世界を喰らう統魔の追憶
私は…この力をどう扱うか…正直持て余していた
「造物主様の生み出した獣!これらを用い魔界へと侵攻しましょう!」
「天使の軍勢もあるぞ…どうする?」
集落の中で意見が割れた
魔族へと報復を目論む者、
今まで通り守りを固める事に注力せんとする者
「長老、他の皆もみんな聞いてくれ、皆が支援してくれたおかげで誕生した獣、私はこの獣達を神獣と名付けた、これから数は増えて行くだろう、だが私は侵略や掠奪の為に暴虐の魔術を求めた訳じゃない」
「そんな…!造物主様は我々をお見捨てになられるのか!」
「なんと無慈悲な…!!」
「そうは言っていないだろう…私は穏やかな暮らしをしたい、争い事は御免だからね」
「ぐぬぬ…兵士達よ!!造物主様を捉えよ!!」
「「ハッ!!」」
「長老やめろ…!離せ!!」
「のう、造物主様」
「なんだ…!」
「今まで様々な研究を行い、我々を助けてくれた…我々は恩返しにと暴虐の魔術が完成するまで多くの支援を行った、資金、素材、姿を変え、育ち切ったそれらの実を少しばかり収穫させてはくれぬじゃろうかのう?」
「貴様…!まさか!!」
「魔術の研究書さえあればお前自身は用済みなのじゃよ、我々の傀儡と成り、上手く操られていればよかったのぉ」
「こんなことをして何になると言う!」
「これから消えるお前が知る必要はない、兵士達よ、地下牢に連れて行け!」
〜〜〜
「…ア!ヴ…シア!ヴェ…シア!ヴェルシア!」
「ん…レギウスか…?何故牢にいる」
「牢番が顔見知りでな…お前を逃す」
「長老が何か企んでいたか?」
「……お前の生み出した神獣…あれを使い他の集落を攻め落とす気らしい」
「馬鹿か…人間同士で争っている場合では無いぞ…」
「お前の魔術書は既に彼奴らの手元にある…用済みになった邪魔にしかならない人間を生かしておく必要はあるか?」
「……そうだね…」
「一緒に逃げよう、ここを出て南へ向かおう、彼奴らはお前の罪をでっち上げ、大義名分を作る気だ!」
「いいや…私は逃げない、彼奴らの侵攻を止める必要がある」
「止める?どうやってだ、策があるのか…?」
「私が最初に生み出した4体の神獣…他よりも力が強く、魂縛の魔術で私の言うことしか聞かせないようにしている」
「お前は……」
「たとえ信用していたとしても少しの備えはしておくべきものさ」
〜〜〜
「長老様が集落の住民を召集するなんて珍しいわね…」
「だな、何か重要な事らしい」
「なんでも造物主様に関する事らしいぜ」
「造物主様?また何か凄い魔術でも考え出したのか?」
「さぁ…おい、長老様が来たぞ」
「皆の者揃っているな…よく聴け!造物主様…いや、ヴェルシアはこの集落を闇に変えてしまう恐ろしい魔術を開発していたのだ!!」
「おい…長老は何を…?」
「冗談だろう?」
「世界をの見込む闇の魔術、お迎え如何なる生をも飲み込み、吸収する、発動すれば最後…誰にも止められぬ恐ろしい魔術だ…!」
「うそだ…造物主様が!?」
違う…嘘だ…ヴェルシアはそんな魔術は研究していない…
「そういえば昨日から造物主様の姿が無いぞ!」
ザワザワ…ザワザワ
「我々はそれを嗅ぎつけ、ヴェルシアを説得した、そんな事をして何になる、今すぐ辞めて私達と平和な日々を享受しようと…!」
「だがヴェルシアはそれを是とせぬどころか神獣を使役し、抵抗したのだ…」
「造物主様…嘘だろ…?」
「本当…なのかよ…」
「長老!証拠はあるのかよ!!」
証拠などあるはずもない…研究は成されていないのだから
「いいじゃろう…兵士達よ、彼を」
「「ハ!」」
「神獣に襲われ、わしを庇って亡くなった、勇敢な兵士じゃ…見よ!この酷い傷を!!」
あれは…一昨日の兵士!!ヴェルシアが最後を看取った兵士じゃないか!!
「……造物主…いや…ヴェルシア……!!なんて奴だ…!!」
「あなたぁあああ!!!いやぁあ!!!!!」
「父さん!!父さん!!」
「家族の無念を晴らす為にも…我等の未来のためにも、ヴェルシアを処刑する!!」
「そうだ…あいつは生かしておけねぇ!」
「そうだ!!ヴェルシアを殺せ!!」
「そうだそうだ!!」
「「殺せ!!」」
「「殺せ!!」」
「「殺せ!!」」
「兵士よ!!ヴェルシアを連れて此処へ!」
「ハ!」
〜〜〜
「離せ!!この…!!」
「暴れるでないヴェルシア…見苦しいぞ!」
「長老!!良くも私を…!!」
「逆恨み…そこまで堕ちたか!!見たか皆!!これが…これこそが!ヴェルシアと言う女の本性じゃ!!」
「違う!!ヴェルシアを利用して殺そうとしたのは貴方でしょう!長老!!」
「レギウス!!そなた、血迷ったか!よりにもよってこんな女の味方をするなど…!!」
「事実だ!最初から暴虐の魔術が完成したら切り捨てるつもりだったのでしょう!!」
「皆!!どうやらレギウスはあの女に誑かされたようじゃ…!!恐ろしい女じゃ…!!」
「もういい…長老…黙れ…!!」
「おぉ!ついに本性を現したなヴェルシア!!兵士よ!今こそその命に裁きの鉄槌を!!」
「「ハ!」」
「白虎!!!」
ヴェルシアがそう叫ぶと爆音と共に白虎が姿を表す、群がる群衆を飛び越え、兵士とヴェルシアの間に立ち塞がる
「ひぃい!?神獣だ!!!」
「逃げろ!!あの兵士みたいになるぞ!!!」
「いやだぁあ!死にたくない!!」
群衆はアリの子を散らすように散りじりになり、その場から逃げ惑う
「怯むな!兵士たちよ!弓でヴェルシアを狙え!!」
「「ハ!」」
「白虎!!!」
「グゥゥゥゥウゥゥゥオォォォォォォォォォォオ!!」
白虎の咆哮と共に幾つもの雷柱が降り注ぎ、迫りくる狂刃を迎え撃つ…だが
「何をしておる!後ろからも弓を射るのじゃ!!」
「「ハ!」」
「く…不味い…このままじゃ……他の3体は神獣の制圧に当たってる……でも…くっ!!」
前と後ろ、2方向から迫り来る矢、段々防ぎきれなく成り、矢がヴェルシアの近くに突き刺さってゆく
「此処までじゃヴェルシア!!大人しく死を受け入れい!」
雷撃を潜り抜けた一本の矢がヴェルシアを突き殺すべくその首元に向かい空を駆ける、だがヴェルシアはそれに気付けずに反応が遅れる、白虎による防御も間に合わない…
「くそ…こんな…所で…」
目を瞑り死を運ぶ矢を待ち受ける、だが激痛はいつまで経っても襲ってこない
「何が………レギウス!!!」
一早く矢に気付いたレギウスがヴェルシアを庇うように立ち塞がり、その胸に矢を受ける、動脈を損傷したのか、あたりには鮮血の飛沫が広がる
「か…はっ!!」
「愚かな……死に行く定めにある女を庇って何になる…兵士達よ!矢を射る手を休めるな!」
「レギウス!レギウス!!なんで私なんかを庇った!!」
「俺は…ど、うせ…罪、を、擦り、つけられて…殺され、る」
「そうじゃ…!!わしの邪魔をする人間は一人残さず消す!!そのための兵じゃ!神獣じゃ!!」
「もう話さないでいい、今治癒魔術を掛ける、少し耐えて!!」
「無駄、だ…こ、の矢は…毒矢…だ」
「な…!?」
「ヴェルシア……」
「……?」
ヴェルシアの視界を雫が覆う、拭っても、拭っても、止まらず溢れ出てくる…小さな雫
「君…が、す…」
最後の一文字、その一文字を話す前に大量の毒矢がレギウスを襲う、既に致死量の毒を受け、さらに肉体的損傷も激しいその体の活動を止めるには十分すぎる損害で
「レギウス…?レギウス…?何寝てる、?」
「ッチ!外しおって…ヴェルシアを狙え!!まぁ良い、手間が省けたわい」
「何…冷たくなってるんだい………ねぇ…レギウス」
四方からの矢、防ぎきれない矢がヴェルシアの体に突き刺さる
筈だった
「なんじゃ…!なんじゃこの魔素は!!」
「くっは…はは…ははははっははははははは!!」
突如ヴェルシアの体から発せられた昏く濃密な魔素、それは矢を呑み込み、大地を呑み込み、兵士を呑み込み、尚も少しずつ膨張して行く
「研究書には…こんな魔術の記載はなかったはずじゃ…!!!」
「自分で言っただろう…?全てを呑み込む闇の魔術を私が研究してたって」
「嘘じゃ!!あんな物、存在するわけが」
「パイモンの虚空あれを解き明かしていたとしたら?これで説明は十分だろう?」
「まさか…あぁあ…あぁああああ!。嘘じゃ!!!!」
「神獣よ…!!もういい…この世界に用はない、あの高みへと昇ろうじゃないか…!!」
「あぁあ…ああああ…あぁああああああああああああ!!!いやじゃ…いやじゃっっ!!」
「世界を喰らう闇になろう、昏く、そこの見えない闇に…近づいた者を同胞へと変え、共に世界を飲み込もう」
闇が集落を包む、住民達は逃げきれず、家屋の中で事切れる者が殆どで
「レギウス…共に世界を侵食しよう、そうだね…名前はウロボロス、もう一度蘇っておいで…ウロボロス…」
レギウスの遺体を闇が包む、人の形を失い、巨大な漆黒の竜へと姿を変える、その6本の翼は宇宙を超え、3本の尾は星を包み、その雄叫びは次元を揺らす
「さぁ、ウロボロス!世界の闇に消えよう、我が名はアジ・ダ・ハー!!!深きアビスの主にして世界を呑み込むもの…!!もし辿り着く者がいれば…最奥にてその力、知識全てを授けよう…!!神獣達よ…、現世を中から喰らえ!!!私は…外から喰らおう…!!」
原初、人々は尊厳を持たず、群れ、ただ虐げられていた時代、
魔族の侵攻
天使の粛清
これらを受け混乱を極める、最中に突如として産声を上げ、世界を侵食するアビスと4体の神獣、起源も知られぬそれは一つの念具現化として世界を喰らう