原初の情景 砂の大陸
原初、人々がまだ尊厳を持たず、天と魔に脅かされていた時代
砂の大陸 ケメト
3柱の神が創りし試練の地、砂は全てを呑み込み、昼と夜の温度差は生命を蝕む
魂を形作る“バァ”
肉体を形作る“アク”
精神を形作る“カァ”
月と死を司る神アヌビス、
水と肉体を司る神イシス
太陽と生を司る神ラー
神の姿は見えぬども、人々はバァ、アク、カァを感じそこに神の姿を馳せる
人は死ぬと信仰する神の神殿によりミイラとなり死後の世界を目指す、
数百年に一度開く冥界の門、そこを魂を運ぶ船で通り死の世界へと旅立つと言われている
月の神殿
水の神殿
太陽の神殿
それぞれには一人ずつ巫女が居る、不浄足る力を持ち、生死を問わない人々を導く巫女が……
〜月の神殿〜
「巫女様…疫病により人々は苦しんでおります、祈りを増やせとのファラオの命令ですが…」
「これ以上の祈りは無理だ…神官達も私も、寝る時間と食事以外全てを祈りに使っている!!」
「しかし…ファラオの命令に背くわけには…」
「もういい……私は太陽の神殿に行ってくる、私はアヌビス様に仕える巫女、疫病を治す力はあいつの方が強いだろう!!」
全く……冥界の門が開きかけてるこの大変な時に…!
〜太陽の神殿〜
「おや……月の巫女さん…今日はいきなりどうしましたか?」
「名前で呼んでくれ…と言っても、巫女にされた時点で名前なんてなくなるんだけどな」
巫女としての力を持つ者はその才能が発覚した時点で名前と家族を失う
それぞれが仕える神の名前に、
家族とも引き離され、ひたすら祈りと修行を行う
「ではアヌビス、今日は一体どう言う要件で?」
「ラー…もうそろそろ限界だぞ…ファラオの命令とはいえ生活のほぼ全てを祈りに使ってる状態だ!!」
「まぁ…私共の太陽の神殿もそうですわね…いつまで経っても治らない疫病…一度掛かれば目から血を流して苦しみの果てに干からびて絶命する…今まで聞いたこともない疫病」
「イシスの所も祈りで忙しいみたいだし…これ以上はどうしようもない」
「神官長も何か別なことで忙しい様子…私たちでどうにかするしかなさそうだけど…」
「セトが…?私はあいつが嫌い、言いようのない怪しい気配を感じる」
「こらアヌビス…滅多な事を言うんじゃないですよ、仮にも神官長、神の意に反することなどあり得ません」
「そう…ラーが言うのならばそうなのだろうな」
「巫女様失礼します、神官長が月の神殿の巫女と共に水の神殿までくるようにと…これはこれは月の巫女様、丁度良い時においでになられましたね」
「はぁ…噂をすれば…あれでも神官長、行かなきゃだな」
「えぇ…行きますか」
〜水の神殿〜
「巫女様、よくおいでましに」
「アヌビス、ラー、久しぶりね!」
「イシス、久しぶりね…それに神官長も」
「えぇ…本当に」
「本日巫女様達に集まって頂いたのは他でもありません…今回の疫病、その原因を突き止めました」
「なんだと!?」
「それは…本当ですか?」
「はい、その原因というのが…魔獣セルケトだと…」
「セルケト…あのサソリの?」
セルケトは女神とすら言われる存在……本当にセルケトが?
「はい、冥界の門が開いている今…その影響を受けセルケトが変異したのでしょう、尾の毒針より生まれ出る瘴気が風に流れこの国を取り巻き蝕んでいると…既にファラオが兵を差し向けましたが全滅…かくなる上は巫女様方においでなられなければ勝ちは無い、と」
「ふむ………なるほど、理解できました、場所は?」
「王家の谷と呼ばれる歴代ファラオの墓所が集まる谷、その最奥に」
「あそこか…確か転移のヒエログリフがあったはずね…月の神殿へ戻り全員で向かいましょう」
〜王家の谷〜
ここか…相変わらず岩と砂だけだな
「で、どこだ神官長、それらしき姿は見えないが」
「はい、アヌビス様…あちらの…」
「居ましたね…どうやら餌を探していますがこちらには気付いていないようですね…仕掛けるなら今かと」
「じゃあやっちゃおっか、先手必勝ってね」
「では私から…バァルノア!!」
アヌビスの持っている杖が暗く光るとセルケトを包むようにヒエログリフが出現する
それらはセルケトに張り付くとセルケトの行動を阻み逃走を許さない
「水は恵みだけでないんだよ…アクノア!」
今度はイシスが魔術を発動させる
髪飾りが鼓動すると
イシスの周りにヒエログリフが回転しながら出現する
パシャ と水しぶきが顔にかかる
洪水、正にそう呼ぶに相応しい水量がセルケトに降り注ぐ
「あぁああああああ……ファラオの墓がぁああああああ!!」
セトが何か叫んでいるが聞こえないフリをする
「イシス…加減を覚えなさい!まぁ…これでやりやすくはなりましたね」
「へ?これ以上何を」
セルケトは既にピクピクと体を弱々しく蠢かすだけだ
「カァノヴァ!!!」
光、まるで太陽そのもののような光が周囲を照らす
水をレンズに光を収縮させ火を起こすとセルケトの体を炎で包む
叫びにならない叫びが谷に木霊する
「ふぅ…これで終わりね…?」
ミヲ…ソノ……
なんだ…この声は
ソ…ミヲ…ソノ…ヲ…
この声の主は…歴代のファラオか…!?
ソノミヲ…ソノミヲ
「ビス!アヌビス!!」
「は…!私は…?」
「急に返事しなくなって焦ったよ〜…意識もないみたいだったし」
「あ、あぁ……すまない、少しな」