64話:引抜
暢気に地下牢を脱出した高木とフィアは、隣接する青銅騎士団の詰め所に足を運んだ。
「やあ」
入り口を警護していた若い騎士に、高木が声をかけると、騎士は「へ?」と素っ頓狂な声を上げてから、わあわあと叫んで、詰め所に逃げ込んだ。
「なんだか、こういう立ち位置も楽しく思えてくるから不思議だ」
「根っからの悪役ねえ」
高木とフィアは和気藹々と喋りながら、詰め所に入る。高木の目的がケルツァルト潜入であったことを聞かされているフィアは、今までの慣れもあってか、高木の考え無しに見える行為に関しても、何も言わない。
突如として現れた黒髪の悪魔と、その悪魔を召喚した魔法使いの闖入に、詰め所は阿鼻叫喚の大騒ぎとなり、ぐるりと十人ほどの騎士が、遠巻きに高木とフィアの様子を窺っていた。
「すまんが、騎士団長はいるか。せっかくあてがわれた部屋だが、ちょっと湿っぽい上に見張りが多くて、住み心地が悪かったものでな。もう少し、都合して欲しいと陳情しにきた」
高木の言葉にぽかんとする騎士団の面々であるが、高木としてはそれなりに真面目な交渉である。
「な、何が狙いだ!?」
一人の勇敢な騎士が高木に剣を向けて、厳しく問い質す。
「関所でも言ったのだが……別に悪いことをしたわけでもないのに、弾圧の対象になったと聞いてな。教会に直談判するために来た。ただまあ、長旅で疲れているので、久々に美味い飯と柔らかいベッドが欲しいと思っただけさ」
不思議なことに、高木は何一つ嘘をついていない。
そもそも、高木は大嘘つきではあるが、最も得意とするのは嘘をつかずに相手を騙すことである。
要するに、相手に勘違いをさせることなのだが、黒髪の悪魔という立ち位置は、ほぼ全ての発言に勘違いさせる要素を生み出させる。高木にとって、これほど便利な二つ名はそうそう無い。
「何事だ」
高木の発言の意図を周囲が理解できないでいると、奥の部屋から騎士団長のショックが顔を出した。
高木の姿を認めると、ショックは流石に驚いたのか、剣を抜いて、戦闘態勢に入る。
「大人しいと思っていたが、まさか牢を一瞬で抜けるとはな」
「一瞬ではない。地道な作業のお陰だよ。それより、剣をおろしてくれないかな?」
高木は手近にあった椅子に腰掛けて、ショックの顔を真っ直ぐと見た。
別に余裕があるわけではない。地下牢の見張り兵士程度ならば、高木の腕前でも倒せるのだろうが、しっかりと訓練をしている騎士達を相手に、高木が剣術や体術でかなうはずもない。
要するに、この大仰なA態度もハッタリのうちで、悪魔という肩書きがそれらを実に現実味のあるものにしているだけである。
「わざと捕まったとでも、言うのか?」
「ああ。ケルツァルトは不慣れでね。中に入る手段が他に思いつかなかったから、利用させて貰った。問答無用で殺されそうになれば、尻尾を巻いて逃げていたが」
高木の言葉が、弱者を装うふうに聞こえてしまうのは、仕方のないことであろう。
実際に、他に方法を思いつかなかったのも確かであり、高木にしては割と賭けの部分も大きい作戦ではあったが、厳重に牢屋に閉じ込めておいたはずの人間が、暢気に騎士団の詰め所に顔を出していることには違いない。概念魔法を知らなければ、それは悪魔の強大な力に思えるだろう。
ショックは目の前の悪魔の実力に恐怖しながらも、自らの行為によって、ケルツァルトの街に悪魔を招き入れた結果になってしまったことに気付くと、剣を握る腕に力を込めた。
先ほど、中央教会に連絡を入れて、悪魔を捕らえたと報告したばかりなのである。もうすぐ、悪魔を断罪するための教会騎士が訪れる手はずになっていた。ショックは決して見栄っ張りな男ではないが、青銅騎士団の起こした不祥事は、騎士団の名誉の問題でもある。
「……こうなれば、致し方在るまい。青銅騎士長ショック・ゲル。貴様に一騎打ちを申し入れる!」
ショックの言葉に、騎士達が動揺した。
確かにショックは騎士団長を務めるだけあり、剣の腕も一流である。しかし、牢を破り、何の躊躇いもなく騎士団の詰め所で笑顔を見せる悪魔に、勝てるとは思えなかった。
「私の命を奪えば、それで良しとしてもらえぬか。精鋭揃いの青銅騎士団の長の命だ。街一つと引き替えにはならんが、悪魔にも無価値ではあるまい」
ショックの言葉に、騎士達は感動した。
ショックも決して勝てるとは思っていないのだ。しかし、ショックは己の命と引き替えに、悪魔がケルツァルトにやってきた目的を、辞めさせようとしているのだ。
「なるほど。そうきたか……しかし、悪魔がそんな約束を守ると思うか?」
「わからんが……どうせ殺されるのであれば、可能性に賭けるほうが良いだろう?」
ショックの言葉に、高木は満足げに頷いた。単に騎士道精神に溢れているだけでなく、理屈での損得勘定もできている。
高木はゆっくりと立ち上がり、桜花を引き抜いた。少なくとも、損得勘定を全て楽しいか否かで考える高木より、ショックのほうが人間として出来ていると、内心で苦笑する。
「マサト。あんた、剣で勝負したら殺されるわよ?」
「だろうな。しかし、一騎打ちを申し込まれて、断ってはサムライの名折れだ。騎士道精神があるように、武士道というものがある」
高木の言葉を、フィアはよく理解できなかった。
理屈を重んじる高木が、敢えて不利な剣の勝負をするのは、その武士道に由来するものなのだろうか。だとすれば、それは死に至る道でしかない。高木のことだから策かとも思うが、高木は額にうっすらと汗を浮かべている。決して演技まで達者なわけではない高木が、器用に汗を額に浮かべることはできないだろう。
「それでは、僕が勝てば君の命を貰い受ける。君が勝てば、僕の命を奪えばいい」
高木は桜花を正眼に構え、ショックを見据える。
ショックの構えには隙が無く、どのように斬りかかっても、返り討ちに遭う自分が易々と想像できた。
それでも、ここで勝負を逃げるのはサムライのすることではない。
「フィア。手出し無用だ」
「嫌よ」
「……男心のわからんヤツだ」
高木は苦笑して、構えをとく。ショックに「ちょっとタンマ」と言って、ぺしんとフィアのおでこを小突いた。
「あのなあ、フィア。男同士の真剣勝負なんだ。ここは頷いておくのが普通だろう」
「だって、私でもわかるのよ。絶対、マサトが負ける。概念魔法を使えば勝てるんでしょうけど、どーせその武士道とかに則って、使わないつもりでしょ。嫌よ、私はマサトが死ぬところなんて見たくないもん」
フィアは一通りまくし立てると、高木の手から桜花を奪い取って、じいっと高木の顔を見上げた。概念魔法を使うつもりがなかったのは、その通りであるだけに、反論しようがなかった。
「ちょっと剣術が使えるようになったからって、無茶するんじゃないの。アンタが死ねば、転送魔法が使えない私も死ぬし、そうなればエリシアとファウストは帰って来れない。ヒトミだって悲しむじゃない!」
「……いや、そうだが……男には、その、譲れない勝負があってだな」
「私は女だからわかんないの。だから、許可しない!」
ふんぞり返ってしまったフィアに、高木は言い返すことが出来なかった。
既に理屈の出番など消えており、高木が理屈ではない武士道を持ち出した時点で、フィアの勝ちは決まっていた。
単なる言い争いは、女の方が強いものである。
「むう。参ったな……こうなったフィアはてこでも動かないし……ショックさん、どうしようか?」
困り果てて一騎打ちの相手に話を振った高木だが、振られたショックはもっと困った。
どう対処しろと言うのだ。身命を賭した一騎打ちに昂ぶっていた心も、おそろしい勢いで脱力してしまっている。つまるところ、グダグダであった。
「……いや、悪魔も痴話喧嘩をするのだな」
あまりにも脱力した結果、素直な感想が口をついた。
騎士達も目の前の状況の面妖さについていけず、ぽかんとしていた。ただ、痴話喧嘩という単語が、不味かった。
「痴話喧嘩じゃないわよ、吹っ飛べバカ!!」
不用意なショックの一言にフィアが激昂して、詰め所に突風が吹き荒れた。フィアにしてみれば半ば条件反射であったが、最近はこう、微妙に自覚らしきものも生まれているのか、恥ずかしさを誤魔化すために特大の風であった。
運悪く、神の力を行使する騎士が詰め所にいなかったこともあり、フィアの突風は容赦なく最大風速でショックおよび、騎士達を壁にたたきつけて、ついでに高木も軽く吹っ飛ばされた。
「決闘するんなら、木剣か何かで、死なない程度にしなさい。それなら安心じゃないの」
「もう、それは決闘じゃない気がするんだが……まあいいか。ショック団長、立てるか?」
高木はふらりと立ち上がり、ショックの前に立つ。ショックはしたたかに壁に叩きつけられていたが、ケホケホと噎せた後、ふらふらと立ち上がった。
「大丈夫か?」
「え、ああ。問題ないが……いや、それよりも。お前は……本当に悪魔なのか?」
物凄く普通に心配されて、ショックは戸惑った。先ほどまで、剣を交えようとしていた雰囲気は欠片もなく、どっと気が抜けてしまった。既に抜けきっていたようでもあるが。
「まあ、君たちの定義で言えば悪魔だが……別の世界からやってきただけで、ごくごく普通の人間だ。ちょっと特別な魔法が使えるだけのな」
高木の言葉が、何故か素直に信じることが出来るのはどうしてだろうかと、ショックは剣を杖にして、高木の顔を見上げる。
悪魔の証拠である黒髪。妙な硝子板を鼻にかけて、真っ黒な衣装を纏っている。特に、信じるに値する何かがあるわけではない。
「いや、そう見つめられても困るが。君たちの思い描く悪魔と、僕が違いすぎるだけだろう。あんまりにも違いすぎて、その上で本人も『怖くないよ』と親切に言っているんだ。納得してしまうのは普通のことだと思うぞ」
ショックの気持ちを見透かしたように、悪魔は笑う。
高木は抜いていた桜花を仕舞い、改めてショックを見る。
「僕は、人間だ。それをこれから証明しようと思う。ちょっと、手伝ってくれないか?」
「どうするつもりだ?」
「簡単だ。中央教会の偉い人が『この男は悪魔じゃない』と言えば、僕は悪魔じゃなくなる」
高木やひとみを悪魔と認定したのが教会である以上、教会がそれを撤回すれば、悪魔ではなくなる。
確かに正論ではあるが、教会が一度言ったことを覆すのは、すなわち教会の威信を下げる行為である。素直に教会が認めるとは、ショックには思えなかった。
しかし、それ以上に、自分が既に目の前の男を悪魔ではないと認識しているのが、ショックにとって一番の驚きである。いつの間にか、すっかり話に乗せられている。
或いは、この男が悪魔たるゆえんは、その話術なのではないかとショックが思い至ったときには、既に高木はにっこりと笑っていた。
「口が達者なだけの男だ。放っておいても実害はあるまい」
「しかし、街を守るのは我らの使命だ。貴様が街に出れば、それだけで街は、怯えて大混乱に陥る」
「だから、ここを訪ねたんだ。地下牢よりは、マシな寝床と食事があれば文句は言わないし、何なら君が直接、見張りをすればいい」
街に出ると、混乱が起きる可能性は、高木自身が最初から考えていたことである。
だからこそ、途中の物資の補給は指名手配をされていないファウストとエリシアに任せていたのだ。余計な混乱を招いてしまえば、高木達は時間を食い、街の人間に不要な心配をさせてしまう。
「僕が発見されたのは、ディーガの街。わざわざ関所を越えたのは、関所を越えねばならない理由があったからで、そうすると街を素通りしてきたことがおかしくなる。飛んで渡れるならば、関所も飛んで渡るし、この街にも人知れず、闇に紛れて潜入することも可能だった。それをしていないことが、僕が如何に無力な人間であるかを証明する良い証拠だろう?」
よもや、悪魔が己の非力さを証明しにかかるとは思っていなかったショックは、流石に苦笑した。
しかし、言われてみればその通りである。決して非力であるとは思わないが、不要ないざこざを避けて、どうしても罷り通らない部分だけを絞り、姿を現した。そのことにより、追っ手を差し向けさせて、潜入にまでこぎ着けた点は、やはり悪魔らしい悪知恵でもあるのだが。
ただ、もしも絶対的な力を持っているならば、問答無用で殺戮を繰り返してやって来ただろう。悪知恵には違いないが、その悪知恵を使わねばならない理由があるというのも、確かなようだとショックは判断した。
「ショック団長。神様というのは、いつだって正しいモノだろうか?」
高木の唐突な問いかけに、ショックは考えを中断させて、高木の目を見た。
「神様だから正しいという、安直な理屈を掲げず、少しだけ考えてほしい。神様が正しいと、何故わかるのだろう。神様が正しいことを、どうやって証明する。少なくとも、君の目の前にいる悪魔は自分の行動の全てを理詰めで証明できるが、神様は己の存在すら証明できない」
高木の理屈は、ややショックには理解しがたかった。
神というのは、存在して当然のモノであり、その存在を疑うこと自体が無意味である。それがショックをはじめとする、一般的な信徒の意見である。
現代日本人の様に、神様の存在を疑うこと自体を、彼らはしないのだ。高木はショックが自分の言葉を理解していない様子を感じ取り、おそろしく単純な問いかけをした。
「神様は、どこにいる?」
「……全てを、見ておられる」
「答えとしては、やや苦しいが及第点としておこう。では、悪魔はどこにいる?」
高木の問いかけに、ようやくショックは高木の思惑を理解した。
目の前にいる自分と、神を比較させることによって、神の存在を疑わせようとしているのだ。
それは神に対する冒涜であり、ケルツァルトの街でそんなことをするのは、周囲から蔑まれるということである。しかし、高木はそもそも悪魔であるから、存在自体が既に冒涜である。これ以上、下がりようがないのだから言いたい放題であった。
「おそろしい矛盾だと思わないか。目の前にいる悪魔よりも、何処にいて何をしていないかわからない神様を信じる。それは、自分の目で見たモノを否定することであり、つまり自分を信じていないと言うことだ。そうなると、そんな自分が信じている神様だって、信じていないことになる」
得意の三段論法に詭弁を交える。もしも、ショックが何も考えないバカであったならば、そもそも高木の言葉を考えるまでもなく全否定することが出来ただろう。しかし、少なくとも青銅騎士団を率いて、人望も集めていたショックである。残念ながらバカではなかった。
「……神は、心の中にいる。それで、良いのだ」
ショックの言葉は、少なくとも高木の世界ならば満点の回答だった。
信じることによって、存在するのが神様である。それをきちんと理解していれば、存在の証明などそもそも必要ないのだ。
普段からそれを明確にしないことが、信心深い人間の良識であるが、流石にそればかりでは高木に勝てない。そう思って、ショックとしては奥の手を出したつもりだった。
しかし、高木はにいっと意地悪く笑い、手元にマナを集めた。
「では、心の中にいるはずの神様が、どうしてその力を発揮できてしまうのだろうな?」
高木の問いかけに、びくりとショックが身体を震わせた。
魔法。否、神の力は、紛れもなくこの世に存在する。つまり、神が実在する証明となりうるものである。
「神の力こそが、神の存在の証明とでも言うならば、神様を全く信じないフィアが、その力を借りているのも不思議な話だ。それどころか、弾圧の対象である、もう一人の悪魔など、誰よりも神に愛されている存在と言えるほど、強大な力を持っている。これは明らかな矛盾だな」
高木は淡々と述べて、ぽんとショックの肩に手を置いた。
流石にいじめすぎた。そもそも、物理的に存在しない神様の存在証明という、あまりにも高木にとって優位すぎる内容であった。
まだまだ、神の存在を否定することもできるし、完膚無きまでに彼から信心を奪うことも出来た。
しかし、それでは今まで神を信じて生きてきたショックそのものを否定してしまうことになる。必要以上に他人を傷付けないように配慮するのが、人を騙す人間の、最低限のモラルである。
「まあ、こういう詭弁で直談判したいわけだ」
それまでの追い詰めるような空気を捨てて、高木はショックから一歩退いた。
ぼんやりと、魂が抜けたような顔をしているショックに、高木は「すまん」と謝った。
「神様がいるか、いないか。そんなことはどうでもいいんだ。いるならば、会ってみたいぐらいだしな。しかし、その神様の所為で迷惑を蒙るならば、僕は全力で神様を否定してやる」
「悪魔が神を否定するというのか」
「肯定してしまうと、そいつは悪魔じゃなくて信徒だろう」
もう、何を言っても無駄なのだとショックは膝をついた。
「……殺したいならば殺すが良い。ただし、我らは死んでも悪魔に魂は売らない」
ショックは最後の意地とばかりに、剣を傍らに置いて、高木を睨み上げた。
信心という精神は、高木の詭弁と理屈だけではそうそう覆せるものではない。たかが新興宗教にハマっているオバチャンならいざ知らず、命を賭してケルツァルトを守る青銅騎士には、効果が薄いようだった。
「ふむ……参ったな。協力してくれると思ったのに」
「貴様らを頭ごなしに否定はせん。しかし、神に仕える身が悪魔に協力できるはずが無かろう」
「ま、それもそうだ」
高木は最後に、ショックの正当性にあっさりと降伏した。
最初から単純な二元論を展開しているのだから、信心深ければ深いほど、あらゆる理屈が通用しなくなる。
「じゃあ、仕方ないので地下牢に戻るか。フィアはどうする?」
「そうねえ。ハンバーグはもう無くなってるでしょうし、付き合うわ」
「ふむ。じゃあ、地下牢で食事にしようか。ショックさん、できれば美味い飯を頼む」
高木とフィアは、まるでそこば居場所であるかのように、再び地下牢に戻ろうとする。
「ちょ、ちょっと待て。地下牢に……戻るのか?」
流石に意味がわからずに、ショックは高木を引き留めた。
先ほどから高木の行動の意味がさっぱり理解できないでいるが、街に出ることも可能なのに、地下牢に戻ると言うのが一番、意味がわからない。
「だって、仕方ないだろう。街に出れば混乱させてしまうし、せっかくここまで来たのに、街の外に出るのも勿体ない。居場所が地下牢しか無いなら、戻るのは妥当な選択肢だし、そのうち、断罪なのか裁判なのか知らないが、教会の人間だって来るだろうしな。そいつを手玉にとって、教会まで行くことにする」
「ハンバーグを食べ損ねたんだから、美味しいご飯を持ってきてよね。あと、柔らかい毛布も。石畳で寝るなんて冗談じゃないわ」
説明を聞いても、やはり唖然とするしかない。
「ふむ。何なら、もう一回縛って連れて行くか?」
「……いや、無意味だろう。無用の混乱を避けてくれるのであれば、我らは……貴様の行動に、文句をつけることはできない」
少なくとも、命令とはいえども、不用意に悪魔を捕らえ、街に入れてしまったのは青銅騎士団である。
戻って大人しくしてくれるならば、それに越したことはない。
「うむ。とりあえず大人しく策を練っておくから、美味い飯を頼むぞ。ちなみに、悪魔は別に爬虫類が主食ではないので、ちゃんと人間が食べられるもので頼む」
「野菜のスープとか、乳粥とか、最近食べてないのよね。あと、新鮮なお魚とかあれば嬉しいわ。それと、毛布も忘れないでよ」
「……了解した」
策を練るのは大人しい行為ではないと思いながらも、ショックは諦めて首肯した。
散歩から帰るように、暢気に地下牢に向かっていく二人を眺めながら、ショックは部下に野菜スープと乳粥。それに魚と毛布を用意するように伝えた。