第99話 違いの分かる切れ味
_:(´д`」∠):_「お待たせしましたー!」
_:(´д`」∠):_「そしてお知らせです!なんと『二度転生』の再重版が決定しました! 二度目の重版です! 皆さんありがとー! ヒャッハー!」
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「おはようございます皆さん」
翌朝、僕達は解体教室の続きをする為に冒険者ギルドの解体場に来ていた。
「今日は昨日に続いてグリーンドラゴンの解体の続きをしてもらいます。そして今日の講座からは、解体台に置いてある解体用ナイフを使ってドラゴンの素材を解体してもらいます」
皆の視線が自分達のそばにある解体台に置かれたナイフに吸い寄せられる。
「これを使うのか? ……って随分と軽いな」
ナイフを手に取った解体師さん達が、その軽さに驚きの声を上げる。
「しかも薄いぞ。本当にこんなナイフでドラゴンの解体が出来るのか?」
疑わし気にナイフを手に取った解体師さん達がグリーンドラゴンの皮にナイフを突き立てる。
すると……
「うぉっ!? 何だこりゃ!? ナイフが何の抵抗もなく刺さったぞ!?」
「刺さると言うか、まるでシチューの中に沈んでいくみたいな手ごたえの無さだ!?」
予想外のナイフの切れ味に、解体場が困惑の声に包まれる。
「これが昨日、皆さんとリューネさんの解体したドラゴンの皮の切り口が違った理由です」
「「「「「これが!?」」」」」
「おいおい、一体どういう意味なんですかい!? まさかあっちの嬢ちゃんが持っていたナイフの方が、俺達の解体ナイフよりも切れ味が良かったからとか言うつもりなのかよ?」
と、解体師さんが別の場所で解体をしているリューネさんを指さす。
「はい、その通りです。リューネさんと皆さんが解体したドラゴンの皮の切り口の差は、単純に道具の差が原因だったんです」
「え? マジで!?」
まさか冗談めかして言ったセリフが正解だとは思ってもいなかったらしく、解体師さんが驚きの表情になる。
「リューネさん、ちょっと来て貰えますか」
「え? あ、はい!」
僕はリューネさんと近くに居た解体師さんに来てもらう。
「お二人が昨日ドラゴンの皮を解体したナイフを貸して貰えますか?」
「え? は、はい」
「お、おう」
二人から解体用に使ったナイフを受け取ると、 僕はテーブルの上に置かれたグリーンドラゴンの皮を切る。
そしてその光景を皆が見つめる。
「「「「「これは……!?」」」」」
「嬢ちゃんのナイフで切った切り口はそこそこ綺麗だが、モックの奴のナイフで切った切り口はボロボロだ」
「まさか本当に得物の差なのか?」
グリーンドラゴンの皮の切り口を見て、解体師さん達が困惑しながらこちらを見て来る。
「ご覧頂いた通り、リューネさんのナイフの方が切れ味が良い事が確認できました。今回は皮の目を見ずに無造作に切ったので、切り口の滑らかさは単純に刃物の差だけです」
「マジかよ……」
解体師さん達が呆然としながらリューネさんのナイフを見る。
「けど俺達は本職の解体師だぜ!? 多少道具の質が良いからって、そこまで切り口に差が出るのか!?」
うん、確かに大して違いの無い道具ならそこまでの差は出ない。
寧ろ解体師さん達の鍛え上げた技術で道具の有利なんて簡単に吹っ飛んでしまうだろう。
でも……
「リューネさんのナイフは皆さんの使っている解体用ナイフに比べると、素材も製法もかなり上の技術で作られています。それこそ石のナイフとミスリルのナイフくらいの差がありますね」
「「「「そんなに!?」」」」
解体師さん達が驚きの声を上げてリューネさんを見る。
「あ、あの……確かに私のナイフは先祖代々伝わって来た家宝と言っても差し支えの無い品ですが、そんな事が見ただけで分かるんですか?」
とリューネさんが驚いた顔で聞いてくる。
「ええ、刃を見ればすぐにわかりますよ。このナイフの刀身は……いや、そのあたりは個人の秘密ですから、僕が勝手に喋って良い事じゃないですよね。とにかく皆さんの解体ナイフよりも良い品だという事です」
うん、特別凄い素材って訳じゃないけど、それでも他人の持ち物の事をベラベラと語るのは失礼だろう。
「す、凄い、見ただけでそこまで分かっていたなんて、なんて鑑定眼……やっぱり貴方は……はっ!?」
と、何かを言いかけたリューネさんが慌てて口を閉じる。
「どうかしましたかリューネさん?」
「い、いえ、何でも!」
「さて、話を戻しますけど、そうした理由から僕は、皆さんがグリーンドラゴンの皮を綺麗に切れなかった原因がシンプルに道具そのものにあると判断したんです」
僕は皆に配った物と同じナイフを手に取る。
「道具と言うのは使用する素材と加工技術が重要です。質の低い素材と拙い技術で作られた道具では粗末な物しかできません。それを技術で補う事も出来ますが、素材の質が低ければ腕で補うにも限度というものがあります。例えるなら、どれだけ綺麗に削り上げた木刀でも鉄の塊を切る事は出来ないのと同じです」
「けど兄貴なら木刀でも切れそうだよな」
「うん、切れるよ」
「「「「「切れるのかよっ!?」」」」」
ジャイロ君の疑問に答えたら皆から総ツッコミを喰らってしまった。
「まぁそれはあくまで技を使って切っているのであって、普通に木刀で叩いても切る事は出来ないですよねって話です」
「いや、俺木刀で鉄の塊を切れるって話の方が気になるんだが」
「俺もだよ」
「まぁそれは今回の講座には関係ないので、置いとくとしましょう」
「「「「置かれるとそれはそれで気になる!」」」」
そんな声は置いておいて、今は講座の続きだ。
「適切な道具を用意するというのはかなり大事な事なんですよ。これは割と真面目な話で、技術を信奉する人には道具の質を蔑ろにする人が少なくないんです。技を極めれば質の低い道具でも十分な仕事が出来ると無条件に信じちゃう人が多いからです」
なんか結構多いんだよね、そういう人達。
便利な道具は甘えだーとか言って。
「けどそれは大きな間違いです。大切なのは技術と道具の質のバランス。道具だけ優れていれば道具に振り回され、腕だけが優れていれば道具が腕について行けずに壊れてしまう。どちらかだけ優れていても、その真価は発揮できないんです」
実際の話、僕もそこらへんが原因で全力を出せないところはあるんだよね。
手に入る素材がいまいちだから、うっかり壊さないかと心配だよ。
まぁ身体強化魔法の延長で強靭化効果を付ければ大分強度はあがるから、ゴールデンドラゴンくらいなら今の装備でも十分戦えるけど。
ああそうだ、折角ゴールデンドラゴンの素材が手に入ったんだから新装備でも作ろうかな。
せっかくだから皆の分もまとめて。
「まぁ言わんとする事は分かるな。上位の冒険者になれば、より強い敵と戦うために自然と装備を買い替える事になる」
と解体講座に参加した冒険者さん達が同意の声をあげる。
「ああ、俺達も客から預かった素材を綺麗に解体する為に、それなりの道具はそろえているからな」
親方さんもまた同意してくれる。
「あー、そう考えると、ドラゴンの解体って抵抗しないドラゴンを攻撃する様なもんだよな。そんで抵抗しないっつっても、相手はドラゴンなんだからこん棒程度の攻撃じゃびくともしねーって訳だ」
おお、ジャイロ君が良い事を言った。
「うん、ジャイロ君の言うとおりだよ。解体に使う道具は解体師にとっての武器だからね」
「やった! 兄貴に褒められた!」
「はいはい、良かったわね。だからあんまり飛び跳ねるんじゃないわよ」
僕に褒められたジャイロ君がすごく嬉しそうにはしゃぎ、それをミナさんがたしなめている。
「そんな訳でですね、今回はグリーンドラゴンの鱗や革を綺麗に切る事が出来る様に、ブラックドラゴンの素材を使った解体ナイフを用意させてもらいました」
そう言ってグリーンドラゴンの鱗を真っ二つに切断する。
「成程、グリーンドラゴンよりも上位のドラゴンであるブラックドラゴンの素材で作ったナイフなら、グリーンドラゴンの皮を綺麗に切る事が出来てもおかしくはないか」
「そうか、そういう事だったのか。確かにそれなら納得だ」
「……」
「「「「「って、ブラックドラゴンの素材を使ったナイフゥゥゥゥゥゥゥッ!?」」」」
「はい、切れ味はそこそこ良いでしょう?」
「いや良いって言うか良過ぎるんだが……じゃなくて、ブラックドラゴンの素材を使ってるってマジか!?」
「ええ、使っていますよ」
「いや使ってるって、そもそも俺達はブラックドラゴンの解体の為にこの講座を受けたんだが……それを素材として使ったって……」
ああ、それで驚いていたのか。
「大丈夫ですよ。解体用のブラックドラゴンはちゃんと残してありますから。今回用意したナイフに使ったのは新しく狩ってきたブラックドラゴンです」
「なるほど、それなら安心……ってちょっ!? オイ!? マジか!?」
「ええ、昨日の夜にちょちょっと狩りに行ってきました」
「ちょちょっとって、マジか……」
マジです。
「あれ、確かブラックドラゴンって町を簡単に滅ぼせるヤバい魔物だったよな?」
「ああ、その筈なんだが……」
「それをちょちょっとで狩ってこれるモンなのか?」
「それにその後にこの大量のナイフを作ったんだよな? これ全部作るのにどれだけ時間かかるんだ? ブラックドラゴンを倒すだけでもかなりの時間がかかるんじゃねぇのか?」
「というか、ブラックドラゴンが住んでるのって龍峰だろ? 昨日の講座が終わった後に馬を走らせたとしても今日の朝に間に合わねぇだろ。どうなってるんだ!?」
僕がブラックドラゴンを狩ってきたと言ったら、なぜか解体師さん達がどよめき始めた。
んー、ただのブラックドラゴンを狩っただけなんだけどなぁ。
「そりゃあ当然の事よ!」
とそこでジャイロ君が大きな声をあげる。
「そりゃどういう意味だボウズ!?」
「はっ、何しろ兄貴はSランク冒険者だからな!」
「Sランク!? 最高ランクの冒険者のあのSランクか!?」
僕がSランクだと聞いて、解体師さん達が驚きの声を上げる。
「その通り! そしてSランクの兄貴だからこそ、ブラックドラゴンが相手だろうと速攻倒して町まで戻ってきて人数分ナイフを用意できるのさ!」
「な、成程。Sランクの冒険者と言えば、Sランクの魔物と互角に渡り合える凄腕。中には強力な古代のマジックアイテムを切り札に持っていると聞いた事がある」
「そうか、Sランク冒険者ならやれるかもしれないな!」
いや、別にブラックドラゴンくらいなら、Sランク冒険者でなくても倒せると思いますよ?
「ああ、こんどはSランク冒険者が風評被害に……」
「こういうのも風評被害って言うのかしらねー」
横で何故かリリエラさんが悲しそうな目で解体師さん達を見つめている。
その横に佇むミナさんはなにやら達観した空気だ。
「とまぁそういう訳ですので皆さん、新しいナイフを使ってグリーンドラゴンを沢山解体してください。グリーンドラゴンの解体に慣れれば、基本的なドラゴンの解体は問題なく出来るようになりますから」
「「「「「おうっっっ!!」」」」」
解体師さん達が意気揚々とグリーンドラゴンの解体に戻っていく。
皆今まで使っていた解体ナイフよりも切れ味の良い道具を手に入れて、興奮気味だ。
新しい装備を手に入れると、気分が高揚するよね。
「な、なぁ……ちょっと良いか?」
と、そんな時に話しかけてきたのは、金貨200枚を支払って解体講座に参加した冒険者さん達だ。
「はい、何か解体で分からない所でも?」
「いや、そうじゃなくてだな……頼みがあるんだ」
「頼みですか?」
「ああ」
冒険者さん達は真剣な顔で僕を見つめて来る。
「アンタの作ったこのナイフなんだが、俺達に売ってくれないか?」
「え?」
「俺達もドラゴンの鱗から作られた武器を持っているが、このナイフはそれとは比べ物にならない程の切れ味だ」
そう言って冒険者さんは腰に携えたショートソードを僕に見せる。
「これは……グリーンドラゴンの鱗を削り出した剣ですね」
「ああ、名のある鍛冶師に数か月かけて作ってもらった剣だ。だがアンタの作ったナイフには遠く及ばない切れ味なんだ」
それもそうだろう。
このショートソードの刃先はボロボロだ。
いくら鱗を削り出しただけの剣とは言え、もうちょっと仕上げに気を使おうよ。
これじゃあ僕が片手間に作ったナイフの方が切れ味が良いのも当然だ。
本当に名のある鍛冶師の仕事なんだろうか?
こんなのに金を使うくらいなら、ゴルドフさんに頼めばもっといいドラゴン素材の武器を作ってくれるのに。
「いや分かっている。これ程の出来のナイフ、それもブラックドラゴンの素材を根気よく加工した品だ。そうそう簡単に譲れるものじゃない。だが冒険者として、このナイフは間違いなく切り札として使えると確信しているんだ。だから……」
「あ、良いですよ、差し上げます」
「だろうな、だがそれでも……って、え?」
「ですから差し上げます。冒険者の皆さんだけでなく、解体師の皆さんにも」
「「「「…………」」」」
その瞬間、解体場から音が消える。
「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」
「ちょっ、本気か!? ドラゴンの素材で作った品なんだぞ!?」
「しかも龍峰から外に出る事なんてめったにないブラックドラゴンの素材で作った品なんだぞ これを手に入れるのにどれだけ金を積めばいいか分かんねぇようなシロモノなんだぞ!?」
皆が本当にそれでいいのかと目を白黒させながら聞いてくる。
でもグリーンドラゴンを解体できればそれでいいかって程度の出来だからなぁ。
正直お金を払ってまで売るような出来じゃない。
「冒険者の皆さんは金貨200枚を支払ってくださいましたし、解体師の皆さんの講座代も冒険者ギルドが支払ってくれます。なら、このナイフは講座に使う為の経費で作ったような物です。なので皆さんに差し上げますよ」
「ま、ままま……」
冒険者さん達がヨロヨロと後ずさって驚愕の表情を見せる。
「「「「「マジかぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」」」」」
「いやー、分かるわ。すごくよく分かる。私の時もそうだったものね」
と、リリエラさんがしみじみとした口調で語る。
「さらっととんでもないモノをなんでもないモノの様に差し出してくるのよねー」
いえ、本当に何でもないものですよ?
新ブラックドラゴンの素材_:(´д`」∠):_「超解せぬ」
金を払った冒険者_:(´д`」∠):_「え? マジ? マジで貰っちゃって良いの?(オロオロ)」
グリーンドラゴンの素材「自分、噛ませドラっすか……?」