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社畜が転生したら竜種の王になっていた  作者: 社畜大根
竜王奇譚
31/67

芽生えた物

「ここは…?」


「……死した者たちが眠る墓だ」


「生命活動を止めた肉塊を埋めるのか?」


「…そうだな…だけど肉塊と亡骸は違う、そこには意思がある、思いがある」


「……生命活動を停止した者に思考は不可だと思うが」


「違うさ、今際の際、生命の最後に魂は最も輝く、その意思の強さ、思いの強さに比例して魔素が力を貸してくれる」


「人間は魔素を持たないが」


「違う…周囲の魔素だ、周囲の魔素が力を貸してくれる」


「思いによって魔素が力を…か、ふむ…興味深い」


「人の強さはなんだと思う?ルシフェル」


「人間の強さ…判らないな、我々のように祝福や魔素の操作によって何かを成し得るでもなく、魔族のように魔素と呪い、力によって何かを成すわけでもない」


「それらは多くの人間が持ち得ない物だな、だが人間には思いやる心がある、他を重んじ、思いやり、助け合う、他の天使や魔族には無い物だ、それが人間の力、そう私は思うよ」


思い…ここでも感情という不可思議な何かが干渉している……


「ふむ……そうか…」


「ん?どうした?」


「…なんでもない、私は天界に戻る」


「おう、任務でさえ無ければ又こいよ」


「…考えておこう」


おかしい…この集落にいると調子が狂う…


〜〜〜


「お帰りルシフェル、件の娘はいたかな?」


「…いや、見つからなかった」


「そうか、残念だな」


「又暇な時にでも探す」


「ああ、頼んだよ」


〜〜〜


「ん?ああ、ルシフェルか、よく来たな〜、まさか任務じゃないよな?」


「……ああ、任務ではない」


「今日は天気も良いし、遠くまで行ってみるか?」


「遠く…か…隣の大陸までか?」


「おいおい…そんな遠くに行けるかよ…湖だよ、景色が良いんだ」


「景色…?光景の事か…そんなもの見て利益はあるのか…?」


「利益なんて無い、ただ見たいから、それ以外に理由はあるか?」


「……理由もなく行動するのか?」


「人間なんてそんなもんだよ、一々行動に理由があったら堅苦しくてやってらんないよ」


「…理解に苦しむな」


「とにかく、行く?行かない?」


「行こう、人間の行動に興味が湧いた」


「そうか…へへ」


「?どうした…口角を上げて…何かの威圧か?」


「ん?いや、笑ってるんだよ」


「笑…う?」


「人間は面白いことや良いことがあるとついこの表情になっちまうんだよな」


「ふむ…そんなに面白いことがあったか…?」


「天使は自我を持たない、って言ってたけどさ、興味が湧いたって事はそれも自我じゃないかって」


「…否定する…」


「じゃあその興味ってもんはどっから出てきたよ?」


「…………」


「な?天使だって自我は持つんだよ」


「ふむ………」


「まぁとにかく、早く行こうぜ」


「ああ…」


〜〜〜


「お?ルシフェルか、最近よく来るな〜」


「……意味はない」


「そうか〜?誰か好きな女でも出来たか?」


「好き…とは?」


「ん〜…何かを大切に思ったりする事だ」


「…あいまいだな…戯けたことを…ただ一つ…頭から離れない事がある」


「ん?なんだ?」


「フィーリア…貴様だ」


「へ?」


「貴様の顔を見ていると…こう…胸の中に今まで感じた事のない疼きを覚える」


「な!?」


「世界の智を、理を理解する私が理解出来ない物…これは…何だ?」


「………感情だよ」


「感情…?天使が持つ筈のないものだが」


「お前が持ってる感情は…多分…私がお前に持ってる感情と同じだ…」


「…?感情は同期する物か…?」


「違う!!…っその…帰れ!」


「何故そうなる……理解に苦しむな」


「とにかく、今日は一旦帰ってくれ!」


「……何故だ?」


「良いから!」


「……不可解」


私は…ルシフェルに……いいや…忘れよう、人と天使、馴れ合う事のない存在同士だったな…


〜〜〜


「おや、ルシフェル、今日は随分と速いんじゃないかな?」


「……色々あってな」


「君の知識を満たす答えが見付かると良いんだけどね、そういえばルシフェル、聞いたかい?」


「何がだ…?」


「…近々地上への大規模攻撃が始まる」


ああ…あったな………せめてあの集落…フィーリアだけでも逃すか…何だこの思考は…神の意に背く思考などあり得ない…筈だ


「その将となる筈だった大天使が2人、人間を庇い神に反旗を翻した」


「……ウリエルとラファエルか…」


「つい先程捉えて使徒のコアにした所だよ、あと残るはユダのコアのみ…このコアは神直々に決定が下った」


「…誰だ」


「地上にいた人間の雌…フィーリアと言ったか、君が随分とご執心だった娘だよ」


「…貴様…」


「僕も最初は疑った、忠実にして神の右席たる君が自我を持ち、まさか人間の娘に好意を抱くなど」


「………」


「まだ遅くない、今からでも懺悔して娘のことは忘れろ、そうすれば君を惑わせた記憶諸共穢れは消える!!」


「…フィーリアはどうなる」


「安心しろ」


「そうか…」


「使徒のコアとなって悠久を過ごす、神の使いとして地上に裁きをもたらす…人間如きには勿体無いくらいの役だ」


「……あの娘をどうしてもコアにするのか」


「ああ、神の決定だ」


「そうだな……そうか、ならばそれが正しいのだろう」


「後でミカエルに伝えて浄化の準備をしてもらうと良い、彼女の得手だ」


〜〜〜


「ルシフェル、浄化の準備が済んだ、こっちに」


「…ああ」


「…君の穢れは大きい…浄化まで時間がかかかりそうだ」


「…そうか」


「どうしたルシフェル…君らしくもない、」


「いや…なんでもない」


「なら良いが…じゃあ始める」


光が私を包む…随分と冷たい光だ…ああ…浄化されて行くのが分かる……


光…全てを包んでいく…


だがこの光は私の求める光ではない…紛い物だ


「何だ…?記憶が消えない…だと?」


フィーリア…貴様の笑みを見ていると…心が安らぐ…


「ルシフェル…まさか…!!」


そうか…あの時…私が得た感情は…


「早く記憶を手放せ!!ルシフェル!!」


貴様の事が…この記憶は……感情は替え難く…


「天使達よ!ルシフェルを押さえろ!!」


それ故に


「ルミナス!!」


手放したくない!


「くっ…貴様!!神に矢を向けるか!!」


「矢?何を言う、これは光だ」


「屁理屈を……!もういい、貴様を捉えて神に差し出す!!大天使が3人も続けて自我を持つなど!!あってはならない事だ!!」


「ほう…?やる気か?君と私の力は同等、決着がいつ着くか分からないが…?」


「地上へ向かう天使達を」


「ラファエルとウリエルの意思に賛同し天界を離れたそうだが?フィーリアを捉えに行った天使達も使徒と共にすでに出立した」


「…もういい黙れ!!Arctic!!」


ミカエルの放った一撃は青白い翅を大量に作り出すと意思を持つかのようにルシフェルに殺到する、


「冷たいな…氷の世界を関する技…ならばそれを溶かそう、rise!!」


それをルシフェルが作り出した紫炎が燃やし尽くす


力は対等


だが徐々に、僅かに少しずつ、ルシフェルが均衡を破っていく


「く……力は拮抗のはず…何故だ?ルシフェルの力が…以前より増している…!?」


「人間の持つ力を取り込めたからだろう」


「ほう…面白い…君をバラしてその力の根源を確かめてやろう」


「…例え君が私を倒せたとして、君では力の根源を見ることはできない、第一体内には無い」


「…穢れの力か…!!」


「穢れじゃない、人が持つ…想いの力、天使すら凌駕する力だ…!!」


ルシフェルが技の威力を強めた、その瞬間、ミカエルの技は弾け飛んだ


「欺瞞を……っくぁああぁあぁああああああ!!」


「消しはしない…眠れ」


ルシフェルの紫炎がミカエルを襲う、彼女を炎が包み、ミカエルは意識を手放した


「地上か……」


〜〜〜


「はぁっはぁっはぁっはぁ…この数の天使…それにさっきから私を狙っている…ルシフェルの指図か!!」


「……」


「剣が…折れやがった…スキルも打ちすぎて使えない…」


「……」


「もう…無理か……」


ルシフェル…天使に殺される時は…せめて…お前の手で殺して欲しかった…私が唯一惚れた…不器用で…妙に人間臭い天使…


「もう立てないか?」


「…!!…へへ…願いって物は通じる物だな…殺せ…お前になら…構わない」


「……行くぞ…」


あぁ…光が膨張するのが見える…でも…お前になら…悔いはない…


「ルミナス!!」


天使など消えれば良いと思った……だがお前を見てるとそう思えなくなった…ルシフェル…私は…お前ともっと…一緒に…


「天使よ…!光と共に散れ!!」


「…何やってんだよ…ルシフェル!!」


「天使として失格な行為だ、だが」


「…?」


()()としての行為だ」


「お前…」


「……集落ごとお前を転移させる…早く逃げろ、時期に天界の兵器が降臨する…使徒が解放される」


「……でも…それは…」


「お前には…生きていて欲しい」


「それじゃ…お前は…!!」


「……」


「私は…」


「……」


「もっとお前と一緒に居たかった…!!」


「私もだ…フィーリア」


フィーリアが立ち上がり手を伸ばそうとした瞬間、集落を魔法陣が包み込んだ


「もう行け…降臨の門が現れ始めた…」


「ルシフェル…私も…お前の事がー」


言葉は最後まで聞こえない、転移の祝福が発動し、集落は転移する、どことも付かぬ、この大地の何処かへ


「…その言葉を途中まで聞けただけでも…十分だ」


降臨の門が開く、白鯨を引き連れた少女が現れる


「ラファエル…いや…使徒よ!お前はここではない…あの場所で相手してやろう、私の墓場に相応しい…あの場所で…!」


その夜、激しい祝福の衝突によって湖は深さを増し、周囲の魔素は異常な数値を叩きだすようになった、祝福のぶつかり合いは光となって流星のように降り注ぎ、それを目撃した者達によって湖は名称を持つ、

星降りの湖、と


やがてルシフェルの魂は長い時を経てユダのコア経と姿を変える


原初、人々は尊厳を持たず、天と魔に虐げられ、文明は踏み潰され、淘汰された、力を持たない人間は屠られる、だが文献には矛盾の生じる記録も残り、異様なまでの力を持った竜種や英雄と呼ばれる者が生まれたのもこの時代である、


大天使2人が人々を庇い、天使の軍勢と共にエデンを作り上げた


また別な大天使が娘を守る為に、使徒と共に湖に消えた


魔王と呼ばれた魔族が人々に知恵を与え、生涯見守った


天と魔の兵器が反旗を翻しとある次元を破壊した


ある英雄は天界を貫き、地上に大穴を開け、魔界にアビスを作り上げる槍の一撃で三界に秩序と平定をもたらした


これらは神話と成り、子守歌と成り、歴史書と成り、原初の情景を後世に残す

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