第96話 解体師と弟子入り志願
_:(´д`」∠):_「今週二度目の更新ー!」
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素材を並べ終えた僕達は職員さんにアドバイスされた通りに町に出て食事をとっていた。
とはいえ、僕達は変に目立ってしまったので、食事はフードを被りながらだ。
うーん、食べにくいなぁ。
あっ、でもこれって、大剣士ライガードの彼方への逃亡の物語のエピソードに似ているなぁ。
悪党に濡れ衣を着せられたライガードが真犯人を捕まえるまでの逃避行の間、フードを被りながら食事をとって悪態をつくシーンがあるんだよね。
へへっ、ちょっとしたライガード気分だね。
「しっかし食いにくいなぁ」
「しょうがないでしょ。我慢しなさい」
やっぱりジャイロ君達もフードを被りながらじゃ食べ辛いみたいだ。
「ねぇレクス、あの姿を消す魔法使ったら?」
とメグリさんが姿隠しの魔法を要求してくる。
「でもあれを使うなら密着しないと駄目ですよ?」
ご飯を食べる時に密着していたら食べづらくないかなぁ?
「フードを被ったままよりはマシだと思う」
「そうね、食事くらいは気楽に食べたいわ」
リリエラさんも同意を示し、皆もウンウンと頷く。
「まぁ皆がそう言うのなら」
僕達は椅子を動かして密着すると、姿隠しの魔法を発動させる。
「ふー、これで落ち着いてメシが食えるぜ!」
さっそくジャイロ君がフードを脱いで食事を再開する。
「ちょっとジャイロ、肘がぶつかってるわよ!」
「おお悪ぃ悪ぃ」
まぁそうなるよね。
体がぶつかってちょっと不便だったけど、たまにはこういう食事も面白いよね。
まぁその途中、突然何人かの人達が店に飛び込んできてビックリしたけど。
その人達はこっちを見た後「しまった逃げられたか!」「捜せ、食事から湯気が漂っている、まだ近くに居る筈だ!」とか言っていたんだよね。
誰かを捜していたらしいけど、上手い事逃げられちゃったみたいだね。
何故かその会話を聞いたリリエラさん達が、急に無口になったのが気になったけど。
◆
「さて、そろそろ査定も終わっている頃かな」
食事を終えた僕達は、再び冒険者ギルドへと戻って来た。
「あれ?」
戻って来たんだけど、なんかギルド内の空気がおかしい。
妙に浮足立っていると言うかなんというか。
「すみませーん、さっき査定を頼んだ者ですけどー」
とりあえず僕は受付に向かい、さっきの受付嬢さんに7番と書かれた木札を見せる。
「はー……ぃ」
あれ? 顔を上げた受付嬢さんが木札の番号を見た瞬間、バジリスクに石化されたみたいに動きを止めちゃったぞ?
「ど……」
「ど?」
「どど……」
「どど?」
なんか受付嬢さんがどしか言えなくなってるんだけど何事?
「どこに行っていたんですかぁぁぁぁぁぁ!?」
「え? ご飯食べに行っていました」
「うちの職員が町中捜しまわったんですよー! 何処を捜しても見つからないってギルド中で大騒ぎだったんですからーっ!」
あー、魔法で姿を消していたからなぁ。
「やっぱりさっきのって」
「レクスを探していたのね」
あれ? リリエラさん達は気づいていたの?
「とにかく! すぐに解体場に行ってください!」
受付嬢さんの剣幕に驚いたのか、ギルドに来ていた冒険者さん達の視線がこちらに集まってくる。
うーん、悪目立ちしているなぁ。
ここは大人しく解体場にいくとしよう。
◆
「すみませーん、さっき解体を頼んだ者ですけどー」
受付嬢さんに言ったセリフをもう一度言いながら僕は木札を近くにいた職員さんに見せる。
そしてその人も動きが止まった。
「き……」
今度はきかー。
「来たぁー! 7番が来たぞぉぉぉぉぉぉっ!!」
「「「「「何だとっ!?」」」」」
職員さんの叫びを聞き、一斉に解体場の職員さんと冒険者さん達がこちらを見る。
「おい本当に7番なのか!? コイツ等ガキだぞ!?」
「いや本当に7番の札です、間違いありません!」
「見せろ!」
上役らしい職員さんが木札をマジマジと見つめる。
「本当に7番だ……」
「じゃあアイツ等がアレを?」
皆一体何を興奮しているんだろう?
「おい、お前等がアレを狩って来たのか?」
と職員さんが指さしたのは、僕達が積み重ねたドラゴンの山だった。
うん、7番の置き場にはとても置ききれないから、積み上げて山にしておいたんだよね。
あとゴールデンドラゴンの鱗や角は上に積むとバランスが悪いから、その横に置いてあったりする。
「はい、昨日龍峰で狩って来たドラゴンです」
「おいおいマジかよ!?」
「フカシじゃねーのか?」
「ランク上げの為に買ったんじゃねぇの?」
「馬鹿っ、生のドラゴンをまるまる一頭、それを山盛りなんてどこで買うんだよ!? とんでもねぇ金がかかるし、そもそもこれだけの数のドラゴンを誰が狩るんだよ!? 素材の一部じゃなくてまるまる一頭なんだぞ!?」
と遠巻きに眺めていた冒険者さん達がそんな事を言う。
いやいや、大半は下級のドラゴンですから。
上の方に上級のドラゴンを積んでるから上級のドラゴンばかりに見えるけど。
「いや待て、あの女ってあれじゃないか? 数日前に町を襲ったドラゴンを倒した女!」
「例の龍姫か!?」
「うあぁ……まだ覚えられてたぁ」
リリエラさんが頭を抱えるけど、ほんの数日前だからなぁ。
「横の連中も一緒になってワイバーンを狩っていた連中だぞ」
「けどワイバーンとドラゴンじゃ討伐難易度が段違いだろ!?」
んー、そんなに違わないと思うけどなぁ。
誤差範囲では?
「あの木札を持った奴は見覚えが無いが、アイツ等といっしょに居るって事は、あいつも只者じゃないって事か?」
「ふっ、遂に時代が俺達ドラゴンスレイヤーズを認めたって事だな」
と冒険者さん達の畏怖の眼差しを受けたジャイロ君が気分良さそうにニヤニヤと笑みを浮かべる。
ドラゴンスレイヤーズの名前はもう恥ずかしくなくなったのかな?
「面倒事に巻き込まれやすくなっただけよバカ! うう、私達まだCランクなのに。絶対厄介事に巻き込まれるわ」
あー、実力を過大評価されるって面倒ですもんね。
僕も冒険者になったばかりの頃に急にランクが上がってビックリしたもんなぁ。
「あー、お前等が例の龍姫の関係者か。それならまぁ……あるのかもな。いや実際にあるから受け入れるしかねぇんだが」
何やら疑問に思って勝手に納得されてしまったけど、納得したのなら良いのかな?
「とりあえずこのドラゴンの山だが、量が多くてとてもじゃないが解体しきれねぇ。場所も人数も足りねぇからな。そんな訳で全部解体するのに数日、いや数週間はかかる。ドラゴ……グリーンドラゴンは過去の大討伐で狩られたボロボロになった個体を一体だけ解体した事があるが、このブラックドラゴンに至っちゃ普通の刃物が通らねぇ。まずこいつを解体できる刃を用意するところからやらないといけねぇから、査定はさらにその後になっちまうぞ」
「あー、それだと内臓が傷んじゃいますね」
いくらドラゴンの素材でも、そのまま放置すると傷んじゃうからね。
「いや貴重なドラゴンの素材だ。魔法使いを雇って冷凍魔法をガンガンに掛ける事になるだろうな。その分金がかかっちまうが、これだけドラゴンがありゃあ冷凍代を差っ引いても十分な儲けになるだろ」
うーん、それでもやっぱり鮮度が落ちちゃうよねぇ。
解体に使える刃物を用意してもらうまで魔法の袋に戻すのも手だけど、それまで収入が無いのは……僕は十分なお金があるから良いけど、ジャイロ君達には辛いだろう。
「だったら僕が解体しますよ」
「お前が!?」
「ええ、魔物素材の解体は昔からやっていましたし、ドラゴンの鱗や革に通す事の出来る刃物もありますから」
「そうか、ブラックドラゴンを倒せるんなら、当然ブラックドラゴンを切れる剣を持っていて当然か……だがドラゴンの素材を素人解体に任せるのは……」
ああ、自分の領分に踏み込まれるのはプロとして気分が悪いって訳だね。
自分の仕事に誇りを持って妥協しない仕事をする職人は信頼できるって、前世の知り合いの鍛冶師も言っていたなぁ。
とはいえ、こっちも生活がかかっているからね。
「じゃあ試しに一頭、グリーンドラゴンを解体させて貰えませんか? その手際を見て任せるか判断してください」
「いやしかしそれでもドラゴンの素材だぞ!? 失敗したら大金がパァだぞ!?」
後ろに控えている解体師さんや冒険者さん達もウンウンと頷いている。
「でもまぁ、グリーンドラゴンは山ほどありますから」
僕の言葉を聞いて、上役さんが山積みにされたドラゴンを見る。
「……いやまぁ、確かにそうなんだが……うーん、本人が言うなら良い……のか?」
とりあえず納得して貰えたみたいなので、僕は積まれていたグリーンドラゴンの中で一番状態の悪い物を選んで解体をする事にした。
「じゃあ解体を始めます!」
「お、おい、やっぱりだな……」
僕は昔から使ってきた解体用の刃物を取りだすと、グリーンドラゴンの鱗と鱗の間に刃を通す。
そして躊躇う事無く一気に刃を引いてグリーンドラゴンの皮を切り裂いた。
「うぉぉ! なんて躊躇いの無い解体だ!」
悩みながら切ると切り口が歪むからね。
「というかドラゴンの皮ってあんな簡単に裂けるのか!?」
「刃の通し方にコツがあるんですよ」
そして深く突き刺し過ぎて内臓を傷つけないように注意しながら解体を続ける。
「なんて鮮やかな解体の手口だ! ドラゴンの巨体がまるでスライムを切るかのような軽やかさで解体されていくぞ!」
「とんでもない切れ味の刃物だ! それにあの少年、ドラゴンの解体だというのに全く気負いがない! まるで何百体もドラゴンを解体してきたかのような鮮やかさだ!」
その通り。
前世で僕は知り合いの解体師に討伐した魔物素材を自分で解体する術を徹底的に叩き込まれたからね。
魔物によっては倒した直後から急激に素材が傷むものもいるから、お前も解体ぐらい出来るようになれって言われてさ。
だから練習台としてグリーンドラゴンを山ほど解体したなぁ。
そして食材を大切にするためと言われて、合格を言い渡されるまでえんえんと解体した魔物の肉料理しか食べる事を許されなかった。
別の食材を食べたければ、今扱っている素材を完璧に解体しろっていう酷い修行だったよ。
そんな訳で、僕は慣れ親しんだグリーンドラゴンの解体をすぐに終えた。
「終わりました」
僕の言葉を受けて、解体師さん達が解体されたグリーンドラゴンの素材に群がる。
「す、すごい……なんて速さだ」
「早いだけじゃない。この切り口を見ろ! 切断したとはとても思えない綺麗な切り口だぞ! まるで最初からこういう形状だったのかと勘違いしそうな程だ」
「まるで熟練の解体師の仕事……いや、伝説の解体師、解体王パーフェロの再臨だ!」
ん? なんか知り合いの解体師に似ている名前だなぁ。
まぁ他人の空似ならぬ名前似だろうね。
「こんな感じですがどうでしょう?」
僕は解体師の上役さんに確認を取る。
「……」
しかし上役さんは呆然とした眼差しで解体されたグリーンドラゴンを見つめるばかりだ。
「あのー、どうでしょうか?」
もう一度聞くと、ビクリと体を震わせてようやくこちらに向き直る。
「……た」
「はい?」
ん? 何を言ったんだろう?
上役さんの声が小さすぎて聞き取れなかったよ。
「お……した」
上役さんがブルブルと震えながら再び呟くけどやっぱり聞こえない。
「あのー、ちょっと声が小さくて聞こえ……」
「おみそれしましたぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」
と叫ぶや否や、上役さんは突然僕に土下座を始めた。
「ええっ!? 一体何っ!?」
いやホント何!?
「これ程の腕前を持つお方を試すような真似をして、誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁっ!!」
「え? いやそんな、僕なんて大した腕じゃないですよ。僕の師匠の方がずっと綺麗に解体出来ますから」
「「「「「そんな化け物がこの世にっっ!?」」」」」
うん、気持ちは分かるよー。
あの人の解体技術は本当に化け物じみていたからねー。
あの人に比べれば僕の解体技術なんて、まぁこんなもんかレベルだったからね。
「解体場の長を任されたなんて自惚れて、俺は何て馬鹿だったんだ! 世の中には上どころじゃない、文字通り天上の技術の持ち主が居たのかっ!!」
いやー、そこまで自分を卑下しなくても良いんじゃないかなー。
「お願いします! どうか俺を貴方の弟子にしてください!」
「「「「「ええ!?」」」」」
上役さんの言葉に解体師さん達が驚きの声をあげる。
僕も驚いた。
「何を言ってるんですか解体長!」
「そうですよ! アンタはこのギルドの解体場のリーダーなんですよ!」
そうそう、もっと言ってやってください皆さん。
「馬鹿野郎! こんな鮮やかな腕を見せられたら、恥ずかしくて解体師を名乗れるかよ!」
いや、そこまで言わなくても。
「勿論分かりますよ!」
分かるの!?
「気持ちは俺達も一緒ですよリーダー!」
「アンタだけ弟子入りなんてズルいですよ!」
なんだか雲行きがおかしくなってきたんですけど。
皆さん上役さんを説得するつもりじゃなかったんですか?
「「「「「弟子入りするなら俺達も一緒ですよっ!」」」」」
「そっちなの!?」
「お前等……」
「へへっ、そういう事ですよリーダー」
ちょっと待って、なに感動的な流れにしているの?
「ああ、分かったぜ。俺達は同じ解体場の一員だからな」
分からないで下さい。
「「「「「師匠! どうか俺達を弟子にしてくださいっっ!!」」」」」
なんて事だろう。
あろうことか、ギルドの解体師さん達が全員僕に弟子入りを申し込んで来た。
全員で綺麗な土下座を披露しながら。
「あのー……」
「お願いします! 俺達は師匠の腕前に惚れこんじまったんです!」
「ドラゴンの国の解体師なのに、ドラゴンもまともに解体できないなんざ解体師の恥です!」
「弟子入りが許されないのなら、俺達は解体師を辞める覚悟です!」
「ちょっ、そんな覚悟持たないで下さいよ!」
うわー、どうしよう……。
これ下手したらギルドから物凄く叱られる案件だよ。
お前の所為で職員が大量辞職したぞー! って。
「……兄貴」
とそんな時、後ろからジャイロ君が話しかけて来た。
「何ジャイロく……ん?」
振り向くと、ジャイロ君はとても爽やかな笑顔を僕に向けて来た。
「分かるぜ、コイツ等の気持ち」
え? 分かるの?
「何しろ、俺も同じ気持ちで兄貴の舎弟になったんだからな」
あ、そういえばそんな事もあったねぇ。
「だからよ、コイツ等も兄貴の舎弟にしてやってくれよ!」
「いや舎弟じゃなくて弟子だから」
僕はどうしたもんかと皆に視線を送る。
するとリリエラさん達は慈しむような眼差しを僕に向けてきた。
「まぁさっさと教えてあげれば良いんじゃない? その方が早く済むわよ」
「私達もレクスに教わっている立場だものね、強くは言えないわ」
「自らの力をさらなる高みへと近づけたいという事ですからね。邪な理由でもありませんし、弟子にしても良いのではないかと」
「レクスの技術なんだから、レクスが決めればいいと思う」
「まぁ結局はそれよね」
えー、つまり自分で決めろと……
「「「「「お願いします師匠!!」」」」」
僕は師匠なんて言う柄じゃないし、そもそもそんな凄い腕前でもないんだけどなぁ。
ただ、このまま断ると解体師を辞めるって言ってるし、それはそれで冒険者ギルドに迷惑がかかってしまう。
「……ブラックドラゴンの素材を解体する技術だけですよ」
「っ!? 師匠、それじゃあ!?」
「今回討伐したドラゴンの素材を解体する技術を教えるだけなら、構いませんよ」
リリエラさんも言っていたように、さっさと教えた方が面倒事は片付きそうだからね。
「「「「「ありがとうございます師匠っっっ!!」」」」」
こうして何の因果か、僕は冒険者ギルドの解体師さん達の臨時師匠になってしまったのだった。
レクス(:3)∠)_「じゃあまず素手でドラゴンの鱗を切る練習から」
解体師達:(;゛゜'ω゜'):「無理です! まずの基準がおかしいです師匠!!」
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