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26話:紹介

 エリシアには、高木とオルゴーの会話の内、大半が意味のわからないものであった。

 二人は笑顔で会話をしていた。お互いの言っていることを理解し合っていた。しかし、エリシアからすれば、何について話しているのかもわからないことばかりだった。

 それでも、高木が自分の意志を尊重すべきか否かで迷っているということだけは、顔を見ただけで解った。

 今までの高木を見る限り、自分の行動を他人に委ねるということを、ほとんどしていない。それをエリシア達に委ねたということは、高木自身で判断することが出来ないほど難しい問題なのか、どちらを選んでも良いという状況だろうと思った。

 一体、どうするべきなのだろうかと迷ったのは、一瞬だった。

 高木には、自分の意志を貫いて欲しい。エリシア自身にそう言ってくれた高木に、今度は自分もそう言いたかった。高木の行動が全て正しいものだとは思わないが、例え間違っていたとしても信じることができるのだ。

 先の見えない闇から、突然手を差し伸べて救ってくれた高木に、自分が今できることは、高木の行動を肯定することだけというのが悔しいが、それが力になるのならば、喜んで首を縦に振る。

 高木のことだから、きっと面倒な道を行きたがるだろう。それでも、エリシアは躊躇わずに笑顔を見せたのだった。


 オルゴーは既にクーガ伯爵に会い、話をつけて戻る最中かとも思ったが、それならば一人で行動しているはずもない。高木とオルゴーは、これからの行動について話し合うことにした。

 エリシアとレイラはクーガ伯爵の領地までの正確な道程を調べて、食料の買い出しをするために出かけた。他の者はオルゴーの連れという人物と会うために、オルゴーの宿泊する宿を訪ねた。

「あら。随分と変わったお客さんがいるのね」

 高木達を出迎えたのは、若くて美しい女性だった。やや幼さの残る顔立ちではあるが、雰囲気はどこか妖艶であり、くすぶった茶髪をボブカットのような髪型でまとめている。目元は凜としており、少しフィアと似ているが、落ち着き方は比べるまでもない。オルゴーと一緒に訪ねたとはいえ、突然の来訪者に、会釈をする余裕すらあった。

 言葉には出さなかったが、フィアならば「誰よそいつら!?」と噛みついてきただろうと、高木は内心でこっそりと笑った。

「紹介します。彼女が私の連れで、ルクタ・ファイズ。私に正しい道を教えてくれた人です」

「大げさね。そそのかしちゃっただけよ」

 ルクタは苦笑混じりに呟いて、高木を選定するかのようにじっと見つめた。雰囲気こそ穏やかだが、凛々しい目が高木の本質を見抜こうとしていることが窺えた。

「彼はタカギ・マサトさん。それに、アスタルフィア・エルヘルブムさんと、ヴィスリー・アギトさん。私たちに助力してくださることになりました」

 オルゴーの紹介にルクタは頷きながらも、高木から目を離さない。彼女もまた、随分な切れ者だと高木の感覚が告げる。

「……貴女も、オルゴーに魅せられたクチか?」

「ええ。幸か不幸か、貴方もそうみたいね」

 ルクタはふと相好を崩して、高木への警戒を解いた。唆したと言いつつも、魅せられたことに首肯するのも中々に矛盾した話ではあるが、おそらくは、結果として唆してしまっただけなのだろうと高木は感じた。

 高木とて、似たようなものなのである。オルゴーの行為は、ひどく端的に説明するなら革命であり、国家反逆である。現在の政治体系を変えようとするのだから、成功しない限りは反逆者に違いはない。

 しかもオルゴーは徹底した理想主義者とも言える。本来、国とは裏側なくして動くことなどできないものである。何処までを裏側と捉えるべきかはそれぞれだが、恣意的に隠蔽されている情報など、当然ながら現代の日本にもある。

 それは、国益の尊重であることもある。だが、一部治世者の利益のため行われている部分とてある。高木がそれら全てを知ることなどできはしないが、少し考えれば、そのような思惑が渦巻くのは当然のことだとわかる。

 逆に言えば、オルゴーの理想とするものなど、絶対に為し得ないものであることも、高木は十分に理解していた。全ての騎士が、騎士の誇りを持ち、己の保身を省みずに行動することなど有り得ない。権利というものが存在する限り、それを欲して行動するのは至極当然のことであり、利害関係が生ずる以上、争いは絶えない。

 利を求めずに動くオルゴーは好ましくもあるが、それだけに儚い。利の無い人間に付いていく人間など、よほどの暇人か酔狂な人間だけである。

 それらを全て承知していながら、高木がオルゴーと行動を共にしたいと感じたのは、オルゴーが最後まで騎士であろうとしたがっているからだった。

 革命家と言ってしまえばそれまでのオルゴーだが、どうまかり間違っても政治家になることはないだろう。王になれと言われても、絶対に首を横に振る。例え、それが最良の選択肢であったとしてもだ。

 ならば、オルゴーの行動が成功した暁に、実権を握るのはオルゴーの後ろ盾となる人間であり、後ろ盾になることができるほどの権力を持つ人間ならば、世の中の表も裏もよく知っている筈であり、オルゴーに惹かれるような人間であれば、オルゴーの求めるものを具現化しつつ、上手く裏側を仕切ることができるだろう。オルゴーはその環境の中で、騎士として在ればいい。

「君は何を求める?」

 高木の問いかけに、ルクタは苦笑した。これほどまでに短く、鋭い質問などされたことがなかったからだ。

「今より少しマシな世の中よ」

 ルクタの答えに、高木は満足そうに頷いた。ルクタは、オルゴーに惹かれつつも盲信はしていない。世の中の裏側を知り、その上でオルゴーと行動を共にしているのだ。

「ならば、僕は君とオルゴーが最後までそれぞれの信念を変えずに進めるように行動するとしよう。場合によっては邪魔に思えるかもしれないし、僕自身が間違うかもしれない。それでいいならば、僕を仲間と認めて貰いたい」

 高木のあまりにも直球の言葉に、ルクタは少し驚いた様子だったが、オルゴーに目を向けてくすくすと笑った。

「オルゴー。貴方、どうしてこの人を連れてきたのよ。きっと、途中で辞めることができなくなるわよ?」

「それは、私が途中で辞めたくないからですよ」

 あまりにも単純な答えが返ってきて、ルクタと高木は思わず吹き出した。


 ルクタも加えて、高木達は元いた軽食屋に戻り、レイラとエリシアと合流した。

「さて。半ば成り行きではあったが、オルゴーとルクタの二人と、行動を共にすることになった。目的地はクーガ伯爵の治める領土であり、事が事だけに直談判の必要がある。ならば、彼が住んでいる都市に出向くのが当面の指針だ」

「食料を買うついでに、色々と調べてみたんだけど、クーガ伯爵はディアロって街に住んでるんだって」

 元々、クーガ領へと続く街道が安全だという噂が多かっただけに、方向に関しては誰も文句は無かった。エリシアの話では、途中に小さな村が幾つもあり、さほど厳しい旅にはならないという。

「オルゴー達は、馬車か何かを使って来たのか?」

 ヴィスリーが問いかけると、オルゴーは苦笑して首を横に振った。

「帝都から文字通り、脱走したものですから、馬車を揃える余裕はありませんでした。馬がいたのですが……ここに来る途中の村が盗賊に襲撃されていた折に失いました」

 ルクタの話では、最近になって盗賊がよく現れるのだという。

「私は帝都で看守の任に就いており、そんな実情すら知りませんでした。返す返すも、自分の無知が悔しいのです」

「……や、ちょっと待って。看守って何?」

 オルゴーが俯いて歯噛みするのと同じくして、フィアが不思議そうに首を傾げた。決して看守そのものを知らないわけではない。

 ただ、帝国騎士どころか、辺境の騎士であれど、看守をするということなど聞いたことがなかっただけだ。

「露骨な嫌がらせって所ね」

 ルクタは溜息混じりに呟いて、一同の顔を見渡した。やがて、一つ頷くと苦笑した。

「一緒に旅をしようって人間に、隠しておくのも良くないから言うわ。私とオルゴーは、牢獄で出会ったの」

余談を一つ。

登場人物の中には、仮面ライダーから名前を戴いた人が多いです。

ヴィスリー・アギト→V3・アギト

レイラ・ヒビキ→響鬼

クーガ・エクス→クウガ・X

ルクタ・ファイズ→電波人間タックル・ファイズ

オルゴー・ブレイド→ブレイド


理由は、単にライダー好きだからというだけ。

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