混沌記 ー光輪の丘ー
ケメティアンノヴァの襲撃から1夜が開け、集落の被害状況の確認が行われていた
「ふぅむ…」
「レゲノフ!そっちはどうだ?」
「フィーリアか、こっちの門は駄目だ!奴の攻撃で土台まで漕げてやがる…ったく、神獣ってモンはどうして建物を壊したがるかねぇ」
「師匠の作った建物を壊すなんて…許せないっす!!」
「そう言うなリフィル、奴らは正に天災、災害が意思を持ってなにかを狙う事はない、ただ目の前にあるものを壊すだけさ」
「ま、そうだな、お陰で俺達も毎日の飯にありつける訳だしな」
「むむむ…それもそうっすけど…」
「そうだレゲノフ、聖女様が呼んでいたぞ」
「聖女様がか…?」
「あぁ、ここの見積もりを終えたら行ったほうがいいぞ」
ーーー
「レゲノフ…お仕事お疲れ様です、順調ですか?」
「今日は特別聖女様に労って頂けるような仕事はしてないんですがねぇ、基礎の基礎、見習いでもできる仕事ですよ」
「普段からの礼です…あまり根を詰めすぎてはいけませんよ?あなたの努力はー」
「はいはい!分かってますよ、それを言っちゃあ、聖女様こそ昨夜の負傷者の治療で徹夜じゃないんです?」
「実際に戦った兵士の皆さんのことを思えば、徹夜等苦でもありませんよ」
「ったく…聖女様は理解してないみたいですがね、俺達は聖女様を守るために動く、その守る対象に自分たちのせいで過労死させたなんて言っちゃあ、いい笑い者になるんすよ!」
「むむ…では次からは気をつけましょう…話を本題にしても大丈夫ですか?」
「あぁ、良いぜ…大方、魔界に開いた門…“パイモンの虚空”についてだろう?」
「えぇ、大きな変化などはありましたか?レゲノフ…いえ、パフォメット」
「聖女…地上でその名前は呼ぶなと言ったはずだろう…?」
蝋燭の影に同化するレゲノフの姿が変化する
触腕を持ち、山羊の頭部を持つ大きな鳥の姿へと変化する
「こんな辺境で傷付いた俺を助けてくれた恩がある、だから今回は見逃してやるが…次はねぇぞ?」
酷く凍えるような声、地獄の奥底から這い出たような瘴気があたりを支配する
「パイモンの虚空は今の所大きな変化はない、だが数千、数万年後には必ず開く…発生して40億年は持ったと考えれば長く持った方さ」
言いながら姿が再びレゲノフの物へと戻る
コキッコキッ
と首を回したと思うと、話し出す
「にしても聖女さんよ…本当に良いのかい?」
「えぇ、構いません…永月に渡る魂の回りに身を通じる時がきました、人々が争うその下で、影の物共が這い出てこようとするならば…それを食い止める存在へと変わるのみ…次代の“星霜の巫女”が生まれるまで…」
「…ったく、しょうがねぇ…言っとくが、一度俺の力で反転した物はもう元へは戻れねぇ、それでもいいのか?」
「はい…覚悟はとうに決めてます…どうか、」
「分かった…目ぇ閉じてろ、すぐに終わる」
その夜、聖女は姿を消した
忽然と、急に
だが見たものがいる
ある者は明るい、暖かい光が満ちたと思うとその光は昏く、冷たい…禍々しい物に変わったと言い
またある者は、悪魔となった聖女を目撃したと言う
ただ皆、口を揃えてこう言った
光は闇に包まれたと
ー記録はここで途切れているー
「ふむ、わからんな…次だ…どれどれ…天魔戦役記か」
時は混乱を極める、神獣の発生前の事
人は天と魔の傀儡となりどちらかに属し虐げられながら細々と生きていた
地における天の下僕であり強い魔力を持つ“シュレイの民”、魔の傀儡であり屈強な肉体を有する“エゼンティアの民”
己が従う主に利用され、代理戦争となっていた地上に一つの雫が落ちる
“シュレイの民”と“エゼンティアの民”の間に生まれた子である
その名はヘラクレス、
ヘラクレスは生まれながらにして双方の特徴を持ちながら、相反する力の副作用である暴走を抑え込みながらその日を凌いでいた
「…どこだ…ここは…そうか、また俺は暴走して……水…水はどこだ」
「旅人さん、水が欲しいにゃん?」
「あ…あぁ……ん?」
「にゃん?」
「ここは…獣人の国か?」
「そうにゃ!ゲルージェの郊外にある牧草地帯にゃ、お前さんその様子だと自分がどうしてここにいるかわからにゃいのかにゃん?」
「ゲルージュ…あぁ…今回はまた随分と遠くまできたな」
「にゃ?お前さんどこからきたにゃ?」
「…ネルティ…ケメトの隣国だった」
「あぁ…ケメトが魔族によって封印された後にお前さんの国に攻め入ったんだったにゃ…」
「それに天使どもが首突っ込んできたせいで俺の国はもう内紛状態だ、大地に沈む美しい夕日、あれはネルティの魂とまで言われた…今はその魂に想いを馳せることすらできない…」
「にゃ…あの夕日を見れないのは残念だにゃぁ…」
「ところでお前は…誰だ?」
「にゃ!にゃあとした事が自己紹介を忘れてたにゃ!にゃあの名前はガルーシュ、ガルでいいにゃ♪」
「ガル…俺の名前はヘラクレス、すまないがネルティまで行く竜車に乗れる場所があったら教えてくれないか?」
「んー…それは少し厳しいにゃ、この国はある魔獣のせいで竜車が通れないのにゃ」
「魔獣?」
「ヒュドラにゃ…あいつのせいで緑豊かだったにゃあの国も荒れ果ててしまったにゃ」
「ヒュドラ…特徴は?」
「おいおい、あいつらを倒すつもりかにゃ?悪いがそれは難しいにゃ、沢山の長い首に再生する肉体、少しでも体に入れれば致命傷は避けられない毒を撒き散らす牙、とてもじゃにゃいが相手にならないにゃ」
「…やりようはある」
「むーりーにゃ!!無駄死にはやめるにゃ!!」
「首を切った先からその断面を焼けば再生はできなくはならないか?」
「その考えはもう出てるにゃ…でも焼き続けながら切り続けるのは不可能にゃ」
「不可能じゃないさ、俺は…いや、俺ならやれる」
「…にゃにか考えがあるにゃ?…ならいいにゃ、そこまでいうならお前さんを信じてみるにゃ!」
「ガル、お前は無理しないでいい、これは…」
「これは?」
「俺にとって必要な戦いだからだ」
「ぷっ…」
「…何故笑う」
「漢って生き物は皆バカな生き物なんにゃ〜」
「悪いな、こういう性分なんだ」
「でも、そういうバカなのも嫌いじゃにゃいにゃ!生憎にゃけど、これは私達の問題でもあるにゃ、だから私も行く、こう見えてもみゃあは強いにゃ!」
「わかった、だが足手まといにはなるなよ!」
「それはみゃあの台詞にゃ!!」
〜〜〜
「着いたにゃ、ここがヒュドラの住処にゃ」
「これは…遺跡か?」
「みゃー…そうらしいけど、難しいことは獣人にはわからにゃいのにゃ〜」
「壁に何か書いてある…古代魔族文字か」
「お前さんこれが読めるのにゃ?」
「あぁ、と言っても少しだけどな…《“狂気”の混沌、此れに封ずる也、偉大なる魔王アシュタロトの封ず〜》」
「途中から消えてるにゃ」
「経年劣化や風化だろうな…だが不味い事がわかった」
「にゃ?」
「混沌…かなり強い存在、それこそ俺やお前では足元にも及ばない存在がここに封印されてるらしい」
「それは…早く出た方がいいにゃ?」
「あぁ、だがヒュドラの討伐もあるからな…あいつがここから出て、荒らし始めたらそれを合図に討伐を始めるのはどうだ?」
「わかったにゃ!」
《以下竜王以外閲覧禁止》
「はぁ!?」
「ど、どうなされたアヌビス殿、外にまで声が聞こえましたぞ」
「竜王さん以外閲覧禁止って!!」
「あぁ…これは“禁忌”に触れる内容ですな…それこそ…竜域の成り立ちそのものに関わる類の」
なんだ…?“禁忌”なんて聞いてないぞ?ケメトの文献にも載っていなかったはずだ、それに竜域の成り立ちだと?強い魔素溜まりに竜種の祖先が住み着いたところに西の聖女等が封印を施し、役目を与えたのが成り立ちではないのか?
いや、それ自体は間違っていないのだとして、さらに複数人、知られてはいけない人物が関わっているとしたら?
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