表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神は悪役令嬢を幸せにしたい  作者: 灰羽アリス
5/80

[5]ミッション①コンプリート?《あと49日》


 皆に優しい言葉をかけられながら、早めにお茶会から離脱する。


 婚約破棄された昨日の今日で、お茶会なんか出たくなかった。なんて図太い神経なのかしらって馬鹿にされるはずだもの。

 けれど死神は、『茶会出席は最初の一手として絶対に欠かせない』と、無理やり私を参加させたのだった。


『いい話をしてやろう』


 お茶会に出向く朝、渋る私に死神は言った。


『ある所に、無実の罪を着せられた諸侯がいた。その罪とは、賄賂を貰って自国の情報を他国にリークしたという内通罪だった』


 くるくる歩き回りながら、芝居がかった口調で語る。


『彼は内通容疑をかけられ、断罪される。他国に軍事情報が流れていたら最悪。戦争が起これば負けるかもしれない。内通の罪は重い。死刑だ。しかし、証拠がなかったために、彼は謹慎を言い渡されるだけとなった』


『ここで、彼は絶望に打ちひしがれ、自宅に閉じこもった。断罪の声を恐れ、非難の視線を恐れ、誰の言葉も目も届かない殻の中に引きこもった。その結果、』


『噂は一人でに歩いていき、噂が噂を呼び、話がどんどん大きくなっていった。当然だ、唯一事情を知る者は引きこもっていて話を聞けない。人々の想像はどんどん膨れ上がる。そして、彼の内通容疑はいつの間にか、王の殺害を企てた容疑にまで発展していた。そんなことはしていない!その声はもはや誰にも届かなくなっていた。嘘でも世間に出れば、ある種の真実となるいい例だ』


『つまり、俺が言いたいのはこういうこと。噂にはどんどん尾ひれがつく。辛いからと引きこもっていれば、お前が社交界に復帰する頃にはそれはもう手の付けようがないほど酷い婚約破棄の物語が出来上がっていることだろう。それもたぶん、王家の都合のいいように。お前は悪者にされる』


 そんなの嫌だろう? 悔しいだろう? と死神はお面顔をぐっと近づけて聞いてきた。


『あちらに都合の良い物語が出来る前にこちらで手を打つ。さぁ、悲劇のヒロインになってこい』


 ───正直、いいように乗せられた感はあるけれど、死神の作戦は成功したのだと思う。お茶会の場で、死神の言いつけどおりに振る舞えば振る舞うほど、私は"悲劇のヒロイン"になっていった。皆心からの同情をくれ、自業自得ね、と馬鹿にする者など一人もいなかった。


「急な婚約破棄で心を痛める少女が、嘲笑も恐れず皆の前に出てきて、愛する王子を庇う。王子が浮気して公爵令嬢を捨てたなんて悪い噂が立たないように。涙を飲んで、『彼は悪くないの』──ああ、なんて健気で可哀想な子。"流れ"はできた。あとは、噂好きのご婦人方が各地で今日のことを語ってくれるだろう」

 

 死神はご満悦だ。


「最高だったぜ。特に、ルルを庇って涙を流す瞬間なんてな。内心どろどろにマグマが煮えたぎってるくせに。いい偽善者ぶりだったぜ」


 偽善者。その言い分にカチンとくる。


「貴方がそうしろって言ったんじゃない! 憎くてたまらないルルを庇うなんて胃がよじれるほど悔しかったわ! あの最低女!泥棒猫!そんなふうに皆の前で罵ってやりたかったわよ!」


「それをやっちまったら、"殿下に捨てられた醜い女"に成り下がる。気高くあれ、公爵令嬢よ」


 イライラする。

 なぜ私がアレクとルルを庇わなくてはならないの。悪く言われるなら、言われるがいいわ。非難されることを、彼らは私にしたのだから。


「もう嫌。しばらく外出はしたくないわ……」


 自室のベッドにすとんと腰を下ろす。ドレスも宝石もそのままに。このままベッドに沈んで、永遠に起き上がりたくない。


 ぐう、と腹の音が鳴った。私じゃない。死神のだ。


「───あなた、死神のくせにお腹がすくの?」


「腹は減らない。死神に食事は必要ないからな……が、空腹は自分の体で味わえるよう再現してある。人間は食事から幸福を得るだろう? 俺は人間に寄り添うタイプの良い死神だからな。人間の気持ちが理解できるようにそうしてるんだ」


 お腹が鳴る機能まで再現するなんて、変なところにこだわりがある死神ね。

 人間の気持ちを理解なんて、どの口が言ってるのかしら。散々私の心の柔らかい部分を土足で踏みにじってきたというのに。


「肉を付けてくれ。あと、パンより米があるといい」


「なんの話?」


「食事を部屋まで運ばせてくれるんだろう?」


 ……信じられない。なんて図々しい男なの!


 唖然とする私を無視して、死神はどこから取出したのか、テーブルに白いクロスを掛けている。

 ……本当に、何なの?


「ワインもくれ」


 まともに言い合うだけ無駄だ。

 結局、私はよろよろとベッドから立ち上がり、部屋の外に待機していた使用人に食事を頼むのだった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ