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75話:風呂2(下)

 何故、風呂場ではカポーンという効果音が用いられるのだろうか。

 そんなことを思いながら、高木は目の前の様子にポカーンとするしかなかった。


 散々殴られた痛みがようやく治まりつつあり、ルルナを激しく落ち込ませたファウストが白眼視されている頃には、高木は冷静にこの状況を把握することができるようになっていた。

 美女揃いの混浴。胸と腰には沐浴のための布を巻いており、湯も白濁してはいるが、それを差し置いてもこの状況は素晴らしい。

 何よりも先に目がいくのは、やはりレイラだろう。目算でも軽く90センチを越えるバストは、なんと湯にぷかぷかと浮くのである。ただでさえ大きい胸が作り上げた谷間が、湯によって持ち上げられ、ふるふると揺れる。いくら貧乳派を自覚する高木でも、この迫力には抗えないものがある。

「うー……見てくれるのは嬉しいけど、恥ずかしいよー」

「ああ、すまん」

 恥ずかしそうに胸元を手で隠すレイラに、高木は謝るが、こっそりとコンタクトレンズを装着しなおしており、反省の色などあるはずもない。むしろ、手で隠すおりにぎゅっと脇に押さえつけられた胸が大きくたわんで、着実に脳内フォルダを埋めている。

 それでも、流石にじっと見つめるのは失礼かと目をそらすが、そこに待ち構えているのがひとみである。自身の恋人(別れると言われ撤回されていないが)ながら、その肢体は素晴らしい。レイラに比べればサイズは劣るものの、肌には張りがあり、身体を滑る湯が艶めかしい。天衣無縫の美少女は、水という一つの要素だけで、途端に艶やかな色香を放つのだ。

 ただ、惜しむらくはひとみの最大の魅力は腰のくびれであると高木が考えていることだろう。立ってくれと頼むわけにもいかず、そのうち、こっそり拝もうと心に決めて、フィアに目を向けた。

「……ふむ」

 フィアは既に一通り高木を殴って気が収まったのか、頭の後ろで手を組み、暢気に鼻歌を歌っている。

 おかげで胸は完全に湯から出ており、脇から伸びるラインの美しさは、他の追随を許さない。

「な、何よっ!?」

 フィアが高木の視線に気付き、足で湯を高木に飛ばす。その脚線美も中々のものである。

「フィア、今まであまり気付かなかったが、脚が綺麗だな」

「い、いきなり何を言い出すのよっ!!」

「褒めたのに何故、怒られるのだ……」

 高木はやれやれと、今度はルルナにも目を向けた。入浴でもポニーテールはほどかないらしく、後れ髪が肌に張り付いており、色っぽいを通り越して、もうエロいとしか表現のしようがない。

「……ルルナは騎士団では、さぞ人気があるだろうな」

「そんなことはない。やはりショック団長には剣も及ばぬし、魔法ではファウストに大きく後れを取っている。話に聞く、オルゴー殿には比べるまでもないほど差があるのだろう。恥じ入るばかりだ」

 ルルナは高木の言葉を女性としてではなく、騎士として受け止めていた。ファウストの言葉は全部、女性として受け止めるのだから、性格に反して根は正直なのだろう。

 エリシアの手料理が騎士団で人気だったことからもわかるが、ルルナはおよそ女性らしい嗜みではなく、騎士として男同然に育てられてきたらしい。口調も男らしければ、仕草もどこか男らしい。

 これで湯が熱ければ文句はないと思いながら、高木はふとレイラに視線を戻す。レイラもあまり温い湯を気に入っていないのか、やや物足りなさそうに指で湯をかき混ぜて遊んでいた。

「……そういえば、きちんと再会の挨拶をしていなかったな。おかえり、レイラ」

「うん。ただいま……いるのを忘れられてるのかと思って心配したよー」

「その大迫力を見逃すわけが……いや、いきなりフィアに殴られて、有耶無耶になっていただけだ」

 つい視線が胸に行ってしまうのはどうしてだろうか。高木としても謎は尽きないのだが、男というのは基本的にスケベであり、スケベでないと子孫繁栄などない。要するに、人類の存亡は男のスケベ心にかかっている。だから、別に視線が胸に行くのは悪いことではなく、むしろ自然の摂理に則った、良いことなのだと高木は脳内で超理論をカマして、一人頷く。

「マサトも、お湯が熱い方が良いー?」

「そうだな。ぬるま湯に浸かる人生も悪くないが、腐ってしまいそうだ。しかし、マナがなければ流石にな」

「えへへ、マナならあるよー」

 にっこり笑うレイラに、全員の注目が集まった。常にマナを感知できるフィアやファウストが目を見合わせる。二人の感覚に、マナを示すモノは無かったからだ。

「どこにも無いじゃない」

「うん。マナだけどマナじゃなくて、マナじゃないけど、マナなんだよー」

 レイラの禅問答のような言葉に、一同が首を傾げる。ただ、高木だけが何かに気付いたようで「ふむ」と声を上げた。

「概念魔法、勉強したのか?」

「うん。けど、私には無理みたいで……けど、概念ってことが少しずつわかってきて……概念魔法じゃないけど、面白いことができるようになったのー」

 レイラが湯から手を出して、おもむろに自分の胸の谷間に指を突っ込む。むにっとふにゃっと、柔らかそうな双丘がたわわにしなり、ファウストは眼を瞑り、高木は食い入るように見つめた。

 弁明するならば、スケベ心に加えて、そこに挟まっていたものの正体が予想できたからである。

 レイラが胸の谷間から取り出したのは、小さな半透明の欠片。水晶のような、小さなビー玉ほどの欠片だった。

「マナの……結晶体とでも言うべきか」

 高木の言葉に、ファウストとフィアが如実に反応を示した。

「タカギ君……それは、つまり……」

「ああ。僕も何度か試してみたが、上手く行かずに諦めていたことなのだが……レイラは、マナでマナを作った」

 魔法使いではないエリシアとリッカが、周囲が驚く意味が理解できずに不思議そうにレイラの手に乗った欠片を眺める。

「そ、そんなに凄いの……?」

「うむ……利用方法などいくらでも思いつく。僕の概念魔法などより、よほど凄いことだ……」

 高木の言葉に、レイラは嬉しそうに微笑んだ。そして、欠片をそっと握ると、ゆっくりとイメージを膨らませる。

「お風呂ー」

 長旅で湯を沸かすために、水の中でも燃える火を作っていたレイラ独特の呪文だった。

 レイラのかけ声と共に、風呂の中に炎が生まれ、激しく燃えさかる。ごぼごぼと泡を立て、一気に水温を上昇させた。

 いつの間にか、ぬるま湯は丁度良い湯加減へと変化しており、変化が解けたマナが四散する。

「……うん、やっぱりお風呂はこれぐらいじゃないとねー」

「う、嘘……マナの結晶化なんて、魔法使いの夢じゃないの。なんで、レイラが……?」

 フィアが信じられないという様子で呟く。しかし実際にマナの無いところから発動させた魔法を見ており、レイラが握っていた結晶は消えて無くなっている。

 マナの結晶化は、多くの魔法使いが憧れ、追い求めてきた分野である。しかし、長時間の変化どころか、結晶化すら不可能であり、フィアも諦めていた。レイラは元々、そこまで研究熱心というほどでもなく、独学で結晶化を成し遂げたとは、どうしても考えにくかった。

「マサトと別行動してから、いきなりやることが無くなっちゃって……魔法で役に立てることもあるかなと思ったけど、私よりもフィアやファウスト。それにヒトミの方が魔法使いとしてはずっと優秀だったし……何か一つでも、頑張ろうって決めたの。マサトに概念魔法の基本的な理論は教えて貰ってたから、それを元に、ちょうど、概念魔法と普通の魔法の間を取る形で試してみたの。この理論を完成させるのに、三十日以上かかっちゃった」

 他の魔法使いが数十年単位で苦労しても為し得なかったことを、数十日で完成させてしまったのだが、レイラは少し恥ずかしそうだった。誰も考えたことのない概念魔法を十数日で実用可能なものに仕上げた高木を知っていればこそだろう。

「それは、凄いことなのか?」

 ルルナがファウストに問いかける。ファウストは静かに頷いて、レイラにマナの結晶を作ってもらうように頼んだ。

「けっこう簡単なんだよー」

 レイラはマナを集め、イメージを膨らませて「真名マナ」と呟く。基本的な方法は普通の魔法と変わらぬようで、レイラの周囲に集まっていたマナは、まるで圧縮されるように縮んでいき、レイラの手の中に収まった。

「エリシアさん。結晶を手に取り……そうですね。風でも想像してみてください」

「う、うん……」

 レイラから結晶を受け取ったエリシアは、ゆっくりと風をイメージする。そして、ファウストが何をしようとしているのか、わかったのだろう。高木をふと見つめて、悪戯っぽい笑みを見せる。

「吹っ飛べー!」

 風呂場に突然、突風が吹き荒れた。フィアの風に比べれば大したことはなく、人を吹き飛ばすようなモノではないが、高木の上半身が一気に湯冷めする程度の勢いはあった。

「……わ、ほんとに風が……わ、私が魔法を、使えたの……?」

「ええ。そのマナの結晶は、集まった状態ですからね。念じれば魔法は発動します。レイラさんのマナの保有量のまま、誰でも魔法が使えるということです。フィアさんより威力が低い風だったのは、フィアさんが風に特化しており、エリシアさんが不慣れだから。レイラさんの保有量であれば、タカギ君を吹き飛ばす威力が出るでしょうね。また、先天的にマナの保有量が低いタカギ君のような魔法使いにも朗報でしょう」

 マナの結晶化とは、マナを目に見える形で作り上げたものであるから、マナを感知できる、できないに関わらず、魔法が使えるということである。

 エリシアはある程度、マナについての知識をフィア達から教えられているので、フィアにこそ及ばないが、かなりの風圧を生み出すことができた。仮に魔法にまったく知識のない人間ならば、もっと風の勢いは弱かっただろう。しかし、それでも魔法が使えるのと、使えないのでは大きな違いである。

「これがあれば、みんな魔法を使える……結界も、関係なくなる……凄いよね!!」

 エリシアは初めて魔法を使った喜びも相俟って、ぱしゃぱしゃとお湯を飛ばしながら嬉しそうに高木を見る。高木も「ああ」と呟いたが、顔は浮かないものだった。

「レイラ……この結晶化が可能なことを、誰が知っている?」

「えぇっと……最初に、ヴィスリーに言ったよ。それで、ヴィスリーが人前で使うなって……マサトやフィア達の前ならいいけど、他は絶対駄目だって」

 それまでの和やかな空気から、不意に鋭くなった高木の目に、レイラは少し怯える。高木はその言葉に安心したようで、大きく溜息をついて、にこりと微笑んだ。

「ヴィスリーに感謝しよう。レイラの努力を否定するつもりはないが、これはまだ、早すぎる」

「……早すぎる?」

 首を傾げてオウム返しをするエリシアの隣で、フィアが「あっ!」と大声を上げる。フィアも気付いたようだった。

 ファウストはフィアよりも先に気付いており、ひとみは高木とほぼ同時に気付いていたのだろう。こくりと頷いた。

「おいファウスト。私にもわかるように説明してくれ」

 ルルナが問いかけると、ファウストはこくりと頷いた。そして、ゆっくりと、この教会で七日前に起こった出来事を、順に語り出した。

 悪魔の烙印を解くため。そして、魔法の弾圧を辞めさせるために、自分たちが突入したこと。そして、その中で最高司祭ゴルガンスタインが放った言葉を。

「魔法という強大な力が世に広がりすぎると、それは制御しきれない過剰なものとなり、身を滅ぼす原因ともなります。ゴルガンスタインはそれを恐れ、魔法の弾圧を辞めることができなかった。タカギ君も、弾圧の緩和、そして解除と、段階を踏み、時間をかけて魔法を世に広めることを受け入れました。つまり、急激な変化は確実に悪影響をもたらすと言うことです」

「誰でも魔法が使えると、まずいというのか?」

「魔法に対する知識や法律が明確でない現在、非常に危険です。犯罪に使用されれば、それに対処できねばなりません。殊、炎などは犯罪に利用しやすく、身近ですからね。戦争も死傷者の数が跳ね上がり、各国が競ってマナの備蓄を開始するでしょう。そうなると、今まで循環していたマナが滞り、マナは共有の力ではなく、国力となってしまいます。それは、魔法使い――ひいては、このシーガイアに住む人間全員の損失でしょうね」

 ファウストの指摘に、ルルナは黙り込む。レイラもある程度は危険視していて、だからこそヴィスリーの言葉に納得したのだが、まさか全人類の損失とまでは考えていなかった。

「ど、どうしよう……私、そんなに悪いことを……」

「ふむ。ファウストの言葉は正しいが、別にレイラが悪いことをしたわけじゃない。マナの結晶化は、いずれは誰かが発見するだろう。たまたま、僕が概念魔法を身につけ、その発想を取り入れることができたレイラが、一番最初に見つけただけだ。それに、発見自体は素晴らしいことだし、誇って良い。不用意に広めず、自重しながら使う分にはかまわない。つまり、僕の概念魔法同様、レイラの必殺技というわけだ」

 高木は気遣いながら、そっとレイラに近づいた。レイラがぼんやりと高木を見上げ、「必殺技?」と問いかける。

「いつか、結晶化を発表しても良いような環境になる。魔法が広まり、法が整理され、結晶化の技術が求められる日が、必ず来る。だから、それまではレイラだけが使える必殺技だ」

「良かった……私、少しでも役に立てればと思って……それで怒られちゃうかと思った」

「僕がレイラを怒ったことなど、一度もないだろう。殺されかけても怒らなかったんだから、これぐらいで怒るはずがない」

 ぽんぽんと頭を撫でてやると、レイラは目を潤ませて、高木に飛びついた。

 久々に会えたこともあり、感極まっていた。だから、ほとんど裸同然ということを、完璧に失念していた。

 高木の胸板にほぼダイレクトに押しつけられた、抜群のボリューム感。思わず腰が引けた。というか、引かねば色々と崩壊しそうだった。

「……私は今日だけ許すことにしたけど……ヒトミは?」

 フィアがこめかみに青筋を浮かべながらも、必死で笑顔を作り、ひとみを見る。ひとみもこっそり、湯船の中で拳を握っていたのだが、笑顔を崩すことはなかった。

「フィアが怒ってることも、どうかと思うけど……もう別れるって言っちゃったから……まあ、今日だけは許そうかな」

 本気で別れるのだろうか、と思いながら、フィアは高木の様子を見る。高木に助けられてから、やや直球になってきたエリシアが高木の背中にとびついていた。

「……別れたら、速攻で奪われていきそうだけど?」

「うん。特にフィアにね」

 くわばわくわばら、とフィアは首まで湯に浸かり、レイラとエリシアに挟まれて悶える高木を見る。

 なんであの男がそんなに良いのだろう。そんな問いを、自分を含めた全員に投げかけたかった。

戦線復活するキャラは、大抵パワーアップしているものです。レイラ姐さん、賢者の石っぽいシロモノを手に入れつつ復帰です。


で、ちょっと増えすぎたので、魔法使いを一人減らします。

さてここで問題。それは誰でしょうか?

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