれている。時には体内で快楽物質生成するタイプの新種も発見される。そのひとつがこれである。その強烈な効き目と、新種ゆえまだ規制されていないこともあってティーンたちのあいだで爆発的に流行していた。ただし快楽と引き換えの、副作用と中毒性もすさまじく、廃人になる危険性すらあった。


「ん~? あなた何~?」


 語尾の長い女の抗議を無視して、隊長は試験管ごとシャークドラッグを握りつぶした。


「ちょっとぉ~?」

「おやおやおや。いけないねえ」


 女が間延びした声で言い、重役たちも顔をしかめた。

 ジミー・パーンがグラスを置いた。


「オウルくん」

「はい」

「私はそんな指示はしていない」

「はい」

「どういうつもりだね」


 全員の目が隊長へ向いた。マイクルが何か弁明しようとするが、先に隊長が口を開いた。


「シャークドラッグは今のところ合法ですが、毒性は明らかです。IQ8989のシャクティ博士ならすぐに成分を分析し終え、規制に動くでしょう。遠からず違法薬物に指定されたとき、これを所持していた事実は、必ずや皆さんへマイナスに働くでしょう」

「誰がその事実を公表するというのかね? キミか?」重役のひとりが言った。

「秘密はどこからでも漏れます。キリストですら密告された」


 重役たちが顔を見合わせる。金持ちたちは裏切りに対して敏感だった。


「もういい」ジミー・パーンが言った。「だが今後、出過ぎたことはするな」

「分かりました、任務の事以外ならそちらの判断に従います」

「任務でもだ。私が指示した場合にだけ動け」

「……承知しました」

「さて――」


 市長が手を叩くと、それまで戸惑ったまま突っ立っていた女たちが、出し損なっていたメニュー表を配った。

 重役たちが下品な笑い声を上げ、張り詰めた空気が解消された。


「これこれ」

「ではどれどれ……」

「どれどれ、どれどれ?」


『クリオネ倶楽部―お品書きー』

 重役たちは舌なめずりしながらメニュー表をめくった。

 それはまさに商品を記載したお品書きだった。

 なかは女子生徒の写真とプロフィールである。


「おっほこれはなかなか」

「この子もいいですな」


 知り合いにだけわかる音量でマイクルが舌うちした。


「マイクル」

「すみません、つい」

「どういうことすか、これ」


 新人が小声で訊ねてきた。役員たちは女子生徒の品定めに夢中だ。


 クリオネ倶楽部とは、市長の運営する援助クラブである。キャストは全員ミートバーグハイスクールの女生徒たちだった。

 もともとは子供たちの誰かが初めて、細々とやっていたのだが、それを市長が管理するようになった。

 今回のように、金持ちの客を斡旋する代わりに、高額の賃金とコネクションを提供するのだった。

 もちろん、クリオネ倶楽部の存在を知っているのは、生徒側でも大人たちの方でも一握りの人間だけである。サービス内容は『交渉次第』であり、禁止事項も存在しない。


「売春じゃないすか……」

「言葉を慎め」


 たしなめながらも、隊長とマイクルの表情は暗い。


「君たち、これは学生に対する援助なのだよ」

「合意の上、合意の上」

「自己責任だよ、なにかあったとしてもね」


 重役たちはニヤニヤ笑っている。


「この子なんかは良いですなあ」

「あなた好きですなぁ、素人娘が」

「好きですな、好きですな」

「ええ、ええ。私は無垢なクリオネちゃんが大好きでねえ」

「ではそろそろ、クリオネちゃんたちを捕まえに行きますか」

「行きましょう、行きましょう」


 趣向として、校内に散らばったサービス嬢たちを探して、遭遇エンカウントした時点でプレイを開始するというルールになっていた。

 さっそく彼らはビキニ一丁になるとサメマスクをかぶった。緩みきった、醜悪な体だった。


「一緒に行動していただかないと護衛しきれません」


 マイクルがとめても彼らはきかない。


「おいおい誰が我々を敵に回すというのかね? この街で」

「それとも、サメでも出るというのかね」

「いやいやマックスくんのいうチンポ原人かもしれませんぞ」


 ゲラゲラ笑って重役たちは行ってしまった。


「チンポ野郎どもが」


 小さく罵倒して、マイクルが隊長を振り返った。隊長は市長へ言った。


「彼らの警護を優先しますか?」

「私たちについていろ。豚共には好きにさせておけ。校内にも警護はいるんだろう?」

「2人ですよ」カレーさんチームのことである。

「警告はしてやったのだからな。それにどうせなにも起こらない」


 そうして彼らも部屋を出た。

 後には可哀想な校長と、飲み食いのあとが残った。

 校長は役員たちを罵倒しながら掃除を始めた。

 『お品書き』を拾った。ちょうど最後に彼らが眺めていたページが開いたままになっていた。

 プロフィールに顔写真と共にこうあった。


『エンジェル№××_マツリ・バッファリン【素人枠】【ニンジャガール】【フンドシ】【NGナシ】』


 着ぶくれのシャイガールにして、感度3000倍のニンジャガール。

 出勤経験ナシ。ニンジャガールを開国させるのはお客様の黒船です。盲目のためエスコートは容易。

 うぶなクリオネちゃんを求める紳士に……


△△△


 また、マツリを追うのは重役たちだけではなかった。

 マックスの取り巻き『大胸筋』たちである。

 彼らの携帯端末に『クリオネ倶楽部』のデータベースが表示されている。

 マツリの顔の表示されたページを呼びさして、彼らは爆笑した。


「『うぶなクリオネちゃんを求める紳士に……』だってよ!」

「さっさと攫ってお偉いサンたちへ連れてこうぜ。企業の重役とお近づきになるチャンスだ」


 彼らの仲間がマツリをクリオネ倶楽部へ登録したのだ。

 ビキニのゴム紐をパンと鳴らすと、彼らはマツリを追って、校舎の中へ散っていった。

 捕獲用のシャークドラッグをビキニに忍ばせて。


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