(召喚)+
神殿の祭壇には数名の神官と、その儀式を見守る王とその側近らの姿があった。
祭壇の床には複雑怪奇な文様があり、儀式が進行するにつれ、文様が青白く明滅し、その明滅の間隔が短くなってきていた。
神官が祝詞を唱え終わった瞬間、目も眩む白光に祭壇が包まれた。
そして、その光が収まった時、文様の中心に一人の青年の姿があった。
「おお、召喚が成功した」
儀式の成功に安堵する声があがる。
使徒召喚儀式、古の大神官が編み出した、神の力を借り、神の使徒を呼び出す秘儀。
王城の禁書庫に保管されていた古文書を元に復活させた大儀式。
王国に迫る存亡の危機を回避する最後の希望である。
王国の北に広がる大森林、化外の森と呼ばれる魔物の巣窟から魔物たちが溢れ始めて十数年。
北の辺境は化外の森に侵食されつくし、あと数年もすれば王都も森に飲み込まれると予想された。
無論手をこまねいて見ていたわけではなく、傭兵、国軍を投入し魔物の侵攻に抗ってはいた。
しかし、魔物の量に加えて、兵士を喰った魔物がおぞましく凶暴な姿に変異していくのである。
体中に目があるウサギ、人の腕が何本も生えたイノシシ、いくつも有る人の口から断末魔の叫びをあげるシカ。
後方地域では魔物を止めるための巨大な壁の建設が昼夜を問わず行われ、一旦はそこで侵攻は止まったかに見えた。
魔物たちは壁にぶつかり、一部は死に、そして別の魔物がそれを食べ、更におぞましく巨大な魔物に変異していった。
事ここに至って、もはや人の力では抗いきれぬと判断し、正に最後の神頼みとして行われたのが使徒召喚儀式であった。
召喚された使徒たる青年は、がっしりとした体格の戦士然とした姿ではあったが、
その衣服は薄着であり、戦いに赴くような格好ではなく、あたりをキョロキョロと見回し、何か戸惑っている様子だった。
「使徒様、召喚に応じていただきありがとうございます」
神官長と思しき年かさの男が青年に声を掛けた。
「は?使徒様?召喚?一体何の話でしょう?応じた覚えはないのですが…」
もしや失敗なのかとざわつく。
「いえ、その神々しい神気は使徒様に相違ありません。文献によりますと使徒様の背中には神の紋章が現れているそうです。失礼ですが、そのお衣を脱いで背中を拝見させていただけないでしょうか」
「ほう、私の背中が見たいとおっしゃる。ではご笑覧あれ」
やにわに服を脱ぎ、バックダブルバイセップ。
「なんと見事な…」
「背中に戦神のお顔が…」
「おお、確かに戦神の額に紋章がある」
「使徒様に間違いない」
神官たちは涙を流し神に祈りを捧げだした。
「ふむ。確認は済んだようですな。では私の他の筋肉たちもお魅せいたしましょう」
拳をおろしバックラットスプレットからサイドチェスト。
「いえ、いつまでも立ち話というのもなんですし、こちらへお越しくださいませ」
「了解した」
胸筋をピクピクさせつつ文様の外に出た。
その瞬間、再び文様が激しく明滅を始めた。
「一体どういうことだ」
「何が起こっている」
慌ただしくなる祭壇。そして先程と同様に祭壇が白光に包まれ、それが収まった時、そこには再び青年の姿があった。
「な、使徒様がもうひとり降臨なさった」
新たな青年は文様の外でリラックスポーズを決めている青年と良く似た体格ではあったが、服装が異なっていた。
「「むむっ、君は私かっ!?」」
服装以外瓜二つの青年たちは互いの姿を見て驚愕した。
「一体どうなっておるのだ」
王が神官長に疑問を投げかけるが、わけがわからないとしか答えようがなかった。
互いの姿を見つめる青年たち。
文様外の青年がバックダブルバイセップを決めるのを見た新たな青年は上着を脱ぎバックダブルバイセップを魅せつける。
「おお、こちらの使徒様にも戦神のお顔と紋章が」
「まさか、同じ使徒様が二人もご降臨なさるとは。これで我が国は救われるに違いない」
「そちらの使徒様もこちらにお越しくださいませ」
「一体全体どういうことなのかさっぱりわからないが、そちらに行けばよいということであれば了解した」
青年は文様外の青年に対抗するようにポージングを決めつつ文様外に歩き出た。
そして、その瞬間三度文様が明滅を始め、
「またかよ」
次から次へと降臨する使徒。小隊、中隊、大腿じゃなくて大隊、師団を構成し、化外の森の魔物たちを駆逐することができましたとさ。
めでたしのようなナニカ。
「国民より使徒様のほうが人数多いんですけどどうしましょう」
「召喚陣壊せば流石に止まるんじゃね?」
「あっ」
異世界の一人を召喚するつもりが無数の並行世界に存在する同一人物が次々に召喚されちゃったっていうネタがもともとのコンセプトだったんですけど、並行世界要素をうまくまとめられなかった。
タイトルは召喚が無限に続くって意味合いで正規表現にしてます。




