第97話 解体作業開始?
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「それじゃあブラックドラゴン解体教室を始めます! 皆さん準備は良いですか?」
「「「「「へいっ!」」」」」
僕の問いかけに、解体場に集まった解体師さん達が元気よく返事をする。
っていうか……
「あの、なんか人数が多い気がするんですが。あと明らかに解体師さんじゃない格好の人達も居ますよね?」
うん、どう見ても冒険者にしか見えない格好の人達が居るぞー。
「どういう事なんですか?」
僕は先頭に居た解体師の上役さんに声をかける。
「あー、それがだな……」
と、上役さんは申し訳なさそうに頬をかきながら事情を説明し始める。
「実は昨日のやり取りを見ていた冒険者達から話が漏れたらしくてな、ついさっき自分達もドラゴンを倒す冒険者の解体技術を学びたいと大挙してきたんだ……」
それでこの大人数なのかぁ。
けどこれじゃあ解体場がパンパンでまともに解体を教える事が出来ないよ。
「これはちょっと人数が多すぎますよ。それに僕が教えるって約束したのは解体師さん達だけですし」
「だよなぁ。俺達も説明したんだが、連中聞かなくてな」
自分でもそう思っていたのか、上役さんが溜息をつく。
「ただ、ここで追い返すと、それはそれでトラブルの元なんだよなぁ」
うーん、冒険者さんと言えば、荒くれ者の別名って言われるくらいだからねぇ。
「おーいまだ始まらないのかよー!」
待ちきれなくなった冒険者さんが声を上げると、他の冒険者さん達もそうだそうだと騒ぎ始める。
「どうしたもんかなぁ」
どのみちこんな混雑具合じゃまともに教える事も出来ないよ。
そんな風に困っていたら、リリエラさんがポンと肩を叩いて来る。
「どうしたんですかリリエラさん?」
「私がなんとかしましょうか?」
「え? 何とか出来るんですか!?」
なんとリリエラさんがこの状況を何とか出来ると言ってのけたんだ。
「ええ、凄く簡単な方法で何とか出来るわ。ええと、貴方が解体場の責任者で合っているのよね?」
と、リリエラさんが上役さんに確認を取る。
「ああ、一応ここの親方を任されている」
「なら話は早いわ。私の会話に合わせてくれる?」
「ああ、この状況を何とか出来るのなら手伝うぜ」
「うん、ギルド側も手伝ってくれるのなら何も問題ないわね」
おお、凄く頼もしいですよリリエラさん!
「じゃあ私が仕切って良いわねレクスさん?」
「はい、よろしくお願いしますリリエラさん!」
僕が任せると、リリエラさんも頷いて前に出る。
「それじゃあこれからドラゴンの解体教室を始めるわ!」
「おお、ようやくか! 待ちくたびれたぞ!」
え? 素直に始めちゃうんですか!?
「じゃあ皆参加費の金貨200枚を支払って貰いましょうか」
そう言ってリリエラさんは掌を前に突き出した。
「「「「「「……」」」」」」
一瞬冒険者さん達がポカーンとした顔でえっ? となる。
そして……
「「「「「「はっ?」」」」」」
「はっ? じゃないわよ、はっ? じゃ。参加費よ。参加費を出しなさい」
「いやいやいや、なんだよそれ!? 参加費なんて聞いてねぇぞ!」
うん、僕も聞いてない。
「当たり前でしょう、あのブラックドラゴンを解体する技術なのよ。普通の魔物を解体するのとは訳が違うの。そんなのを解体する技術なんて、解体師の奥義に決まっているでしょう?」
いや別に奥義とかじゃないんですけど。
「嘘をつくなよ! 俺達は解体師が弟子入りする所を見ていたんだぞ! その時は参加費なんて一言も言っていなかったぞ!」
「そうだそうだ!」
昨日の会話を聞いてたらしい冒険者さん達がリリエラさんの発言に異を唱える。
ええと、大丈夫なんですかリリエラさん?
するとリリエラさんは呆れたと言わんばかりに両肩をすくめて溜息を吐いたあと、こう言った。
「あのねぇ、ギルドのお抱え解体師達が纏めて教えを乞うのよ? そんな騒ぎが起きたのなら、当然後でギルドの上役を交えて詳しい話をするに決まってるじゃない。その時にちゃんと参加費をギルドが支払う約束がされたのよ。そうでしょ親方さん?」
「ああ、今回の解体訓練についてはギルドが正式に契約を結んでいる」
上役さん、いや親方さんの部下である解体士さん達も驚きの声を上げる。
実際にはそんな契約結んでないしねー。
「ほ、本当なのかよ……?」
昨日の会話を見ていたと言った冒険者さんが疑わし気につぶやく。
「あら? それじゃあ貴方達は私達とギルドとの話し合いも見ていたの?」
「う、いやそれは……」
「でしょう? 大体貴方達は昨日の話を聞いていただけで飛び入り参加しようとしているのよね? そんな人達が無料でブラックドラゴンを解体する技術を学べるとでも思っているの?」
ここが勝機と確信したリリエラさんが畳みかける様に冒険者さん達に口撃をかける。
「そういう訳だから、参加費の金貨200枚を自分で用意できない人達は帰りなさい。これ以上文句を言うなら、参加費を支払っているギルドが黙ってないわよ」
「うう……」
冒険者ギルドからの介入もあると言われては、冒険者さん達も諦めてすごすごと解体場から去っていく。
そして解体場はさっきまでの混雑具合が嘘の様に閑散とした光景になったのだった。
「いやスマン、俺達の不手際で迷惑を掛けた」
親方さんが申し訳ないと頭を下げて来る。
「ええ、だから後で借りは返してもらうわよ」
と、リリエラさんが笑顔で返す。
「僕からも有難うございます、リリエラさん」
僕はこの状況を華麗に解決したリリエラさんに感謝の言葉を送る。
するとリリエラさんはニヤリと笑みを浮かべてこう言った。
「ふふ、ああいう手合いを追い出すには金がかかると思わせるのが一番なのよ。どうせ連中、解体のどさくさに鱗とかをちょろまかす気だったんだろうし」
別に鱗の一枚や二枚程度全然問題ないんだけどなぁ。
「あとはアレね。安い店にはガラの悪い客が集まって荒れるけど、高い店には大金を支払う余裕のある人間しか集まらないから、トラブルも少なくなるって寸法よ。だから高い授業料を請求したの」
「成る程、だから参加費を請求した途端に皆居なくなったんですね」
言われてみれば前世で貴族とかに招待された高級レストランとかでは騒ぎが起きた事が無かったなぁ。
まぁお店の雰囲気とかそのへんは、貴族達が口にする欲望丸出しの会話のせいで全く楽しめなかったんだけどね。
しかし、これが独力でBランクにまで上り詰めた冒険者の処世術なんだね。
こういう事を勉強する機会が無かった僕としては、とっても勉強になるなぁ。
「それに金貨200枚と言ったら、大物の魔物を倒せるような上位ランクの冒険者でもないとポンとは出せない金額だしね。もしこの金額を支払えるとしたら、Aランクかお金を貯めていたBランク。あとはたまたま運よく大物を仕留めて懐が温かいCランクがギリギリって所かしら」
「え? そうなんですか? 僕Fランクの時に金貨2000枚くらい貰いましたけど」
「うん、レクスは例外ね。普通のFランクは冒険者になったその日にドラゴンの買い取りなんて頼まないものね」
と、ミナさんからツッコミが入る。
「ああ、兄貴の偉業はトーガイの町の伝説になってるからな!」
「いやー、グリーンドラゴン程度なら誰でも討伐できますって。アイツ等ゴブリンみたいにポコポコ湧きますし」
「「「「「いやドラゴンは湧かない」」」」」
え? そんな事は無いと思うけど。
「もしくはレクスの知っているゴブリンが私達の知っているのとは違うゴブリン」
「チャンピオンとかロードとかつく方のゴブリンでしょうねぇ」
なんてメグリさんとノルブさんがゴブリンの名前を付け足しているけど、ゴブリンなんて皆同じような強さだと思うんだけど。
なんて事を思っていたら、こちらを見ていたリリエラさんが小さく笑みを浮かべる。
「ふふっ、これで一つくらいは借りが返せたかしらね?」
……あっ、そういうことだったのか。
リリエラさんが僕のパーティに加入した理由は、故郷のお母さん達の病気を治療して貰った恩返しをする為だ。
本当なら、故郷の皆の病気が治り、故郷の村を襲った魔物を撃退した事で、リリエラさんが冒険者を続ける理由はなくなっていたんだから。
そして今回のトラブルの解決は、リリエラさんにとって絶好の活躍の機会だった訳だ。
だから僕はリリエラさんにこう告げる。
「はい、バッチリ返してもらいました!」
うん、こういう処世術は本当に参考になりますよ、リリエラさん。
ああでも、もしもリリエラさんが全ての借りを返したと納得したら、その時はどうするんだろう?
パーティ解散かな?
それはそれで仕方ないんだけど、そうなったらちょっと寂しいなぁ。
「キュッキュ」
と、そんな事を思っていたら、足元に居たモフモフが自己主張をしてきた。
「ああ、そうなってもモフモフはずっと一緒だよね」
「キュッ!」
あはは、可愛い奴だなぁ。
「それじゃあ改めて解体を……」
「待ってくれ」
始めますと言おうと思ったら、僕の前に幾人かの冒険者さん達がやって来た。
全員出て行ったと思ったんだけど、まだ何人か残っていたみたいだね。
「なぁに? 解体に参加したいのなら参加費がいるわよ?」
とリリエラさんが威嚇する様に前に出ると、冒険者さん達が頷いて大量の金貨が入った袋を差し出してきた。
「ギルド貯金から引きおとしてきた参加費だ。これで解体教室に参加したい」
「え? あ、えーっと……?」
リリエラさんがどうしようとこっちを見て来る。
うーん、まさか本当に参加費を支払おうとする人がいたとは驚きだ。
たかがブラックドラゴン程度の解体教室なのに。
「ええと、本当に良いんですか? 金貨200枚って結構なお金ですよ?」
僕が確認を取る様に聞くと、冒険者さん達は躊躇いなく頷く。
「昨日の話は俺達も聞いている。大量のドラゴンを討伐する程の実力者が開催する教室なら、間違いなく我々の糧となる技術を学べるだろう」
ええと、買い被りじゃないですかねぇその評価。
ブラックドラゴンですよブラックドラゴン?
黒いだけで普通のドラゴンですよ?
「へぇ、分かってるじゃない」
とミナさん達がうんうんと頷く。
「ああ、兄貴の凄さが分かるとはなかなか見どころのある連中だぜ」
いやジャイロ君、たかがドラゴンの解体教室だからね?
「レクスさん、あの人達多分Bランク以上の冒険者よ」
とリリエラさんが耳元でささやいてくる。
ちょっとくすぐったいです。
「そうなんですか?」
「ええ、装備といい身のこなしといい、さっきまでたむろしていた連中とは格が違うわ」
成程、僕には大差ないように見えるけど、きっと一流の冒険者特有の空気って奴があるんだろうな。
さて、どうしたものかなぁ。
こっちの言い分を受け入れてちゃんと参加費を出してきたし、無碍に断るのも悪いしねぇ。
うーん、まぁ所詮ブラックドラゴンを解体する程度の技術だし、Bランク以上の熟練者が参加するっていうのなら、きっと何かしらの意図があっての事なんだろうな。
「分かりました。貴方達の参加を……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいぃぃぃぃぃ!」
参加を受け付けますと言おうとしたその時、またしても僕の言葉は遮られた
声の主は解体場の入り口からヨタヨタと息を切らして駆け寄ってくる。
「君は……?」
やって来たのは、僕達とそう年が変わらないであろう女の子だった。
手にした槍は壮麗な装飾がほどこされており、フルプレートでは無いものの要所要所に金属を使用した軽鎧を着こなしている姿に僕は何故か懐かしいものを感じた。
この恰好、どこかで見たような気が……
「あ、あの! 私リューネっていいます!」
その少女、リューネは乱れた呼吸を深呼吸で沈めると、手にしていた布袋を僕の前に突き出す。
「さ、参加費を持ってきました! わ、私も参加させてくださいっ!」
そして、この少女との出会いが龍国ドラゴニアでの僕らの冒険に、大きく影響を及ぼす事になるのだった。
レクス(:3)∠)_「ずっ友だねモフモフ!」
モフモフ:(;゛゜'ω゜'):「え!? 我早くドラゴンの肉が食べたいって言っただけなんですけど! というかパーティ解散する時は我も解散したいんですけどー! けどー!」
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